細胞内の結核菌は集まって紐を形成して核を締め上げる(10月20日 Cell オンライン掲載論文)

2023.11.08

私が卒業した頃は、まだ結核患者さんは珍しくなく、様々なタイプの結核を経験することが出来た。肉芽腫から空洞形成までに至る様々な病理形態は、今でも面白い研究対象だと思っている。この特異的な病態に関わる重要因子として古くから研究されているのが、コードファクターで、学生時代、夏休み研修に行った刀根山病院で指導していただいた加藤允彦先生が研究テーマにされていて、これによって結核菌が細胞内で紐状のコロニーを形成することを習った覚えがある。

 

本日紹介する論文

今日紹介するハイデルベルグ大学からの論文は、まさにこの紐状のコロニーが結核感染病態を決めていることを示した研究で、50年前を思い出しながらわくわくしながら読んだ。

 

タイトルは「Mechanopathology of biofilm-like Mycobacterium tuberculosis cords(結核菌のバイオフィルム様のコードによるメカノ病理学)」で、10月20日 Cell にオンライン掲載された。

 

解説と見解

この研究では Human lung on chip と呼ばれる肺細胞のマイクロ培養に結核菌を感染させ、詳しく形態を調べることで、細胞内に形成される紐状の集団と、それに対する細胞の反応を調べ、そこで出てきた可能性を、一般的な培養やマウスへの感染実験を用いて調べ、紐状の集団が出来るメカニズム、その細胞機能、感染拡大の役割を明らかにしている。

 

結核菌を感染させて観察すると、核を取り巻くように結核菌が紐状の集団を形成する。これについては実際の写真を見てもらうしかないと思う。この時、Cord factor の構成分子を欠損した菌株を用いると、細胞内で菌の増殖は続くが紐状の集団は出来ない。

 

そこで、この紐状集団の細胞学的効果を、紐状集団が出来ない菌と比べて調べていくと、核の周りに紐状集団が集まると、機械的に核を締め上げることで、転写プログラムの変化が起こり、ヒストンアセチル化の低下を通して、細胞の活性、特に自然免疫に関わる活性が低下する。

 

その結果、結核菌体成分で炎症が起こっても、白血球は肺胞腔に侵出して、感染細胞の周りに集まらないため、結核菌が周りの細胞への感染が拡がりやすい。 この紐状の構造は、細胞膜に発現した脂質で出来た Cord-factor が特定のエネルギー蓄積構造を持っていることで発生し、これが機械刺激を細胞内で発生させる。

 

結核菌からの様々な分子は当然自然免疫を誘導するが、それがメカニカルに一定期間低下することで、結核菌特有の病理造形性につながっている。

 

まとめ

主な結果は以上で、結核菌は機械的に核を締め上げて、免疫反応を遅らせることで、自分に最適の感染モードを作り上げているという話だ。Cord Factor は Bloch により1950年に発見されたが、75年たってついにその機能の詳細が明らかになった。

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著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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