スプレーするだけで鉛を蛍光させる! 微量の鉛を検出する簡単な方法を開発!

2023.12.01

(画像引用元番号①②③)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、スプレーするだけで鉛があると蛍光させることができるという、極めて簡単な鉛検出法の開発に関する研究だよ!

 

重金属として非常に問題視されている鉛だけど、従来の方法ではどうしても分析に様々な問題があることが課題だったよ。今回開発された手法は、簡単かつ精度が高いという優れた利点があるよ!

 

検出精度は肉眼鑑定でも1ng/mm2で (1ng=1ナノグラム=10億分の1g) 、化学的に極めて似た元素であるスズを初めとして、偽陽性や偽陰性が確認されていないなど、鉛だけを光らせるという非常に特化した性質があるよ!

 

使う試薬も比較的安全性が高く安価なので、様々な環境で使うことが期待される鉛検出法となるかもしれないよ!

 

「鉛」は現在でも課題のある重金属

鉛の分析の課題

鉛による環境汚染は深刻な問題だけど、これまで鉛の分析と言えば、正確だけど時間やコストがかかる高度な検査であるか、もしくは簡単だけど低濃度の鉛を検出できないという、正確さとコストのトレードオフが存在したよ。 (画像引用元番号①)

 

」は人体に有害なことで知られている代表的な重金属で、脳などの中枢神経を侵して知能や認知機能を低下させたり、失明やけいれん、最悪は死亡など、様々な障害をもたらすよ。

 

おしろい、ガソリン、はんだなど、様々な時期に様々な製品で鉛を使用しないことにより、鉛全体の使用量を減らす努力が続いているよ。しかし未だに、濃度の差はあっても、鉛は様々な製品に検出されるよ。

 

ユニセフは2019年に、世界の子供の3分の1に当たる8億人以上が鉛中毒に苦しんでおり、対策コストは年間660兆円と推計していて、未だに鉛の問題は解決していない、と言えるね。

 

そして同じ有毒でも有機化合物とは異なり、鉛は元素そのものなので、環境中で分解されずにずっと残り続けることも、鉛の対策を難しくしている理由になっているよ。

 

よって鉛中毒の対策には、まずはどこに鉛が存在するのかを正確に調べなきゃならないよ。そしてそのための分析法として、原子吸光分光法[注1]からDNA蛍光反応[注2]まで、様々な手法が開発・考案されてきたよ。

 

ただ、従来の分析法には弱点もあるよ。例えば低濃度な鉛を見つける正確性を求めると、分析時間や場所、そしてコストが限られたり、鉛がどこにどの程度存在するのかという面的な分布が正確には分からなくなるよ。

 

一方で野外で使えるような方法だと、時間やコストや分布が分かりやすい一方で、低い濃度だけど問題あるレベルの鉛を正確に検出できないなど、こっちはこっちで問題があるんだよね。

 

つまり現状の分析法では、低濃度な鉛の正確な分析と、分析にかかるコストや時間がトレードオフの関係にあるので、どうしても色んな場所での鉛分析ができない状況になっているよ。

 

この分析法の弱点は、結果的に鉛中毒患者が生じて初めて環境分析を行うといった、後手の対応となる遠因となっているのも正直否めないといった感じだね。

 

なので、鉛についてもっと簡単で正確な検出ができるようになれば、環境分析を迅速に行えるようになって、血中鉛濃度が深刻になる前に事前に対策を打てるようになるはずだよ。

 

半導体の研究から簡単な分析法を思いつく!

オランダにある研究所AMOLFに所属するLukas Helmbrecht氏などの研究チームは、鉛を簡単かつ精度良く分析する手法を開発したよ!これは元々「ペロブスカイト構造[注3]を持つ物質の研究中に思い付いた方法だよ。

 

ペロブスカイト構造を持つ結晶には、太陽電池などの半導体になる物質があり、スゴく簡単に言えば、そのような半導体物質は光に対して特殊な反応をする性質があるよ。

 

Helmbrecht氏らは元々、ウニの骨格などのカルシウム骨格からペロブスカイト半導体を作る研究をしていて、その中で実験していた物質の1つとして鉛を含むペロブスカイトである鉛ペロブスカイトを扱っていたよ。

 

この鉛ペロブスカイト、紫外線を当てると様々な波長の色で強く光る「蛍光」という性質があるよ。とはいえ、鉛化合物である鉛ペロブスカイトは、現在使用しない方向で検討が進んでいる物質だよ。

 

ところが、研究に参加しているWillem L. Noorduin氏が、COVID-19によるロックダウンで研究が進まない時に、鉛ペロブスカイトの蛍光の強さと、鉛中毒の懸念に関する話を聞いた後に、あることを思いついたよ。

 

それは、簡単な方法で鉛ペロブスカイトを生成できる試薬があれば、紫外線で蛍光させることで簡易的に鉛の存在や分布を見分けられるんじゃないか?という考えだよ。

 

このアイデアは全く初めてというわけじゃなく、過去に同じような検出法をする研究があったよ。ただしそれは複雑な化学反応を使うために、様々な処理や手順が必要だという欠点があったよ。

 

よって、より簡単な方法を考え出せればいいわけだね?幸い、この種の研究をしていたHelmbrecht氏やNoorduin氏は、それに思い至る手法があったよ。

 

吹き付けるだけで鉛を蛍光させるスプレーを開発!

今回開発されたスプレーは、臭化メチルアンモニウムをイソプロパノールに溶かしたもので、塗布するだけで鉛が鉛ペロブスカイトとなり、紫外線で緑色に蛍光するようになるよ! (画像引用元番号①②③④)

 

実験ではまず、数種類の試薬を使って、生成する鉛ペロブスカイトの組成や発する蛍光の色を検討したよ。結果として、試薬には「臭化メチルアンモニウム (CH3NH3Br)」を使用することにしたよ。

 

最初の実験では、ハロゲンの中でも臭素が多い鉛ペロブスカイトは緑色の光を発することが分かったよ。人の目が最も敏感な色は緑色であることを考えれば、他の色よりも緑色を選択するのが理にかなっているね。

 

また、臭化メチルアンモニウムは比較的入手しやすい安価な試薬であるだけでなく、腐食性はあるけど毒性は低いので、安全性が高いという特徴があるよ。

 

今回の研究では、臭化メチルアンモニウムを溶液とするために、また反応を妨げる恐れのある水を排除するために、「イソプロピルアルコール」に溶かした状態で使用したよ。

 

また、液体を塗りつけても使えるけど、ほとんどの状況で簡単に使えることを考慮し、スプレー容器に詰めて吹き付けることで塗布するという試験方法を実施したよ。

 

鉛を高精度かつ安定に検出!

臭化メチルアンモニウムで鉛のみが蛍光する

スプレーは性質がとても似ているスズを含めた他の元素とは反応せず、鉛だけを確実に検出するよ!また、肉眼で判定可能な最小量は1ng/mm2と、感度も極めて高いよ! (画像引用元番号①⑤⑥)

 

試験ではまず、鉛を正確に見分けられるのかをテストしたよ。もし鉛以外の物質が反応して光ったら、それは鉛を見分ける上で邪魔になってしまうからね。

 

様々な金属元素を含む50以上の化合物で試してみると、まず、鉛化合物はどれも蛍光したよ。それは簡単な組成の鉛化合物のみならず、ガラス、ゴム、合金などにわずかに含まれている状態でも蛍光したよ!

 

一応、蛍光色は臭素が多いと緑色になる性質があるので、臭素と似た性質を持つハロゲンであるフッ素を含むと若干青色に、ヨウ素を含むと強い赤色になることは分かったけど、それでもきちんと蛍光したよ。

 

鉛化合物にはPb0、Pb2+、Pb4+の3種類の価数があり[注4]、化学反応によってはどれかに反応しないという可能性もあったけど、このスプレーは選ばずに反応しているという点は、鉛検出という目的にとても叶っているよ!

 

一方で鉛以外の物質、例えばスズ、亜鉛、銅、鉄、カドミウム、ゲルマニウム、バリウム[注5]、木材、ガラス、プラスチックなど、鉛を含まない様々な金属元素や物質には、スプレーしても蛍光しないよ。

 

似たようなアプローチで鉛を検出する方法であるロジゾン酸を使用する方法は、バリウムやアンチモンに反応してしまって鉛と区別がつかない問題があったんだけど、今回はそのような間違いはなかったよ!

 

特に「スズ」と反応しなかった点が優れているよ!スズと鉛は、周期表で上下に並んでいる通り、化学的性質が似ている同士の元素で、ペロブスカイト構造の化合物ができた場合にはやはり蛍光する性質があるよ。

 

スズと鉛は毒性が全く違うので、もし区別できないとしたら問題だったわけだけど、今回の試薬ではスズには反応せず蛍光しないため、スズと鉛の区別がきちんとつけられるという結果が得られたよ!

 

今回の実験では、どのような種類の鉛化合物でも反応する一方で、鉛以外の元素には反応しないということで、偽陽性や偽陰性の少なさが検査の正確性をかなり担保していることになるよ!

 

そして様々な鉛濃度の場所にスプレーする試験を行うと、感度もものすごく高いことが分かったよ!肉眼で確認できる蛍光を示すのは1ng/mm2、弱い光も検知できるカメラを使うと50pg/mm2でも検出可能だと分かったよ!

 

これはものすごい精度で、現在の分析法が頑張っても数µg/mm2の精度であることを考えれば、肉眼判定ができるレベルでも数千倍以上もの感度があるということになるよ!

 

鉛を光らせるスプレーの実際の使用を想定した実験

実際の使用を想定した実験でも、様々な物質に対して高い感度で鉛を検出できたよ! (画像引用元番号①⑦)

 

最後に、実際の使用を想定して様々な製品にスプレーするテストをすると、やはり高い感度で鉛の検出に成功したよ。表面に錆がある金属や拡散しにくいガラスはやや反応が弱いけど、十分に使える精度だったよ!

 

これらは、製品の周りをこする、傷つけるなど、工夫をすれば十分な精度で検査できることから、実用に耐えるというのはとても重要だね!

ガラスへのスプレー実験の動画 (Helmbrecht, et al., 2023 / CC-BY 4.0 / 元動画へのリンク)

 

陶器へのスプレー実験の動画 (Helmbrecht, et al., 2023 / CC-BY 4.0 / 元動画へのリンク)

 

プラスチックでできた電気ケーブルへのスプレー実験の動画 (Helmbrecht, et al., 2023 / CC-BY 4.0 / 元動画へのリンク)

鉛を検出する、だけで終わらない可能性も?

低濃度の鉛でも十分に検出可能であり、蛍光という視覚的に分かりやすい方法で鉛の存在を示すことができる、という点は、鉛中毒問題に関する簡易で正確な検出だけでなく、鉛汚染に対する啓発活動にも役立つよね!

 

周りがこれだけ鉛に汚染されているというのを示すのに、蛍光で光らせているというのはとてもわかりやすいよね!その意味でも、この検査法は優れているとも言えるよ。

 

試薬は比較的安全性が高く安価であることを考えれば、鉛の有無を検出する上ですぐに使えるとても有用な試薬であると言えるよね!

 

一応、臭化メチルアンモニウムのイソプロピルアルコール溶液には腐食性と引火性、紫外線は網膜にダメージを与えるけど、適切な保護具の着用と普通の操作で全然安全に扱える部類だよ!

 

一方で、なぜこの試薬が幅広い鉛化合物に反応できるのかは、化学的にちゃんとした理由は未解明なんだよね。鉛化合物のイオン状態は様々だから、なぜどのイオンでも対応可能なのかは興味深い疑問だよ。

 

また、実際の環境中ではクルクミン[注6]などの天然に存在する有機化合物の蛍光が邪魔をする可能性はあるので、この辺も改善点の1つには挙げられるよ。

 

もしこの反応機構が解明されれば、さらに高い安全性の高い試薬や、鉛に対する感度が高い試薬、他の蛍光物質と区別できる試薬に置き換えることができるようになるかもしれないね!

 

そして、鉛ペロブスカイトが生じるという反応を調べることは、他のペロブスカイト構造を持つ半導体の合成に関する研究にも、もしかしたら間接的に絡んでくるかもしれないよ!

注釈

[注1] 原子吸光分光法 ↩︎
高温で気化させた物質に光を当て、原子の種類ごとに異なる光の吸収量を測定する分析法。

[注2] DNA蛍光反応 ↩︎
金属イオンが結合するようにカスタマイズしたDNAを使用し、蛍光で分析する方法。2000年には鉛に結合しやすいDNAが示されていたものの、あくまで結合しやすいのであって他の元素とも結合する。

[注3]ペロブスカイト構造 ↩︎
原義は、この構造を持つ鉱物である灰チタン石の英語名Perovskite。立方晶系の単位格子を持つもので、立方晶の各頂点と中心部に金属原子があり、周りに酸素が配置する結晶構造。ただし、金属原子と同じような挙動をする原子ならば、非金属元素や原子団でもペロブスカイト構造をする。

[注4] 鉛イオンによる反応の違い ↩︎
臭化メチルアンモニウムと反応して鉛ペロブスカイトを生成するのはPb2+である。このためPb0は空気中の酸化反応で、Pb4+は水分による還元反応でPb2+が生成して反応していると考えられている。

[注5] バリウム ↩︎
バリウム化合物は紫外線で弱く蛍光するが、鉛ペロブスカイトとは色が異なる。また、スプレーする前から蛍光するため、前後で比較可能である。

[注6] クルクミン ↩︎
ウコンなどに含まれる黄色のポリフェノール化合物。蛍光色が緑色なため、鉛ペロブスカイトと類似している。

文献情報

<原著論文>

  • Lukas Helmbrecht, et al. "Direct Environmental Lead Detection by Photoluminescent Perovskite Formation with Nanogram Sensitivity". Environmental Science and Technology, 2023. DOI: 10.1021/acs.est.3c06058

 

<参考文献>

 

<関連研究>

  • Fritz Feigl & Hans A. Suter. "Analytical Use of Sodium Rhodizonate". Industrial & Engineering Chemistry Analytical Edition, 1942; 14 (10) 840-842. DOI: 10.1021/i560110a034
  • Jing Li & Yi Lu. "A Highly Sensitive and Selective Catalytic DNA Biosensor for Lead Ions". Journal of the American Chemical Society, 2000; 122 (42) 10466-10467. DOI: 10.1021/ja0021316
  • Hans C. Hendrikse, et al. "Shaping Tin Nanocomposites through Transient Local Conversion Reactions". Crystal Growth & Design, 2021; 21 (8) 4500-4505. DOI: 10.1021/acs.cgd.1c00393

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. 臭化メチルアンモニウムの塗布でガラスが光る様子: 原著論文Movie 1よりキャプチャ・トリミング

  2. スプレーのイラスト: いらすとや (消毒液と布巾を持つ手のイラストよりトリミング)
  3. ブラックライトのイラスト: いらすとや
  4. 含まれるハロゲンの種類による蛍光波長の違い: 原著論文Figure 1よりトリミング
  5. 様々な物質による蛍光の有無: 原著論文Figure 3よりトリミング
  6. 鉛の濃度が1ng/mm2での蛍光の様子: 原著論文Figure 2よりトリミング
  7. 鉛を含んだ様々な製品に塗布した結果: 原著論文Figure 4よりトリミング

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

このライターの記事一覧

彩恵りりの科学ニュース解説!の他の記事