ジュラ紀の人気者! アロサウルスの噛む力はどれ位強い?

2023.10.04

 

 こんにちは! 恐竜好きな方へのサポートなどを行っているタレント、「恐竜のお兄さん」加藤ひろしと申します。

 

  • 白亜紀の大型肉食恐竜といえばティラノサウルス Tyrannosaurus
  • ジュラ紀の大型肉食恐竜といえばアロサウルス Allosaurus

 

こんな風に恐竜図鑑などで学んだのは、私たち1990年代生まれが最後の世代でしょうか?

 

 今でこそ、他の大型肉食恐竜のグループについての研究も大いに発展していますが*1、それでもなお、アロサウルスの化石の発見数・研究の数の多さは、肉食恐竜を含む獣脚類のなかでも屈指のものです。

 

 ティラノサウルスとは生息していた時代も系統も全然違うアロサウルス*2。"噛む力"について現在の研究をまとめた時の最大推定値としては、約2,148ニュートン(約220キログラム)~ 27,238ニュートン(約2.8トン)だと考えられています。

 

 それでは、化石でしか見つかる事のないアロサウルスの"噛む力"とは、一体どのような方法で研究・推定されているのでしょうか?

 

 今回はアロサウルスの

 

  • "噛む力"についての研究が行われるようになるまでの歴史
  • "噛む力の数値"を調べるためのさまざまなアプローチ

 

を紹介します!

 

“噛む力”についての研究が行われるようになるまでの歴史

 前回、ティラノサウルスの噛む力について解説した記事を書きました。そちらでも書いたのですが、恐竜を含む古生物の身体能力についての研究を行う際、3つの大きな課題がついて回ります。

 

  1. 化石はほとんどの場合バラバラで見つかり、なおかつ多くの骨が化石になる過程で失われてしまっているということ
  2. 個体差がみられるということ
  3. 同じ個体を対象にしていても、研究の方法が違っていた場合は身体能力に関する数値が大きく変わってしまうということ

 

 これらを考えると、恐竜の噛む力について研究する場合、「より完全な頭骨が残されている、複数の個体」が発見された種の恐竜が研究対象として望ましいということになります。

 

 アロサウルスは、この条件を満たす種なのでしょうか? ここからは、アロサウルスの頭骨についての20世紀前半までの重要な研究、そしてアロサウルス研究の歴史においてターニングポイントとなった、3つの大発見を紹介します。

 

アロサウルスの頭骨についての20世紀前半までの重要な研究

 1877年、アロサウルス・フラギリス Allosaurus fragilis という学名が命名された原記載論文が出版されました*3。しかし命名の際に"種の基準となった標本"(ホロタイプ標本といいます)には頭骨がまったく残されていませんでした*4。その後、なるべく骨が失われていない――『完全度が高いアロサウルスの頭骨』が図示された研究論文は、1903年まで出版されることはありませんでした*5

 

 1903年に出版された研究論文を踏まえて1912年に出版された研究論文では、アロサウルスとティラノサウルスの頭骨の比較観察が行われます。その結果、「アロサウルスの頭骨の方がすらっとしていて華奢である」などの特徴がみられました*6

 

ターニングポイントになった3つの大発見

次に、アロサウルス研究の歴史のなかでもターニングポイントとなり、近年の研究にもつながっている、アメリカ合衆国での3つの大発見についてご紹介します。

 

クリーヴランド・ロイド発掘地での大発見

 ひとつめの大発見は、ユタ州にあるクリーヴランド・ロイド発掘地での1960年から1965年にかけての発掘調査でのことです。なんとこの発掘地では、当時の発掘調査時で44頭分、現在までに少なくとも46頭分のアロサウルス・フラギリスの化石が産出しています*7

 

 この発掘調査を指揮した古生物学者であるジェームズ・ヘンリー・マドセンは、当時採集した44頭分の化石を調べ上げ、1976年にアロサウルスの全身の骨についてのモノグラフを出版しました*8

 

 このモノグラフを基に、アロサウルス・フラギリスの複数の個体の要素を合体させたコンポジット全身骨格が製作され、日本でもそのレプリカが特別展などで展示されています。

 

クリーヴランド・ロイド発掘地から産出したアロサウルス・フラギリスの複数個体の頭骨の要素を合体させたコンポジット頭骨のレプリカ

 

ハウ発掘地付近から発掘されたビッグ・アル、ビッグ・アル2

 ふたつめとみっつめの大発見は、どちらもワイオミング州 ハウ発掘地付近で起こりました。

 

 1991年に『ビッグ・アル』というニックネームの個体が発見され*9、続けて1996年には『ビッグ・アル2』というニックネームの個体の化石が発見されることになります*10。この二個体からは非常に完全度が高い頭骨などが発掘され、また、どちらも全身の骨に病気や怪我の痕がみられる個体でもあります*10 *11

 

 この2頭はアロサウルス・ジムマドセニ Allosaurus jimmadseni に分類され*12、ビッグ・アルは成体(大人)になる前のサブアダルト*9、より大きなビッグ・アル2は恐らく成体であると考えられています*10

 

アロサウルス・ジムマドセニのビッグ・アルの頭骨
Chure, D.J., and Loewen, M.A., 2020. Cranial anatomy of Allosaurus jimmadseni, a new species from the lower part of the Morrison Formation (Upper Jurassic) of Western North America. PeerJ, 8: e7803. より引用

アロサウルス・ジムマドセニのビッグ・アル2の頭骨レプリカ

 

 

 より完全な頭骨が残されている複数の個体が発見された種の恐竜が研究対象として望ましい』と書いたのを覚えているでしょうか?

 

  • ユタ州のクリーヴランド・ロイド発掘地での46個体の発見
  • 非常に完全度の高い状態で見つかったビッグ・アル、ビッグ・アル2

 

この3つの大発見により、噛む力も含めたアロサウルスに関する研究がより一層行われるようになりました。

 

 

“噛む力の数値”を調べるためのさまざまなアプローチ

 ここからはアロサウルスの噛む力の具体的な数値を割り出した研究論文を紹介していきます。

 

2001年出版論文 約220 kg ~ 364kg

 2001年に出版された研究論文では、ふたつめの大発見で見つかったビッグ・アルの頭骨をCTスキャンし、3Dモデルを作成します。そして有限要素法による解析を行うことで、アロサウルスの噛む力と頭骨の強度を推定しました。

 

 その結果、(顎を閉じる筋肉のみの力を推定した上での)噛む力の最大推定値は、上顎の3・4・5本目の歯に力を掛けた場合で約 2,148 ニュートン(約220キログラム)、上顎の16本目の歯に力を掛けた場合で約3,573ニュートン(約364キログラム)となりました*13

 

 有限要素法による解析は、構造物に対する歪みや力の掛かり具合をコンピューターモデルで予測する方法で、「ものを噛んだときに、古生物の頭骨に対してどのような歪みや力の掛かり方が起きるか」などのテーマにおいて、古生物研究にもよく使われる方法です*14

 

 古生物を対象にして有限要素法による解析を使った初期の研究の一つが、この2001年のアロサウルスの頭骨に対する研究でした。

 

2005年出版論文その1 1.8 t

 2001年の研究論文の筆頭著者である古生物学者 エミリー・レイフィールドは、2005年に出版された研究論文で『アロサウルスの頭蓋を構成する骨同士をつなぐ縫合の生体力学的な意義』を調べるためにビッグ・アルの頭骨の3Dモデルに有限要素法による解析を行い、ものを噛む際の応力やひずみに対してアロサウルスの頭蓋の縫合が大体適応できていることを発見しました*15

 

 そしてこの研究論文での噛む力の最大推定値は18,104ニュートン(約1.8トン)となり、同じ個体であるビッグ・アルを研究対象にしているにも関わらず、2001年と2005年の研究論文では噛む力の推定値が大きく違う結果となりました。

 

2005年出版論文その2 2.8 t

 さらにレイフィールドは、2005年に出版された別の研究論文で『アロサウルス・フラギリス、ティラノサウルス・レックス、コエロフィシス・バウリの、ものを噛む際の応力やひずみに対する頭骨の強度』を調べるため、この3種の頭骨の2Dモデルに有限要素法による解析を行いました。

 

 その結果、コエロフィシスとアロサウルスは前頭骨-頭頂骨周りに最も力が掛かり、一方でティラノサウルスは主に鼻骨周りに力が掛かることが明らかになりました。

 

 この研究論文ではコエロフィシスの噛む力は未推定だったものの、アロサウルスの噛む力を27,238ニュートン(約 2.8 トン)、ティラノサウルスの噛む力を78,060ニュートン(約8トン)と推定しました*16

 

2012年出版論文 890 kg ⇒ 832 kgへ訂正

 2012年の研究論文では、みっつめの大発見で発掘されたビッグ・アル2の頭骨など、複数の3Dモデルを作成し、顎の筋肉も推定した結果、この研究での噛む力の最大推定値は8,724ニュートン(約 890 キログラム)となりました*17

 

 しかしこの研究論文の筋肉に関する計算には間違いがあることがわかり、2018年に8,163ニュートン(約 832 キログラム)へと訂正されました*18

 

2019年出版論文 957 kg

2019年の研究論文では、『あらゆる脊椎動物の噛む力の進化の速度』について調べられました。ひとつめの大発見であるクリーヴランド・ロイド発掘地から産出したアロサウルス・フラギリスの複数個体を合体させたコンポジット頭骨を研究対象にしたところ、噛む力の最大推定値は約9,389ニュートン(約957キログラム)となりました*19

 

 

 これまでの研究におけるアロサウルスの噛む力の最大推定値をまとめると、約2,148 ニュートン(約 220 キログラム) ~ 27,238 ニュートン(約 2.8 トン)となります。『3つの大きな課題』の項で書いたように、研究方法によって同じ個体でも大きく数値が変わるということも、おわかりいただけたかと思います。

 

 これらの数値を基に、アロサウルスの噛む力は、複数の研究での最大推定値が34,522ニュートン(約 3.5 トン)以上のティラノサウルスよりも弱いと考えられています。

 

 しかし、アロサウルスの顎の開く角度はティラノサウルスよりも大きく*20、獲物に噛み付く際の首の動かし方もティラノサウルスを含むティラノサウルス科の恐竜とは違うと解析・考察されているので*21 *22、アロサウルスにはアロサウルスの、ティラノサウルスにはティラノサウルスの狩りのやり方があったと複数の研究*13で考えられています。

 

 

まとめ

 アロサウルスは、ティラノサウルスと並んで今でも大型肉食恐竜の代表として扱われることが多い恐竜です。そして「噛む力は複数の研究で220キログラム以上」と説明することができます。

 

 ティラノサウルスとは生息していた時代も系統も全然違いますし、狩りのやり方も違っていたと考えられているので、ティラノサウルスとも違った興味深さがある恐竜だと私は考えています。

 

 アロサウルスの化石の発見数は非常に多いこともあり、アロサウルスに関する研究が今後さらに増えることを期待しています!

 

 

 

参考文献(本文登場順)

  1. Hendrickx, C., Hartman, S.A., and Mateus, O., 2015. An Overview of Non-Avian Theropod Discoveries and Classification. PalArch’s Journal of Vertebrate Palaeontology, 12(1): 1-73. 本文に戻る
  2. Zanno, L., Tucker, R.T., Canoville, A., Avrahami, H.M., Gates, T.A., and Makovicky, P.J., 2019. Diminutive fleet-footed tyrannosauroid narrows the 70-million-year gap in the North American fossil record. Communications Biology, 2: 64. 本文に戻る
  3. Marsh, O.C., 1877. Notice of new dinosaurian reptiles from the Jurassic Formation. American Journal of Science (series 3), 14(84): 514-516. 本文に戻る
  4. Paul, G.S., and Carpenter, K., 2010. Case 3506 Allosaurus Marsh, 1877 (Dinosauria, Theropoda): proposed conservation of usage by designation of a neotype for its type species Allosaurus fragilis Marsh, 1877. The Bulletin of Zoological Nomenclature, 67(1): 53-56. 本文に戻る
  5. Osborn, H.F., 1903. The skull of Creosaurus. Bulletin of the American Museum of Natural History, 19: 697-701. 本文に戻る
  6. Osborn, H.F., 1912. Crania of Tyrannosaurus and Allosaurus. Memoirs of the American Museum of Natural History, 1: 1-30. 本文に戻る
  7. Gates, T.A., 2005. The Late Jurassic Cleveland-Lloyd dinosaur quarry as a drought-induced assemblage. PALAIOS, 20(4): 363-375. 本文に戻る
  8. Madsen, J.H., 1976. Allosaurus fragilis: a revised osteology. Utah Geological and Mineral Survey Bulletin, 109: 1-163. 本文に戻る
  9. Breithaupt, B.H., 1996. The discovery of a nearly complete Allosaurus from the Jurassic Morrison Formation, eastern Bighorn Basin, Wyoming. In: Bowen, C.E., Kirkwood, S.C., and Miller, T.S., eds. Resources of the Bighorn Basin: Forty-seventh Annual Field Conference. Guidebook, Wyoming Geological Association. Casper, 309-313. 本文に戻る
  10. Foth, C., Evers, S.W., Pabst, B., Mateus, O., Flisch, A., Patthey, M., and Rauhut, O.W.M., 2015. New insights into the lifestyle of Allosaurus (Dinosauria: Theropoda) based on another specimen with multiple pathologies. PeerJ, 3: e940. 本文に戻る
  11. Hanna, R.R., 2002. Multiple injury and infection in a sub-adult theropod dinosaur Allosaurus fragilis with comparisons to allosaur pathology in the Cleveland-Lloyd Dinosaur Quarry Collection. Journal of Vertebrate Paleontology, 22(1): 76-90. 本文に戻る
  12. Chure, D.J., and Loewen, M.A., 2020. Cranial anatomy of Allosaurus jimmadseni, a new species from the lower part of the Morrison Formation (Upper Jurassic) of Western North America. PeerJ, 8: e7803. 本文に戻る
  13. Rayfield, E.J., Norman, D.B., Horner, C.C., Horner, J.R., Smith, P.M., Thomason, J.J., and Upchurch, P., 2001. Cranial design and function in a large theropod dinosaur. Nature, 409: 1033-1037. 本文に戻る
  14. Bright, J., 2014. A review of paleontological finite element models and their validity. Journal of Paleontology, 88(4): 760-769. 本文に戻る
  15. Rayfield, E.J., 2005a. Using finite-element analysis to investigate suture morphology: a case study using large carnivorous dinosaurs. The Anatomical Record Part A, 283A (2): 349-365. 本文に戻る
  16. Rayfield, E.J., 2005b. Aspects of comparative cranial mechanics in the theropod dinosaurs Coelophysis, Allosaurus and Tyrannosaurus. Zoological Journal of the Linnean Society, 144(3): 309-316. 本文に戻る
  17. Bates, K.T., and Falkingham, P.L., 2012. Estimating maximum bite performance in Tyrannosaurus rex using multi-body dynamics. Biology Letters, 8(4): 660-664. 本文に戻る
  18. Bates, K.T., and Falkingham, P.L., 2018. Correction to ‘estimating maximum bite performance in Tyrannosaurus rex using multi-body dynamics’. Biology Letters, 14(4): 20180160. 本文に戻る
  19. Sakamoto, M., Ruta, M., and Venditti, C., 2019. Extreme and rapid bursts of functional adaptations shape bite force in amniotes. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 286(1894): 20181932. 本文に戻る
  20. Lautenschlager, S., 2015. Estimating cranial musculoskeletal constraints in theropod dinosaurs. Royal Society Open Science, 2(11): 150495. 本文に戻る
  21. Snively, E., and Russell, A.P., 2007. Functional variation of neck muscles and their relation to feeding style in Tyrannosauridae and other large theropod dinosaurs. The Anatomical Record, 290(8): 934-957. 本文に戻る
  22. Snively, E., Cotton, J.R., Ridgely, R., and Witmer, L.M., 2013. Multibody dynamics model of head and neck function in Allosaurus (Dinosauria, Theropoda). Palaeontologia Electronica, 16(2) 11A: 1-29. 本文に戻る

 

【著者紹介】恐竜のお兄さん 加藤ひろし

恐竜についての難しい研究論文について、わかりやすく解説しています。
そのほかにも、動物園・博物館・恐竜イベント等をさらに楽しむ為に注目すべきポイントについて紹介します。幅広い知識を子供から大人まで、ご要望に応じた層に分かりやすく対応いたします!
出身地:東京都
誕生日:1993年10月28日
身長:167cm
資格:学芸員資格(博物館資料の収集・整理・保管・展示・調査など)
   大型特殊自動車免許(ブルドーザー・ショベルカー・クレーン・除雪車など)
   車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削)運転技能講習修了

このライターの記事一覧