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みなさんこんにちは!CEなかむーです!
今回は多くの臨床工学技士が携わっている人工透析療法で使用されている「人工腎臓」について解説していきます。人工腎臓とはいったいどういうものなのか?わかりやすく深堀していきたいと思います!
CONTENTS
古くは中世ヨーロッパや近代アメリカ合衆国で行われてきた「瀉血(しゃけつ)療法」がその起源といわれています。「瀉血」とは悪い血を体内から除去すること(血を抜いて捨てる)をいい、文字通り体から悪い血を抜けば、治療できると当時は考えられていました。
実は日本にも沖縄の伝統的な民間療法としても「ブーブー」「乱切」という瀉血療法があったとされています。その際の消毒には沖縄の蒸留酒「泡盛」を使用していたとか。
医療技術が発展し、高度な医療が受けられるようになった現在でも血液の病態によっては瀉血を選択して治療の一環として行うことがあります。
中世ヨーロッパの瀉血療法
血液浄化とは血液中の病因物質を除去して、治療する方法の総称です。血液には赤血球や白血球と呼ばれる血球成分、血漿やそれに含まれる電解質などを含む液体成分で構成されています。これらの構成成分に少しでも異常があると体は不調を訴えます。血液は「液体の臓器」とも呼ばれることがあり、その役割としては酸素と二酸化炭素の運搬、細胞のガス交換、栄養素の運搬、熱の運搬があります。
血液浄化療法は大きく分けて2つの領域があり、腎臓病慢性期治療の「人工透析療法」と急性期/免疫系治療の「アフェレーシス療法」に分類されます。臨床工学技士の多くは腎不全治療として最も一般的に行われている「人工透析療法」を実施している病院や透析クリニックで働いている方が多いです。
人工透析のことを「血液透析」とも言い、英語表記では「Hemodialysis:HD」となります。透析方法にもいくつか種類があるのですが、多岐に渡るため今後少しずつご紹介していきますね。
一般的に人工透析が必要な方は腎臓病になったことでおしっこが出なくなったり、おしっこをうまく作ることができなくなった患者様です。おしっこが出なくなると、その成分や水分が体の中に残ったままとなり、体が浮腫んだり、動悸や悪心、息切れなどがして様々な全身症状が現れます。
これを治療するために一時的に体外に血液を導出して、血液中からおしっこの成分である尿毒素(尿素や尿酸など)と水分を「人工腎臓」と呼ばれる医療器材を使用して除去しています。
「透析室」という専用のフロアで治療を行い、1回の治療は約4~5時間で、血液を取り出す方と血液を体に戻す方で大きな針(献血に用いられるようなサイズ)を腕に2本刺し、週に3回ほど通院して治療します。
治療時間は外来での検査等に比べると比較的長いのですが、その間患者様はベッド上でテレビを見たり、音楽を聴いたりして過ごします。場合によってはお食事を摂ることもあります。また、日中お仕事をされている方は「夜間透析」といって、仕事が終わった後に病院へ向かい、透析治療を行ってから帰宅します。
また近年都市部では「オーバーナイト透析」といって仕事終わりに病院で一泊し、夜就寝中に人工透析を行うような施設も増えてきました。
以前はとても過酷な治療で毎透析中に嘔吐を頻回に繰り返す患者様もいて、透析室には「My洗面器」を持参する方もいらっしゃったそうです。
現代では透析治療は医療技術の進歩と共に安全に施行できるようになり、「医療サービスの質」を選べる時代になったことで透析病院の外観や室内の設備が高級ホテルのような施設も増えてきています。
一般的な透析室の様子
さて、血液中から水分をどうやって除去するのか?と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか?
実は人工透析を行うためには0.1ml単位の厳密な水分コントロール機構を備えた専用の医療機器を使用します。この装置のことを「透析患者監視装置(コンソール)」といいます。透析患者監視装置は治療中に患者様一人につき必ず1台必要で、透析専門病院では1つのフロアにずらーっと50台以上も並んでいる施設もあります。
その他にも透析を行うために様々な医療機器や医療材料を用いるのですが、今回は最も肝心な「人工腎臓(ダイアライザ)」について解説していきましょう。
透析患者監視装置(イメージ)
私たちはこの人工腎臓のことを「透析をするもの=Dialyzer:ダイアライザ」と呼んでいます。
人工腎臓を用いた治療が世界で初めて実施されたのはおよそ100年前の1914年で、米国のジョン=J=アベル氏によって行われた動物実験です。
当時は植物由来のセルロースを主成分とするセロファンを透析膜として使用し、治療中に血液が凝固しないようにヒルから採取された「ヒルジン」という血液を固まりにくくする成分を用いて治療していました。
皆さんがセロファンと聞いて思いつくものは工作などに使用する誰もが一度は使ったことがある「セロハンテープ」ではないでしょうか。実はダイアライザの初期に使用されていた膜素材もこのセロファンを幾層にも重ねて作った「積層型ダイアライザ」でした。この積層型ダイアライザは改良を重ねつつ、現在でも透析治療で使用されています。
現在の透析治療でダイアライザの主流といえばポリスルフォンなどの合成高分子膜をストロー状に形成し、約1万本束ね筒状に作った「中空糸型ダイアライザ」です。この中空糸という言葉には「中が空洞」という意味があります。驚くべくことにただストロー状になっているのではありません。なんとその糸自身も「スポンジ状の構造物」として形成されています。
この中空糸の内側(ストローの内側)を血液が、外側(ストローの外側)を透析液と呼ばれる水溶液が還流することで毒素を除去したり、電解質のバランスを整えたりして透析治療を行っていきます。一度この中空糸を通っただけでは血液中の毒素の除去や電解質のバランスを整えることが不十分なので、全身の治療を行うために4~5時間という長い時間が必要になります。
「透析」については、患者様からよく「血液を入れ替える治療だよね」とお話を伺うことがありますが、実際のところは少し意味が違います。血液を体外に導出しているのでそのように思われることは自然なことだと思いますが、厳密にいうと「血液を入れ替える」治療ではなく「ご自身の血液から毒素を取り除いて、全身のバランスを整える治療」と考えていただいたほうが治療の意味としては正しいのかもしれません。
いかがでしたか?今回は人工透析について少し専門的な内容をお話ししました。人工透析はとても奥が深い領域なのですが、少しずつ分かりやすく解説していこうと思います!
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