人間ができるなら機械にも。カメラ1つで自律移動するアルゴリズム。

2023.11.28

※本記事にてご紹介するシーズ情報は、下記「大学・企業公開技術シーズ」にも掲載されているものです。技術詳細を知りたい方は、こちらも合わせてご覧ください。

移動体が移動可能な領域を判定することができる技術

もりふじです。この記事を読むと、なぜか古い剣術の流派について学べます。いったいアルゴリズムとなんの関係が?ぜひ読み進めてください。

カメラひとつで自律移動

まずはこちらの動画を見てほしい。

これは目的地に向かって自律移動するロボットだ。用いているセンサーは、なんとカメラ1台だけ。これがどれだけすごいことなのかピンとこない読者のために、自動運転を支える数々のセンサーをまずは紹介する。

 

まずは外界をとらえるカメラ。カメラを使うこと自体は予想通りだろうが、実は自動運転技術ではステレオカメラといって2台のカメラが使われることも多い。これによって距離の計算がしやすくなるのだ。

そして3D-LiDAR(スリーディーライダー、と読む)。これも周囲の物体との距離を測定するためのセンサーだ。

ほかにもミリ波レーダー、超音波センサーもそれぞれ別な方法で周囲との距離を測定するためのセンサーである。他にも位置情報を取得するためのGPSセンサーや、動きを測定するための加速度センサーやジャイロセンサーも用いられている。

 

このようにセンサーがたくさんあれば外界をより正確に認識できるため、安全性を高める自動運転などには必要なテクノロジーである。しかしその一方、より簡易な自律移動にもこれだけのセンサーが必要となると、高価すぎて普及が難しくなるだろう。

そう考えると、先程の動画のようにカメラ1台だけで自律移動ができるのは、応用範囲が広がる優れた技術だとわかる。ここに使われている技術とは、限られた情報をフル活用して外界を認識するための情報処理の技術である。

これを開発したのは明治大学理工学部准教授の宮本龍介先生だ。いったいどのような処理で外界を認識しているのだろうか。


人間と同じ方法で外界を認識

宮本先生はこの情報処理について「人間と同じアルゴリズム」だという。つまり「道を認識して、それに沿って進む。経路を変更すべき点についたら向きを変える」という至ってシンプルなものだ。

この、人間が歩くためのアルゴリズムと同様の処理をロボットの自律移動にも適用してみよう発想からこの技術は生まれた。

 

具体的にはまず、カメラから得られた二次元の画像から、深層学習を用いて走行可能な領域を抽出する。

ここで用いられる処理は「領域分割」といい、入力画像を意味の単位で分割するものだ。例えば下図であれば、地面、建物、空、のように分割されている。

 

あとは、走行可能な領域に向かって移動し、またカメラから新しい画像を得て、同じ処理を繰り返せばよい。障害物があっても領域分割によって検出できるため、回避した走行ができる。

例えば下図では立て看板を障害物として検出できていることがわかるだろう。このように、人間と同じアルゴリズムを再現することで、単眼カメラのみで自律走行ができてしまうのだ!

深層学習で外界をいくつかの領域に分割した実際の処理画像。また、障害物の回避が分かりやすい動画(屋内)はこちら

 

単眼カメラから距離を推定

先ほどの例では、人間と同じアルゴリズムということで、距離の情報を使わずに自律走行する方法だった。しかし、より正確な自律走行のためには、やはり距離情報が得られていた方が望ましい。

幸い、単眼カメラのみでも、地面とのなす角が分かっていれば、大雑把な距離の情報は求めることができる。

さらに先ほどの領域分割の結果を用いることで、それぞれの領域の境界までの距離、特に走行可能な領域の外縁部分までの距離を推定することができる。この技術が本リンクの特許となっている。

 

Virtual LiDAR信号でさらに安定した走行を可能に

ではここで、先ほどの特許技術で得られた情報を用いてどのように走行を安定させるかをみていこう。

まず、得られた走行可能な領域の外縁部分までの距離情報を用いて、図のようなグラフを生成する。これを「Virtual LiDAR信号」といい、これは横軸に方位、縦軸に走行可能な領域の外縁までの距離を取ったものだ。

LiDARセンサーによる距離情報の信号のようなものなので、このように呼ばれている。

Virtual LiDAR は端的にいうと、「道の形をどう見ているか」を示すグラフと考えればよい。まっすぐな道に対してカメラの位置が中心にあって並行であればこのグラフの形状になり、左右がずれていたり斜めの位置になっていればこのグラフの形状になる、といったことがすでに分かっている。

これらの情報と、実際に得られたグラフの形状を比較することで、道に対して今どのような位置と角度になっているかの情報をより正確に推定できる。さらに障害物があれば、グラフの形状は、理想的な道のグラフと一部だけが変化するため、どの位置に障害物があるのかも推定できる。

 

この技術により、自律移動の実現に有益な情報であるロボットの向きと位置を推定することができるのだ。この技術もこちらのリンクで示すように、また別の特許となっている。

実はこの特許で処理するデータは、Virtual LiDAR によって生成された信号に限定していない。
つまり、一般的な3D-LiDAR を用いた信号に対してもこの技術は適用でき、特許の権利範囲となっている。

宮本先生らは、単眼カメラのみを用いた自律移動の実現を第1の目標としているが、3D-LiDAR と組み合わせることにより早期に高機能な自律移動手法を実現することにも関与できればと考えているという。

Virtual LiDARの出力する、障害物のある距離と角度の情報。青い線は、カメラの視野全体を表す。緑の点は、カメラから得られた画像を処理して得られた、地面とそれ以外の境界である。赤い線が、理想的な「道路」を表す。緑の点がこの理想の道路にフィットしていれば「道路」が実際にあると認識できる。

 

本質へまっすぐ向かう先生のルーツは「一刀流」

人間はコウモリのようにレーダーを使わないで、視覚だけで歩いている。しかも片目でも歩ける。だからカメラ1台でも、脳のように視覚情報を処理すれば、自律移動は可能なのだ。ー宮本先生

言われてみれば確かにそうだ。実にシンプルで本質にまっすぐ向かうアプローチのように感じる。この方法を考案した宮本先生は、なぜこうも本質にまっすぐ向かえたのか。そのルーツは剣術の流派のひとつ「一刀流」にあったのかもしれない。

 

宮本先生は剣術の家系に生まれた。父方の曾祖父は昭和の天覧試合に出場したこともある。母方の祖父は武道専門学校の出身で、祖父宅は長い間その剣道同窓会事務所であり、晩年は京都府剣道連盟の理事長を務めるほどであった。

父も剣術の達人。そして家に伝わる剣術はいわゆる現代剣道ではなく、一刀正傳無刀流いっとうしょうでんむとうりゅうという、一刀流の流れを汲む古流剣術であった。

この流派の理念は一言でいうと「合理的アプローチ」そのものだ。たとえば現代剣道では「捨て身」であったり「心を鍛える」であったりと精神面が強調されるが、一刀流では斬られることのリスク(怪我を負い、もう戦えなくなる)を考え、まず負けないことを目指す。

実際この考え方は現代剣道を前にしても有効であり、宮本先生は会社員時代には実業団の剣道大会でも成績を残しており、明治大学着任後も国体予選3位入賞の実績がある。このような素養が、先生のまっすぐな性格や、今回紹介した本質的な研究アプローチにつながったのかもしれない。

 

実は先生はこの一刀流についても深く研究しており、現代では断片的な情報しか残されていないものを集め、体系の復元に取り組んだ。祖父宅にある伝書の写しや書籍などを読み、また地方を飛び回って伝書を収集し、それらをつなぎ合わせた。

この過程は、自然言語を用いた情報伝達において生じた齟齬や誤解を、理念・理合というある種のコードブックとでも言えるものに基づき「エラー訂正」をする作業であり、情報科学的観点からも興味深いと先生は語っていた。

一刀流・参考動画

 

本質に向かえない苦悩からアカデミアへ

宮本先生は修士課程卒業後、社会人としてコンピュータの会社に勤務していた。

00年代初頭。半導体不況のあおりを受けて、勤務先では一時帰休等が行われるほどだった。若い世代に仕事が与えられず、部署異動もできない。

本質に向かいたいという思いと、ただ与えられた仕事を歯車として行うという現状に耐えかね、2年後に社会人生活に見切りをつけて強い決意とともに退社し博士課程に進学、研究の道を歩みだした。

そのときに背中を押してくれたのは、大学の先輩でもあった上司である。「自分も同じ思いだったが、そのままズルズル勤めてしまっていた。お前は大学に戻れるなら戻れ」。

宮本先生は今もこの言葉を胸に研究の世界で日々邁進している。

 

学術を通して社会に貢献する

それから時は経ち、宮本先生は自身の研究室を持つに至る。率いる画像応用システム研究室は、今年で10年になる。ここでは画像処理をテーマにして様々な領域の研究に取り組んでいる。ロボットの自律移動のほかにも、「歩容」つまり歩き方で個人を特定したりスポーツのパフォーマンス向上に活かす研究、またGAN(敵対的生成ネットワーク)を用いた異常検知(PCT/JP2022/004650, 特願2021-060383)や、3D CG を用いた画像分類器の訓練(PCT/JP2022/044134,特願2021-210042)を行ったりと、いずれも社会に応用できそうなものばかりだ。

学生も研究室のなかで育ち、自律的に動けるようになるのだという。大手ゲーム会社に何人も就職が決まったりと、優秀な人材を輩出している。会社員こそ辞めたが、自身の学術活動を通して、より社会にインパクトを与えることができているといえよう。

 

自律移動のための上記2つの特許技術もまた、社会への応用が待たれる。ご興味のある企業はぜひご連絡いただければ幸いである。

興味ある企業を募集!

本記事にてご紹介いたしましたシーズ情報は「大学・企業公開技術シーズ」にも掲載されております。

移動体が移動可能な領域を判定することができる技術

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【著者紹介】もりふじ

サイエンスコミュニケーター。学問を面白く発信するラジオパーソナリティのオーディション企画「ゆる学徒ハウス」の最終選考に出場し、発信の面白さに気づく。その後はYouTubeチャンネル「疫学トーク」を立ち上げ、一般に向けてヘルスリテラシーを高めるためのデータの見方、考え方を発信している。

もりふじがアカデミア発の技術シーズを分かりやすく紹介する連載です。技術シーズは社会を変革する力を秘めているスマートでカッコいい側面もあるし、失敗や試行錯誤のエピソードを積み重ねた人間臭い側面もあります。

その両方を楽しんでもらえればと思っています。