芸術の秋は楽しんだ? 色ってなんだろう?

2023.11.27

 短かった秋が、そろそろ終わりの気配を告げている。秋の過ごしやすさ・活動しやすさを表した言葉に「〇〇の秋」というのがある。読書の秋にスポーツの秋、行楽の秋に芸術の秋など、文化活動を楽しむのに秋は最適な季節だ。……科学的にもそうなのかは知らないけど。

 一口に芸術といっても、彫刻や音楽、演劇などその種類は様々だ。しかしながら、多くの人が真っ先に連想されるのは絵画ではないだろうか? 時にたくさんの色で、時に少ない線で表現される二次元の芸術は、場所や時代を超えて多くの人に愛される美だ。

 絵画を絵画たらしめる要素の一つに色がある。それでは、色とはなんなのだろう? なぜ赤い絵の具は赤く、青い空は青く見えるのか説明できるだろうか。そこで今回は、色という存在の正体について解説していく。

 

 

少し詳しく 〜生物が感じる色

 突然だが、皆さんは何度くらいのお風呂が好みだろうか? 季節や健康状態などにもよるが、30 ℃台後半〜40 ℃台半ばくらいという感じだろうか。湯加減の好みは人それぞれだ。

 それではもう一つ質問をさせていただきたい。皆さんはどんな湯加減のお風呂が好みだろうか? ぬるま湯でゆったりしたいという方もいれば、熱いお風呂でシャキッとするのが好きという方もおられるだろう。

 実は、先の質問で問いかけている内容自体は同じだ。好きなお風呂の具合を答えればいい。しかし答え方が違う。前者は温度という客観的な指標なのに対し、後者は感覚的で主観的な情報なのだ。

 指標と感覚という2つの基準が、実は色とは何なのかを説明する上で重要になってくる。

 当たり前の話だが、私たちは目を閉じたまま色を認識することはできない。私たちが色を認識できるのは、光源から出たり、あるいはそこから反射したりした光が、私たちの目に届いているからだ。赤い光が届けば赤、青い光が届けば青といった具合だ。

 光の重要な性質の一つに波としての性質がある。光が進む時、上がったり下がったりして波を作りながら進むのだ。この、波と波との間隔すなわち波長や波の高低差すなわち振幅は科学的な方法で調べることができる。つまり客観的な指標がある状態だ[注1]

 一方で、私たちの目に飛び込んだ光の情報は、脳へ伝えられる。脳内では、伝わった光の波長や振幅とこれまでの経験や知識を紐づけて、個々で画像化する。すなわち主観的な感覚だ。

 この、客観的な光の指標を感覚に変換したものこそ、私たちが色と呼んでいるものの正体なのだ[注2]

 色が私たちの目で感じている、光の波長や振幅に対する感覚だという事はわかった。しかしながら、私たちの身の回りに光を発する物はあまり多くない。様々な色を感じるには対応する光が必要となる筈なのに、なぜ私たちは少ない光源で世界を色とりどりに感じられるのだろう?

 続いて、光源と波長の関係について解説していく。

 

 

さらに掘り下げ 〜物理が作る色

 お絵描きをしていて、こんなことをした経験はないだろうか? 色鉛筆を持てるだけ片手で握って束にし、グリグリと手を動かす。手の動きに従って紙が色とりどりに塗られていき、虹のようで綺麗で楽しい。こんな経験、誰もが一度はしたことがある筈だ。

 しかしながらこの手法は、一つの弱点がある。欲しい色を塗ることができないのだ。赤い色が塗りたいと思ったら、掴んでいる束の中から赤だけを抜いて使うしかない。

 そう、裏を返せば、束から抜き出せば任意の色になるのだ。

 私たちが様々な色を感じる時、大抵同じ空間内に蛍光灯や太陽など白色光の光源が存在している。真っ赤なライトや真っ青なライトが支配的な空間ではこうはならない。白色光の光源がある時だけ、私たちは様々な色を感じられる。白色光の光源があると、なぜ様々な色が感じられるのだろう?

 先の色鉛筆の経験を思い出してほしい。色鉛筆の束は様々な色を含んでおり、任意の色を抜き出すことでその色を表現することができた。白色光もまた、様々な色を含んだ光だ[注3]。従って物体に当たった光のうち、任意の色の光だけを反射すればその色を感じることができるということになる。つまり私たちが様々な色を感じられていたのは、白色光から任意の光を抜き出したからなのだ。

 光は波であるため当然、屈折や反射、回折・干渉といった波の性質を示す。それぞれの性質と波長は相関しており、波長と色は関連しているため、波の性質を利用することで特定の波長の光だけを抜き出す事ができる。このように、様々な光の中から物理的な方法で任意の光だけを抜き出したことで感じる色のことを構造色という[注4]

 

 白色光が様々な光を含んでおり、特定の波長の光を物理的に抜き出す事で色とりどりの色を感じているとわかった。それでは原子や分子は色には関与しないのだろうか? もちろんそんなことはない。

 続いて、化学的な現象によって作られる色について解説していく。

 

 

もっと専門的に 〜化学が作る色

 突然だが、こんなゲームをしてみよう。人数は2人で、用意するのはある長さのロープ、場所は階段のある建物だ。

 2人はそれぞれ建物の一番下の階と一番上の階にいて、上にいる人はロープを持っている。用意スタートの合図で下の人は上に、上の人は下に進んでいき、両者が「ここだ!」と思ったところで止まる。その後、上の人がロープを垂らして、下の人がロープをつかむことが出来れば見事ゲームクリアだ。

 このゲームの攻略で大切なのが、2人の位置関係だ。離れ過ぎていては当然掴むことができない。しかしながら、接近しようとし過ぎて追い越してしまっては意味がない。両者の距離が絶妙な塩梅にいる時だけ成功するのだ。

 絶妙な距離にいる。物質の色とは何かを知る上で、これが重要な鍵を握っている。


 あらゆる化学物質には、元々のエネルギーの低い状態と、外部からの刺激によってエネルギーが高くなった状態が存在する[注5]。吸収されたエネルギーは化学反応に利用されたり、低いエネルギーとの差を引いた分だけ光や熱として放出される。こうして放出される光というのが、すなわち化学物質が持つ色なのだが、ここで少し困ったことがある。2つの状態のエネルギー差が大きいほど波長の短い光が、小さくなると長い波長の光が放出されるのだ。

 私たちの目は約400 nm 〜 約800 nmの波長の光だけを捉えることができる。裏を返せば、約400 nm以下の波長の光や約800 nm以上の光は見えないのだ。従って色を持つ物質というのは、2つの状態のエネルギー差が大き過ぎず小さ過ぎない、いい塩梅のエネルギー差を持つ物質ということになる[注6][注7]

 

 ここまで、色の正体について解説してきたが、いかがだっただろうか? 世界には色が溢れている。その色が、どういう理由でそう見えているのかを想像してみるのも面白いかもしれない。

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが光と一次産業に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

 

ちょっとはみ出し 〜光を利用する

害虫を防除する

 田舎者のあるあるを一つあげても良いだろうか? きっと多くの人が納得してくれる内容のはずだ。ズバリ、「夜の自販機には近づきたくない」!! だって……虫が……。一応解説をしておくと、田舎の夜は明かりが少ないので、煌々と光る自販機に大量の虫が寄ってきてそれはそれは酷い光景になっているのだ。もちろん、自販機に近づく虫がイヤなら、夜に使わなければ良いだけの話だ。しかしながらそうも言っていられない場面もある。農作物の害虫だ。

 光を利用して、害虫が誘引されるのを予防できないかという研究がある。「害虫予防なのに明かりを使うの? 矛盾してない」と思われるかもしれない。しかしながら、ある種の作物につく害虫は、赤色の光を照射した区間には近づかなくなるというのだ。害虫を寄せ付けない農法の基盤が整いつつあるのかもしれない。

成長を促進させる

 みなさんはお魚は好きだろうか? 葉月はハマチやブリの刺身が好きだ。塩鮭を焼いたものも好きだし、赤魚の煮付けも好きだ。そして今回は、ヒラメやカレイがお安くなるかもしれない話しだ。

 ご存知の通り、市場に流通されている魚は漁でとった天然物と人為的に育てた養殖物がある。養殖物の魚の多くは気象条件や気候にほとんど左右されないので、基本的には育てるのにどれだけのコストがかかったかが価格に反映されることになる。当然、同じ餌を与えて早く大きくなるのなら、安くなる筈だ。まぁ、単純な条件で決まるようなものではないだろうけど。

 ホシガレイを育てる際に、緑色の光を照射しながら育てると、通常よりも早く育つという研究がある。味や身の締りは、通常通り育てたものと変わらないという事なので、流通への期待が高まる。

参考文献

  • Rob Lewis, Wynne Evans. 『基礎コース 化学』. 東京化学同人.

  • 数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 化学図録』. 数研出版.
  • 村田 滋. 『光化学 ─基礎と応用─』. 東京化学同人.
  • 数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 物理図録』. 数研出版.
  • 柴尾 学ら. 『 赤色光照射および光反射シート被覆による施設ナス ・キュウリのアザミウマ類 2 種 (アザミウマ目 :アザミウマ科 )の密度抑制』. 日本応用動物昆虫学会誌 2020年 64 巻 2 号 74-78.
  • 清水 大輔ら. 『緑色光照射下で飼育したホシガレイの品質評価』. 水産増殖 2020年 68 巻 2 号 169-176.

脚注

[注1] 光の波長をどう調べるか気になった方はおられるだろうか? が、この辺を詳しく解説しだすとそれだけで一つの記事になりそうなので今回は省略させていただく。 (本文へ戻る)

[注2] 色は感覚だから、他人と完全に共有することはできない。しかしながら、100℃のお湯を冷たく感じたり、氷水を熱く感じる人がいないように、色の感じ方にも共有可能な部分がある。だから普段の日常生活では、色の見え方をめぐって大きな問題に発展することはあまりない。 (本文へ戻る)

[注3] 実際には色鉛筆すなわち色素の場合は「赤・青・黄」の三色があれば黒になり、光の場合は「赤・青・緑」の三色で白くなる。前者を色の三原色、後者を光の三原色といい、色素では前者、光では後者のバランスであらゆる色が表現できる。2014年に青色LEDがノーベル賞を受賞したのは、LEDがあらゆる色の光を表現できる道具になったからだ。 (本文へ戻る)

[注4] 空が青くなったり赤くなったりするのは構造色で説明できる。大気中を進む太陽光は大気の分子に衝突して不規則に散乱する。散乱は波長の短い青い光の方がされやすいので、昼間の空は青い。しかしながら夕方になると太陽光の進む距離が長くなってしまうため散乱され過ぎてしまい、赤い光が目に届く。 (本文へ戻る)

[注5] 外部からの刺激として炎や強烈な熱を連想するかもしれない。しかしながら、今回の記事のテーマは色の正体だ。炎や熱がなくとも色を認識可能なことは、日常生活からすでに経験済みだろう。確かに熱で色が変化する化学物質も存在するが、基本的には物質を色づけるのはとても小さな光エネルギーだ。 (本文へ戻る)

[注6] このような物質には、多重結合が単結合を挟んでいる、遷移金属イオンが小さな分子や陰イオンで取り囲まれている、などの特徴がある。前者を共役分子といい、後者を錯体という。 (本文へ戻る)

[注7] このような物質には、多重結合が単結合を挟んでいる、遷移金属イオンが小さな分子や陰イオンで取り囲まれている、などの特徴がある。前者を共役分子といい、後者を錯体という。 (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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