熱を伴わず光だけで水が蒸発する現象「光分子効果」を発見!

2023.11.10

光分子効果 サムネ

(画像引用元番号①)

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、水が光だけで蒸発する「光分子効果」の発見に関する解説だよ!

 

天日に洗濯物を干せば乾くから当たり前?いやいや。今回の発見で重要なのは、一切の熱の発生を伴わずに水の蒸発が発生すること。これは今まで指摘されていなかった水の蒸発メカニズムだよ!

 

まだ新しい発見なので、正確なメカニズムに未解明な部分もあるけど、光分子効果の発見は海水淡水化をより効率的に行ったり、地球の水循環や気候モデルを変更することにつながるかもしれないよ!

 

水の蒸発はなぜ起こる?

水の蒸発

水を100℃に温めると沸騰して蒸発するけど、それ以下の低温でも水の蒸発は起こるよね?この蒸発メカニズムのカギは、水分子が水分子同士の結合を切るほどに素早く動くことが関係してくるよ。

 

洗濯物が乾く、汗で身体を冷やす、霧が立ち込めるなど、水の蒸発はとても身近に起こっている物理現象だよね?では、水の蒸発ってどういうプロセスで発生するものなのかな?[注1]

 

水を拡大していくと、たくさんの水分子でできているよね。この水分子は1つ1つが動いていて、水分子の動きが激しいほど温度が高く、逆におとなしいと温度が低い、と表現されるよ。

 

この水分子の動きがおとなしい場合、水分子同士は個々に結合しているので、氷や水といった塊の状態で存在するよ。一方で動きが速い場合、水分子同士の結合が切れて隙間が多くなる、つまり水蒸気という気体になるよ。

 

つまり水の蒸発とは「水分子の動きが、水分子同士の結合を切るほど十分に速くなった状態で起こる現象」ということができるよ。そしてその前提となる「動きの速い水分子」というのが結構重要なカギになるよ。

 

ある温度における水分子の動きの速さは、平均を取った場合にはほぼ同じだけど、1つ1つで観ていくと平均よりずっと速いものや遅いものが存在するよ。平均と個々の違いが、水の蒸発を語る上で結構重要だよ。

 

平均的な水分子の動きが、水分子同士の結合を切るほど速い場合、水は沸騰するよ。一方で沸騰が発生する100℃よりずっと低い温度の場合でも、水は蒸発するよね?これは個々の水分子の動きが関与するよ。

 

水は100℃よりずっと低い温度でも、一部の水分子が水分子同士の結合を切るほど速いという場合もあるよ。こういう水分子は水という塊から逃げ出すよ。これが、100℃よりずっと低い温度でも発生する蒸発だよ。

 

どちらの蒸発プロセスも、水分子同士の結合を切るほど速い水分子が関与しているという点で、水分子の速さが重要と言うわけだよね?なので水を蒸発させるには、水分子の動きを速める過程が必要ということになるよね?

 

そして冒頭の通り、温度の高さは水分子の動きの速さと関連している、ということから、水を蒸発させる一番簡単なのは水に熱を与える方法、ということになるよ。

 

水の蒸発は様々な状況で発生しているわけだけど、特に大規模な工業プロセスとして水の蒸発を利用しているのが、蒸気を利用する太陽熱発電や、海水を蒸発させて淡水を取り出す海水淡水化[注2]だよ。

 

与えた熱以上に効率的に水が蒸発する?

最大効率278%の水の蒸発

海水淡水化プラントの改善などを目的として、水の蒸発効率を高める研究はずっと行われているけど、その中で熱で説明できるよりはるかに多くの蒸発が起こる現象が確認されていたよ。最大効率は278%にもなるよ! (画像引用元番号②)

 

実のところ、水は蒸発効率が悪い物質なので、与えた熱エネルギーに対する水の蒸発効率を高める方法を探る研究は現在でも続いているよ。ところが最近の研究結果により、科学者は頭を悩ませる問題に直面したよ。

 

というのは、一部の実験では、水の蒸発効率が熱で説明できる値よりもずっと大きくなり、最大で278%にも達しているんだよね!この現象は物理学的に可能な最大効率を大幅に超えている、という点で悩ましい問題だよ。

 

今回論文を発表したマサチューセッツ工科大学のYaodong Tu氏らの研究チームは、この結果に当初懐疑的だったよ。物理的に説明可能な効率を超えているんだから、この反応は当然とも言えるよ。

 

ところが同様の状況を再現してみると同じような結果が得られたので、これは熱ではない何か別のプロセスが働いているのではないか?ということになるけど、それが何であるのかが分からない状況だったよ。

 

光だけで水が蒸発する「光分子効果」を発見!

光分子効果の実験

今回の研究は、水が光だけで蒸発することを確かめる実験が行われたよ。特に慎重に検討されたのは、熱の発生が起きていない実験条件のセッティングだよ。 (画像引用元番号③④)

 

Tu氏らは、蒸発効率が極端に高い状況は、スポンジのような多孔質な材料に水を含ませている時によく報告されていることに着目し、慎重に条件面を検討した実験を行ったよ。

 

実験では、ポリビニルアルコールのヒドロゲルに染み込ませた状態の水に対し、LED照明で様々な波長の光を照射し、水の蒸発速度を測定したよ。蒸発速度はヒドロゲルの重量の減少を監視することで行われたよ。

 

水は透明なのでほとんど光を吸収しないとはいえ、わずかに吸収され熱を発生させるよ。また光源や周りの実験装置も光を吸収して熱を発生させる可能性があるので、熱遮蔽と温度の監視は慎重に行われたよ。

 

なので、実験装置の周りに反射材を置いたり、LED照明を水冷したり、遠隔で温度上昇を監視したりなど、様々な方向で熱の発生がないことを検討したよ!

 

photomolecular effect

緑色の光を当てた時に水が蒸発する様子を捉えたGIFアニメーション。画像下側のヒドロゲルから水蒸気が上がり、上に設置されたガラスに結露しているよ!この条件下で熱は一切発生していなかったよ! (画像引用元番号①)

 

その結果、全く熱が発生しない状況であっても、光を照射した時に水が急激に蒸発することが確かめられたよ!水もヒドロゲルもほぼ光を吸収せず、熱も発生していないことを確かめているので、これは興味深いね!

 

しかも、光による水の蒸発は、時に熱による水の蒸発よりも効率が良いことが明らかになったよ!その効率は波長によって変わり、520nmの緑色の光で最大の蒸発速度を記録したよ!

 

そして電熱による加熱実験も行った結果、「光による水の蒸発」と「熱による水の蒸発」のどちらか単独では熱で説明可能な蒸発効率に収まったものの、両方を同時にやると蒸発効率が100%を超えることも明らかにしたよ!

 

これらの実験結果は、水は熱を与えられなくても、「水は光が当たるだけで蒸発が起こっているらしい」ということを明らかにしたんだよ!

 

Tu氏らはこの研究結果が、物質に光を当てると電子が飛び出す「光電効果」[注3]にそっくりなことから、光で水が蒸発する現象を「光分子効果 (Photomolecular Effect)」と名付けたよ!

 

淡水化プラントの設計や気候モデルの変更も?

光分子効果のメカニズムの予想

提案された光分子効果のメカニズム。光の粒 (光子) が水に衝突すると、数個の水分子で構成された塊が飛び出すことで蒸発が起こると考えられるよ。これが光電効果とそっくりなことが光分子効果の名称の由来だね。

 

光分子効果は全く予想外の発見で、水というよく知られた物質にもまだまだ謎が多く残されていることを示す発見だね!今のところ、なぜ光分子効果が発生しているのかは不明で、推測の域を出ないよ。

 

Tu氏らは、光の粒 (光子) が水分子の小さな塊を水の表面から叩き出すことで蒸発が起こっていると解釈しているよ。これが光子が電子を叩き出す光電効果と似ているから光分子効果という名前を付けたわけだね。

 

水分子の正確な挙動を捉えるのは中々難しいので、光分子効果を理論面から解明するのはかなり難しいとは思うけど、ヒントは転がっているよ。それは水を含んだヒドロゲルの光に対する挙動だよ。

 

水もヒドロゲルも光をほとんど吸収しない透明な物質なのに、今回の実験では水を含んだヒドロゲルはずっと多くの光を吸収したんだよね。ヒドロゲルと水との何らかの相互作用が光分子効果を発生させた可能性があるよ。

 

透明な物質でも効率的な蒸発が起こるということは、熱を発生させるために光を吸収する色付きの物質を含ませる必要がないという点で、太陽熱発電や海水淡水化のプラントの設計を変更することに繋がるかもしれないよ。

 

Tu氏らは、現時点で1.5kg/m2が限界である太陽熱による海水淡水化プラントの効率を、光分子効果によって3~4倍も上げられると考えているよ。これは淡水を大幅に安くすることに繋がるので、革命的であると言えるね!

 

光分子効果の応用

今回の光分子効果の発見により、透明なヒドロゲルを使うだけでも海水淡水化プラントの効率が大幅に上がるかもしれないよ!また、ヒドロゲルに含まれていない状態の水でも光分子効果による蒸発が起こっている場合、地球規模の環境モデルや水循環を考える上で影響が無視できないかもしれないよ!

 

そしてTu氏らは、光分子効果はヒドロゲルに含まれた水に限定的に発生するものではなく、他の状態の水でも発生すると考えているよ。そうなってくると、この発見はもっと大きな話に繋がるよ。

 

表面の7割を海で覆われている地球という惑星は、水の蒸発による地球規模の水循環が地球環境全体を大きく変化させているよね?なので水の物理的特性を詳しく知ることは、地球環境を語る上で欠かせないものになるよ。

 

もし、光分子効果がヒドロゲルに吸収された水でなくても発生するなら、これまで熱だけで考えられてきた自然界での水の蒸発と、それに基づく気候モデルがガラリと変わるので、これは重要な指摘だね!

 

今回は光分子効果の正確なメカニズムは解明されていないので、そもそも光分子効果が本当に存在する現象なのか、仮に実在する現象でも、普通の状態の水で光分子効果が起こるのか、というところはまだ分からないよ。

 

なので、光分子効果の研究はこれからも続けないといけないね。光分子効果がどの程度作用するのかの結果次第では、水の蒸発という日常的な物理現象の説明がガラっと変わってしまうかもしれないよ!

注釈

[注1] 水の蒸発のメカニズム ↩︎
今回の説明では、簡単のために蒸気圧の説明を省いていることに注意。

[注2] 海水淡水化 ↩︎
海水から水のみを取り出す淡水化プラントでは、海水を蒸留する「多段フラッシュ法」が、逆浸透膜を通して塩分を取り除く「逆浸透法」と並んでよく採用されている。石油精製時に発生するガスを燃料としたり、発電所の復水に含まれる熱を利用する方法が一般的であるものの、熱効率の悪さや環境問題の関連から、近年では太陽熱を熱源とする蒸留プラントが検討されている。

[注3] 光電効果 ↩︎
物質に光を当てると電子が飛び出す現象。結果として電流が流れる場合もある。身近な用途としてはCCDセンサーや太陽電池がある。

文献情報

<原著論文>

  • Yaodong Tu, et al. "Plausible photomolecular effect leading to water evaporation exceeding the thermal limit". Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (45) e2312751120. DOI: 10.1073/pnas.2312751120; arXiv: 2201.10385v1

 

<参考文献>

 

<関連研究>

  • Xinghang Liu, et al. "Evaporation rate far beyond the input solar energy limit enabled by introducing convective flow". Chemical Engineering Journal, 2022; 429, 132335. DOI: 10.1016/j.cej.2021.132335

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. 緑色の光の照射時における光分子効果による蒸発: プレスリリースより (Image Credit: Courtesy of the researchers)

  2. 最大効率278%での水の蒸発: 関連研究よりキャプチャー (X. Liu, et al., Chemical Engineering Journal, 2022; 429,  132335)
  3. 光分子効果の実験のセッティング状況の図説と写真: 原著論文のプレプリントFig. S8.より (arXiv)
  4. 水を含んだポリビニルアルコールのヒドロゲル: 原著論文のプレプリントFig. S2.より画像Bをトリミング (arXiv)

 

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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