実験的基底細胞発ガンが耳介で起こりやすく、背中で起こりにくいことから発ガン過程へのマトリックスの作用がわかる。(10月15日 Nature オンライン掲載論文)

2023.12.08

皮膚では細胞の動態を外から観察できることを利用して、細胞学からゲノムまであらゆる方法を駆使して、幹細胞動態についての面白い研究が数多く行われている。

 

本日紹介する論文

今日紹介するブリュッセル自由大学の Blanpain 研究室からの論文は、皮膚基底細胞ガンの発生について、Question から研究手法までこの分野のプロと思える面白い研究で、11月15日 Naturen にオンライン掲載された。

 

タイトルは「The extracellular matrix dictates regional competence for tumour initiation(細胞外マトリックスが腫瘍発生過程の局所的決定要因になっている)」だ。

 

解説と考察

この研究は、最終的に Smoothened (Smn) 分子が活性化されて起こる shhシグナルを遺伝的にオンにすることで誘導される皮膚基底細胞ガンが、耳介の皮膚では誘導できるのに、背中の皮膚では誘導できないという、まさにプロの疑問に答えるため、活性型 Smn (aSmn) を蛍光標識とともに発現させた細胞を耳介および背中で発現させ、単一細胞レベルで追跡している。

 

この結果、耳介では aSmn 発現により増殖が高まった細胞が2週間もすると皮膚上皮層から離れて縦に増殖を始めるのに対し、背中ではいつまでも上皮層内のみで増殖することがわかった。

 

面白いことに、耳介と背中で増殖中の細胞の遺伝子発現を調べると、耳介の細胞では胎児毛根型の遺伝子が発現してくるのに対し、背中では正常皮膚細胞とあまり違いのない遺伝子発現パターンになっている。すなわち、耳介の細胞では aSmnシグナルに加えて他のシグナルが合わさって悪性化への道を取るのに対して、背中側では増殖は高いが、新しいプログラムの発現がないため、ガンにまで発展しない。

 

この原因をマトリックスとの関係にあると睨んで、メカニカルな刺激で誘導される Yapシグナルを調べると、耳介の細胞だけで Yap の核内移行が見られ、これが新しいプログラムを発現させることがわかる。

 

この耳介と背中のマトリックスの違いをコラーゲンの量の違いと睨んで、次にコラーゲンの量を調べると、耳介と背中で最も大きな違いが見られたのがコラーゲン1であることがわかった。そこで、コラゲナーゼを皮下に注射して背中のコラーゲン1の量を減らすと、ついに背中でも耳介と同じように縦に細胞が増殖しはじめ、最終的に基底細胞ガンへと発展することがわかった。

 

まとめと感想

結果は以上で、皮膚の上で単一細胞の運命を追跡することで、増殖が高まった上皮細胞から基底細胞ガンへのステップアップをコラーゲン1が抑制していることがわかった。とすると、我々のような高齢者では皮膚のマトリックスは年々薄くなってくるので、これがガンの発生を高めている可能性が示されたことになる。ガンに限らず、高齢者の皮下組織を守ることは重要で、皮膚アンチエージングでは最重要課題と言っていい。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

このライターの記事一覧