小腸上皮でのコレステロール吸収(11月10日 Science 掲載論文)

2023.11.23

「食べ物の分解によりできたコレステロールは十二指腸で胆汁の作用でミセル化した後、小腸上皮のコレステロール結合分子NPC1L1 により補足され、その後おそらくエンドゾームを経て小胞体(ER)に移送され、そこで ACAT2分子によりエステル化され、そこで他の死亡とともにカイロミクロン形成がおこり、細胞外へ分泌される」と思っていた。

 

本日紹介する論文

ところが細胞膜から ER までの輸送経路については全くわかっていなかったようで、今日紹介する UCLA からの論文は、肝臓での膜から ER へのコレステロール輸送に関わる Asterファミリー分子が小腸上皮でも働いていることを示した研究で、11月10日号の Science に掲載された。

 

タイトルは「Aster-dependent nonvesicular transport facilitates dietary cholesterol uptake(Aster分子による小胞体を介さない輸送システムが腸管でのコレステロール吸収を促進する)」だ。

 

解説と考察

Aster はコレステロール細胞輸送の担い手として肝臓で研究が進んでおり、当然小腸でも働いていて良い。そこで、Aster分子が遺伝的に標識されているマウスを用いて調べると、主に Aster-B と Aster-C が発現しており、両方をノックアウトするとコレステロールの吸収が低下することを発見する。

 

さらにコレステロールの吸収されるプロセスを追跡して、Aster が細胞膜から ER への輸送に関わることを明らかにしている。重要なのは、Aster 阻害だけでは完全に抑えられないので、これまで考えられてきた他の経路も存在するが、Aster 経路が本筋になっている。

 

コレステロールは合成できるので、Aster B/C をノックアウトしてもマウスは生まれてくるが、ノックアウトマウスでは高コレステロール食でもコレステロールは上昇しない。ただ、当然体内での合成は上昇している。

 

コレステロール吸収を阻害する薬剤としてNPC1L1に結合するエゼチミブが使われているが、面白いことにエゼチミブは Aster にも結合して、分子を安定化させる。

 

次に Aster の細胞内での動態を調べ、コレステロールが細胞膜にロードされると細胞膜へと移行し、ここで NPC1L1 からコレステロールを受け取って ER へと移動し、最終的にエステル化のために ACAT2 に受け渡されることを明らかにしている。

 

さらに、Aster を阻害する AI-3d でこの過程を抑制し、エゼチミブと同じようにコレステロール吸収を抑えることを明らかにしている。

 

まとめ

結果は以上で、小腸での吸収経路が明らかになり、標的分子が増えることで、食事からのコレステロール吸収を抑える様々な薬剤の開発が加速すると思う。現在もスタチンと併用してエゼチミブが使われているが、他の可能性が生まれることは製薬会社だけでなく、食品企業にとっても重要だろう。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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