とろける暑さに立ち向かえ!汗ってどうかくの?

2023.07.10

 連日暑い日が続く。外出するだけでHPが削られる日々が続いているが、皆さんいかがお過ごしだろうか? 葉月は……もうダメかもしれない。熱々のアスファルトに干からびたカッパが落ちていたら、葉月だと思って水をかけてほしい。こまめな水分補給を心がけて、厳しい夏を一緒に乗り切ろう。無理はダメ、絶対。

 暑くなると避けては通れないものが汗だ。日中の暑さに身を任せているだけで、ダラダラと頬や背中を汗が伝う日々は、夏であることを否応無く実感させてくれる。しかしながら、何かをしたわけでもないのに、体表から水滴がにじむ様子は、改めて考えてみると不思議な現象だと思う。そこで今回は、私たちが汗をいつ、どこで、どのようにかいているのかを順を追って解説していく。

 まずは、どんなタイミングで汗をかくのか見てみよう。

 

 

少し詳しく 〜発汗のタイミング〜

 突然だが、皆さんは打ち水をしたことはあるだろうか? 夏の庭先や路面に水を撒くことで涼をとろうという、生活の知恵だ。涼しい雰囲気を作る知恵ではなく、実際に温度が下がる[注1]。気化熱といって、物質が液体から気体になる際に周囲から熱を吸収するためだ。

 温度を下げるのに気化熱を利用するのは、夏の庭先だけではない。私たちも同様だ。私たちの体は、日差しや運動などで上がりすぎた体温を、汗が蒸発する時の気化熱によって冷ましている[注2][注3]体を冷ますための発汗温熱性発汗という。温熱性発汗は足の裏以外の全身から汗をかく。

 では汗をかくのは暑い時だけだろうか? 少し、これまでの生活を振り返ってみてほしい。

 例えば大切な発表の時や、想い人のすぐそばにいる時などはどうだろう? 緊張とともに、ジワリと汗がにじむのを実感した経験がある人も多いはずだ。また、周囲が気にならなくなるほど何かに熱中している時も、汗をかいていたような気がする。猛烈な痛みに耐えながら、衣服を汗が濡らした経験もあるだろう。熱以外の刺激がトリガーになる発汗精神性発汗という。精神性発汗では、主に手のひら、足の裏、脇の下から汗をかくことがわかっている[注4]

 ご存知のように、温熱性発汗も精神性発汗も、私たちは意識的にコントロールすることはできない。抑えようと思っても出るときは出る。ただ、意識的にではないが、ヒトの体は確かに発汗をコントロールしている。

 それではどのように発汗をコントロールしているのだろうか?

 続いて発汗を司る器官について見てみよう。

 

 

さらに掘り下げ 〜発汗の制御〜

 例えばこんなことを頼まれたとする。どう思うだろう?

 午前中の時点で晴れていた場合100件メールを送り、雨が降っていた場合にはメールを送らない。ただし、午前7時時点で曇っていた場合には25件メールを送り、そこから雨が降った場合同じ宛先に25件のメールを送る。さらに(以下省略)。

 ヒトの体も同じだ。発汗をはじめ、環境の変化によって、組織や器官は常時様々な対応をしている。そのいちいちを、頭で考えて制御していてはすぐにパンクしてしまう。そのため、1つの中枢から自動で一律に制御している。このように、自動的に働きかける神経系を自律神経系という。

 自律神経系は脳の間脳かんのうという領域が最高中枢を担っており、交感神経と副交感神経からなる。交感神経は主にエネルギーを消費するように働き、副交感神経は主にエネルギーを保持するように働く。器官や組織の中には交感神経と副交感神経の両方の制御を受けるものもあるが、発汗は(温熱性発汗と精神性発汗のどちらも)交感神経によってのみ制御されている。

 

 温熱性発汗の場合も、精神性発汗の場合も、その中枢は間脳の視床下部という領域が司っている。視床下部は、副交感神経を通じて心臓の拍動を抑制し、汗を分泌する器官である汗腺かんせんに交感神経を通じて発汗を促す[注5][注6]。これにより発汗がコントロールされている。

 それでは汗腺はどのように汗を分泌しているのだろうか?
 続いては発汗時の汗腺の動きを見てみよう。

 

 

もっと専門的に 〜汗の分泌〜

 暑くなると、水遊びが楽しくなる。蛇口に繋いだホースから勢いよく水を噴射し、互いに掛け合うと、とても涼しい。

 実は汗腺も、蛇口につながれたホース同様、片方が閉じた管状の組織だ[注7]。ホースとの違いとしては、開口部をのぞいて全体が皮下に埋まっている点だろうか。ホースが蛇口から水の供給を受けるように、最も根深い部分には汗を管内に分泌するための分泌部が存在する。分泌部で分泌された汗は、導管部を通って表皮に向かって進み、汗口かんこうから吹き出す。

 分泌部は主に、糖タンパク質を分泌する暗調細胞水と電解質を分泌する明調細胞、管内に溜まった汗を絞り出すための筋上皮細胞からなる。

 

 ここで一つの疑問が生まれる。暗調細胞と明調細胞はどのように分泌物を分泌しているのだろう?

 私たちの細胞は脂質二重膜という膜で覆われているが、細胞内にも脂質二重膜で覆われた袋が存在する。袋の膜が細胞の膜に触れると、二つの膜が融合し、やがて細胞膜の一部になる。袋の内側だったところは、融合後は細胞の外側になるため、袋の中にあらかじめ分泌したい物質を詰めておけば、細胞外に排出可能というわけだ。

 

 

ちょっとはみ出し 〜汗と向き合う〜

バイオマーカー

 汗の主成分は水だが、水以外のものも含まれている。例えば、汗を舐めて塩辛さを感じたことがある人は多いだろう。塩分のみならず、乳酸や尿素など多種の分子が含まれている。当然の話ではあるが、汗腺は無から汗を生み出しているわけではない。したがって、汗に含まれている分子はその人の体内の状態をある程度反映していると言える。これらの分子の有無や量を、病気と関連づけることができれば、早期診断や定期観察に利用できる。このように、健康状態を観察する指標となる分子をバイオマーカーという。

 程度の差こそあれ、汗は何もせずともかくため、汗を採取するだけで健康状態が診断可能であれば、血液検査に比べてハードルが小さい。葉月は大の注射嫌いなので、今すぐにでも普及してほしいのだが、分析に十分な量の確保が難しいなど課題も多いようだ。

不快感に立ち向かう

 ここまで散々、「汗は健康維持の証」「汗は体内の状態を反映する鏡」と伝えてきたが、それはそれとして汗をかくのはイヤだという人は少なくないだろう。葉月もそうだ。服がベタつくし、蒸れるし、臭いも気になるし……。

 そんな現代人のため、化粧品メーカーや洗剤メーカーを中心に、汗の不快感に立ち向かった商品が開発されている。汗口を塞ぎ汗が出るのを物理的に抑える制汗剤や、汗に濡れてもベタつかない柔軟剤など、汗の不快感解消に向けて各社様々なアプローチで研究を行なっている。

 汗との付き合い方も少しずつ変化しているようだ。

参考文献

  • 嶋田正和ら. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 生物図録』. 数研出版.

  • Abraham L. Kierszenbaum, Laura L. Tres. 『組織細胞生物学 原初第5版』. 南江堂.

  • 藤井 直人. 『ヒトにおける発汗調節の末梢メカニズム』. 日本生気象日本生気象学会雑誌 2022年 59 巻 1 号 3-13.

  • 田村 直俊, 中里 良彦. 『 味覚性発汗再考 ―1.生理的味覚性発汗と味覚発汗反射― 』. 自律神経 2020年 57 巻 4 号 193-199.

  • 峰松 健夫. 『バイオマーカーを用いたスキンアセスメント技術に 関する最近の研究動向』. 日本フットケア学会雑誌 2019年 17 巻 4 号 202-204.

  • 山口 光明, 植松 潤平. 『ドライ効果を有する柔軟仕上げ剤の開発』. 繊維製品消費科学 2019年 60 巻 12 号 1085-1087.

  • 佐野 智生ら. 『クロルヒドロキシアルミニウムの 制汗効果に及ぼす共存成分の影響』. 日本化粧品技術者会誌 2021年 55 巻 1 号 45-51.

脚注

[注1] とはいえ、時間帯と水を撒く場所、量をよく考えないと、湿度が急上昇して簡易サウナが出来上がるので、注意が必要だ。正しいやり方は割愛するので各自調べてほしい。 (本文へ戻る)

[注2] ヒト以外の身近な動物だと、イヌとネコは足裏から、ウシとブタは鼻先から汗をかく。ヤギとウサギは汗をかかない。なお、カッパは大抵ビッチャビチャだ。 (本文へ戻る)

[注3]ただ、発汗による熱放散は「汗は蒸発するもの」という前提に立っているため、多湿で汗が蒸発しづらい日本においては、恩恵を感じづらい……気がする。 (本文へ戻る)

[注4] 足の裏のことを「足蹠」ともいう。なんと読むかわかるだろうか? 正解は「そくせき(あるいは「そくしょ」)」だ。「蹠」は漢検一級相当なんだとか。 (本文へ戻る)

[注5] 自律神経系と繋がっている組織や器官は普通、交感神経から分泌されるノルアドレナリンを受容してエネルギーを消費するように働き、副交感神経から分泌されるアセチルコリンを受容してエネルギーを保持するように働く。しかしながら、汗腺に繋がった交感神経はアセチルコリンを分泌して、発汗を促す。なんでだろう? (本文へ戻る)

[注6]汗腺そのものはエクリン汗腺とアポクリン汗腺に分類されるが、ヒトの汗はすべてエクリン汗腺から分泌される。全身にあるエクリン汗腺と違い、アポクリン汗腺は脇の下や外耳道など決まった場所にしかなく、分泌物も汗とは無関係なので注意。何故こうなったと思わずにはいられないが、こういうことが儘あるのが科学だ。 (本文へ戻る)

[注7] 汗腺のように物質の排出を目的とした組織を分泌腺という。「腺」は「糸偏」ではなく「にくづき」なので注意。書く機会もないと思うけど……。 (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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