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喘息やアトピーなどの子供のアレルギー疾患と腸内細菌叢の発達の相関については多くの論文があり、腸内での免疫活性化機構についても理解が進んでいる。
これに対し、ウイルスや真菌、あるいは原虫についてはあまり研究が進んでいない。たまたま先週、腸内のウイルスと原虫の免疫機構への影響についての研究が発表されていたので、今日から2回に分けて紹介する。
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最初はウイルスと喘息の関係について研究したコペンハーゲン大学からの論文で12月15日 Nature Medicine にオンライン掲載された。
タイトルは「The infant gut virome is associated with preschool asthma risk independently of bacteria(幼児の腸内ウイルス集団は細菌叢とは独立に就学前の喘息と関係している)」だ。
UKバイオバンクと並んで、デンマークのコホート研究は徹底して計画されており、データが蓄積されると様々な角度から研究し直すことが出来る。この研究では647人の1歳児を集め、長期観察した研究で、そのうち133人(21%)が就学前に喘息を発症しており、喘息の原因を様々な角度から調べることが出来る。
事実、同じポピュレーションを用いて、腸内細菌叢と喘息の相関が調べられ、論文として発表されている。今回は、これに加えて同じ便由来DNA配列解析データを、既に知られているウイルスデータと照らし合わせて、腸内ウイルスと喘息との相関を調べ直している。この研究でのウイルスとは、我々の細胞に感染する様々なウイルスではなく、腸内細菌叢をホストにするウイルスを指す。
これらのウイルスは caudovirs、microvirus、そして inovirus の3種類に大別でき、喘息との関係で言うと、microvirus の量が少ないと喘息になりにくい傾向が見つかるが、ウイルス自体の研究が進んでおらず、解析は難しい。
そこで、大きなグループの caudovirus に絞って喘息との関係を調べると、量が多いほど喘息の発生が高い。特に、様々な要因で誘導されバクテリアを溶菌する溶菌ファージの量と喘息とは明確な関係がある。
ただ、個々の系統と喘息との相関を調べると、不思議なことに相関がはっきりする19種類の溶菌ファージは、喘息発症と逆の相関を示す。おそらく、プロファージから溶菌ファージへと変換すること自体が免疫系に影響することから、溶菌ファージの量が喘息と相関するが、個々のウイルスレベルでは、それが存在しないことが影響するという複雑な関係になっている。
溶菌ファージはそれぞれ特定の細菌とセットになっており、細菌叢を変化させる可能性がある。ただ標的細菌と喘息との相関を調べても、ほとんど相関はない。従って、細菌叢と溶菌ウイルスは別々に喘息リスクに関わっている。
この研究では相関を詳しく検討して、ウイルスは特に一過性の喘息と相関している一方、細菌叢はより持続性の喘息と関係することを示している。また、ウイルス自体が原因であることを、ウイルスに対する自然免疫受容体TLR9 の一塩基変異が違うと、ウイルスと喘息との相関が見られなくなることから結論している。
結果は以上で、重要な結論としては子供の場合、細菌叢とウイルスデータを組みあわせると喘息リスクをさらに正確に診断できることで、残念ながら明確な介入方法示唆には至っていない。
ただ、このようなウイルス集団検索は、病気との相関だけでなく、今後の細菌叢操作にとっては極めて重要で、今後急速に発展する予感がしている。