LINE公式アカウントから最新記事の情報を受け取ろう!
皆さんこんにちは。福岡工業大学の赤木紀之です。
「こんなに苦労して受験勉強して大学を目指しているけど、大学って何をするところなんだろう」
きっと多くの高校生が一度は考えることではないでしょうか。ただ漠然と「大学はもっと勉強するところ」と考えている人も多いと思います。でもよく考えて下さい。私達は小学校入学以来、ずっと学校で勉強してきました。これ以上、一体何を勉強するのでしょうか。あるいはもしかすると「いい会社に就職するには、大学くらい出ておかないと」という理由から大学を目指している人もいるかもしれません。
これまでの人生で私は、学生あるいは教員として、理学部、医学部、工学部の理系三学部に所属しました。また、国立大学、公立大学、私立大学に所属しました。そんな私が考える「大学は何をするところか」。今回は特別編として高校生向けに紹介したいと思います。もちろん、大学生や一般の方々にも読んで頂けると嬉しく思います。
CONTENTS
受験勉強で難しい試験問題に取り組み、無事に大学に合格すると、なんだかそれが自分のゴールのように感じるかもしれません。一方で、希望していた大学に不合格で、思い描いていた未来が崩れてしまうと、やる気を失ってしまう人もいるでしょう。
大学入試は人生における一つの通過点にしか過ぎません。それはゴールではありませんし、進路の行き止まりでもありません。むしろ、新たなスタートラインです。時には、他の人より少し後ろのスタートラインに立つこともあるかもしれません。でも、だからこそ見えてくる新しい景色もあります。大学入学自体を目的にするのではなく、少し先の未来を見据えてみましょう。
高校生の皆さんにぜひ覚えておいて欲しいことは、大学に入学したからといって、いきなり自分の好きな分野だけを勉強するわけではない、という点です。多くの大学では初年度には一般教養科目を履修することが求められます。これは、今まであまり接点のなかった学問に触れる絶好の機会です。
例えば、外国語は代表的な例です。英語に加えて別の言語を学ぶことが求められる大学も少なくありません。さらに、理系に進学した学生が文系の科目(あるいはその逆)を履修することもあります。これは知識の偏りを解消し、将来、社会の中で生きてゆくために必要な知恵を身につけるための一歩となります。
現代では多様性の尊重がますます重視されており、それは学問の世界も同じです。学術的多様性を理解することはとても重要で、自身の知識の拡充に加え、イノベーション創出も期待できます。まずは「いろいろな学問に触れてみる」という意識を持ちましょう。自身の興味や適性を発見し、幅広い視野を持つことができます。
学生さんの勉強方法を見ていると「教科書を暗記することが勉強」と思っている人がとても多くいるように感じます。確かに必要最低限の暗記は必要ですし、資格試験などでは暗記の量によって合格の可能性が高まるかもしれません。
しかし、現代ではインターネットが身近にあり、ちょっとした単語の忘れもスマートフォンで簡単に調べることができます。そのため、単語を暗記することよりも、その単語の意味や使い方を理解することが重要だと言えます。
例えば、「DNA」「遺伝子」「ゲノム」といった単語を知っていたとしても、この3つの違いを明確に説明できるでしょうか?それぞれの意味をしっかりと理解していないと、正確な説明はできません。
大学では、問題集や模擬試験があることは珍しいです(医学部など一部の学部は除く)。そのため、自分に合った勉強法を見つけて、自由に好きなように学ぶことができます。
詳細な情報は私の別の記事「大学生が知っておくべき勉強の仕方」にも書きました。是非ご覧ください。
ほとんどの大学では留学生を受け入れており、留学生との交流の機会があります。普段の大学生活ではあまり留学生と接することはないかもしれませんが、大学からの情報を見ていると、日本人学生と留学生との交流イベントが開催されていることがあります。そうしたイベントに積極的に参加し、異なる国の人々と交流を深めることをおすすめします。
「自分は英語が苦手だから」と考える人も多いかもしれませんが、入試で高得点を取るための英語力と、留学生と交流するための英語力は異なります。留学してくる外国人のみんなが英語を母国語としているわけではありません。英語がカタコトでも問題ありません。単語を並べるだけでも意思疎通ができるでしょう。
また、夏休みなどの長期休暇を利用して海外に出るのも良いでしょう。「トビタテ!留学Japan」などの返済不要な奨学金への応募を検討し、半年から1年の海外留学を経験することもおすすめです。
異文化や多様性に触れることで、世界の広がりや自身の生活範囲の狭さに気付くことができます。異なる文化を知ることや多様性を理解することは、将来の人生を豊かにする貴重な経験となるでしょう。グローバル社会で活躍するためにも、必ず良い経験になります。
大学生活では、講義だけでなく、部活動やサークル活動、アルバイトや社会貢献活動を通じて、多くの人と出会う機会があります。これにより、今まで接点のなかった人々との新たなつながりが生まれることでしょう。このような「新しい出会い」を大切にし、人的なネットワークを築くことができます。
しかしそれは、「SNSで繋がった状態」だけがネットワークの広がりを意味するわけではありません。ネットワークの形成は「有機的な結びつき」を重視するべきです。ここで言う「有機的な結びつき」とは、感情的なつながりや協力関係、組織的な連携などを指します。情報交換を通じて、質の高い関係性を築くことが重要です。
できれば同世代だけではなく、5-10年ほど年上の人とのつながりができると良いと思います。なぜならば、5-10年先を生きている先輩は、みなさんのモデルケースになる可能性があるからです。「10年後、あの人みたいになりたいな」という人が見つかれば、「あの人は10年前、つまり自分と同じ年齢の時、何をしていたのだろう」という見方ができるからです。誰もが同じ人生を歩むわけではありませんが、モデルケースとなる人の生き方は、とても参考になります。
大学生活は、自分自身の人間力を高める貴重な機会です。人間力とは、コミュニケーション能力、リーダーシップ能力、自己管理能力、問題解決能力、協調性、創造性、道徳的倫理観など、個人の能力や思考力の総称です。これらの能力を講義や研究、部活動やサークル活動を通じて、ぜひ養ってほしいと思います。
これらの能力は、「先生に指示されたことをただ機械的にこなす」という姿勢では育ちません。単に課題をこなすだけでなく、課題に対してどのようなアプローチを取り、どの程度深く調べ、どれだけ分かりやすくまとめ、完成度を高めるかに注力することが重要です(問題解決能力、創造性)。また、グループ課題では仲間との協力を通じて取り組む機会もあるでしょう(リーダーシップ能力、コミュニケーション能力、協調性)。期限までに提出するためには、計画を立てて進めることも必要です(自己管理能力)。インターネット情報や友人のレポートの丸写しなどは問題外です(道徳的倫理観)。
また、大学4年生では卒業研究に取り組みます。卒業研究は与えられた研究課題を進めるだけでなく、研究活動を通じて先に挙げたさまざまな人間力を養う機会となります。大学で学んだことと将来の仕事との関連性が明確でないこともあるかもしれませんが、大学生活で培った人間力は、社会での活動や家庭生活でも必ず役立つでしょう。
どの学問も広範かつ深遠であると言えます。高校の教科書では、ほんの数ページで終わる内容が、実は専門書一冊に匹敵するほどの広がりを持っていることもあります。ある特定の分野だけで「ここまで学問は広く深いのか」と感心してしまいます。
例えば、高校の生物の教科書に書かれている「山中4因子を細胞に導入すると、iPS細胞を作ることができる」という一文を考えてみましょう。この一文には、研究者たちの計り知れない努力や膨大な量の試行錯誤、トライアンドエラーが隠されていることを大学で知ることができます。
この例に限らず、全ての学問は、先人たちの粘り強い努力と研究の積み重ねからなる歴史です。研究はロマンティックであり、学問を深く学ぶほどに、探求の果てがなく、さらに深い洞察に到達することができます。このような学術的な追究ができるのは、我々人類の特権です。全ての大学生が研究者になるわけではありませんが、人類が築き上げた叡智を知るだけでも、十分に価値があると考えます。知的好奇心を存分に満たせる場所-それが大学です。
最後に皆さんに質問です。なぜ皆さんは大学に進学するのでしょうか?この問いに対する回答を言語化することが非常に重要です。
私自身、高校時代を振り返ると、意外にも前向きな思いで大学を目指していました。「生物学を深く勉強したいから」という純粋な興味が、私を大学進学へと駆り立てていたと思います。就職の有利さや、将来の研究者への道への志望など、先の目標はあまり考えていなかったかもしれません。ただ、高校で学んだ生物学が本当に興味深く、それをより深く追求したいという思いだけでした。今思えば、もっと多様な可能性を検討し、さまざまな経験を積むこともできたかもしれません。
この記事では私の視点から「大学は何をするところか」という点を紹介しました。それを踏まえて、皆さん自身がなぜ大学に進学するのか、ぜひこの問いに真摯に向き合ってみてください。
なぜ大学に進学するのですか?