道具を作り"ビートを刻む"唯一の鳥・ヤシオウムとは?独創的に愛を奏でるとも

2023.09.16

 鳥はいいですよね!チュンチュンと可愛らしいメジロからジーッと動かないハシビロコウ、鳴き声の美しいウグイスから見た目の美しいクジャクまで、様々な側面から好きになれるものです。

 音楽もいいですよね!作業に集中するためだったり気分を上げるために聞いたり、歌うことだって音楽の一端ですから、こちらも様々な側面から好きになれるものです。


 では音楽を奏でる鳥はどうでしょう……それはもう、すっごいイイですよね!

 今回はそんな音楽を愛し奏でる鳥であるヤシオウムの魅力について、最新の研究とともにご紹介します!

 

そもそもヤシオウムって?

1属1種。特徴的な見た目ですね!

 

 ヤシオウム(Probosciger aterrimus)はオウム科の鳥であり、黒い体に大きなトサカとくちばし、赤い頬が特徴的です。

 その大きく硬いくちばしはタコノキやカンランの仲間などの種子や果物の殻をバリバリと割って食べるのに適しているんですね!

 ただ彼らはくちばしを完全には閉じることができず、常にポカンと半開きになっています。少しだけ開いていることで食べ物を口に含みやすく、そして割りやすくなっているんですね。可愛らしいだけではないんですよ。


 さらにくちばしは大きな種子から小さな種子まで割ることのできる機能を備えているんです!

三日月のような上顎は動かないのです

 

 オウムの仲間では最大級に大きな体と飼育下では最大56歳という記録があるほどのご長寿など、挙げればキリがないほどに特徴的で魅力的なのがヤシオウムです。


 その中でも特別なのが「楽器を作って奏でる」ということ。これは現時点で確認されている中では、ヒト以外の動物で唯一の特徴なのです!

 

オスのヤシオウムはビートを刻む

美しいオウムなのです

 

 魚から哺乳類まで食べ物を取るために道具を使う動物は多くいます。しかし、道具を使う目的が「音を出す」という動物はあまり確認されていません。

 

 オウムにおいてもいくつかの種では道具を使いますが、それらはほとんど飼育下での行動だそうです。

 しかし、オーストラリア北東部のヨーク岬半島に生息する個体群のヤシオウムのオスは枝などを用いて木を規則的かつ周期的に叩く「演奏」を行うのです!

 この「演奏」は主にメスへの求愛のためとされ、求愛のさえずりと、頬を赤くしたりトサカを立てたりする視覚的なディスプレイとともに行われます。


 個々によって「演奏」は異なり、あるオスは遅くて一定間隔の、別のオスでは速くて分散的などの一貫性のあるスタイルが存在するんです。

 これは別のオスと区別するため、リズムで知人と見知らぬ他人とを聞き分けることができるためなどの理由から発達した可能性が考えられます!

基本は"左利き"

 

 そんな動物界の打楽器奏者ですが、最新の研究で叩くための道具にもこだわりがあることが判明しました!


 ヤシオウムが打楽器として打ち付ける木の枝ですが、そのために枝を折り、葉っぱを切り落として、自分好みの太さや長さに整えて使うのです!


 なお一部の個体では加工した硬い種子のさやを組み合わせたり、むしろその莢だけでビートを刻んだりと、手に入る素材で制限されているわけではなく、好みの部分が大きいんですね。


 更に、ヤシオウムの親はヒナを長い間育てたり時間を共にする期間が長いため、父親の道具の好みが子供世代へと引き継がれている可能性があるそうです。車の中で親が流していた曲を好きになる、のようなことかもしれませんね!

 

まとめ

舌や足がかなり器用!

 

 ヤシオウムは奏でるために道具を作って使うヒトを除いた唯一の動物です。チンパンジーのように音を出すために道具を使用する動物はいるのですが、自ら作り出すのはヤシオウムで初めて確認されました。

 

 彼らは個人個人に演奏のスタイルがあって、好きな形のスティックがある。すなわち独創性のある音楽を奏でるオウムなのです!


 木の枝を加工したスティックの作成はおそらくオスの巣を作る習性に由来しています。彼らは空に向かって口の空いた木の洞(うろ)の中に巣を作るのですが、雨で水没しないようにオスは取った木の枝をその中に敷くのです。

 

 すなわち「木の枝を掴む」という段階は彼らが経験していることであり、そこから「木の枝で物を叩く」ということと「メスが興味を示すこと」へは小さなステップだと考えられます。


 そう考えると、巣作りには関与していない種子の莢を加工しての演奏は、彼らが「演奏をするため」だけに行う行動なのかもしれないと考えると、非常に興味深い事象ですね!

 

 これからもこの〝Rockatoo〟の研究に注目していきましょう!


 最後に雑学!

「ヤシオウムの舌先は黒い」

 それではまた!

参考文献

原著論文
・Heinsohn R., Zdenek C. N., Appleby D. and Endler J. A. 2023 “Individual preferences for sound tool design in a parrotProc.” R. Soc. B.2902023127120231271. 

その他参考文献

・Robert Heinsohn et al. ,”Tool-assisted rhythmic drumming in palm cockatoos shares key elements of human instrumental music”. Sci. Adv.3,e1602399 (2017). 

・Shaena Montanari. “In a First, Bird Uses Tools to Make Sweet Music”. National geographic. (2017). 

・Bob Yirka. “Palm cockatoos whittle twigs to make drumsticks for tapping on tree limbs”. Phys.org. (2023). 

・Matthew M Vriends. “Palm Cockatoos (Probosciger aterrimus)”. (2001). AFA Watchbird. 

・Justine Zingsheim. “Probosciger aterrimus palm cockatoo”. Animal Diversity web. 

・Elise Cutts. “Wild male palm cockatoo rock out with custom drumsticks”. (2023). Sciencenes.org. 

 

【著者紹介】三日月 あかり(みかげ あかり)

生き物大好きなあかり君。生き物の情報を求めて日夜ネットの海を漂っている人。動物の研究について紹介して、みんなが少しでも興味を持ってくれるといいな。

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