ヒトの遺伝病からわかる免疫の複雑さ(11月8日 Nature オンライン掲載論文)

2023.11.26

最近免疫をうたうコマーシャルが目立つ。以前の決まり文句は「免疫力を高める」だったが、コマーシャルを作っている会社もこのような単純化で一般を欺すのを恥じたのか、今度は「司令塔」とぼかしてごまかそうとしている。まあ、欺し欺されるのは世の常だが、科学はそうはいかない。

 

本日紹介する論文

今日紹介する NFkBコンソーシアムという世界規模の研究集団から発表された論文は、一見ウイルスに対する免疫不全が、実際にはインターフェロンに対する免疫トレランスの破綻で起こっている遺伝病を調べた研究で、11月8日 Nature にオンライン掲載された。

 

タイトルは「Autoantibodies against type I IFNs in humans with alternative NF-κB pathway deficiency( 1型インターフェロンに対する自己抗体がオルタナティブ NF-κB 経路不全で起こる)」だ。

 

解説と考察

全世界を襲ったコロナパンデミックは、感染が重症化する様々な遺伝変異を明らかにしたが、その中にはウイルス防御の第一線と言える 1型インターフェロン(IFN1)に対する自己抗体が原因でウイルス抵抗性が消失しているケースが見つかっている。

 

このような IFN1 に対する自己抗体が確実に現れるのが、胸腺びっくり動物園で自己抗原を上皮に提示しトレランスを誘導する Air 分子の変異で、勿論他にも様々な自己に対する免疫が出来てしまう。すなわち、リンパ球の異常がなくても、胸腺上皮発生異常を起こす変異は免疫異常につながる。

 

この胸腺上皮発生に重要な働きをしているシグナルがオルタナティブ NF-κB ( NFKB )シグナル経路であることがわかっている。

 

この研究では、ヒトの NFKB 経路の分子の突然変異を集めるコンソーシアムで把握している70人の患者さんの中で IFN1 に対する自己抗体を持つ患者さんを探索し、この経路で発生するシグナルの最後の分子 p52/RelB 複合体の機能が低下すると、IFN1 に対する自己抗体が常に作られるようになり、コロナを含む様々なウイルス疾患にかかりやすく、また重症化することを明らかにしている。

 

元々 NFKB 経路はリンパ球の機能や他のリンパ組織形成にも必須なので、免疫異常でこの経路の変異が見つかるとそこで納得してしまうのだが、IFN1 に対する自己抗体は、p52/RelB 複合体形成が低下しているケースだけで起こる。

 

そこで、胸腺トレランスに関わる胸腺上皮の発生を調べると、発生異常とともに、胸腺上皮で自己抗原を提示する AIR 分子が完全に抑制されていることを発見する。また、この経路分子に変異を持つマウスでもこの事実を確認している。

 

まとめと感想

以上の結果から、オルタナティブ NFKB 経路の低下は、リンパ球の発生異常だけでなく、胸腺上皮での AIR 発現を抑え、結果胸腺トレランスの異常が誘導され、これが IFN1 への自己抗体と、それに起因する感染抵抗性異常につながることが明らかになった。

 

この研究で最も面白いのは、AIR 変異の患者さんでは様々な自己抗体や自己免疫が発生するのに、オルタナティブ NFKB 経路の変異では IFN1 に対する自己抗体以外ほとんど自己抗体が見つからない点だ。これは NFKB 経路自体が免疫反応に関わっており、この変異で免疫反応が低下した結果とも言えるが、それにしても IFN1 だけというのは何か面白い理由がありそうだ。

 

専門家以外がこんな話を聞いても「わからん」で終わると思うが、免疫に単純化思考は禁物ということを科学者は伝えていく必要がある。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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