黄色くなる亜鉛化合物を発見! 安全安価な光学材料になるかも?

2023.10.20

(画像引用元番号①②③⑥)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、色がついた亜鉛化合物の発見についてだよ!

 

いや、これだけ書いても全然スゴさがわからないのは正直あるよね?ただ、色がある優れた化合物は高かったり毒性があったりして困っていたことを考えれば、これはスゴい発見だよ!

 

なぜなら、亜鉛は資源的に豊富で毒性も低いのに、今までは色がつかなくて困ってたんだから、色がついた亜鉛化合物の発見はそれだけでなかなかすごいよ!

 

また、これはまだ極低温限定の話だけど、赤橙色の発光も確認されたよ!これらを合わせると安全で安い亜鉛化合物が新しい可視光線光学材料になる可能性もあるんだよ!

 

色がつく元素とつかない元素

色がつく元素・つかない元素の例

物質の着色理由は様々だけど、大きなものの1つに元素によって発生する色というのがあるよ。色がつく元素のほとんどは遷移元素で、典型元素には色がないよ。亜鉛はその代表例だね。 (画像引用元番号⑨⑩⑪⑫)

 

身の回りにある様々なものは色がついていて、その着色理由は一口に語れないほど実に様々だけど、「特定の元素を含んでいる」というのは、とても代表的な理由の1つだよ。

 

血液の赤は鉄イオン、銅像の緑色は銅イオン、文字通りのコバルトブルーはコバルトイオン、という具合に、特定の元素のイオンが発色の理由になっている、というのは身近でもかなり多く見かけるよ。

 

一般に、イオンが何らかの色を示す元素は「遷移元素」に含まれていることが多いよ。そしてその発色理由は、原子の周りにある電子のうちの「d軌道」が関与しているよ。といってもこれは難しいのでもう少し説明するね。

 

原子は中心に原子核があり、外側を電子が回っている構造をしている、と習うよね?この、電子がある部分は好き勝手ではなく一定のルールで決まっているので、これを分類したものを「(電子) 軌道」と呼んでいるよ。

 

電子によって色がつく理由

電子に光を当てると、特定の波長だけを吸収する性質があるよ。可視光線の範囲内だったら、その色を吸収し、残された色を物質の色として認識するよ。しかし亜鉛などは吸収するのが紫外線なので、色が変わって見えないよ。

 

さて、電子にエネルギーを与えるとどうなるかというと、ある軌道から別の軌道へと電子が移動するよ。これはいわば、地面からボールを空中で投げるように、一時的にエネルギーが高い場所へと移動する現象だよ。

 

ただし、受け取るエネルギーは何でもいいわけじゃなく、移動するのに必要なエネルギーとぴったり同じものしか受け取らない、という性質があるんだよね。

 

このエネルギーがぴったりという性質は、光の場合には波長と関連しているよ。つまり原子に光を当てると、電子を移動させるのにぴったりなエネルギーを持つ光である特定の波長の光が吸収されることになるよ。

 

遷移元素の場合、吸収される特定の波長の光というのが、目に見える光である可視光線の波長のどれかなので、吸収された光は目に届かなくなり、それ以外の色の光が目に届くことになるよ。

 

例えば青色の光を吸収する遷移元素を含む物質ならば、私たちに届くのは青色以外の光ということになり、その物質は黄色に見えるよ。こんな風に遷移元素を含む物質は、何か特定の色をしているように感じるよ。

 

そして遷移元素が可視光線の波長を吸収するのは、d軌道と呼ばれる軌道に空席があり、電子が移動しやすいからなんだよね。可視光線は電子を動かす光としては、どちらかと言えばエネルギーが低い方だよ。

 

一方でd軌道には10個しか電子が入らないので、ここが完全に埋まっていると、電子を動かすにはより高いエネルギーの光(具体的には紫外線)となるよ。つまり吸収する光は紫外線ということだね。

 

紫外線は目に見える光じゃないから、見える色は変化しなくなるよ。このような、d軌道が埋まっている元素は「典型元素[注1]と呼ばれており、独自の色がない場合がほとんどだよ。

 

典型元素が吸収するのは紫外線だから、可視光線は素通りするよ。なので紫外線が見える生き物ならともかく、可視光線しか見れない私たちは光の波長の吸収を認識できず、そのような元素は白色や無色に見えるよ。

 

亜鉛化合物は色がつかない!

この、d軌道が全て埋まっていて色がつかない元素の1つが、今回の話の主人公の「亜鉛」だよ。亜鉛のイオンを含む物質は白色や無色で、だから例えば白色絵の具などの顔料に使われるよ[注2]

 

これはどんな化合物の状態となった亜鉛でも原則としては同じ、ではあるんだけど、実際には変わる可能性があるよ。それは先ほど説明した電子の軌道と関係があるよ。

 

電子軌道のエネルギーの値など、軌道の性質は原則として固定だけど、実際には他の原子が近くにあることでビミョーに変化することが知られているよ。軌道の変化は吸収する光の波長を変えるので、これは大きいね!

 

特に、金属元素と他の物質がうまいこと配置された場合に構成される「錯体化合物[注3]の場合、この電子軌道に関する変化が他の化合物と比べて相当に大きくなるという、注目される現象が知られているよ。

 

それは、2つの金属元素の原子同士の距離が近づいた場合。原子同士の距離で電子軌道が変化することは、これまでにパラジウム、白金、銅、銀、金で確認されていたよ。ただ、これらは全て遷移元素だよ。

 

そして、遷移元素の錯体化合物は元々色んな色を出す傾向にある一方で、典型元素である亜鉛はこれまでどう頑張っても色が出たことが無くて、いわば化学の未解決問題として転がっていたよ。

 

亜鉛化合物にも色がつくことを確認!

東京大学の和田啓幹氏などの研究チームは、亜鉛の化合物で色がつく条件を探るために、亜鉛原子同士の距離を変えた化合物の設計と実際の測定を行ってみたよ。

 

錯体化合物はいわば亜鉛原子の位置を固定する骨組みとしてちょうど良くて、ある程度自由に距離を設計できるという点で、基礎研究では利点の大きな化合物だよ。

 

研究ではケイ素をメインの骨組みとした有機化合物を作り、その中心に亜鉛原子が2つ挟まる錯体化合物を作ったよ。ケイ素の骨組みを微妙に変えることで、亜鉛原子の距離を変え、影響も調査する仕組みも作ったよ。

 

色がついた亜鉛錯体

錯体化合物という形で亜鉛の原子の位置を定めてみると、亜鉛原子同士の距離が短い場合に黄色く色づくことが確認されたよ!本来の亜鉛化合物の色は無色なはずだよ! (画像引用元番号②③④⑤⑦)

 

すると、2つの亜鉛原子同士の距離が長い錯体化合物は無色だったのに対し、亜鉛原子同士の距離を短くした錯体化合物は黄色く色づくことが分かったよ!これは固体でも水溶液でも同じだったよ。

 

実験や量子化学の計算の結果、これは2つの亜鉛原子同士が互いに影響し、電子軌道の性質が変化したことによって、青色の光を吸収し、その残りである黄色の光が私たちの目に届いた、というメカニズムが分かったよ。

 

色がつかなかった化合物は、通常の亜鉛原子と同じく紫外線を吸収するものなので無色だけど、亜鉛原子の距離を変えると吸収する光の波長が変化したことによって、同じ亜鉛原子でも色がつくようになった、と言うわけ!

 

更に面白いことに、この化合物を液体窒素で-196℃という低温に冷やした上で青色の光を当てると、赤橙色に発光することも分かったよ!

 

これも電子軌道の性質の変化によるもので、亜鉛化合物が可視光領域の発光材料に使えるかもしれない、という点でかなりユニークだよ!ただし今回の研究では、室温での発光は見つからなかったよ。

 

亜鉛が毒性の低い光学材料に応用される可能性

 

蛍光する亜鉛錯体

黄色く色づいた亜鉛化合物は、実際に吸収する光の波長が変化していることが確認されたよ!更に液体窒素温度という限定付きだけど、赤橙色に発光することも確認されたよ! (画像引用元番号⑥⑧)

 

ここまで読んでも、正直何がすごいのかわからん!って気持ちになる人がいても正直分かるよ。この研究はかなり基礎的なものなので、亜鉛化合物に色がついたら何だと言われてもピンとはこないよね。

 

でも、亜鉛を光学材料に応用できる道が初めて開かれた、というインパクトは猛烈に大きいよ。それは、亜鉛が資源的に豊富で安い金属であり、しかも毒性が低いという点と関連しているよ。

 

照明やディスプレイを初めとして、太陽電池、有機合成、医学におけるイメージングなど、可視光線を放出・吸収する材料は現代社会を成り立たせる上で必須なものだよね?

 

ただ、これらには非常に高価な貴金属。資源的に希少な元素、毒性の強い重金属が含まれていることも珍しくなく、コストや安全性に課題があるケースは珍しくないよ。

 

そのため注目されていたのは亜鉛なんだけど、亜鉛の化合物に関するユニークな研究は中々進まなくて、例えば2004年に安定な1価の亜鉛化合物が見つかるなど、大きな発見やその後の研究は中々少なかったよ。

 

今回の発見は、亜鉛が可視光線領域の光学材料に使えるかもしれない道を開拓した研究として注目されるもので、他の亜鉛を含む錯体化合物を探る契機となり得る研究だよ。

 

今回合成された化合物は設計されたものであり、その挙動が理論的にも実験的にも確かめられることから、これは他にもっと高性能な化合物を探索する可能性があると言えるね。

 

また、亜鉛の蛍光する化合物というのも注目だね。今回は液体窒素温度じゃないと光らなかったけど、室温で蛍光する亜鉛化合物が見つかる日もそれほど遠くはないかもしれないよ!

 

 

注釈

[注1] 典型元素 ↩︎
亜鉛族 (亜鉛・カドミウム・水銀・コペルニシウム) の分類は、書籍や教科書によって様々である。現在のIUPAC (国際純正・応用化学連合) の定義によれば、d殻が閉殻である (全て電子で埋まっている) 場合には典型元素であるとされ、その定義に従えば亜鉛は典型元素である。また、亜鉛族の個々の化学的性質も、遷移元素より典型元素を示している。

[注2] 亜鉛化合物の白色顔料 ↩︎
酸化亜鉛は酸化鉛と比べて毒性が低く、大気汚染物質である硫化水素と反応しても黒変しない利点がある。白色顔料としての利用は酸化チタンと並んでいる。

[注3] 錯体化合物 ↩︎
広義な意味では、配位結合や水素結合によって形成された分子のこと。より狭義には金属と非金属が結合した金属錯体のこと。配位結合とは、化学結合を形成する2つの原子のうち、一方のみから結合電子が分子軌道に提供される (非共有電子対を与える) 化学結合のことである。

文献情報

<原著論文>

  • Yoshimasa Wada, Takahiro Maruchi, Reon Ishii & Yusuke Sunada. "Visible Light Responsive Dinuclear Zinc Complex Consisting of Proximally Arranged Two d10-Zinc Centers". Angewandte Chemie International Edition, 2023; (Early View) e202310571. DOI: 10.1002/anie.202310571

 

<参考文献>

 

<関連研究>

  • Martin C. Grossel, et al. "Preparation and characterisation of tris-μ-bis(diphenylphosphino)methane]diplatinum(0)". Journal of Organometallic Chemistry, 1982; 232 (1) C13-C16. DOI: 10.1016/S0022-328X(00)86857-6
  • Christopher King, et al. "Luminescence and metal-metal interactions in binuclear gold(I) compounds". Inorganic Chemistry, 1989; 28 (11) 2145-2149. DOI: 10.1021/ic00310a026
  • Youlin Pan, Joel T. Mague & Mark J. Fink. "Synthesis, structure, and unusual reactivity of a d10-d10 palladium(0) dimer". Journal of the American Chemical Society, 1993; 115 (9) 3842-3843. DOI: 10.1021/ja00062a087
  • Chi-Ming Che, et al. "Spectroscopic Evidence for Argentophilicity in Structurally Characterized Luminescent Binuclear Silver(I) Complexes". Journal of the American Chemical Society, 2000; 122 (11) 2464-2468. DOI: 10.1021/ja9904890
  • Chi-Ming Che, et al. "Cuprophilicity: Spectroscopic and Structural Evidence for Cu−Cu Bonding Interactions in Luminescent Dinuclear Copper(I) Complexes with Bridging Diphosphane Ligands". Angewandte Chemie International Edition; 2000; 39 (22) 4084-4088. DOI: 10.1002/1521-3773(20001117)39:22<4084::AID-ANIE4084>3.0.CO;2-N
  • William B. Jensen. "The Place of Zinc, Cadmium, and Mercury in the Periodic Table". Journal of Chemical Education, 2003; 80 (8) 952. DOI: 10.1021/ed080p952
  • Irene Resa, et al. "Decamethyldizincocene, a Stable Compound of Zn(I) with a Zn-Zn Bond". Science, 2004; 305 (5687) 1136-1138. DOI: 10.1126/science.1101356

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. 今回合成された黄色亜鉛錯体の分子模型と発光色: プレスリリースサムネイル

  2. 黄色亜鉛錯体の固体粉末: プレスリリース図1よりトリミング

  3. 黄色亜鉛錯体の溶液: 原著論文Fig2よりトリミング

  4. 無色亜鉛錯体の固体粉末: プレスリリース図1よりトリミング

  5. 無色亜鉛錯体の溶液: 原著論文Fig2よりトリミング

  6. 黄色亜鉛錯体の赤橙色発光: 原著論文Fig3よりトリミング

  7. 亜鉛錯体の分子模型: プレスリリース図1よりトリミング

  8. 亜鉛錯体の光学特性グラフ: 原著論文Fig2よりトリミング

  9. 鎌倉大仏 (銅造阿弥陀如来坐像): WikiMedia Commons (Autor: Tarourashima / Public Domain)

  10. 赤血球の画像 (疑似カラー): WikiMedia Commons (Autor: MDougM / Public Domain)

  11. コバルトブルー粉末: WikiMedia Commons (Autor: FK1954 / Public Domain)

  12. 酸化亜鉛粉末: WikiMedia Commons (Autor: Walkerma / Public Domain)

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

このライターの記事一覧

彩恵りりの科学ニュース解説!の他の記事