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梅雨が明けるとどうなる? そう、夏が来る。夏生まれの葉月だが、夏は苦手だ。だって暑いもん。
夏といえばなんだろう? 夏祭り! かき氷! 山! 海! お部屋でヒンヤリ! 一つテイストの違うものが混じった? お部屋でヒンヤリに魅力を感じない者だけが石を投げなさい。
お部屋でヒンヤリ過ごすのに欠かせないものといえばエアコンだ。適切な気温に設定して使用することで熱中症予防にもなってしまう、現代の夏の強い味方だ。それにしても、スイッチ一つで冷房から暖房まで様々な空気を作ることが出来るエアコンというのは、よく考えれば不思議な装置だと思う。そこで今回は、暑い夏の味方、エアコンがどのように温度の違う空気を作っているのかを解説していく。
キーワードは『熱』だ。
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エアコンの話をする前に少し考えてほしいことがある。キンキンに冷えた氷を入れたコップに、熱々のお湯を注ぐとどうなるだろう? もちろん、氷は融け、お湯の温度は下がる[注1]。これについては考えるまでもないだろう。考えてほしいのはここからだ。さて、熱はどちらからどちらへ移動したのだろう?
「氷からお湯へ」か、「お湯から氷へ」か、少し考えてほしい。
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正解は「お湯から氷へ」だ。通常、自然には熱は高温の物体から低温の物体へと移動し、逆方向に動くことはない。この法則を熱力学第二法則と呼ぶ[注2]。例えば、融けて水になった氷も、お湯という物体に触れたことで熱を吸収したと言える。
さて、エアコンの話をしよう。エアコンは一見、「装置内で快適な空気を作って送り出す機械」だと思いがちだ。しかしながら実際には、「周囲の空気を快適な空気にして送り出す機械」だ。つまり、機械と空気の間で熱のやり取りをしている。
冷房として働く際には熱い空気の熱を低温にした装置に吸収させることで、暖房として働く際には高温にした装置の熱を冷たい空気に放出することで、空気の温度を変化させている。
それでは、そもそもどのような仕組みで装置の温度を変化させているのだろうか?続いて熱をコントロールする方法について解説していこう。
物体が持つ熱をコントロールする方法として、物質の体積を利用したものがある。同じ質量の物質でも体積をうんと小さくすると固体に凝固して固体に、反対に体積を大きくすると蒸発して気体になる[注3]。さて、この時周囲の温度はどうなるだろう?
例えば水に比べて氷は冷たい物体だ。そのため、凝固すると周囲の温度も下がるのではないかと思ってしまう。だが、実際には周囲の温度は上がる。なぜなのだろうか? 縦横無尽に動いていた分子が整列するため、動き回る分の熱が放出されるからだ。反対に、物質が蒸発する際は周囲の熱を吸収するため、周囲の温度は下がる[注4]。このとき、体積が変わった物体の温度は最初は変化しない。
移動した熱は、変化した状態を維持するのにそのまま利用されるからだ。だが、周囲の空気と触れることで、結果として空気から熱が移動することになる。このように物体の体積をコントロールすることで、間接的に温度をコントロールすることができる。それでは体積をコントロールするにはどうしたら良いだろうか?
話が変わるようで申し訳ないが、パンパンのゴミ袋を想像してみてほしい。ゴミがあと少しだけ入らない場合、どうするだろう? 諦めて別のゴミ袋を用意するという人もいるかもしれない。だが、袋の中のゴミをグッと押さえてスペースを確保する、という人も少なからずいるのではないだろうか。このようにグッと押さえつけると、デッドスペースが減り、体積が小さくなる。
物質も同様だ。グッと圧力をかけると体積が小さくなり、反対に圧力を小さくすると体積は大きくなる。そのため、圧力をコントロールすることは物体の持つ熱をコントロールすることに繋がる[注5]。 圧力をコントロールすることで、装置の温度をコントロールする事ができる事がわかった。それでは、実際の機械の中では何の圧力をコントロールしているのだろうか?
いよいよ本丸のエアコンの仕組みについて解説していこう。
エアコンには、膨張弁という圧力を調節する装置が取り付けられた管が設置されており、管の内部には流体が封入されている。この流体こそが、圧力によって熱をやりとりする、冷媒という物質だ[注6]。
冷媒を膨張弁で減圧してやると、周囲の空気から熱を吸収し、液体から気体になる。この空気をファンで部屋へ吹き込むと、冷房として働くわけだ。これが冷たい空気を作る仕組みなのだが、これだけでは少しまずいことがわかるだろうか? これだと、冷媒が吸収した熱の逃げ場がないのだ。膨張弁が減圧可能な圧力には限界があるので、熱をどこかに逃さない限り、やがて冷房として使用できなくなってしまう。だが安心してほしい。熱を逃がす仕組みもちゃんと設計されている。
ご存知の方も多いと思うが、エアコンは通常、室内に設置された室内機と、屋外に設置された室外機がセットになっている。冷媒の封入された管は室外機まで伸びている。
室外機側の管には圧縮機が設置されており、吸熱した冷媒を圧縮することで、周囲の空気に放熱する。真夏の室外機の側を通った際に、熱風を浴びたという経験をしたことがある人もいるのではないだろうか? あの熱風は、冷媒が放出した熱をファンで吹き飛ばしているため発生するものだ。
実は冷媒が通る管は環状になっている。放熱した冷媒は再び室内機側の膨張弁を通り、吸熱する。これが冷房の仕組みだ。暖房にするときは反対に、圧縮機で高温になった冷媒を室内機に送り、膨張弁で冷却した冷媒を室外機に流している[注7]。
このように圧力を調整して熱をコントロールする装置をヒートポンプという[注8]。
ここまで、エアコンの原理や仕組みについて解説してきたが、いかがだっただろうか? 熱中症の予防のためにも、上手に冷房を使用して長い夏を乗り切っていただきたい。
最後に、記事の趣旨からは少し外れるが冷却技術について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。
物体を冷やすために圧力をコントロールするのは原子や分子を整列させるためだ。逆に言えば、原子や分子を意図的に整列させたり乱れさせる事ができれば、温度をコントロールする事が可能だと言える。私たちの身近なものがその鍵を握っている。
鉄などの金属から磁石を離すと、金属は熱を吸収し、周囲の温度は下がる。磁力によって揃っていた金属原子が乱れるのに、エネルギーが必要になるためだ。このように、磁気による金属の温度変化を利用して温度をコントロールする技術を、磁気冷凍という。
冷媒を使用しないため環境に優しいだけでなく、従来の気体を利用した冷却に比べて低温が作れることから、液体水素をつくる技術としても期待されている。
さて、皆さんはいまこの記事をどんな媒体で読んでいるだろう? 多くの人はPCあるいはスマートフォンではないだろうか。年々小型化、高性能化する電子機器だが、使用すると必ず発生するのが熱だ。この熱をピンポイントに高効率で除去することは、電子機器の開発にとって重要である。
従来は水冷式といって液体の対流によって熱を除去していたが、小型化限界や冷却効率の限界が課題としてあった。これに取って代わる技術として期待されているのが沸騰冷却という技術だ。冷媒が熱源に接触し、蒸発することで熱源から熱を吸収しようとする技術だ。水冷式よりも小型化や高い冷却効率が期待されているが、電子機器の発する熱で蒸発する冷媒の選択や、安定した蒸発促進機構の開発などまだ課題も残っている。
[注1] こうして2つの物体が同じ温度になった状態を熱平衡という。平衡とは釣り合いが取れているという意味だ。(本文へ戻る)
[注2] 第二というように他に3つの法則があるが、一から四の4つじゃなくて、零から三の4つらしい。なんでや!?(本文へ戻る)
[注3] 実際には加圧だけで固体になることはなく、温度を下げてやる必要がある。どんな条件で物質が状態変化するのかは状態図を見ればわかる。「(物質名) 状態図」で検索すると見つけられる。(本文へ戻る)
[注4] 状態変化に伴って出入りする熱を、それぞれの状態変化の名前をとって凝固熱や蒸発熱などと呼ぶ。またこれらを総称して、潜熱と呼ぶ。加熱しても顕著な温度変化として見られないことから名付けられたようだ。(本文へ戻る)
[注5] このような、体積、圧力、温度の関係を発見者の名をとって、ボイル・シャルルの法則という。この法則はボイルの法則とシャルルの法則という2つの法則を組み合わせたものだ。詳しい解説は割愛するが「体積、圧力、温度は互いに相関関係にある」ということだけ伝わってほしい。(本文へ戻る)
[注6] 冷媒に使用される物質は熱力学的特性だけでなく、臭気や毒性も考慮して選択される。人の近くで使用されるものだからね。(本文へ戻る)
[注7] 一つの装置で暖めたり冷やしたり出来るという天才的発明をしたのは、ウィリス・キャリアというアメリカの技術者の人らしい。ありがたや〜。(本文へ戻る)
[注8] ヒートポンプが利用されている例は家庭用エアコンの他、カーエアコンや冷蔵庫にも利用されている。低温をコントロールする必要があるものには大抵使われているんじゃないかな?(本文へ戻る)
・数研出版編集部. 『改訂版 視覚でとらえるフォトサイエンス 化学図録』. 数研出版.
・数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 化学図録』. 数研出版.
・数研出版編集部. 『視覚でとらえるフォトサイエンス 物理図録』. 数研出版.
・数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 物理図録』. 数研出版.
・間宮 広明ら. 『磁気熱量効果を効率的に利用する新規磁気冷凍材料』. 熱測定 2022 年 49 巻 2 号 p. 79-85.
・沼澤 健則, 松本 宏一. 『JST 未来社会創造事業磁気冷凍技術による革新的水素液化システムの開発』. 低温工学 2023 年 58 巻 2 号 p. 58-62.
・井出 拓哉ら. 『ロータス型ポーラス金属による沸騰促進を利用した沸騰冷却技術』. 応用物理2023 年 92 巻 1 号 p. 16-19 .
・鹿野 一郎. 『沸騰冷却デバイスの研究・開発』. JSME TED Newsletter, No.91, 2020.