柏の手作り科学館 エクセドラの夢 〜基礎研究が応援してもらえる社会を作る

2023.11.17

館長の羽村太雅さん

 

皆さん、こんにちは。サイエンスコミュニケーターの佐伯恵太です。皆さんは、千葉県柏市にひっそりと佇む「手作り科学館 Exedra(エクセドラ)」をご存知ですか?

Exedraは、なんと古いアパートをDIYして科学館にしちゃったという珍しい形で、2018年1月に誕生しました。2020年には新型コロナウイルスの影響で大打撃を受けるも、徐々に来館者数が増加。今年2023年8月には、累計来館者数5千人を突破しました!

小さな科学館だからこその魅力や、ここでしか味わえない体験。そして、これから何を目指すのか。館長の羽村太雅さんに話を聞きました。

手作り科学館誕生の経緯

館内には所狭しと様々な展示やグッズが並んでいます

ー まずは科学館誕生までの経緯について教えてください

私は大学院時代には惑星科学の研究をしていました。当時、国立天文台で一般の人達向けの「天体観望会」の学生スタッフとしてアルバイトしていて、それがすごく面白かったんです。修士の時に東大の柏キャンパスに移りまして、柏でも科学コミュニケーション的なことをやろう!と思って、2010年にサークルを立ち上げました。

それから6年くらいサークルで活動していたのですが、イベントをやる時は毎回告知して、でも都合が合わなくて来られない方も多くて、という経験をする中で「だったらここに行けばいつでも科学に触れられるという場所を作ればいいんじゃないか」と思ったんです。それから場所を探してここに巡り会えたので、2016年の8月に工事を始めました。

当時から科学館として運営されていたのでしょうか

開館当時、私は国立天文台で働いていたので、ここはサークル活動の一環としてボランティアで運営していました。科学館としてオープンしたのが2018年の1月ですが、当時はまだ全然ここで食っていく!みたいなビジョンは見えていなかったです。2020年の3月に天文台の任期が切れるので、そこが一つの区切りだと思っていたのですが、ちょうどその時に、今一緒にやってるスタッフがドクターを取って社会人になるというタイミングだったので、一緒にやろうよと、二人で法人を立ち上げました。

コロナ禍での奮闘とそこで得たもの

押し入れだった展示スペースの壁は海と砂浜のイメージでDIY

ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大が始まった頃ですよね

そうなんです。実は何年も前から、スタートすると同時に仕事が始められるようにたくさん準備していたのですが、スケジュールが完全に白紙になりました。頭も真っ白......

コロナ禍では何をされていたのでしょうか?

最初はもう思考停止だったのですが、暇だし解剖でもするかと。笑

それでいろんな動物の解剖をしていたらテクニックも身について、色々な皮も溜まってきたんです。その革を使って名刺入れやペンケースとしてグッズ化してみたり、レザークラフトもできる教材のキットを開発したりもしました。

キョン革の名刺入れ (販売中)

そうこうしながら、何度かはオンライン講座もやりました。その後、少しずつ対面の活動を復活させました。

コロナ禍で何か得たものはありましたか?

最初はもう手当たり次第にやっていたというのが正直なところですが、今振り返ってみると、落ち着いて色々なことをじっくり考える時間があったなと思います。コロナ禍前の忙しい時期は目の前の仕事に追われて気づいたら一年経っていた、なんてこともありました。でも、コロナ禍で思うように活動できない時期は、コロナ禍前の忙しかった時にはバタバタしていて考えられなかったことを、じっくり考えていました。今、科学館では10個の体験ワークショップを用意していますが、それらを一つ一つ練り上げたり、オリジナル商品を開発したり。コロナ禍だからこそ、リアルで体験することの価値とか、何を提供するべきかということを深く考えたのかもしれません。

本当の「体験型」とは何か?

10種類の体験ワークショップ

体験ワークショップについて教えてください

たとえば、野生動物の革を使ってレザーブレスレットを作るという体験は、ただブレスレットを作って終わりではないんです。このワークショップでは、獣害問題をはじめ野生動物と人間のかかわりについて紹介して、みんなに考えてもらうようにしています。我々が一番数多く手がけているのはキョンなんですけど、キョンって特定外来生物なので、一応環境系の文脈では全部駆除しましょうという考え方が一つある。

一方で、どうにか共生できないのか、と考えている人たちもいる。どの視点で何を見るのかによって意見や立場も変わってくるわけで、そういう意味では決まった答えがないんです。正解がない中で、ものごとをどういう風に捉えて、そのために何をするのかを考える。それって科学者がやっている考え方に似ていると思います。問いを立てて、そこにアプローチしていくという科学的なプロセスを体験してもらおうと思っているんです。

様々な野生動物の毛皮(触ってもOK!)

子どもたちの主体性や体験としての価値を大切にされているのですね

それは科学館の展示を考える上でも大切にしています。「体験型展示」って聞くと、科学館などで、ボタンを押したら何かが動いたり光ったりするものを想像しませんか?もちろんそれは一つの体験の形ですが、もし動かしたり光らせたりしただけで満足してしまったらもったいない。反対に、ただそこに置いてある展示を見た時に、子どもたちがすごく色々なことを想像したり、或いはそれをきっかけに、その展示と関連する場所に自ら足を運んだとしたら、それは立派な体験ですよね。

この科学館の展示には解説パネルをほとんどつけてないのですが、そうすることで子どもたちがスタッフに質問してくれて、会話が生まれます。質問攻めにあうことも度々ありますが、それって、子どもたちって本来それくらいいろんなことに気づいたり、疑問を持ったり、考えてるっていうことなんですよね。展示をご覧になっている方のそばにいて、じっくりとコミュニケーションできるのは小さい科学館だからこその強みかと思いますが、できるだけ子どもたちに寄り添って、豊かな体験をしてもらえればと思っています。

未来の科学者が生まれる!?研究部を発足!

研究部の活動を行う実験室

昨年から開始された研究部についても教えてください

研究部は2022年の4月にスタートしました。部員は、科学館に来てくれていた子どもたちが中心で、隔週で活動しています。現在は、研究するための基礎を学ぶトレーニングコースと、そこからさらに大学の卒論とか修論のような取り組み方を目指していくステップアップコースがあります。

トレーニングコースでは、実験器具の使い方や、実験ノートの取り方など、研究に取り組むうえで基本的な知識や技術や心構えを教えながら、水溶液や岩石を分析してみたり、アルコールランプや真空ポンプなどを使った実験を行ったりしています。

ステップアップコースでは、結果がわかっている実験ではなくて、まだ誰も答えや真実を知らないことを、子どもたちと我々大人が一緒になって、ああでもない、こうでもないと言いながら様々なテーマに取り組んでいます。現在はこのコースまでなのですが、来年にはさらに上の研究コースを作って、子どもたちが自らテーマを決めて考えていく、我々がそれをサポートしていくというようなレベルに到達してもらえればと考えています。

イノシシの頭骨

ー それが実現すれば、研究コースから学術論文が誕生するかもしれないですね

そうなるかもしれないですね。やはり子どもたちに対して文章を書くという指導はまだ必要ですが、アイデアの独創性や実験の技術、結果を分析・考察する力などは育ってきているので、さらなる取り組みを期待しています。今ステップアップコースで取り組んでいる活動のひとつ「人工的に化石を作ろう」は、まだ世界中で誰も成功してないので、もし成功したら、それこそ世界初です!

研究部は教育プログラムとしての側面もあるので、たとえ化石が作れなくてもその過程で学べることには大きな意味があるのですが、その上で「自分達がやったことが人類の知の発展に貢献できるんだ」という経験を彼ら・彼女らにもさせてあげたいんですよね。

基礎研究を応援してもらえる社会をつくる!

顕微鏡で世界各地の砂や多様な岩石を観察することもできます

 

ー 最後に、今後の展望について教えてください

我々のミッションは、実は科学教育じゃなくて、「科学の基礎研究が応援してもらえる社会を作る」ことなんです。最近、国立科学博物館のクラウドファンディングがありましたよね。あのプロジェクトを通して、日本を代表するような博物館でも全然予算が足りていないという現状が浮き彫りになりました。でも一方で、博物館関係者や研究者、博物館ファンによる情報発信、それに共感した方々がサポーターとして集まり、9億円を超えるお金が集まりました。課題は山積みですが、そこには希望も感じました。

私たちは、ここ柏の地から、基礎研究や研究者を応援する輪を広げていければと思っています。それは研究部を通して子どもたちに自ら研究に触れてもらうことだったり、或いは科学館に来て現役の研究者や大学院生との交流を通じて科学や研究者にも興味を持っていただくことだったり、形は様々です。実際に、うちで店番をしてくれている大学院生が新聞に載った時に、その切り抜きを持ってきてくれる子がいたりして、これはファンが増えた瞬間だなと嬉しくなったこともありました。

他にも科学館の建物を飛び出して、柏の街を太陽系に見立てて、街なかに展示も設置したイベントを企画したりもしています。うちに来てくれる子たちはある程度科学に興味がある子が大半ですが、街に繰り出すとそういう子ばかりとは限らないので、あまり興味がない子たちにも科学との接点をどうやって届けるのか、試行錯誤しながら、色々なイベントを手がけています。

かしわ太陽系ウォーク

研究者や科学に携わっている方々にもぜひExedraのことを知っていただきたいですし、同じ想いを持つ者同士、立場を超えて繋がって、皆んなで一緒に「基礎研究が応援してもらえる社会を作る」ことを目指していければと思っています!

ー ありがとうございました!

取材を終えて

手作り科学館Exedra、知らなければ通り過ぎてしまうようなアパートの部屋の中は、小さいからこそ濃密に科学や研究に触れることのできる素敵な空間でした!

今回紹介しきれなかった様々な展示や体験型のコンテンツも、どれも魅力的でした。研究部の部員さんも募集中ということで、気になる方はぜひ一度、訪ねてみてはいかがでしょうか。

[関連リンク]

手作り科学館 Exedra

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【著者紹介】佐伯 恵太

俳優 / サイエンスコミュニケーター。
1987年5月30日生。京都出身。京都大学大学院理学研究科で修士号を取得し、日本学術振興会特別研究員(DC1)として同大学院博士後期課程に進学。1年間の研究活動の後、俳優に転身した異色の経歴の持ち主。現在は、科学とエンターテイメントの架け橋になるべく、俳優・サイエンスコミュニケーターとして活動中。
【出演ドラマ】BS時代劇「大富豪同心」シリーズ / 「ABEMAヒルズ」コメンテーター / 日本科学振興協会(JAAS)正会員 / 「エンタメ×科学」のプロ集団「asym-line(アシムライン)」代表
プロデューサー・監督・出演者として、YouTube科学番組「らぶラボきゅ〜(※)」を手がけている。
※「東京応化科学技術振興財団」助成事業