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研究の分野は様々だ。
vivo(細胞、動物) やvitro (試験管)で取り扱うとか、遺伝、生物系に化学など、挙げていくと区分によって違いもあって、きりがない。
研究者であっても分野に関する知識はぼんやりとしていたので少し調べると、文部科学省が「研究分野」の一覧を製作していた。
こちらを拝借すると、あくまで私の主観だがいわゆる"理系"っぽいものが含まれている分野は、大分類で以下の通り。
社会科学
数物系科学
化学
工学系科学
生物系科学
農学・環境学
医歯薬学
これを中・小区分にしていくと、数えるのが面倒なぐらい細分化されている。
そして私の今回話したい構造解析学は、"生物系科学"の分子レベルから細胞レベルの生物学およびその関連分野に区分されている、ちゃんとした学問のひとつなのだ。
研究をしていない方にとって研究といえば、大概の人が、白衣を着て、薬品やビーカー、装置を駆使して、なんか訳の分からないものを作ったり、研究したりしている・・・という曖昧さではないだろうか?
研究を行っている私にとってさえ、こんなにも多くの分野に細分化されていることも初めて知ったわけである。ましてや研究をしていない方にとっては「タンパク質の構造を解析するって何するの?必要あるのか?」とさえ思われているかもしれない。
というわけで今回は、研究をしていない方にとってもわかるように「とくにタンパク質における、構造解析学とは何か?」を解説した。あくまで一個人が思う構造解析学はこんなのだという、初心者向けの文章となっているため、構造解析学徒の皆様におかれては細かい描写の異論があるかもしれないが、ご容赦願いたい。
「構造を解析する」と一言で言っても、解析すべきサンプルだけでも種類があり、無機物や有機物、化合物、そしてタンパク質など、多岐に渡っている。
ここでは私の専門であるタンパク質に焦点を当てている。
タンパク質といっても様々で、例えば、光合成のエネルギーが特徴の光化学系や、体内に存在するGPCR(Gタンパク質結合受容体)など、数えきれないぐらい無数にタンパク質が存在する。
そのタンパク質の構造を解析する学問、タンパク質構造解析学を簡単に3つの箇条書きで表すと下記になる。
・タンパク質のどこに機能が備わっているか探索する
・特徴部位を、より精密に分析する
・X線、NMR、低温電子顕微鏡、それぞれに適したサンプルで解析する
いきなり専門用語を乱発してしまったので、ひとつずつ紐解いていこう。
いきなりの説明も難しくなるので、ここで例え話をする。
例えば、目の前に何かが入っている箱がある。中身は外からは見ることができず、箱の上の部分から手が入れられて、穴のところから何かを触っただけで、何が入っているか当てるというテレビ番組のクイズやゲームによくあるものだ。
大抵、箱に入っている何かには「トゲトゲしている」など特徴があって、その部分を手で触ると、「パイナップル」などと名称が出てきて、正解が導き出せる。
タンパク質構造解析学とはまさしくこの「箱の中身はなんだろな?クイズ」みたいなもので、タンパク質が箱に入っている何か、手で触るのが装置による分析、「トゲトゲしている」などの特徴が機能、「パイナップル」などという名称がどのような種類のタンパク質なのかという仕組みになっている。
ただし、どのようなタンパク質なのかは図鑑となるPDB(protein data bank)である程度わかっているので、機能を調べるために学問があるという部分が、少し違っているのは注意していただきたい。「箱の中身は~」の例であれば、パイナップルを生まれてから一度も見たことも触ったこともない人にはおそらく(絶対に?)このクイズを解くことができないが、構造解析学であれば「トゲトゲしている」という特徴から答えを導き出すことができるのである。
実際の実験だと例えば、ハイドロゲナーゼ hydrogenase は硫酸還元菌などに発現している、水素を可逆的に反応させる酵素と呼ばれるタンパク質で、ニッケルと鉄が含まれている。
このタンパク質の形を調べるためには、結晶化作業にて固体にし、X線という電磁波を照射する。結果を解析すると、どういった形で、どこにニッケルと鉄が存在するか判明するという仕組みだ。
この仕組みを複雑にそして詳細な部分に焦点を当てているのが、次のポイントとなる。
研究で調べたい内容は様々だ。
どことどこが結合しているのか、同じようなタンパク質が何個集合して安定した形を成しているのか、化合物と結合したらどの部分が変化するかetc。
この調べたい内容が特徴部位であり、大学や職場の方針によるが、大概が研究テーマを学生だとひとつ、教員や正社員は複数かかえ、それによって調べたいものも違い、さらに実験を進めていく過程で変更することもある。
詳細に調べたいところにフォーカスを当てるために、サンプルを得るためにどのように培養をするのか、培養溶液から単一の目的サンプルを得るのか、そのサンプルを固体ないし液体として安定化させられるか、どの装置を使用するのか、電磁波の強度や時間などの設定はどうするのか、解析結果がどのようなアミノ酸になるのか、など、様々な試行錯誤が必要となっていく。
この様々列挙した工程から、次のポイントに繋がるのが、どの装置を使用するか。これによって、サンプルの仕様や得方、培養方法まで変わってくる。
この章タイトルに出てきているのが、構造解析に必要な主な装置3種だろう。タンパク質構造解析の3種の神器ともいえるぐらいの装置だ。
それぞれの装置は用途などが違っていて、まずX線は構造解析学の基礎とされている。電磁波部はレントゲンなどにも使われており、タンパク質が順序よく整列された状態である結晶に長時間何回も当て、原子や分子から反射された光たちの集合体の結果をパソコン内のアプリで解析し、3次構造を出す。サンプルは中分子レベルが最適とされており、フレキシブルなものだと、起動性の問題より、解析が困難とされている。
X線分析装置
体が透け透け!? レントゲンの仕組みに迫る!
続いてはNMRだ。こちらの正式名称は核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance)と言う。溶液や細胞内に存在しているタンパク質に磁場をかけると、サンプルの核スピンが整列し、その原子核部にラジオ波を当てると、シグナルが得られる。
そのシグナルの解析をすることで、X線と同様、3次構造を出せるのだ。ペプチドから中分子ぐらいの分子量が最適とされており、フレキシブルなサンプルも解析可となっている。
身近で似た装置はMRI検査だろう。脳などの体内を画像として撮影し、普段は見えない病巣を発見するのに貢献しているのだ。
NMR
そして最後は、低温電子顕微鏡(Cryo-electron microscopy)だ。略して電顕とも呼ばれる。
こちらはタンパク質を液体窒素などの低温で固定化させ、電気を持った電子線を当て、透過した電子を観察するという透過型電子顕微鏡(TEM)をベースとした手法となっている。
解析方法が多種多様で、サンプルはX線でも解析が難しい複合体や、生体内の構造も得ることができる。
昔に中学や高校の理科室にある顕微鏡を授業で使用したことがあるだろうか?それの巨大版・・ではあるものの、理科室では室温でサンプルをスライドガラスに乗せてカバーガラスをかぶせたものを観察していたのが、凍らせて特殊なところに設置するなどの工程が必要になってくるという代物だ。
低温電子顕微鏡
ここまで紹介させてもらった内容は、実は私の本業・お仕事に直結している。
と言っても、「構造解析」自体を仕事にしている組織は数に限りがあり、専門に携わっている研究室やバイオベンチャーとして確立している会社、分析のひとつとして外注などしている大手企業などとは方針もやり方も異なっている。が、基本は装置の付近にコミュニティがある狭い世界なのだろう。