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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説は、無脊椎動物では初めて、ソデフリダコは脊椎動物に似た2段階睡眠をすることが判明した、という研究だよ!
ヒトでよく知られるレム睡眠とノンレム睡眠という2段階睡眠は、最近になって脊椎動物全般が持っている機能だと判明するなど、この分野は未開拓な部分が多く存在するよ。
無脊椎動物も2段階睡眠をするのではないか?とは長く考えられていたものの、今回ソデフリダコを調べることで無脊椎動物でも2段階睡眠をする明確な証拠が見つかったよ!
そしてもしかすると、ソデフリダコは夢を見ている可能性すらあるよ!
(画像引用元 (背景) : 沖縄科学技術大学院大学)
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私たちは人生の3分の1を「睡眠」で過ごしている、と言われているね。睡眠は多くの生物がとり、線虫、ヒドラ、クラゲといった、複雑な脳を持たない非常に単純な生物にすら、睡眠と思われる行動が報告されているよ!
ただし、その睡眠の構造は、生物によって大きく異なるよ。例えばヒトの場合、いわゆる浅い眠りの「レム睡眠」と、深い眠りの「ノンレム睡眠」という2つの段階を繰り返していることが知られているよ。
レム睡眠のレムとは「急速眼球運動 (Rapid Eye Movements)」のことであり、まぶたの下で眼球が激しく動いていることから名付けられているよ。ノンレム睡眠では、そのような顕著な運動は見られないよ。
レム睡眠とノンレム睡眠の2つの段階に分けられているのはなぜなのか、正確なところは現在でも研究中だよ。でも例えば、睡眠中に記憶される内容が、レム睡眠とノンレム睡眠では異なる、ということが知られているよ。
また、多くの人が「夢」を見ていると自覚しているのは、浅い眠りであるレム睡眠の時が多いよ。ノンレム睡眠でも夢を見ている可能性はあるものの、全く、あるいはほとんど内容を覚えていないことが多いよ。
睡眠の2段階制や夢を見る正確な理由を探るには、他の動物でそのような行動があるのか、というのを探らないといけないよ。しかし、言葉が通じない他の動物の睡眠を正確に探る研究はかなり難しいよ。
レム睡眠とノンレム睡眠を確実に判定するには、睡眠中の脳波を調べることで行われるけど、その研究は長いこと電極のような物理的デバイスを使わないといけないことから、使える動物が限られてきたよ。
なので、判明している限り、睡眠がレム睡眠とノンレム睡眠の2つの段階に分かれているのは哺乳類と鳥類だけという状況は、かなり長い間続いていたよ。
レム睡眠とノンレム睡眠に当たる2段階睡眠は、つい最近になって爬虫類や魚類もすることが分かって、脊椎動物に広く存在する生理機能であることが分かったよ。一方で無脊椎動物についてはその候補があったけど、確定的な証拠はなかったよ。 (画像引用元 (ソデフリダコの写真&背景) : 沖縄科学技術大学院大学)
しかし、2016年に爬虫類のフトアゴヒゲトカゲ、2019年に魚類のゼブラフィッシュでレム睡眠のような活動が見つかったことにより、脊椎動物のかなり広い範囲で2段階睡眠があるかもしれないと分かったよ!
ゼブラフィッシュはすごく小さい魚だけど、脳の活動状態を光を当てて測定するという、直接電極を貼ったり刺したりではない方法で実現した研究だから、技術革新にはすごいものがあるね!
ということで、レム睡眠とノンレム睡眠は、4億5000万年前に分岐した遠縁の脊椎動物同士でも備わっている機能である、ってところなんだけど、では無脊椎動物はどんな感じなのかな?
確かに、頭足類のヨーロッパコウイカや、節足動物のハエトリグモの1種 (Evarcha arcuata) は、それっぽいような身体や網膜の反応を示していることが見つかっているけど、脳波を測っているわけじゃないよ。
ということで今までのところは、レム睡眠とノンレム睡眠は脊椎動物固有の能力なのか、それとも無脊椎動物にもある動物の一般的な機能なのか、という疑問は答えることができない状況だったんだよね。
沖縄科学技術大学院大学とワシントン大学の共同研究チームは、「ソデフリダコ (Octopus laqueus)」を対象に研究を行い、動物学が長年の抱えている謎に大きな成果をあげたよ!
ソデフリダコは沖縄近海に生息するマダコの1種で、2005年に記載されたばかりという比較的新しい種だよ。タコの一般的な特徴である、色素細胞で身体の色を変えて周辺環境に溶け込む擬態や、外敵への警告も行えるよ。
そんなソデフリダコは日中に眠る夜行性のタコだけど、身体を平たくしてほとんど動かず、身体も白っぽくなるよ。ただし、これは眠っている間はずっとではなく、崩れることが分かっているよ。
以前の研究から、ソデフリダコは目や身体が動き、身体の色が変化し、呼吸や脈拍にも乱れが生じることが示されていて、それは大体60分ごとに数十秒間という周期的な活動であることが分かっているよ。
これらの生理活動は、まるでレム睡眠のようだね。でも、本当にそうであるのかは確かめてみないといけないよ。ということで研究チームは、いくつかの観点から調査を行ってみたよ。
まず前提として、レム睡眠のように思える活発な睡眠状態を「動的睡眠 (AS / Active Sleep)」、ノンレム睡眠のように思える不活発な睡眠状態を「静的睡眠 (QS / Quiet Sleep)」と定義し、調査を行ったよ。
まずソデフリダコの動的睡眠と静的睡眠のサイクルは水温1℃ごとに5分短くなり、水温が22℃の場合、静的睡眠を約51分するごとに動的睡眠を約75秒挟むというサイクルを10回前後繰り返すことがわかったよ。
そして、動的睡眠は静的睡眠よりも浅い眠りなのか、を確かめるために、睡眠中のソデフリダコをわざと電気的な刺激を与えて起こすことで、どうなるかの反応を調べたよ。
寝ているソデフリダコを起こすには動的睡眠の時の方が弱い刺激で起きること、わざと起こすと次の動的睡眠に入る時間が短くなること、2日間寝かせなかった後には動的睡眠の回数が増えるなど、ソデフリダコの2段階睡眠は脊椎動物のものと似た性質を持つ事が分かったよ! (画像引用元: 写真&グラフ (原著論文Fig2) / ソデフリダコの変化の連続写真&背景 (沖縄科学技術大学院大学) )
その結果、静的睡眠では、弱い刺激では目覚めず、強い刺激なら目覚める、ということが観察されたよ。動的睡眠はどちらでも目覚めることから、これは脊椎動物が深い眠りにある時に目覚めにくいことと一致しているよ。
また、2日間睡眠が妨害された場合や、動的睡眠中に起こされた場合は、次に動的睡眠に入る時間が約22分も短くなり、頻度も増したよ。これも脊椎動物が睡眠を妨害された時と一致しているよ。
逆に、昼夜サイクルを人工的に繰り返す明るさ調整を切り替え、3日間完全な暗闇に置いた後に通常に戻すなどの切り替えは、ソデフリダコの睡眠の時間や2種類の睡眠の切り替えに影響しないことも分かったよ。
これらを総合すると、ソデフリダコにとって動的睡眠と静的睡眠のサイクルは、身体の中で常に一定の水準を満たそうとする調整が働いている (ホメオスタシス) 機能であることが分かるよ!
更に、睡眠時の脳波を測定してみると、静的睡眠時に「睡眠紡錘波」のような脳波も観察されたことが分かったよ!睡眠紡錘波はヒトのノンレム睡眠の時に現れる、とても特徴的な脳波だよ。
睡眠紡錘波の正確な役割はヒトにおいても明らかにされていないものの、恐らく記憶を定着するのに関わっていると見られているよ。静的睡眠時にノンレム睡眠に現れるのと同じような脳波が現れるのは興味深いね!
更に今回は、動的睡眠時に現れる身体の色の変化を8Kのカメラで撮影し、そのパターンを分析したよ!これには統計物理学的手法が使われているので、生物学者と物理学者のコラボレーションと言えるよ!
身体の色の変化を記録し分析すると、動的睡眠時に現れるパターンそのものに同じものを繰り返す要素はなかったものの、完全に目覚めている時に現れるパターンととても似ていることが明らかにされたよ!
ソデフリダコの動的睡眠で起こる皮膚の色の変化を解析すると、起きている時に起こる色の変化ととても似ていることが分かったよ! (画像引用元: 皮膚の変化 (原著論文Fig5) / ソデフリダコの変化の連続写真&背景 (沖縄科学技術大学院大学) )
今回の研究で、ソデフリダコは動的睡眠と静的睡眠という2段階の睡眠が行われていることが明確に示された初の無脊椎動物になったよ!研究で示された内容は、過去の無脊椎動物の睡眠の研究とも矛盾はないよ。
これにより、これまでの研究より更に1億年遡り、5億5000万年前に分岐した生物同士でも2段階睡眠という複雑な睡眠機能が備わっている、ということになるよ!
一方で、特に動的睡眠で観察された身体の色の変化は謎が残るよ。色の変化は結構目立つために捕食者の目を引いてしまうことから、起きている時には自身の巣穴のような隠れた場所で行われるからね。
これには複数の仮説が成り立つよ。まず、起きている時にうまく色を変化させられるように、寝ている間に色素細胞の動きを練習しているか、あるいは単に細胞の機能維持に時々動かしているという可能性だよ。
もっとワクワクする仮説は、擬態や警告に関する条件を記憶するのが動的睡眠である、という仮説だよ。ヒトでも何かしらのイメージや言葉を意味付けして記憶するのはレム睡眠時であることから、これはあり得そうだよ。
この仮説が正しい場合、擬態や警告を行った時の状況を寝ている間に想起している、つまり夢を見ていることになるよ!タコは言葉を話せないけど、体色変化という "言語" を読み取ることでこの仮説が成り立つよ!
もちろん、これを証明するにはまだまだ研究が足りないので、あくまでこれは仮説留まりだよ。特に脳波を詳しく取れたことにより、むしろ謎は増えた感じだよ。
例えば睡眠紡錘波に似た脳波は、ヒトですら十分に機能が分かっておらず、ソデフリダコの脳波が本当に睡眠紡錘波なのか、仮にそうだとしたら役割は何なのか、を示すのはかなり難しいよ。
また、ヒトのノンレム睡眠では周期の長い脳波が脳全体に現れるために徐波睡眠とも呼ばれるけど、ソデフリダコの静的睡眠ではそのような脳波は現れないことから、脊椎動物とは一致しない機能があるかもしれないよ。
更に、レム睡眠で特徴的な骨格筋 (身体を動かす筋肉) の弛緩、つまり力が抜けている状態であるという指標は、全く身体構造の異なるソデフリダコには単純適用できないのも、研究の妨げとなるよ。
このため、ソデフリダコに2段階の睡眠があると言っても、それがヒトや脊椎動物の2段階の睡眠と完全に一緒とは思えず、どういった機能が一緒でどういった機能は違うのか、という点を検証しないといけないよ。
この研究が進めば、単に無脊椎動物にも2段階の睡眠がある、という話に留まらず、2段階の睡眠が生物の進化でどのように発生したのか、という点を検証することもできるよ!
ソデフリダコの祖先と脊椎動物は5億5000万年前に分岐したと見られているけど、では2段階の睡眠は5億5000万年前の共通祖先が持っていたのか、それとも分岐後に独立して現れたのかは、まだ不明だよ。
今回と同じような研究が他の無脊椎動物にも行われれば、2段階の睡眠は生物の進化で1回きり現れたのか、それとも異なる生物グループの間で独立して発達した収斂進化のようなものなのかが分かってくるはずだよ!
そして何より、タコは夢を見るのかという、他の動物の夢に関するワクワクするような内容にも、いつかは答えを与えてくれるはずだよ!
[原著論文]
[参考文献]
[関連研究]