「ナナフシモドキ」は鳥に食べられて生息域を拡げる!? 捕食者によって卵が遠くに運ばれることを遺伝子を調べて証明

2023.10.13

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、ナナフシモドキの卵は捕食者によって遠くに運ばれていることを証明した研究についてだよ!

 

ナナフシモドキの卵が消化を耐えるほど頑丈なことは2018年の研究で知られていたけど、では実際の自然環境で卵が運ばれているのか?という疑問はこれまで答えが無かったよ。

 

今回はナナフシモドキを遺伝子の特徴で分類してみた結果、自力での移動能力が低いにも関わらず、かなり遠方の個体が同じ遺伝子の特徴を持つグループ属することを見つけたよ!

 

他のことも検討した結果、ナナフシモドキの卵は自然環境でも実際に捕食者によって運ばれている可能性が高いことを今回初めて証明したよ!

 

食べられても植物の種は運ばれる……では動物は?

弱肉強食」という言葉に代表されるように、生態系は誰かが別の誰かを食べる食物連鎖があるよね。なので生態系の被食者 (食べられる側) は、捕食者 (食べる側) によって命を落とすことがしばしばあるよ。

 

もちろん被食者は、ただなすがままに捕食者に食べられるわけじゃないよ。捕食者に食べられないように擬態したり毒を持ったりは代表的だけど、捕食者を子孫や生息域を拡げる手段として利用する例もあるよ。

 

よく知られているのは植物の種だよね。種は頑丈な被覆で動物の消化機能に耐え、糞と共に排出されることで子孫を引き継ぐよ。動物が移動すれば、植物が移動することなく生息域を拡げることもできるよね。

 

では動物はどうなのか?例えば一部の甲虫やカタツムリは、消化管を無事通過して生き残ることは観察されているよ。ただしこれは、個体そのものの生き残りのための戦略、または偶然そうなったと考えられるのものあるよ。

 

「ナナフシモドキ」の卵は研究対象として最適!

植物の種のように子孫や生息域を拡げる手段としては、昆虫の卵が候補として考えられるよ。一部の昆虫の卵は殻が頑丈なので、やはり消化に耐えて糞と共に排出される、という流れが考えられるね。

 

この場合、メスの個体が産卵直前の卵を持ったまま鳥などの捕食者に食べられた後、消化に耐えた卵が糞と共に排出され、その後幼虫が孵化する、ということが考えられるよ。

 

ただ、受精後に作られる植物の種と違い、昆虫の卵は産卵直前に受精が行われるから、受精しなくても孵化する可能性がある卵、つまり「単為生殖[注1]」が起こる方がより孵化の可能性が高いことになるよ。

 

更に、昆虫が意図的に産み付ける場合と違い、糞はテキトーな場所に落とされるから、卵が理想的な場所に無くても、孵化直後の幼虫が餌とする植物などに自力で移動できることはとても重要な要素だよ。

 

ナナフシモドキの卵は消化に耐える!

ナナフシモドキの卵は鳥に食べられても、消化に耐えて糞と共に排泄され、そこから幼虫が孵化する、というのは、2018年の実験で確かめられているよ。ただし実験は実験。実際の自然界でも同じようなことが起きているのか?というのは分かっていなかったよ。 (画像引用元番号②③④⑤)

 

こういった諸条件を満たす昆虫としてはナナフシの仲間がいるよ。2018年の神戸大学などの研究では、ナナフシの仲間の卵はヒヨドリ (Hypsipetes amaurotis) に食べられても一部が無事なまま糞に混ざることが確認されたよ。

 

特に「ナナフシモドキ (Ramulus mikado)[注2]」の卵は実際の孵化まで確認されたよ。ナナフシの仲間は翅を持たず、遠方への移動力が低いので、遠距離での拡散に捕食が関わっている可能性もあるね!

 

ただ、これはあくまでも実験環境での話。実際の自然環境は実験環境のようにうまく行くのかと聞かれると、ちょっと分からないよ。それに、ナナフシは枝や葉に擬態しているという点も考えないといけないよ。

 

植物への高度な擬態をしているということは、ナナフシとしては食べられない戦略を選んでいる、ということになるよ。となると、味や見た目でより食べられるような戦略をしている果実とは全然違うよね。

 

そう考えると、ナナフシの卵が鳥類に食べられて遠くに運ばれているとしても、それが起こる頻度は低いので、野生環境で移動、特に生息地の拡大について、証拠を見つけるのはかなり難しいと言えるよ。

 

ナナフシモドキの卵が捕食者によって移動している遺伝的証拠

ナナフシモドキは研究に最適

捕食者によって卵が移動していることを自然界で証明するには、いくつかの性質を満たしている方が理想的だよ。今回研究対象となったナナフシモドキはそれをほとんど満たしているけど、擬態がうまいという点が問題となるよ。 (画像引用元番号⑤)

 

神戸大学の末次健司氏や福島大学の兼子伸吾氏などの研究チームは、頭の中で想像はできるけど確かめるのは難しいこの疑問について、日本の各地に生息する野生のナナフシモドキを調べることで答えを出すことにしたよ。

 

さっきもチラッと述べた通り、ナナフシモドキを含む野生のナナフシは翅がないので、あまり遠くまで移動しないよ。特に海や川、高山と言った地形が障壁となって、自力で向こう側に辿り着くことは困難だよ。

 

こういう地形的な障壁があると、生物はその障壁内の地域で繁殖するから、地域内で遺伝子が似てくるよ。逆に長距離移動や障壁を乗り越えるのに優れている生物は、特徴が表れにくくなるよ。

 

ナナフシモドキの移動能力の低さから、本来ならば地域ごとに異なる遺伝子の特徴が現れるはずだけど、もし捕食後の卵が捕食者によって運ばれる場合、遠く離れた場所でも似ている遺伝子の特徴が現れることになるよね。

 

また、ナナフシモドキは単為生殖が知られていて、見つかる個体のほとんどがメスであること、単独でも卵が孵化すること、日本各地にいることから、ナナフシの仲間の中でも特に移動を確かめやすいはずだよ。

 

今回の研究では、ナナフシモドキの個体を東北・関東・中部・近畿・中国・四国の各地で採集し、それを本州東部・本州西部・四国島の3つのグループに分けることで、地域ごとの遺伝的特徴を調べたよ。

 

これは、本州と四国が瀬戸内海などの水で区切られていることに加え、多くの昆虫の遺伝グループが「糸魚川-静岡構造線[注3]で区切られていることを反映したグループ分け、ということだね。

 

ナナフシモドキのハプロタイプと地理的分布

異なる場所で採集されたナナフシモドキの個体の遺伝子を調べてみると、数百kmを超えた距離で同じ遺伝子の特徴を示す個体も見つかったよ!これほど極端じゃないけどやはり遠方で同じ遺伝子の特徴を示す個体がいたこと、遺伝子のタイプを比べる他の方法でも同じような傾向がみられたことは、ナナフシモドキの自力での移動では説明がつかないよ。 (画像引用元番号⑥⑦) [注4]

 

その結果は面白かったよ。ナナフシモドキの細胞核やミトコンドリアのそれぞれのDNAから取られた遺伝的特徴を調べてみると、同じ遺伝子の特徴を持つ個体が10km以上離れた場所で見つかることがしばしばあったよ。

 

特に極端なものとしては、山口県岩国市と埼玉県深谷市の683km愛知県豊田市と愛媛県松山市&砥部町の452kmも離れた場所の個体同士が同じ遺伝型 (ハプロタイプ[注5]) に分類された、なんていうものすらあったよ!

 

ナナフシモドキの卵が捕食者によって運ばれている!

遺伝的距離と地理的距離をグラフにしてみると、両者は関係していないことをが明らかにされたよ。これはナナフシモドキの自力ではない生息域の拡散、つまり捕食者による卵の移動が最もシンプルに説明できるよ! (画像引用元番号③⑧)

 

これに関連する話として、ナナフシモドキの遺伝的な特徴の近い遠いを表す遺伝的距離を、採集された地の地理的距離との間でグラフにしてみると、更に際立った結果が得られるよ。

 

普通なら、移動能力の低い生物は、地理的距離が離れるほど遺伝的距離も離れるという関係になるので、採集地同士の距離と遺伝子の特徴をグラフに描くと、距離が増えるに従う斜めの直線や曲線になるはずだよ。

 

ところが今回の研究で同じことをナナフシモドキにしてみると、あっちこっちに点が拡がってしまい、斜めの線が引けなかったよ!ということは、地理的距離と遺伝的距離の関係性が低いということになるよ!

 

このデータは、ナナフシモドキは何らかの方法で遠くへと運ばれていることを示すことになるよ。では何が運んでいるのか?研究チームはこれこそが鳥が運んでいる証拠だと考えているよ。

 

特に、数百kmはもちろん、10km以上離れた場所でも同じような遺伝的特徴を持つナナフシモドキがいることは、ナナフシモドキの自力での移動範囲を大幅に超えていると考えられるよ。

 

一部のナナフシの仲間は、枝や葉に卵を固定したり、水に浮くスポンジのような卵を産むから、そういった種なら海流などで偶然に、という可能性もなくはないけど、ナナフシモドキはこれに当てはまらないよ。

 

人間が植物を輸送した時にナナフシモドキの卵も移動したケースもなくはないね。ただ、人為的な理由で拡がった他の生物の研究と比較すると、ナナフシモドキには異なる特徴があるから、これも違うと思うよ。

 

そういうわけで研究チームは、捕食者に食べられた後、消化管を無事に通過して糞として排出された卵が孵化することが、数百kmも離れた場所で同じような遺伝的特徴を持つナナフシモドキが見つかる理由だと考えているよ。

 

例えば、2018年の実験で使われたヒヨドリの場合、秋から冬にかけて渡りを行うことから、理論的には捕食してから糞をするまでに数km以上の距離を輸送すると考えられるよ。

 

あるいはハシブトガラス (Corvus macrorhynchos) は、餌場とねぐらの数kmの距離を定期的に移動する上に、身体が大きいので多数のナナフシモドキを食べることから、これも移動を助けることになるよ。

 

そして研究チームは、こうしたいくつかの種の鳥類による捕食と移動に加え、陸上に生息する雑食性の哺乳類、例えばニホンザル (Macaca fuscata) やテン (Martes melampus) も卵を運んでいるんじゃないかと考えているよ。

 

特にテンは、糞にナナフシの卵が頻繁に見つかるという状況証拠があるよ。なのでこの研究で確かめられたわけじゃないものの、分布を拡げるのに関与している可能性は十分にあるよ!

 

捕食者は単純に被食者の命を奪うだけの関係ではないことを昆虫でも証明!

食物連鎖という自然界のルールから、捕食者に食べられた被食者はそこで命が奪われてしまうので、特に昆虫では子孫という形で遺伝子を残すことはない、というのが普通の考えで、これは別に不思議ではないよね?

 

ところが、自力での移動能力に乏しいナナフシモドキを調べてみると、これは捕食者に食べられたとしても、卵が無事に残りさえすれば子孫を残す可能性があるという、これまでの一般的な考えを覆す発見だよ!

 

そしてこの話は、何もナナフシモドキだけに限らないと思うよ。世界にナナフシは3000種以上いて、その中には単為生殖を行えるものも少なからずいるよ。

 

そして他の生物でも単為生殖の例があることを考えると、ナナフシモドキ以外の昆虫でも、こんな感じで生息域を拡げている種がいるかもしれない、と想像することはできるね!

 

他にもそういう生物の例が見つかれば、被食者にとっての捕食者は、単純に被食者の命を奪うだけの関係ではないという、かなり面白いことが分かってきそうだね!

注釈

[注1] 単為生殖 ↩︎
簡単に言えば、メスが単独で子孫を残すこと。通常は有性生殖を行う生物が単独で子孫 (新しい個体) を残した場合を指し、昆虫で言う卵のような生殖細胞が絡んでいる場合に単為生殖と呼ばれる。よく似た言葉である「無性生殖」とは区別されず使われる場合もあるが、通常は生殖細胞が絡まずに新しい個体を発生させた場合を無性生殖と呼ぶ。ナナフシモドキのように、オスがほとんど見つからず、実質的に単為生殖のみで繁殖している生物もいる。

[注2] ナナフシモドキ (Ramulus mikado) ↩︎
エダナナフシ (Phraortes illepidus) と並んで、全国各地に見られる一般的なナナフシ。学名「Baculum irregulariterdentatum」はシノニム。

[注3] 糸魚川-静岡構造線 ↩︎
フォッサマグナの西側を構成する断層線。高山という障壁があるため、糸魚川-静岡構造線を境に遺伝型に違いがみられる昆虫が多くいる他、他の分類の生物にも違いがみられるものがいくつかある。

[注4] 683km離れた同じタイプの遺伝型 ↩︎
遺伝子を調べた標本のIDについて、原著論文Fig3aでは「WH21」となっている部分があるが、これは「WH12」の誤りであることを論文著者に確認している。このため、元図は原文ママで改変しないものの、説明では正しい表記に書き換えている。

[注5] ハプロタイプ ↩︎
生物を1つの染色体上の遺伝的な構成で分類したもの。今回の論文では遺伝子に見られる他の特徴で分類して調べているものもあるため、ざっくりと「遺伝子の特徴で個体を分類する方法の1つ」と考えればよい。

文献情報

<原著論文>

  • Kenji Suetsugu, Tomonari Nozaki, Shun K. Hirota, Shoichi Funaki, Katsura Ito, Yuji Isagi, Yoshihisa Suyama & Shingo Kaneko. "Phylogeographical evidence for historical long-distance dispersal in the flightless stick insect Ramulus mikado". Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 2023; 290 (2008) 20231708. DOI: 10.1098/rspb.2023.1708

 

<参考文献>

 

<関連研究>

  • Stephen F. Norton. "Role of the Gastropod Shell and Operculum in Inhibiting Predation by Fishes". Science, 1988; 241 (4861) 92-94. DOI: 10.1126/science.241.4861.92
  • Randy J. Brown. "Freshwater Mollusks Survive Fish Gut Passage". Arctic, 2007; 60 (2) 124-128.
  • Shinichiro Wada, Kazuto Kawakami & Satoshi Chiba. "Snails can survive passage through a bird’s digestive system". Journal of Biogeography, 2011; 39 (1) 69-73. DOI: 10.1111/j.1365-2699.2011.02559.x
  • Osamu Miura, et al. "Flying shells: historical dispersal of marine snails across Central America". Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 2011; 279 (1731) 1061-1067. DOI: 10.1098/rspb.2011.1599
  • Kenji Suetsugu, et al. "Potential role of bird predation in the dispersal of otherwise flightless stick insects". Ecology, 2018; 99 (6) 1504-1506. DOI: 10.1002/ecy.2230
  • Shinji Sugiura. "Active escape of prey from predator vent via the digestive tract". Current Biology, 2020; 30 (15) R867-R868. DOI: 10.1016/j.cub.2020.06.026

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. 今回の研究の概要イラスト: 神戸大学プレスリリース図1 (Illustrator: 安斉俊)

  2. ナナフシモドキの成虫: 原著論文Fig1a (トリミング)

  3. ひなにナナフシを与えるヒヨドリの親: 原著論文Fig1b (トリミング)

  4. ヒヨドリの糞から単離された、ナナフシモドキの無事な卵: 原著論文Fig1d (トリミング)

  5. ナナフシモドキの幼虫: 原著論文Fig1e (トリミング)

  6. 個体採集地の地図: 原著論文Fig2 (日本語訳と加筆は筆者による)

  7. 遺伝型ネットワーク: 原著論文Fig3a (トリミング)

  8. 遺伝的距離と地理的距離の散布図: 神戸大学プレスリリース図2

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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