ハロウィンを彩るこわ〜いアイツ……。巨大カボチャの秘密に迫る!

2023.10.31

 毎年10月31日はハロウィンだ。葉月が子供の頃は遠い異国の風習だったが、今やすっかり仮装イベントとして定着した。そもそもの起源は、死者の国から帰ってきた親類縁者の霊達と楽しく食事をしようと言うイベントらしい。つまりは……お盆か? 仮装は一緒にやってきた悪魔や悪霊から身を隠すための方法なんだとか。ナルホドナ〜。

 仮装に並んでハロウィンに欠かせないものといえば、ジャック・オー・ランターンだ。カボチャをくり抜いて作られた、怖い顔のランタンはハロウィンの定番だろう。中には数百 kgを超す巨大カボチャのランタンもあり、迫力満点だ。しかしながら、一つ気になることがある。なぜカボチャは巨大化するのだろう? スイカですらせいぜい一抱えなのに、カボチャは巨大なものでは1 t超にもなる。そこで今回は、カボチャがどのように巨大化するのかについて解説していく。

 なお本来のジャック・オー・ランターンはカボチャではなくカブらしいのだが、ツッコンではいけない。

 

 

少し詳しく 〜巨大カボチャの育て方

 そもそも一般的なカボチャはどのように育てるのだろう?

 農林水産省のホームページによると、カボチャは4月頃に種を撒き、5月〜7月頃に成長させ、8月か9月頃に収穫する。およそ4ヶ月〜5ヶ月かかるわけだ[注1]

 それでは巨大カボチャの場合はどうだろう? 約1 kgを育てるのに4ヶ月かかるのだから、1 tを超える巨大カボチャなら年単位でかかるのではないか、と思ってしまいそうだが実は生育期間は一般的なカボチャと変わらない。つまり、カボチャの巨大化はカボチャそのものの特性というより、品種に依存するところが大きいのだ。

 それではここで問題だ。巨大カボチャは、なんという品種から作られるのだろう? 次から1つ選んで欲しい。

①パシフィックヒュージ ②アトランティックジャイアント ③ジャンボインディアン

  •  正解の品種は、カボチャが原産した国で誕生したものなのだが、名前にもそれが表されている。

     3つの選択肢はいずれも「大洋の名前」「巨大なことを表す名詞」からなっている。①は太平洋、②は大西洋、③はインド洋だ。

     英国ではカブを使っていたジャック・オー・ランターンがカボチャに変更された背景には、カブはあまり採れなかったがカボチャは大量に採れたという説もあるようだ。英国からの伝播先として最初に思いつくのは……。

 

 それでは正解の発表といこう。正解は「②アトランティックジャイアント」だ。

 春先にアトランティックジャイアントの種を撒き、1本のツルに1個の実になるように間引きながら育ててやれば、秋口には実をつけ急激に質量を増大させる。重いものでは1日に20 kgずつ重くなり、時には1 tも超えてしまう巨大カボチャが収穫できるというわけだ[注2][注3]

 カボチャが巨大化するのは、特殊な育て方によるものではなく、アトランティックジャイアントという特異な品種によるものだということがわかった。それではアトランティックジャイアントは、一般的なカボチャと何が違うのだろうか?

 続いて、カボチャが巨大化する要因について解説していく。

 

 

さらに掘り下げ 〜巨大カボチャの成長

 突然だが、こんな事を想像してほしい。

 アクセサリー等を作るためのビーズとボウリングの球では、嵩張かさばのは一体どちらだろう? 考えるまでもないだろう。答えはもちろん……の前に、前提を付け加えるのを忘れていた。ただし「トラックいっぱいに積まれたビーズ全て」と「2つのボウリングの球」で比べてほしい。

 答えは決まっただろうか。もちろん、嵩張るのはビーズの方だ。単体で見れば当然、ボウリングの球の方が大きいが、数が違いすぎるからだ。

 そう、数と大きさ。この2つが巨大カボチャを語る上でとても重要になる。

 生物の体の大きさは「細胞の数」と「細胞の体積」によるところが大きい。とても大きな細胞を少数持っている場合もあれば、小さな細胞が無数に集まっている場合もある。この関係は生物種、あるいは時期や組織によって様々だ[注4]。それでは、巨大カボチャの場合はどうだろう?

 巨大カボチャの場合、実はどちらも大きい。つまり大きな細胞が、毎日盛んに細胞分裂している状態なのだ。これにより、短期間で急激に巨大化している。

 それではなぜ、短期間で急激に大きくなるのだろう? 細胞分裂や細胞の体積を制御すると考えられる、遺伝子や植物ホルモンはいくつか見つかっている。これらが複合的に働き、カボチャを巨大にしているのだと考えられている。一方で。2023年10月現在、実際にカボチャの内部でどのようなことが起きているのかハッキリとした答えは出ていない。どのような機序で制御されているのかちゃんと説明できないのが現状だ[注5]

 

 巨大カボチャが、細胞の数も体積も大きなカボチャだということがわかった。どのような理由かは明らかではないが、遺伝子やホルモンの影響により細胞の大きさや数に影響を与え、急激な成長を促しているようだ。しかしながら、ここで一つ疑問が浮かぶ。大きく成長するということは、破裂のリスクも高まるということだ。急激に大きくなれば尚更だろう。なぜ巨大カボチャは平気なのだろう?

 続いて巨大カボチャがどのように実を維持しているかについて解説していく。

 

 

もっと専門的に 〜巨大カボチャの維持

 話をガラリと変えるようで申し訳ないが、皆さんはスライムを作った経験はあるだろうか[注6]? ムニュムニュでポヨポヨとした感触が、なんとも癖になるオモチャだ。

 このスライム、材料を混ぜれば混ぜた分だけ大きくなっていくのだが、どれだけ大きく作っても割れてしまうようなことはない。デロ〜ンと広がっていくだけだ。このデロ〜ンがとても有効なのだ。

 皆さんはカボチャというとどのような形を思い浮かべるだろうか? 多くの方は分厚い円盤のような形か、雫のような形を想像したことだろう。どちらも一般的なカボチャの形状だ。

 しかしながら巨大カボチャは違う。実が小さい時のアトランティックジャイアントは、他のカボチャと同じような形状をしているのだが、大きくなるにつれ徐々に丸い形を維持しなくなっていく。上は丸く、底は平たい。すなわちデロ〜ンだ。

 底が平たく育つことにより、地面との間に生じる圧力が分散される。圧力が分散されることにより、質量の増加に伴う、割れのリスクが低減されるというわけだ。

 

 ここまで、巨大カボチャがどのように大きくなるかについて解説してきたが、いかがだっただろうか? アトランティックジャイアントは日本でも認可された品種なので、園芸店や通販サイトなどでも購入可能だ。興味のある方は育ててみても良いかもしれない。

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが秋の味覚に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜秋の味覚の生態

栗の凍害

 秋の味覚として思い浮かぶ作物といえばなんだろう? 梨にブドウ、柿にさつまいも、そして栗あたりが定番だろうか。栗の実といえば触れるのもためらわれるイガイガの中に、極厚の鬼皮、さらにその下には渋皮と、およそ食べられることを前提としていないだろうデザインをしているが、口の中に広がる甘さは何物にも代え難いものがある。そんな秋の味覚にピンチが訪れている。

 栗の凍害というものをご存知だろうか? ざっくりと言ってしまえば寒さで枯れてしまうという状況なのだが、これが少々興味深い。寒さでやられるなら暖かくすれば、ということで日照条件の良い場所に植えると、却って枯死率が上がってしまうらしい。また、弱いのは新芽だろうと思うところだが、実際には樹齢2 - 4年程度の若木が多く被害に遭っていたりと、一筋縄ではいかない状況のようだ。

鮭の温度適応

 気温が下がってくると美味しくなるものといえば、そう、鍋だ。出汁はどうするか、具材は何にしようかと考えるだけでも楽しい。どのような鍋ができるかは時期や家庭によるものが多いだろうが、中には鮭を入れるという家庭もあるのではないだろうか?

 鮭といえば、川で生まれ、海で育ち、繁殖のために生まれた川に帰る、母川回帰ぼせんかいき性を持つことで知られている。しかしながら海と川では水温が異なる。代謝速度を元に、どのように適応しているのか調べた研究がある。生まれた川のグループごとに至適水温が異なり、海から川に戻っても問題なく対応できるようになっているようだ。

参考文献

  • 農林水産省

  • 愛知県

  • Jessica A Savage, et al. “The making of giant pumpkins: how selective breeding changed the phloem of Cucurbita maxima from source to sink”. Plant Cell Environ. 2015 Aug;38(8):1543-54.

  • Chen Chen, et al. “Effects of Exogenous α-Naphthaleneacetic Acid and 24-Epibrassinolide on Fruit Size and Assimilate Metabolism-Related Sugars and Enzyme Activities in Giant Pumpkin”. Int J Mol Sci. 2022 Oct 29;23(21):13157.

  • Umesh K Reddy, et al. “What makes a giant fruit? Assembling a genomic toolkit underlying various fruit traits of the mammoth group of Cucurbita maxima”. Front Genet. 2022 Sep 20:13:1005158.

  • Liu Pan, et al. “Whole-genome resequencing identified QTLs, candidate genes and Kompetitive Allele-Specific PCR markers associated with the large fruit of Atlantic Giant (Cucurbita maxima)”. Front Plant Sci. 2022 Jul 22:13:942004.

  • Jules Janick. “Giant Pumpkins: Genetic and Cultural Breakthroughs”. CHRONICA HORTICULTURAE • VOL 48 • NUMBER 3 • 2008 • 16-17
  • 井上 博道ら. 『窒素施肥時期がクリ幼木の発芽に及ぼす影響』. 日本土壌肥料学雑誌 2019年 90 巻 1 号 55-60.
  • 阿部 貴晃. 『異なる水温環境への魚類の代謝応答 -サケ科魚類の温度適応を中心として-』. 日本生態学会誌2022年 72 巻 1 号 73- .

脚注

[注1] 皆さんは「カボチャ」を意味する英単語をご存知だろうか? 「パンプキン(pumpkin)でしょ?」と思われた方にお聞きしたい。そのカボチャは何色だろう? 実はパンプキンは日本では馴染みの薄い、黄色い皮のカボチャなのだ。私たちがよく知る、緑色の皮のカボチャはスクワッシュ(squash)という。 (本文へ戻る)

[注2] ところで巨大カボチャについて誰もが一度は思った疑問があるのではないだろうか? すなわち美味しいのか? 実はアトランティックジャイアントは牛の飼料として開発された品種だ。そのため人の舌に合うようには作られてはいない。我々は目で楽しむだけにしておこう。 (本文へ戻る)

[注3] 20 kgというと小学1年生の体重くらいだろうか。牛の体重増加が1日1.3 kgほどだというのだから、どれほどの超スピードか推して知るべしと言ったところだ。……え、牛よりも速く成長するの? (本文へ戻る)

[注4] 例えば受精卵の初期段階では、細胞分裂がガンガン行われるため細胞数は2n倍に増えていく。一方で細胞質の成長は行われないため、結果として全体の体積は元の受精卵とあまり違わない。生命の神秘だ。 (本文へ戻る)

[注5] 例えば、成長を止める遺伝子の働きが抑制される事で、成長が止まらなくなっているという考察がある。実際、該当すると思われる遺伝子がアトランティックジャイアントで働いていることは明らかになっているが、体積の増加はこの遺伝子によるとは考えにくいので悩ましい、といった感じだ。 (本文へ戻る)

[注6] 作り方はそんなに難しくない。水と洗濯のりとホウ砂水を混ぜるだけだ。どれもドラッグストアで簡単に出来るので、気になった方は詳しい作り方を調べて作ってみてほしい。お好みで水性絵具やスパンコールを入れても楽しい。 (本文へ戻る)

 

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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