最近気になった論文をまとめて紹介(7月21日号 Science 掲載論文他)

2023.08.03

1、地震2時間前に予知は可能かも知れない(7月21日号 Science )

フランスコートダジュール大学から発表された研究では。


5分ごとに位置が記録されるGPSステーションのデータが得られたマグニチュード7以上の地震で、GPSステーションのずれを地震前48時間にわたって解析し、2時間前からはっきりと一方向へのずれが生じる場合が多いことを発見する。


個々の地震レベルで言うと79%の確率で予測できることが示されており、東日本大震災でもはっきりと検出できている。


2時間から立ち上がりが始まるので確信が持てるのは1時間前になると思うが、それでも8割の確率で予測できるとしたら、真剣に検討する価値はあると思う。

 

2、米国では認知症になっても車を運転している例が多い(6月29日 Journal of American Geriatrics Scociety オンライン掲載論文)

モントリオール認知症テストで、認知症と診断された635人についてミシガン大学が行った調査で、自動車を運転しているかどうか調べ、なんと61%の人がまだ運転をしていること、またケアをしている人が運転について心配していることを述べている。


スペイン語を話すグループと、ヒスパニックではない白人に分けてみると、白人ではそれでもスコアが低下すると運転をやめる傾向があるが、スペイン語を話すグループは、認知症スコアと関係なく自動車を運転している。我が国ではどうだろうか?

 

3、プラスチックコンテナーに入った食品は電子レンジ照射でマイクロプラスチックに汚染される(Environmental Science &Technology vol57,p9782掲載論文)

ネブラスカ大学からの論文で、ポリエチレンやポリプロピレンに入った食品を電子レンジで3分間照射するだけで、1cm 平方あたり400万のミクロ粒子、20億のナノ粒子で食品が汚染されるという結果で、勿論熱をかけたりしても一定程度の汚染はあるが、電子レンジが圧倒的に多くのマイクロプラスティックを放出することを示している。


例えば子供がプラスティック容器で電子レンジを照射されたお湯を飲むと、22ng/kgという量に暴露されていることになる。


私も職場では、チンして食べる昼食を取るが、こんなに汚染されるとは知らなかった。

 

4,医学領域での大規模言語モデルの現状と将来(7月17日Nature Medicineオンライン掲載論文)

医学領域での大規模言語モデル(LLM)についてわかりやすく書かれ他総説で、pretraining, fine-tuning, reward, promptによるtuningなどわかりやすく書かれているとともに、ChatGPTやPaLM以外にも今後多くのLLMが医学領域へ進出することがよくわかる。


内容は紹介しないが、医療分野のLLM 紹介としては出色。


以上、夏休みの息抜きです。

 

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

このライターの記事一覧