「オセロは解かれた」ってどういうこと? 基礎から解説!

2023.11.17

オセロの弱解決 サムネ

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、オセロが弱解決したってどういうこと?について解説していくよ![注1]

 

これの元となっている論文のタイトルが "Othello is Solved (オセロは解かれた)" とインパクト抜群なことから、色んなコメントが出ているけど、いったいどういうことなんだろうね?

 

この記事では、オセロの「弱解決」ってどういうことなのかとか、人間のプロに勝つ人工知能の開発とはどう違うのかとか、そもそもなんでこんな研究があるのかとか、そういうところをイチから説明していくよ!

 

ボードゲームを数学的に捉えると?

数学的に解決可能なゲームとは?

数学的に解決が可能なゲームとは、基本的に運任せや伏せられた情報がないゲームに限られるよ。特に研究がされるゲームは、いくつかの条件を満たした「二人零和有限確定完全情報ゲーム」と呼ばれるよ。オセロはその1つだよ。 (画像引用元番号①②③④⑤⑥⑦)

 

ボードゲームは遅くとも紀元前3000年以上前には存在した伝統的な遊びの形態だけど、実はコンピューターサイエンスや数学の分野とも深いかかわりがあるものだよ。

 

特にサイコロや山札のように、運任せや伏せられた情報がないようなゲームの場合、それは数学的に完全な解決が可能なゲームであり、より効率良く解くプログラムの構築のためにボードゲームが研究されるよ。

 

このような「抽象戦略ゲーム」の中で、特にプレイヤーが2人のゲームを挙げると、チェス、将棋、囲碁、チェッカー、三目並べ、コネクト・フォー、五目並べ、ヘックス、そして今回取り上げるオセロなどがあるね。

 

これらの抽象戦略ゲームは、どの時点においても全てのコマの位置や情報などが開示されており、自分の番においてコマをどのように動かしたり置いたりするのが自由に決められる、という特徴があるよね?

 

この場合、自分も相手も、原則としてはゲームの開始時点で終了までの状況や勝敗を解析によって先読みできることになり、運や伏せられた情報によって結果が不正確になることがないゲームということになるよ。

 

数学的には、このような完全な解決が可能な性質を持つ2人プレイの抽象戦略ゲームの結果は、先手か後手かのどちらかが必ず勝つ、あるいは双方が必ず引き分ける、のどれかに定まることになるよ。

 

ところで、ここでプレイヤーを2人に限っているのは理由があるよ。プレイヤーが2人の場合、片方が最も利益を得られる「最善手」をプレイすると、もう片方には必ず損害となり、その利益・損害の度合いは同じになるよ。

 

一方で3人以上の場合、最善手を打ったとしても相手に必ず損害となるとは限らず、逆に最善手以外が最も損害となる、という状況が発生するよ。これは解析を困難にするだけでなく、数学的にも別モノとなってしまうよ。

 

なので、数学的な研究の対象となるボードゲームは、抽象戦略ゲームの中でも「二人零和ゼロわ有限確定完全情報ゲーム[注2]という性質を満たすものが多いよ。先ほど挙げたオセロを含むゲームはこれに該当するよ。

 

ボードゲームを数学的に解く意味とは?

数学的に解決はかなり難しい

二人零和有限確定完全情報ゲームは、原理的にはゲームを開始した時点で終了までの完全な先読みが可能だよ!ただ、三目並べくらい簡単なゲームならともかく、オセロを含めた多くのゲームはそこまで解析はできないよ。 (画像引用元番号①②③④)

 

開始から終了までの状況や勝敗を先読みできるゲームとして代表的なのは「三目並べ(○×ゲーム)」と思うよ。何度かやってみれば気づく通り、お互いが負けないようにミスなく真剣に取り組むと、必ず引き分けになるゲームだよ。

 

ただ、三目並べくらい簡単なゲームなら人力でも引き分けになると結果を予測することができるけど、ほとんどのボードゲームはこれよりずっと複雑で、簡単には解析ができないよ。

 

理屈上は、ゲームの全ての局面 (コマの配置などの場面ごとの状況) を全て総当たりすれば解くことができるけど、ほとんどのボードゲームはこの後書く通り極めて膨大な数の局面を持ち、とても総当たりはできないよ。

 

しかも総当たりで局面を出すと、本来あり得ない状態 (例えば全てが○で埋め尽くされた三目並べ) も出てきてしまうので、これは計算の過程で考慮外として切り捨てなきゃいけないよね?

 

それに、ボードゲームで勝敗を決するなら、普通は双方ともに有利な状況に持っていきたい、つまり双方最善を尽くすはずで、そうなってくると現れる局面はだいぶ絞られてくるはずだよね?

 

このように、現実的に現れるであろう局面に絞り込めば、計算量はだいぶ絞られてくるよ。だけど、じゃあどのように現れるであろう局面を絞り込むのか?というのがまた難しい問題になってくるよ。

 

ゲームを研究する意味

なぜボードゲームを研究するの?これはより実用的なシミュレーションの改善や改良に役立つんだよね! (画像引用元番号: ①②③④⑧)

 

こういう、考えなくてもいい部分を切り捨てて計算時間を少なくするというプログラムをうまく組めると、ボードゲーム以外のシミュレーションや解析でも、計算時間を少なくするノウハウが生かされるんだよね。

 

なので、結果が完全に予測可能なボードゲーム向けのプログラムを研究すると、より結果が不確かな科学的研究や技術開発のシミュレーションに使える技術やノウハウが生まれてくるんだよね。

 

一見すると遊びでしかないボードゲームが、コンピューターサイエンスで注目され、熱心に研究される理由はこの辺にあるんだよ。

 

ゲームを “解いた” に関する色んな表現

ゲームの解決の違い

数学的にゲームを解決したとは、少なくとも結果について完全なものが得られている状態だよ。人間のプロに勝つ人工知能の開発は、数学的なゲームの解決とは全くの別物だよ。 (画像引用元番号: ①②③④⑤)

 

ところで、このようなボードゲームを解析する研究では、結果の表現に注意が必要だよ。特に間違いや誤解が発生しやすいものとして、「人間のプロに勝つ人工知能の登場」とは区別しないといけないことだよ。

 

チェスのDeep Blue、将棋のPonanza、囲碁のAlphaGoのように、人間のプロにすら勝つ人工知能は様々なゲームに存在するけど、じゃあチェスや将棋や囲碁は数学的に解決しているかというと、実はそうではないんだよね。

 

これらの人工知能はいずれも、より良い手を指すための様々な手法や考え方、何より計算速度が人間よりも優れている。だから人間では到底かなわないメチャクチャ強い人工知能になるんだよね。

 

ただ、メチャクチャ強いとはいえ、全ての局面について完全な先読みができているわけではないので、人間が勝つ確率は、限りなく低いとはいえゼロではないんだよ。

 

これに対し、数学的に解決したボードゲームというのは、先手後手の優劣に差がないゲームにおいて、解決を反映したプログラムが存在する場合、人間は引き分けに持ち込むことはできても、勝つことは絶対できないよ。

 

なぜなら、そのような解決した状況を実装したプログラムは、 (欠陥やバグがない場合) 常にミスをすることなく最善な手を指すので、先読みの限界やミスをしうる人間は絶対にかなわないことになってしまうからね!

 

では、「ゲームが数学的に解決した」とはどういうことか?これにも実は次の3つの段階があるよ。

 

  1. 超弱解決 (Ultra-weakly solved): 初期局面の勝敗は解明されているが、どのようなプレイをすればよいのかは解明されていない (先手後手の優劣のみが分かっている) 。
  2. 弱解決 (Weakly solved): 初期局面の勝敗が解明されており、どのようなプレイが最善手なのかも分かっている (双方が最善を尽くした場合の結果が分かっている) 。
  3. 強解決 (Strongly solved): どのような局面から開始しても、どのようなプレイが最善手なのかが分かっている (どのような局面で開始しても、その後の最善な結果が分かっている) 。

 

もし「ゲームを完全解決した」と言いたいなら、当たる言葉は強解決だよ。これは全ての局面が分かっており、例えどの局面からゲームをスタートしても、その後の展開を有利に持っていける全知全能な状態だよ。

 

ただし、大半のボードゲームは、下にある表の通り複雑すぎるので、全てを知るには時間があまりにもかかりすぎてしまうよ。なので、計算時間を少なくするために、普通は弱解決が試みられることになるよ。

 

さっきの繰り返しになっちゃうけど、普通のプレイは双方が最善を尽くすはずなので、最善を尽くした結果が分かることは、最善ではない不利なプレイを意図的にしない限り、結果が悪くなることがないはずだからね。

 

そして実際のところ、弱解決を証明する研究では、最善ではない手を打つと結果が悪くなることを計算によって求めることから、引き分けで弱解決した場合、ミスが無ければ必ず勝てることと事実上一緒だよ。

 

そして、もし強解決をする場合、弱解決では省略される局面も計算をすることから、結局のところ力技で解くケースが多いので、強解決をすることで弱解決と比べて優れた手法が開発されるわけでもない、って事情もあるよ。

 

なので、「このゲームは解決した」という場合、本来なら完全解決している強解決で使うのが正しいんだけど、実際問題としては弱解決を証明した場合に使われることが多い表現なんだよね。

 

実際、完全に力技である総当たりより、無駄な局面を切り捨てることができる方が、計算時間を減らす意味でプログラム的に優れているものであるから、弱解決はかなり重視されているよ!

 

この章の最後として、いくつかのボードゲームの複雑さを置いておくね。なお、ここでいう「状態空間複雑性」は局面の総数、「ゲーム木複雑性」は棋譜 (ゲーム展開) の総数だと考えてもらえれば大体OKだよ。

 

主なボードゲームの複雑性と解決状況
ゲーム名 状態空間複雑性 ゲーム木複雑性 解決 勝敗
三目並べ 103 105 強解決 引き分け
ナイン・メンズ・モリス 1010 1050 強解決 引き分け
オワリ 1011 1030 強解決 引き分け
コネクト・フォー (7×6) 1012 1021 強解決 先手勝利
チェッカー (イギリス式ドラフツ) 1020 1040 弱解決 引き分け
オセロ (8×8) 1028 1058 弱解決 引き分け
チェス 1044 10123 未解決 不明
ヘックス (11×11) 1056 1098 超弱解決[注3] 先手勝利
将棋 1062 - 1069 10220 未解決 不明
五目並べ & 連珠 (15×15) 10105 1070 未解決[注4] 不明
囲碁 (19×19) 10170 10360 未解決 不明

 

「オセロ」は小さな盤面なら後手有利!じゃあ通常の盤面は?

オセロの解決状況

4×4オセロと6×6オセロは割とすぐに解けるよ。では通常の盤面の8×8オセロは?恐らくは引き分けになるんじゃないかとは思われていたけど、力技ではとても解けないほど情報量が多いよ! (画像引用元番号①)

 

さて、今回の主題のオセロは、解決されていなかった知名度の高いボードゲームの1つだよ。この種の研究では珍しくないけど、まずはもっと小さな盤面 (ボード) での解析を行うことから研究はスタートしていたよ。

 

普通のプレイで使用される盤面は8マス×8マスだけど、4マス×4マスおよび6マス×6マスは、ゲームの複雑性がそこまで大きくないことから、結果はどちらも後手 (白) の勝ち[注5]として比較的早くに強解決したよ。

 

ただ、8マス×8マスのオセロは約1058 (100阿僧祇あそうぎ) ものゲーム展開と、約1028 (1じょう) もの局面が存在することから、はるかに多くの計算が必要で、そう簡単には結果が出なかったよ。

 

どの程度の計算が必要かというと、スゴく大雑把に言えば、仮に1秒間に1億通りの局面を解析できるコンピューターがあったとしても、宇宙の年齢138億年より長い約3兆年もの時間が必要になってしまうくらいだよ!

 

もちろんこんな計算をイチイチやっていたらいつまで経っても解決しないので、ある程度状況を絞って計算を行うしかないね。

 

実際、ある程度石を置く場所が限定される後半の局面から解析を行うと、双方が最善のプレイをした場合には引き分けとなることや、後半の局面に引き分けとなる定石が見つかっていたよ。

 

ということで、4マス×4マスや6マス×6マスとは異なり、8マス×8マスでは引き分けなんじゃないか?という考えは、主にオセロのトッププレイヤーの肌感覚として一部にあったんだよね。

 

とはいえ人間の直感が必ずしも正しいとは限らないというのがこの手の数学の分野の難しさ。本当に引き分けかどうかはこれまで分かっていなかったよ。

 

オセロを弱解決!結果は引き分け!

どのようにオセロを解いた?

今回の研究では、計算量を減らすために様々な段階や工夫をしたよ。それでも最終的には約153京通りという膨大な局面が探索されたよ! (画像引用元番号⑧⑨)

 

そんな中で2023年10月30日、プレプリントサーバーのarXivに "Othello is Solved (オセロは解かれた)" という衝撃的なタイトルの論文を投稿したのが、Preferred Networks社の滝沢拓己氏だよ。

 

このタイトル、恐らくは2007年の "Checkers Is Solved (チェッカーは解かれた)" や2002年の "AWARI IS SOLVED (オワリは解かれた)" のパロディだと思うんだよね。チェッカーは弱解決、オワリは強解決の論文だよ。

 

今回の論文はオセロの弱解決、つまり「双方が最善を尽くした場合の結果」を得た、というものだよ。その結果は「引き分け」。つまり事前の予想通りだったわけだね。

 

じゃあどうやって結果を得たのか?滝沢氏はオセロの分析用プログラムである「Edax」の改造バージョンを、Preferred Networks社が所有するスーパーコンピューター「MN-J」の中で動かすことで解析を行ったよ。

 

ちなみに、Preferred Networks社は業務の20%を自由に研究に使ってよいという「20%ルール」があって、滝沢氏の研究もこれを使ったらしいよ!かなりうらやましいね!

 

さて、解析方法は、この種の研究でよく使用される「αβ法」だよ[注7]。これはスゴく大雑把に言えば、ゲームの展開が同じものになるものを除外することで計算量を減らす手法だね。

 

ただし、αβ法によって計算量を減らしても相変わらず膨大なのは変わらないよ。そこで滝沢氏は、簡単に言うと以下の工夫をすることで計算量を格段に減らしたよ。

 

  1. 計算範囲を、石を置ける空白が「残り60マスから50マスになるまでの10手」と、「残り50マスから36マスになるまでの14手」で分ける (初期配置は8マス×8マスの64マスに4個の石が置かれていることに注意) 。
  2. 「残り60マスから50マスになるまでの10手」と「残り50マスから36マスになるまでの14手」のそれぞれについて計算 (評価) 、「多分最善であろう手」を探す。
  3. 「多分最善であろう手」をより厳密に計算 (評価) し「最善手」であると証明する。

 

このようにしたのは、まずオセロのこれまでの研究で、石が置ける範囲の少ない序盤と終盤は、かなり厳密に手が最善かどうかを評価できているから、という前提があるからなんだよね。

 

より正確に言うなら、終盤は評価が終わっているよ。今回の研究が残り36マス、つまり残り36手で終わっているのは、やらなくても最初から結果が定まっているからだね。

 

そして序盤の10手は、厳密に最善手が評価されているわけじゃないものの、かなりの確度で正しい評価ができると踏める範囲だよ。なので序盤の10手は1つのアルゴリズムで「多分最善であろう手」の評価をしたよ。

 

このようにして、序盤から10手指した結果として現れる全295万8551通りの局面を全部評価して、その中から勝敗の評価基準で2587通りの局面を選定するよ。

 

この評価基準とは、局面における先手後手の勝敗または引き分けの評価だよ。もし勝ちという局面の場合、最善手と評価されたものをただ1つ打ち、引き分けまたは負けという局面の場合は、全ての手を打つというものだよ。

 

このように計算すると、先手後手それぞれに「最善手を打ち続ければ勝ちまたは引き分け」という結果が得られるので、両方を合わせれば「双方最善を尽くせば引き分け」という結果が得られるわけだね!

 

一方で難関なのが中盤の14手。ここがちゃんと評価できていないことが、オセロが未解決のまま残されている理由だったよ。今回の研究でも、中盤の14手の評価に全部で4つの別々のアルゴリズムを使っているんだよ!

 

この4つのアルゴリズムは、「多分最善であろう手」を見つけるための別々の計算方法だよ。多分にとどめているのは、際限なく増える計算量を抑えるための工夫だよ。

 

最初から厳密に「最善手」を見つけるのはあまりに計算量が増えすぎるので、100%の確証はないけどほぼ間違いなく最善手と思われる手を見つける、ということだね。

 

こうして得られた「多分最善であろう手」には、どれくらい最善かを示す評価値が現れるよ。これが重要になるのが、残り1つのアルゴリズムだよ。

 

この1つのアルゴリズムは、先ほど選定された2587通りの50マス空き局面を厳密に評価し、「多分最善であろう手」を「確実な最善手」に改善するものだよ。

 

先ほどまでは、イチから厳密に評価するのは時間がかかるので多分レベルで評価していたわけだけど、今度は厳密な評価なので時間はかかるけど確実な結果を返してくれるよ。

 

そして、厳密ではない計算の「多分最善であろう手」の評価値が、厳密な計算の「最善手」の評価値がピッタリ一致するならば、それは最初の厳密ではない計算手法で厳密な最善手が出せている、ということになるよ。

 

とは言え、残り50マスの2587通りからスタートして残り36マスとなった段階では、厳密に評価する局面は15億0536万7525通りにもなるので、スゴく時間のかかる作業となるよ!

 

この約15億通りの局面について厳密な評価を行うために、最終的に探索された局面は152京6001兆4555億9548万9506通りというとんでもない数だよ!とはいえ、これは全局面の約1028通りと比べればずっと抑えられているね!

 

こうして得られた結論が「オセロは両者最善を尽くした場合には引き分けとなる」という結果だよ。つまりこのプログラムを実装した人工知能に欠陥がない場合、人間は引き分けはできても絶対勝てないことになるよ!

 

オセロは今後もゲームとして成立する!

オセロのこれから

オセロは双方最善を尽くすと引き分けということで弱解決したよ!これは事実上のオセロの解決と言えるし、一方でオセロがボードゲームとして成り立たないとかそういうことを意味してるわけじゃないよ。

 

今回のオセロの弱解決に関する論文の注意点は、まずはプレプリントということだよ。今のところ査読を通った論文じゃないので、この方法が妥当かどうかが第三者検証されていない、という点には注意が必要だよ。

 

また、オセロの弱解決に使用された検証プログラムに欠陥やバグがあったり、コンピューターが計算中にエラーを起こした場合、この結果が正しくない可能性も当然ながらあるよ。

 

今回計算に使用したプログラムはGitHubに公開されており、誰でも検証ができる状態だけど、プログラムの欠陥やバグの探索はともかくとして、計算量はあまりに膨大過ぎるので、追試はかなり時間がかかると思うよ。

 

そして今回は弱解決なので、厳密に言えばオセロが完全に解決したわけじゃないよ。あくまで最善手を評価したものであり、最善じゃない手や、探索されていない局面というのもたくさんあるからね。

 

とはいえ最初に言った通り、本来ゲームというのは最善手を見つけるものであるから、完全に解決とは言えないまでも、実質的な意味ではオセロが解決したと言えるんだよね。

 

じゃあ、もうオセロはボードゲームとして成り立たないのか?確かに、数学の用語では双方最善を尽くすと引き分けになるゲームは「無駄なゲーム (Futile Game)」と呼ばれるので、数学的には成立しないゲームになるね。

 

でも人間の場合には無駄なゲームとは決して言えないよ。仮にあなたが約153京通りの局面全てを読み切れるならゲームとして成り立たないかもしれないけど、もちろんそんな人はいないと思うよ。

 

人間は (今回の場合は幸いにして) 全知全能ではないので、オセロの膨大な局面全てを読み切れないよ。なので数学的には引き分けでも、オセロは相変わらず2人が対戦するボードゲームとして成立するよ。

 

また、これを実装したプログラムに人が勝てないとはいえ、プロの棋士が将棋の人工知能で勉強するように、今回の研究で改善されたオセロの人工知能で勉強をするプロのオセロプレイヤーが登場するかもしれないね。

 

保守的に考えれば、この弱解決の証明以前から、オセロの人工知能の精度はかなり高いので、あまり改善しないかもしれないけど、実装してみなければ最終的なところは分からないよ。

 

つまり今回のオセロの弱解決の結果は、オセロをつまらなくなるするどころか、むしろオセロをより味わい深いゲームにする可能性の方がずっと高いと言えるよ!

注釈

[注1]「オセロ」という名称 ↩︎
「オセロ (Othello)」の名称は株式会社メガハウスの登録商標となっており、類似の商品が他社で販売される場合には「リバーシ (Reversi)」が使用される。ただし、リバーシのルールはオセロより若干幅があるため、両者は厳密にはイコールではない。また今回の研究を含め、ほとんどの言語ででこのゲームの研究論文で使用される語は「オセロ (Othello)」であるため、この解説もオセロで記述する。

[注2]二人零和有限確定完全情報ゲーム ↩︎
2人でプレイし (二人) 、一方の利益がもう一方の損害となって差し引きはゼロとなり (零和) 、有限の長さで終了し (有限) 、サイコロようなランダムな要素が存在せず (確定) 、山札のような伏せられた情報が存在しない (完全情報) なゲームが該当する。3人以上のプレイヤーがいると、最善手が必ずしも相手への損害になるとは限らないため、零和にならない場合があるため、基本的に2人プレイのゲームに限られる。また厳密には、将棋の千日手、チェスのスリーフォールド・レピティション、囲碁の三劫や長生など、勝敗引き分けがルール上定められていなかったり、双方の合意を前提としているために理論上無限に続けられるゲームも存在するが、これは結果を定めることで有限と見なしている。

[注3] ヘックスの超弱解決 ↩︎
通常使用される11マス×11マスを含め、任意のNマス×Nマスのヘックスについて、先手勝利の超弱解決がされている。そして9マス×9マスまでは弱解決しているが、それ以上については弱解決していない。

[注4] 五目並べ&連珠の未解決 ↩︎
禁手のない五目並べや連珠は、コンピューターが現れるはるか以前に先手勝利で弱解決しており、様々な定石も知られている。先手の有利があまりにはっきりしているため、通常プレイされる五目並べや連珠は禁手によってハンディキャップを付けて公平性を保っている。禁手が存在する場合の五目並べや連珠については未解決である。

[注5] 4マス×4マスおよび6マス×6マスはどちらも後手 (白) の勝ち ↩︎
双方最善を尽くした場合、4マス×4マスの場合は黒3個、白11個、空き2個となるが、空きマスは勝者側の石数にカウントされるため、黒3個vs白11個で白の勝ちとなる。6マス×6マスの場合は黒16個vs白20個で白の勝ちとなる。

[注6] αβ法 ↩︎
ゲームの展開を表す棋譜をプレイの前後でつなげると、まるで木の枝のように枝分かれして広がることから、これを「ゲーム木」と呼ぶ。ゲーム木の枝は、時に異なる枝で同じ計算結果が得られる場合があり、その場合には1つの枝の計算をすれば後の枝は計算しなくてもよいことになる。この枝切りを行う手法をαβ法と呼ぶ。ゲームの解析では、想定される最大の損害が最小となるようにプレイする「ミニマックス法」という解析手法があるが、これと比べて計算する量を減らせるうえに、適切な枝切りによるαβ法はミニマックス法と同じ結果を算出することが保証されている。

文献情報

<原著論文>

  • Hiroki Takizawa. "Othello is Solved". arXiv, Artificial Intelligence (cs.AI); 2023. arXiv: 2310.19387v1
  • Hiroki Takizawa. "reversi-scripts". Github.

 

<参考文献>

 

<関連研究>

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. オセロのイラスト: いらすとや

  2. チェスのイラスト: いらすとや

  3. 将棋の駒イラスト: いらすとや

  4. 囲碁のイラスト: いらすとや

  5. マンカラのイラスト: いらすとや (盤面はオワリと同一)

  6. バックギャモンのイラスト: いらすとや

  7. カードを引く人のイラスト: いらすとや

  8. スーパーコンピューターのイラスト: いらすとや

  9. プログラムのキャラクターのイラスト: いらすとや

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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