真に "ダイヤモンド並に硬い物質" 「窒化炭素」を合成!

2023.12.15

窒化炭素の合成 サムネ

(画像引用元番号①②③)

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、ダイヤモンドに匹敵する硬さを持つと言われていた、超硬度材料の「窒化炭素」の合成に関する報告だよ!

 

え?ダイヤモンドくらい硬い物質の報告は珍しくないって?いやいや!今回の報告は、数十年の課題であった窒化炭素を実際に合成し、データがしっかりしているという点が大事だよ!

 

しかも、窒化炭素は常圧の空気中でも安定という特性や、他にもいろいろな性質を持っていて、とても注目な発見でもあるんだよ!

 

“ダイヤモンド並に硬い物質” の定義は難しい

"硬い物質" とは何かというのは、定義次第で色々あるよ。最もよく使われるのは、試験したい物質に先が尖った硬い物質を押し込み、生じる窪みの大きさがどれくらいか、というので表現される押し込み硬さ[注1]だよ。

 

小さな窪みしか生じない硬い物質は、他の物質を削る研磨剤とか、工具の摩耗を防ぐために表面を覆うとか、工業的に色々使われるよ。その代表的な物質が「ダイヤモンド」なんだよね。

 

ただ、技術の進歩によってダイヤモンドに匹敵するか、更に硬い物質の需要も上がっているので、そういった極めて硬い「超硬度材料」の合成と性質の探索は、材料工学の研究において何十年も行われてきたよ。

 

超硬度材料の研究は、単に硬い物質を見つけるだけでなく、より低コストな原料や手法で合成する方法を見つけたり、地球内部や隕石落下現場のような超高圧での物質の性質の変化を探るなど、別方向の発展もあるんだよ!

 

ただ、こういう超硬度材料の研究で "ダイヤモンド並に硬い物質を発見!" とか "ダイヤモンド以上に硬い物質を発見!" みたいなニュースを時々耳にすると思うけど、これって意外と要注意なんだよね。

 

天然で産出するダイヤモンドの物性が優秀過ぎるので、ダイヤモンドと勝負できる超硬度材料を合成しようとすると、ものすごい高圧をかけないと合成できないことがほとんどなんだよね。

 

ダイヤモンドアンビルセルと超硬度材料の課題

ダイヤモンドアンビルセルで高圧をかけると、ダイヤモンド並に硬い物質が合成できることがあるよ。ただ、合成できるサンプルの小ささの問題から、本当に硬いかどうかはイマイチはっきりしないものもあるよ。

 

このような高圧物質を作る実験では、「ダイヤモンドアンビルセル」と呼ばれる装置が使われるよ。これは簡単に言えば、2つのダイヤモンド結晶の間にサンプルを挟み込んで、ものすごい高圧をかけられる装置だよ。

 

ダイヤモンドアンビルセル、高圧でできた結晶であるダイヤモンドだから高圧を実現できるし、ダイヤモンドは透明なので、圧力をかけたまま加熱や分析に使うレーザーが通過できるなど、何かと便利な装置なんだよね!

 

ただ、超高圧をかけられるダイヤモンドアンビルセルの場合、合成できる超硬度材料の大きさは数十µm (数十分の1mm) 以下であり、こんなに小さな物質の硬さを測ることはとてつもなく難しいよ!

 

また、合成された物質の組成や結晶構造が一定であるとは限らず、不純物の混入や結晶が複数に分かれているなど、合成物の意図しない状況が物性を狂わせることはよくあるよ。

 

何より、高圧で合成された物質の中には、圧力や温度を下げると不安定になり、別の物質に変化してしまうこともあるので、中々理論通りに超硬度材料を入手できないこともあるよ。

 

なので、超硬度材料の物性を調べる研究では、硬さという基本情報すらもあいまいなものもあり、測定値に疑問が持たれたり、そもそも測定や合成が理想通りにいかなかったので概算した値を使うこともあるよ。

 

ダイヤモンドくらい硬い物質に関するニュースの中には、実験結果が曖昧だったり、概算値を使っているなど、ちゃんとした意味での超硬度材料と言えるのか疑問なニュースもあるので、結構注意が必要なんだよね。

 

「窒化炭素」は超硬度材料の長年の課題

さてこんな感じで、ダイヤモンド並か、それを超える硬さを持つと予測されてきた超硬度材料の1つに「窒化炭素」があるよ。窒化炭素が極めて硬いという予測は1989年に最初になされ、その後ずっと合成が試みられてきたよ。

 

ただ、数十年の研究で、窒化炭素の合成は極めて難しいことが分かってきたよ。特に、窒素原子と炭素原子が過不足なく化学結合している、飽和状態の窒化炭素の合成が極めて難しかったよ。

 

ある原子が他の原子と化学結合できる数は、窒素原子は3個、炭素原子は4個と決まっていて、過不足なく結合している状態が飽和状態だよ。一般的に化学結合が飽和状態な物質は、飽和していない状態よりずっと硬くなるよ。

 

窒化炭素の場合、CN・C3N4・CN2の3つの化学組成が飽和状態で、これらが超硬度材料になりうると考えられていたけど、窒化炭素のちゃんとした合成と物性に関する報告はこれまででたった1件しかなかったよ!

 

しかも、そのたった1件の窒化炭素 (CN) に対する報告では、結晶構造のデータを取ることができず、しかも圧力を抜くと不安定になるということなので、窒化炭素が超硬度材料なのかを確定させることはできなかったよ。

 

物性を詳細に測定可能な窒化炭素を初めて合成!

エディンバラ大学のDominique Laniel氏などの研究チームは、窒化炭素にまつわる困難を解決し、実質的に初めて窒化炭素がダイヤモンド並に匹敵する超硬度材料であることを実験的に明らかにしたよ!

 

実験ではまず、窒化炭素の材料としてテトラシアノエチレン (C6N4) 、シアヌルトリアジド (C3N12) 、および純粋な窒素 (N2) を用意したよ。

 

ユニークなのは純粋な窒素の場合で、圧力をかける装置であるダイヤモンドアンビルセルのダイヤモンド、つまり炭素に直接反応させるという手法を取っていたよ。

 

そして、それぞれの材料に対して、72GPaから134GPa (1GPa=1万気圧) の高圧と、レーザーによる2230℃から4080℃までの熱をかけたよ。以前に似たような実験も行われていたけど、今回は更に高圧をかけてみたよ。

 

窒化炭素の合成結果

窒素と炭素を含む様々な原料を高圧で圧縮してみると、窒化炭素の結晶が合成できたよ!これは圧力を抜いても安定で、結晶構造が崩れなかった点が珍しいよ! (画像引用元番号①②)

 

その結果、窒化炭素の結晶が4種類生成されたよ。組成と結晶構造からそれぞれ「oP8-CN」「tI14-C3N4」「hP126-C3N4」「tI24-CN2」と名付けられた4種類のうち、oP8-CN以外の3種類は初めての合成記録となったよ!

 

合成された窒化炭素は、どれも一部または全部が中心に炭素原子、頂点に窒素原子で構成された正四面体構造を基本としていて、これが硬さのカギになっているよ!

 

窒化炭素でついたダイヤモンドアンビルセルの傷

窒化炭素の結晶を合成した後に装置を確認してみると、ダイヤモンドが傷ついていたよ!測定結果も合わせると、窒化炭素はダイヤモンド並に硬い物質であることが確実だよ! (画像引用元番号③)

 

そして注目するのはその硬さだよ。2種類のC3N4を合成した実験において、ダイヤモンドアンビルセルに傷がついたよ!つまりこれ、窒化炭素がダイヤモンド並に硬いことを示している何よりの直接証拠だよ!

 

実際のところ、小さな結晶で直接的な押し込み硬さを測定するのは困難なので、圧力をかけて体積が縮小する「体積弾性率」を測定し、そこから実質的な押し込み硬さを正確に計算してみたよ。

 

もちろん、この押し込み硬さの計算値が正確かどうかって問題もあるにはあるから、硬さがよく知られているダイヤモンドや、ダイヤモンドに次ぐ硬さと言われている立方晶窒化ホウ素とも比較してみたよ。

 

その結果、4種類の窒化炭素は全て超硬度材料であり (押し込み硬さが40GPa以上)、ダイヤモンドや立方晶窒化ホウ素に匹敵する硬さを持つことが示されたよ!

 

しかも、窒化炭素は100GPaを超える圧力で合成されたものもあるけど、圧力を抜いても結晶構造が変化しないことが分かったよ!100GPaもの高圧をかけて現れる物質が、常圧の空気中で変化しないのは初めての発見だよ!

 

そして別の実験や計算により、窒化炭素は光を受けた後に発光するフォトルミネセンスや、小さな質量に大量のエネルギーを蓄える高エネルギー密度の性質を持つことも分かったよ。

 

フォトルミネセンスを示すダイヤモンドが医療用イメージングや量子コンピュータ向けの技術に使われていることを観れば、窒化炭素も超硬度材料以外にも注目されるかもしれない物質だよ!

 

単に硬いだけじゃない窒化炭素

窒化炭素に関する今回の研究は、材料工学で数十年もの課題であった超硬度材料候補が実際にダイヤモンドに匹敵するほど硬い物質であることが判明したという、とても重要な課題を解決したよ!

 

それだけでなく、窒化炭素はかなりユニークな特性を持っていて、超硬度材料以外の利用法も見つかるかもしれないという点で、注目される物質だよ!

 

現状の課題としては、窒化炭素の合成が難しいことだね。100GPa以上の圧力をかけて窒化炭素を工業的に大量合成するのは現実的ではなく、このままでは具体的な利用は夢のまた夢だよ。

 

ただ、高圧相窒化リチウムや立方晶窒素など、同じく高圧で生じる物質について、小さな種結晶から大きな結晶を成長させたり、化学蒸着法によって成長させたりなど、圧力をかけずに合成する方法は見つかっているよ。

 

つまり窒化炭素も同じ方法で、より穏やかな環境で合成できるかもしれない道は残されているから、この点はこれからの研究次第ってところだね。

 

更に言うと、100GPa以上の圧力を変えた物質が常圧の空気中で安定という点は、他の高圧で生じる物質にも同様の性質があり得るということだよ。

 

これは地球深部のマントルに匹敵する圧力であり、その圧力で物質がどう変化するのかは注目される疑問だから、変化しない例を見つけたのは中々興味深い話だよ。

 

今回の窒化炭素の合成は、窒化炭素それ自体に加えて、高圧で生じる物質全般の研究にも中々インパクトを与えるかもしれない研究だよ!

注釈

[注1] 押し込み硬さ ↩︎
硬い物質を押し込み、窪み状の傷をつけることで硬度を測定する方法。同じ力で小さな窪みしかできないほど硬い物質ということになる。ビッカース硬さ、ブリネル硬さ、ヌープ硬さなど、押し込む物質 (圧子) の形状によって測定方法が異なる。

文献情報

<原著論文>

  • Dominique Laniel, et al. "Synthesis of Ultra-Incompressible and Recoverable Carbon Nitrides Featuring CN4 Tetrahedra". Advanced Materials, 2023. DOI: 10.1002/adma.202308030

 

<参考文献>

 

<関連研究>

  • Elissaios Stavrou, et al. "Synthesis of Ultra-incompressible sp3-Hybridized Carbon Nitride with 1:1 Stoichiometry". Chemistry of Materials, 2016; 28 (19) 6925-6933. DOI: 10.1021/acs.chemmater.6b02593

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. Sample #3 Ambient conditions: 原著論文Figure 1

  2. 窒化炭素の結晶構造: 原著論文Figure 4
  3. ダイヤモンドアンビルセルに付いた傷: 原著論文Figure 7

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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