あなたの生活リズム、大丈夫? 体内時計の乱れが腸内細菌を介して肥満を誘発する話

2023.07.13

こんにちは!現役腸内細菌研究者の菌次郎です。

皆さんこんな経験はありませんか?面白い動画があったからもう少し見てから寝よう......今日は時間がないから朝ごはんは食べないで良いや……。なんとなく健康に良くないことだとは分かっていても、ついつい生活のリズムを乱してしまいますよね。

しかし、そういった生活リズムの乱れが私たちの腸内細菌に影響を与え、肥満のリスクを高める可能性があることが研究の結果から分かってきました[1]

概日リズムと健康の関係

概日リズムとは、生物が約24時間周期で繰り返す生理現象のことを指します。人間の場合、体温変化やホルモン分泌、睡眠-覚醒周期などが概日リズムに含まれます。ヒトの体内時計の周期は約25時間であり、地球の自転周期とは約1時間のずれがあります。私たちはそれを陽の光を浴びるなどで日々調整しています。概日リズムが乱れると睡眠障害や自律神経系が乱れるなどといった様々な問題を引き起こします[2]

実はその概日リズムは私たちのお腹の中に住む腸内細菌も持っており、そのリズムが崩れると肥満になるかもしれないという研究結果があります。

腸内細菌にも概日リズムがあった

腸内細菌の日内変動を調べるためにマウスを12時間周期で明暗を繰り返す部屋で飼育し、6時間毎の糞便を採取し、腸内細菌の割合を解析しました。その結果、いくつかの腸内細菌の割合がリズミカルな変動をしていました(図1)。

次に同様に遺伝子の機能レベルで解析したところ、エネルギー代謝、DNA修復、細胞増殖など「増殖」に関わる機能は暗期で良好に実行されるのに対し、明期では解毒、運動性、環境感知など「維持」に関わる経路が活性化していました。



以上のことから腸内細菌も日内で一定のリズムを刻んでいることが明らかとなりました。では腸内細菌達はどのようにして時間を把握しているのでしょうか。

腸内細菌の概日リズムは食事の時間によって制御される

腸内細菌の概日リズムについてさらに深掘りしてみましょう。

食事は宿主の概日リズムを調整する因子の一つであると同時に、概日リズムは食事を取りたいと思うタイミングを調整しています。先ほどの実験で用いたマウスも概日リズム機能を欠損させた影響で、食事のタイミングが不規則になっていました。このことから、先ほどの結果は、食事のタイミングの変化による概日リズムの欠如から生じた二次的なものだと考えられます。

そこで、通常マウスの食事のタイミングを昼のみまたは夜間のみといった時間制限を設けました。その結果、宿主の概日リズムが変化しただけでなく、それと同調するように腸内細菌の日内変動も変化しました(図2)。



このことから私たちの食事パターンは腸内細菌の概日リズムに大きな影響を与えているようです。

不適切な睡眠パターンは腸内細菌の概日リズムを乱し、肥満のリスクを高める

これまでの結果から宿主の概日リズムと腸内細菌は深く関わっていることがわかりました。ヒトにおいて概日リズムが崩れる要因の一つとして不規則な睡眠パターンが挙げられます。そこで睡眠パターンの変化(時差ボケ)が腸内に与える影響を調べました。

マウスを 3 日ごとに 8 時間の時差にさらす"時差ボケモデル"を使用して、4週間に渡りマウスを観察しました。その結果、時差ボケマウスでは腸内細菌の日内変動が無くなりました。また、善玉菌として知られる乳酸菌が減少し、大腸がんのリスクファクターとして知られるフソバクテリウムが増加するといった変化も観察されました。

さらに、この時差ボケマウスに高脂肪食を与えると通常マウスよりも体重が増加し、耐糖能も低下していることから、生活習慣病のリスクが上がっている可能性があります。

最後にこの研究では8時間以上時差のあるフライトをする2名のヒト被験者からフライト1日前、1日後、2週間後に便を採取し、腸内細菌叢を調べました。その結果、フライトの1日後に肥満の人に多いファーミキューテス門の細菌が増加していました。さらにこれらの便を無菌マウスに移植した結果、フライトの1日後の便を移植されたマウスの体重が増加しました(図3)。

このことから時差ボケは腸内細菌を変化させ、肥満のリスクを高めるようです。

まとめ

今回紹介した研究から、概日リズムが乱れると、腸内細菌の変化を介して肥満を引き起こす可能性があることがわかりました。腸内細菌も人と同様に概日リズムを持っており、食事や睡眠のパターンによって制御されていることが明らかとなりました。また、腸内細菌の日内リズムが乱れると肥満のリスクが上がることがマウスの結果から示されました。

頻繁に海外旅行をする人でなければ今回の実験のような8時間の時差ボケを何度も経験することは少ないかもしれませんが、朝ご飯を抜いたり、休日に夜更かしをしたりしている人は実質的に時差ボケをしているのかもしれません。このような生活を続けているうちに段々と腸内細菌のバランスが乱れて生活習慣病のリスクが上がっているかもしれないので生活リズムには気をつけましょう。

また、ダイエットをしてもなかなか上手くいかない人は、食事の量だけでなく食事の時間やその他の生活習慣も含めて見直してみると良いかもしれないですね。

 

それでは、お腹の中のお友達(菌たち)と健やかな日々をお過ごしください。

【著者紹介】菌次郎

東京農業大学院農学研究科 バイオサイエンス専攻博士前期課程修了
「サイエンスライター」兼「現役腸内研究者」。多くの人に菌の魅力を伝えるために活動中。

参考文献

[1] Thaiss CA, Zeevi D, Levy M, Zilberman-Schapira G, Suez J, Tengeler AC, Abramson L, Katz MN, Korem T, Zmora N, Kuperman Y, Biton I, Gilad S, Harmelin A, Shapiro H, Halpern Z, Segal E, Elinav E. Transkingdom control of microbiota diurnal oscillations promotes metabolic homeostasis. Cell. 2014 Oct 23;159(3):514-29.  本文へ戻る

[2]https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-006.html 本文へ戻る