小惑星のサンプル、持って帰ってきてからどうやって分析してるの?何が分かるの?

2023.11.09

「分析」をテーマに執筆している阿部武(あべたけし)です。前回の執筆が2023年3月だったので、ここに書くのは久しぶりです。僕は東京都中心部から少し離れた所に住み、夜空の星がきれいに見えるなと思いながら日々過ごしております。

 

僕の通勤時の楽しみはPodcastを聞くことです。僕がよく聞いていたのは「ゆる天文学ラジオ」という、天文学について語る2人組の番組だったのですが、最近起きたプチ事件はそのコンビが別れてしまい、ラジオが最終回を迎えたことでした。そんな天文学ラジオの最後の企画でもやっていたのが、今回紹介するはやぶさプロジェクトです。

 

この「はやぶさ」、日本では目的地小惑星リュウグウからサンプルを持ち帰ってきたことのみがニュースになり、分析結果や手法が全くニュースになっていないのです。分析屋さんの僕としては、これが残念でなりません。

 

今回は、はやぶさ2プロジェクトの結果と、同じようなプロジェクトで最近地球にサンプルを落としたOSIRIS-Rex(オサイリス-レックス)の現状の結果の二つをお伝えしていければと思います。

 

どうして、そこまでお金をかけるのか?

いきなりお金の話をしますが、はやぶさ2では289億円、OSIRIS-Rexでは1.16 Billion(約1700億円)の多額の予算をかけてプロジェクトが行われています。なぜこのような多額の予算をかけて行うのか、一番の理由は生命の起源や太陽系誕生の秘話が明らかになると期待されているからです。

 

現在地球に水が豊富にある理由のひとつに、隕石が大量に地球に落ちて、その中にあった水が地球にもたらされた、という説があります。更に、宇宙は真空状態で、大気を持てない小惑星には古来の姿が残っていると考えられています。

 

この2つの理由から、小惑星の土を調べることで太古の地球や太陽系で何が起きたか調べることができる、と考えられています。その重要な手がかりを得るためのプロジェクト、と聞くと多額の予算がかけられているのにも納得がいきますよね。

 

研究成果と、使われた分析手法

では、実際の研究成果のいくつかを見ていきましょう。

赤外分光法

サンプルをケースから取り出して最初に行う分析が赤外分光による測定です。赤外分光は名前の通り赤外線を利用する分析法です。

この方法は分子内の原子がバネにくっついているかのような動きを観測して分子の特徴(官能基)を見つける分析手法で、この方法の最大の特徴は、X線や電子線に比べてエネルギーが小さく、サンプルを傷つけにくいという点です。

 

FT-IR(イメージ)

 

はやぶさ2プロジェクトでは赤外分光法の中でも最も一般的なFT-IRという手法に加えて、フランスの研究機関IASが開発したMicrOmega(マイクロオメガ)が用いられています。

MicrOmegaの最大の特徴は、「どれだけ小さいものを分析できるか」という指標の"空間分解能数”が10μmオーダーという、赤外分光では限界に近い性能を有することです。

 

2つの分析装置を使ったのは、MicrOmegaの波長範囲はFT-IRより短いため、このプロジェクトにおいては「全体の情報」を集めるならFT-IR、「ピンポイント」で知りたいならマイクロオメガ、という使い分けがされていたからです。

 

これら2種類の分析手法を利用したことで、サンプル全体にわたって水の痕跡が確認できました。

また、同じ「リュウグウ」のなかでも、粒子径(バルクサイズ)が大きいと鉄イオンがCaイオンやMgイオンに置換されている結果が出ており、鉱物の生成過程の違いが見られることがわかったそうです。鉱物の粒子径が決まる過程と化学反応に、温度変化や太陽風等が与える影響が示唆されるデータであったことから注目されています。

 

これら2種類の機器から得られたデータはインターネット上で公開されているので興味がある方はぜひご覧になってください。(Ryugu Sample Database System)。

 

高速液体クロマトグラフィー/エレクトロスプレーイオン化法

また、別の手法で分析した結果では、はやぶさ2のサンプルから生命に必要な核酸塩基のウラシルとビタミンB3(ナイアシン)が検出されました。僕たち生命の起源が宇宙から降り注いできたと考えるとロマンがとてもありますね。

 

ウラシルを検出した手法は、クロマトグラフィーと質量分析法を組み合わせた高速液体クロマトグラフィー/エレクトロスプレーイオン化法(HPLC/ESI)という手法が用いられています。・・・長い名称ですね。

 

HPLC(イメージ)

 

この手法はさまざまな化合物が混じったサンプルをHPLCで分離し、分離した成分を質量分析でさらに分離し分析するという手法です。この分析法は化学の世界ではポピュラーで応用先もさまざまです。

 

ちなみに参考までに「質量分析」とはどういった手法であるかは、下記の記事でも詳しく書いています。

“ピロリ菌”と”エイリアン”は同じである!?そもそもどうやって見つけるの?

 

後半に用いられている、エレクトロスプレーイオン化法(ESI)は2002年にノーベル賞を受賞した手法です。ちなみに、この年には田中耕一先生もマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法の開発でノーベル賞を受賞しました。

これらの手法が出来るまで、生体試料のような「大きな分子」を調べようとすると、サンプルが壊れたりデータが複雑化しすぎて読み取れない等の問題が発生していました。ESI,MALDIともに、巨大分子を壊さずに調べることができるという点で非常に画期的で、まさに「ノーベル賞もの」の開発だったというわけですね。

 

特にESIは分析がMALDIよりも比較的容易で、液体クロマトグラフィーに接続できて応用性も高いという特徴があり、それもあって、今回のはやぶさプロジェクトにも用いられました。

 

NASAのプロジェクト「OSIRIS-Rex」

では、現在のOSIRIS-Rexの状況を紹介していきます。OSIRIX-Rexは小惑星ベンヌのサンプルを2023年9月24日に地球に落としました。

このサンプルは速やかに回収され、化学的に安定でサンプルを変化させない「窒素」で満たされたグローボックスに搬入されました。

ここで、サンプルが入っている箱の1つ目の蓋が外され、そこからサンプルがあふれてきました。あふれただけでもはやぶさ2の時を上回る70 g以上のサンプルがあり、この量でも十分、さまざまな分析手法が扱えそうです。

あふれたサンプルは詳細に分析され、小惑星ベンヌには過去に水があった痕跡が見つかりました。この痕跡は、走査型電子顕微鏡(SEM)やX線回折分光法(XRD)から、水がないと形成されない鉱物が発見されたことに由来します。

SEMと聞いて「なんだっけ・・?」と思った方は、下記の記事でも紹介しているのでご覧ください。

光学顕微鏡、SEM・・「とっても小さいもの」を見る色々な技術たち

この発見だけでもとても驚きですが、このプロジェクトでは最大2kgのサンプルを回収する予定であるため、もっと驚くような成果が期待できます。

 

ところで、今回NASAのプロジェクトOSIRIS-RexのサンプルはJAXAに0.5%譲渡されることが約束されています。

JAXAでは、はやぶさ2で行なわれたのと同じFT-IRとMicrOmegaの2手法で分析を行います。JAXAには現在もリュウグウのサンプルが保管されており、OSIRIS-Rexと比較分析されることで、より詳細な検討がされることが期待されています。

 

・・・ですが、この記事を執筆している11月現在、サンプルを入れている容器の蓋が開けられないらしく、このプロジェクトの分析が進み、日本にもサンプルがやってくるのはしばらく先になりそうです。

 

さらにさらに、「はやぶさ2」プロジェクトも完全には終わっておらず、現在ようやくすべてのサンプルが回収された状態でありFT-IR、マイクロオメガでの分析は全サンプルに対してはまだ終わっていません。今後まだまだ新しい発見が待っているかもしれないという意味であり、ワクワクしてきますね!

 

今現在、はやぶさ2とOSIRIS-Rexの2つの人工衛星はまた別の小惑星に向けて移動しています。この小惑星のサンプルの分析結果やリュウグウ、ベンヌの分析結果が今後発表されたらまた皆さんにお知らせしたいです。

 

是非皆さんも、サンプルを地球に渡したあとの科学者の努力に注目してください!!

参考文献

小惑星はやぶさ2 予算情報

Cost of OSIRIS-REx | The Planetary Society

はやぶさ2特設サイト | ファン!ファン! JAXA!

OSIRIS-REx Mission – Origins, Spectral Interpretation, Resource Identification, Security-Regolith Explorer |NASA

Uracil in the carbonaceous asteroid (162173) Ryugu | Nature Communications

【著者紹介】阿部武(あべたけし)

横浜国立大学化学生命系学科卒業。
学生時代には分析化学を専攻し、現在は分析機器関連のメーカーに勤務中。
学生時代の専攻と現職の影響から分析化学に関する記事の執筆を開始。実験結果が科学的に妥当と保証する分析化学の知識を、身近な話題とともに楽しく分かりやすく紹介できるように鋭意努力中。