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シャープ株式会社はバイオミメティクス(ネイチャーテクノロジー)を用いた開発を組織的に行う、日本では稀有な企業である。この記事では、ネイチャーテクノロジーの展示があるショールームを見学した感想と、つい先日開催された『CEATEC2023』でのシャープによるブース展示を紹介したい。
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出典:シャープ株式会社HP
シャープ株式会社は、100年以上の歴史がある電気機器メーカーであり、家電からパソコン、マスクまで幅広く手がけている。企業公式X(旧Twitter)の呟きが秀逸でおもしろいことでも有名である。おもしろすぎて書籍化までしている。(参考:『シャープさんのSNS漫画時評 スマホ片手に、しんどい夜に。』)
「目の付けどころがシャープでしょ。」という2010年まで使われていたキャッチフレーズが記憶に残っている人も多いのではないだろうか。シャープすぎると時折感じるほど、オンリーワンな製品開発を行っている印象がある。
そのような唯一無二の存在であるシャープは、『ネイチャーテクノロジー』として商標登録するほどバイオミメティクスを用いた製品開発をかなり積極的に行っている。
開発の歴史もバイオミメティクスにしては長く、2008年に発売されたエアコンの室外機に鳥の翼形状を参考にした技術を搭載したことに始まり、2023年で15周年になる。
私はバイオミメティクスの研究者として、その長期的に取り組む点に注目している。というのも、バイオミメティクスを用いて開発された製品は偶然による発見が多く、一度の問題解決、その商品のみ、という企業がほとんどだからである。
シャープも最初のきっかけは偶然だったようだが、それで終わらず、冷蔵庫にホタテ、掃除機にネコ、洗濯機にマンタなど、多くのバイオミメティクス製品を世に出してきた。そこには、オンリーワンの精神や、誰もやっていない技術への好奇心が感じられ、個人的にとても好きなのである。どうやったらそんなに生物の能力を見つけることができるのかと、只々感心するばかりである。
そして、実は私がバイオミメティクスを知ったきっかけは、シャープの技術者がテレビ番組でバイオミメティクスを紹介していたものである。あれから約7年、バイオミメティクス研究者としてこんな記事を書けるようになっていることに感動している。
ネイチャーテクノロジー紹介展示@八尾事業所AIoTショールーム ※掲載許可取得済み
10月初旬に、大阪八尾にあるショールームのネイチャーテクノロジー展示を見学させていただいた。きっかけは9月に実施した京都大学サマーデザインスクール2023のバイオミメティクスワークショップ(詳細は前回記事)である。
その際にバイオミメティクス製品のサンプルを貸していただき、シャープの技術者と知り合えたことで見学させていただくことができた。更に、ネイチャーテクノロジー開発担当の方ともお話しすることができた。
京都大学サマーデザインスクールにシャープが参加すると知ったときから、ショールーム見学と話を聞くことを目論んでいたのは、ここだけの秘密である。
ショールームはかなりオシャレな雰囲気で、生物の絵が両脇にありどこか博物館のようであった。各製品のバイオミメティクスが活用されたパーツとともに、開発の経緯などの紹介文が記されていた。
HPには載っていない『イカのヒレ形状を応用 靴用洗濯乾燥機ブラシ』(2022)も展示してあり、新しい学びがあった。
開発担当チームとのお話では、企業でネイチャーテクノロジーに取り組む面白さや開発の苦労などの話をたくさんお聞きすることができ、僕自身のメソドロジー(手法論)研究にもとても参考になった。
長期間実際に取り組んできたノウハウとして、役割分担等で周りの製品開発チームとの協力体制が上手く構築されていると強く感じた。そのあたりはアカデミックではなかなか難しいところなので、とても羨ましい。
一般非公開のショールームだが、今後のイベント等でぜひ学生等に紹介できれば、と考えている。
ブースのセンターを飾るネイチャーテクノロジー展示
『CEATEC2023』は10/17-20に幕張メッセで開催された、幅広い産業の技術展示会である。シャープブースでは、これまでのネイチャーテクノロジー搭載製品に加えて、フクロウを参考にしたヒーリングファン『はねやすめ』を新しく発表・展示していた。「風を送るフクロウ」がイベント初日ですでにネットニュースになっていたので、とても気になっていた製品である。
フクロウのはばたきをお手本にしたヒーリングファン『はねやすめ』
可愛らしいデザインで、本当に風が生まれているのか疑問に感じるほどゆったり動いているように見えたが、正面に立つと柔らかい風をしっかり感じた。風をほぼ一定に送る扇風機とは受ける印象が確かに異なり、自然に近い、落ち着くような風であった。今までの扇風機が当たり前だったので、風の流れだけでここまで気持ちが変わるのが正直驚きである。
ニュースリリースや技術者の話によると『はねやすめ』は、「新たに生物の“動き”にも着目した運動模倣技術「ネイチャープロダクト」として初の製品」とのことなので、今後も面白い製品がでてくるのか、とても楽しみである。
YouTubeでも紹介動画が公開されているので、興味がある方はぜひ見てほしい。
今回はネイチャーテクノロジー(バイオミメティクス)を先導する企業、シャープ株式会社を取り上げた。製品に必要な仕組みを生物から探すのはとても難しく、周囲に理解を求めても先入観に邪魔されがちである。モノづくり企業でバイオミメティクス開発を行うには、まだまだ大きな障壁があるだろう。
そのような分野特有の事情があっても、15年もネイチャーテクノロジー開発を継続してきたことには驚きである。
フクロウの新製品がネットニュースになっていたり、そのブースに多くの人が集まって興味津々に技術者から話を聞いていたりするのを見ると、シャープのネイチャーテクノロジーの今後への注目度の高さが伺える。これからもバイオミメティクスを搭載した製品がでてくることに期待である。(シャープ株式会社様、これからも応援しております。)