P-granule:mRNAから相分離の機能を考える(9月12日 Cell オンライン掲載論文)

2023.09.25

小胞体のような膜構造を持つオルガネラ以外の細胞内凝集体は、大小を問わず今や全て相分離による凝集と考えられるようになっている。しかし振り返ってみると、相分離で細胞内のコンパートメントが形成されることが認識されるようになったのは、大きなコンパートメント、例えば核小体や P-granule と呼ばれる生殖細胞に特有の構造が最初だ。

 

面白いことに、核小体は rRNA が集まった相分離体だし、P-granuleはmRNA が集まった相分離体で、RNA が関わると大きな構造になるのは、それだけ RNA が大量に存在しているからと言える。

 

しかし、rRNA であれば種類は限られているので相分離で集まってもいいように考えるが、mRNA となると、化学的には RNA だとしても、その種類は膨大で、それぞれが P-granule に閉じ込められれば、正常な翻訳など出来なくなるのではと心配する。

 

今日紹介するフランス・コートダジュールの CNRS からの論文は、この素朴な疑問に答えてくれる面白い研究で、9月12日 Cell にオンライン掲載された。

 

タイトルは「Self-demixing of mRNA copies buffers mRNA:mRNA and mRNA:regulator stoichiometries(mRNA の自己分離が mRNA同士及び mRNA/調節因子の量変化を緩衝する)」だ。

 

この研究では線虫の卵子形成で見られる P-granule(PG) を対象にしている。卵子の分裂が止まると現れる大きな粒子でこれまでの研究で様々な mRNA を含んでいることがわかっている。

 

まず PG を集めて、そこに濃縮されている RNA を調べると、基本的には静止期の卵子で翻訳が抑制されている mRNA が濃縮していることを発見する。すなわち、翻訳を抑制したい mRNA を翻訳機構から隔離している可能性がある。ただ、十把一絡げに隔離すると、当然問題が起こる。

 

そこで次に個々の mRNA と PG との関係を調べるため、spn-4 あるいは glp-1 をコードする mRNA に焦点を当てて動態を見ると、卵子が静止期に入ると、それぞれの mRNA は一定濃度に達すると速やかに単独で相分離を起こし、小さな相分離体を形成する。その後、単独で相分離した異なる種類の mRNA が集まり始め、大きな PG を形成することがわかった。

 

この過程をさらに詳しく見ると、卵子の翻訳機構が混乱しないよう、翻訳を抑制する mRNA は抑制因子と結合するが、この複合体が一定濃度に達すると、個別の相分離が起こる。こうして出来た個別の相分離体は、今度は抑制蛋白質など蛋白レベルの結合性を基盤にして大きな PG へと発展するというシナリオだ。

 

ではなぜこのような相分離が必要なのか?卵子は静止期に入ると、受精まで長期間既に合成した mRNA を大事に保存する必要がある。それを翻訳を抑える分子が行っているが、それだけでは細胞質への mRNA の漏れ出しを完全に抑えられないことから、相分離、そして PG形成を行うことで、細胞質の翻訳機構から完全に隔離することが出来る。

 

言い換えると、後で必要になる mRNA の利用を抑えてラップに包んだ後、冷凍庫にしまうようなイメージだ。ただ、大事なことは、細胞質での個々の RNA の濃度が低下すると、すぐに冷蔵庫から出し、ラップから出して使えるように出来ている点で、進化の偉大さを感じる。

 

これまで相分離というと、濃度を高めて機能を局在させると言った使われ方が多かったが、RNAが絡むと、細胞質への供給を適正に保つための保存庫としても機能できるとは本当に面白い。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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