ヘモグロビンは軟骨細胞で発現し生存に必須(10月4日 Nature オンライン掲載論文)

2023.10.22

ヘモグロビンは言わずと知れた赤血球が酸素を運ぶために必須の分子で、赤血球特異的な分子であることを疑う人はいない。実際、極地に生息するアイスフィッシュでは、低温のため酸素が拡散によって身体中を巡るので、ヘモグロビンや赤血球は消失してしまった。

 

面白いのはアイスフィッシュの中には、筋肉に存在するミオグロビンまで消失した種が存在するが、このことはヘモグロビンもミオグロビンも同じように酸素を保持する目的に存在することを教えてくれる。

 

本日紹介する論文

このようなヘモグロビンの発現が他の細胞に見られるという報告はいくつかあるが、結局赤血球のコンタミか遺伝子発現調節のいたずらで、機能とは関係ないとされてきた。

 

しかし今日紹介する中国・空軍軍医学校からの論文はヘモグロビンが赤血球と同じように軟骨でも酸素供給のために働いていることを示した研究で、10月4日 Nature にオンライン掲載された。

 

タイトルは「An extra-erythrocyte role of haemoglobin body in chondrocyte hypoxia adaption(ヘモグロビン体には軟骨細胞が低酸素に適応するという赤血球外の役割がある)」だ。

 

解説・見解

研究は骨端に存在する軟骨細胞の組織を調べているとき、細胞内に存在するエオジンに染まる無定型な部分に気づき、これは何だろうと素朴に問うたところから発する。おそらく何万人という人が軟骨の写真を見てきたが、この問いが発せられることがなかったのは驚きで、軟骨のようにマトリックスが多い細胞では様々な分子が溜まるのも不思議はないと思ってしまっていたのだと思う。

 

レーザーでこの部分を切り出して質量解析を行い、なんとヘモグロビンα、βともにこの中に存在することを発見する。さらに、ヘモグロビンにも相分離を引き起こす配列が存在し、これが軟骨内で相分離したヘモグロビン体を形成していることを突き止める。

 

ここまでならウケ狙いの論文で終わるのだが、この研究ではまず胎児発生で赤血球と同じように胎児型ヘモグロビンから成人型ヘモグロビンへのスイッチが起こることを確認し、軟骨発生過程を通して必要とされていることを確認する。

 

次に、軟骨でのヘモグロビン発現調節について調べ、GATA1やRunx1が発現しているだけでなく、Klf1は低酸素によりエピジェネティックなメカニズムを介して発現が上昇し、これによりヘモグロビンの発現量が低酸素依存的に上昇することを発見する。

 

軟骨にとってこの点は重要で、軟骨組織が形成されても血管が入ってこないので、低酸素状態になる。この時ヘモグロビンが酸素を組織内で蓄える役割を持つとすると、機能も存在する可能性がある。

 

そこで、ヘモグロビン遺伝子を軟骨で除去する実験を行い、これにより軟骨細胞が強い低酸素状態に晒され、最終的に軟骨細胞が壊死に陥ることを明らかにしている。また、試験管内実験系で細胞にヘモグロビンを発現させると、低酸素への抵抗性が高まることも示している。

 

まとめと考察

以上が結果で、ちょっと驚いたと言うより、ヘモグロビンの新しい機能をはっきりと示した力作だと思う。中国からはよく意外性を強調した論文が発表されるが、これは意外でも納得できる力作だ。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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