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このHPで何度も取り上げているが、覚醒時に経験した様々な記憶は、睡眠中に長期間持続できる記憶へと変換される。この時短期記憶を担うシナプスが取捨選択され、最終的に形態学的にも機能的にも異なる安定したシナプス結合が形成される。
AIのニューラルネットでこのような再帰的なパラメーターの自動書き換えが起こっているのか知らないが、おそらく睡眠中の記憶の固定化という現象は、生身の脳の特徴の一つではないだろうか。
この過程の生理学は動物実験、あるいは人間の脳波を用いた研究で解明が進んでおり、睡眠に特徴的な遅い脳波に、12−16Hzのスピンドル、さらに周期が100Hz前後のリップル波が同期することと相関していることがわかっている。
また、この同期に対応する個々の神経興奮についても明らかになっているが、神経興奮の記録が簡単でないことから、人間で個々の神経活動と脳波の同期の関係を正確に調べた研究は出来ていない。
今日紹介するオックスフォード大学からの論文は、てんかんの診断目的で内側側頭葉に、個々の神経細胞の活動を拾うクラスター電極と、領域の活動を計測する(脳波に相当する)電極を留置した患者さんの睡眠時の記録を分析し、各周期の脳波同期と個々の神経興奮との関係を調べた研究で、7月10日 Nature Neuroscience に掲載された。
タイトルは「How coupled slow oscillations, spindles and ripples coordinate neuronal processing and communication during human sleep(睡眠時に同期した徐波、スピンドル、リップルが各神経の処理や連合過程を調整するのか?)だ。
動物実験では既に行われているので、新しいわけではないが、やはり人間の脳活動として目の当たりにすると感動する。
まず除波、スピンドル、リップルの同期がどう始まるかを調べている。まず、スピンドルなしでもリップルが除波と同期することはあるが、ほとんどの場合スピンドルがリップルの同期を促進する関係にある。
時間的にはまず除波の立ち上がりにスピンドルが同期を始める。そして、スピンドルがピークに達する少し前からリップルの同期が加わることがわかる。
次に3種類の波と個々の神経興奮の関係を見ると、除波の立ち上がりで神経興奮が高まるが、除波が低下するときは神経興奮が急速に、おそらく動的な過程で抑制される。
また、スピンドルの場合、この波に合わせて神経興奮もアップダウンする。最後にリップルが発生すると、急激な短い神経興奮が起こる。
以上の結果から、除波が始まることで、続くスピンドルとリップルの発生時間が決まる。リップルは、除波に合わせて神経興奮の閾値を下げることで、リップルの発生とこれに伴う短い同期した神経興奮が誘導される。
このタイミングで、自発的な神経興奮を同期させるが、このタイミングは、内側側頭葉全体の神経で同期して起こっている。
すなわち、内側側頭葉を始め、領域間で同期した神経活動を、決まったタイミングで起こすことが、人間でもシナプスを介する記憶の固定化に重要であることがわかる。
結果は以上で、残念ながら夢や記憶テストと言った行動的テストが行われていないため、示された現象が記憶の固定化に関わるという結論を出すわけにはいかないが、しかし巧妙な同期メカニズムが睡眠中に誘導されていることははっきりした。
勿論、全体を調整する除波がどのように始まるのかも今後の重要な問題で、これが解明できると新しいAIニューラルネット形成にもつながる様に思う。