子供のT細胞は腸や肺で育つ(7月7日 Immunity 掲載論文)

2023.07.29

小児期のワクチンの有効性から分かるように、発達期に免疫記憶を成立させることが、我々の免疫システムの形成に重要な過程であることがわかっている。ただ、免疫記憶がどのように発達してくるのか、ヒトでの研究は研究のための組織の入手の難しさから遅れていた。


今日紹介するコロンビア大学からの論文は、さまざまな原因で亡くなり、臓器移植のドナーになった0歳から10歳までの子供で、移植臓器摘出時に腸や肺、及びリンパ組織も摘出して、免疫記憶細胞の発達を調べた研究で、7月7日 Immunity にオンライン掲載された。


タイトルは「Site-specific development and progressive maturation of human tissue-resident memory T cells over infancy and childhood(ヒトの組織常在性記憶T細胞の発生と小児期での急速な発達)」だ。


分子マーカーを用いて肺と空腸での、記憶αβT細胞の発達を見ると、最初の2年で急速に増加し、3歳ぐらいでピークに達するが、元々粘膜組織に多いγδT細胞は徐々に減少する。


記憶αβT細胞を各組織間で比べると、特に空腸では1週間以内にCD4、CD8共に、ナイーブT細胞の数を上回るほどの増加を示し、2歳までのほぼ全てのT細胞が記憶型のT細胞になっている。発達はずっと遅いが、肺でも同じ傾向を認める。


一方、リンパ節や脾臓で記憶細胞の発達は遅い。すなわち、記憶細胞は抗原に最も晒される腸管で形成される。


ただ、初期段階の記憶細胞は炎症性サイトカインの合成など、機能面ではまだ発達しておらず、インターフェロンやTNFの分泌能の発達には2-3年かかる。


この差を調べるために、腸や肺での遺伝子発現を調べると、転写レベルで大きな変化が起こっていることがわかり、乳児期までは自己再生型幹細胞の性質を維持しているが、その後炎症性サイトカイン合成など、成熟型の記憶T細胞へとシフトしていくことがわかる。


興味深いのは、腸管ではTh2型の記憶の成立が目立っており、これが食品などに対するトレランスを誘導しているのかも知れない。


このような記憶細胞の発達に伴い、最初存在していた多様なT細胞レパートリーは、徐々に多様性を減じて行くことがわかる。すなわち、腸管に存在する抗原に反応して、より特異的な抗原に反応する記憶T細胞が増加することが明らかになった。


また所属リンパ節を見ると、腸管で発達した記憶細胞がリンパ組織へと移動することも確認できる。


結果は以上で、文字通り記憶T細胞は特に腸管で発達し成長することが見事に示された。わかっていたこととは言え、実際に確認できたインパクトは大きい。人間で組織を精密に調べることの重要性が改めてわかった。


米国の様に、幼児から臓器移植ドナーになることを認める国では、腸で起こる免疫の発達という最も大事な過程がさらに解き明かされていくと期待できる。

 

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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