子宮内膜症は感染症か?(6月14日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2023.07.06

子宮内膜症は、子宮内部の上皮が卵巣や腹膜におそらく移動して、そこで生理による子宮と同じように増殖し、出血や炎症を引き起こす女性特有の病気で、生理が続く限り様々な症状に悩まされる。


これまで、生理時に増殖した内膜が、何かの拍子に卵管から卵巣、腹膜に迷入した結果で、一旦落ち込むと子宮のように外に排出できないので、強い症状を繰り返すのだと思っていた。


今日紹介する名古屋大学からの論文は、子宮内膜の迷入のみで内膜症が発生するのではなく、Fusobacteriumのような細菌感染が発症の条件になっていることを示した研究で、もし本当なら子宮内膜症を抗生物質で治療できることになり子宮内膜症に悩む多くの女性の福音になる研究で、6月14日号Science Translational Medicineに掲載された。


タイトルは「Fusobacterium infection facilitates the development of endometriosis through the phenotypic transition of endometrial fibroblasts(Fusobacteriumの感染が内膜の線維芽細胞の形質転換を通して内膜症発生を促進する)」だ。


この研究では内膜症の細胞成分として線維芽細胞に着目し、内膜症ではアクチン重合に関わるTAGLNを発現した線維芽細胞へと移行していること、またTAGLNの発現自体が、細胞の増殖と遊走を促進することを発見する。


さらに、こうして分化したTAGLN陽性線維芽細胞はIL6を強く発現して、迷入内膜を増大させていることを示している。


問題は、線維芽細胞でのこのような変化を何が誘導するのかだが、アクチン重合という観点からTGFβに当たりをつけ、子宮内皮培養細胞を刺激し、TAGLNが誘導できることを確認している。


次はTGFβが上昇する原因だが、まず細菌感染の可能性を考え、子宮内膜症で上昇するバクテリアの中から、歯周病や大腸ガン、さらには流産などへの影響が知られているFusobacteriumを特定する。


実際の臨床例で、in situ hybridizationを用いて調べると、全てではないが64%の内膜症組織で感染が認められることを確認し、最終的にFusobacteriumがマクロファージを刺激し、この結果TGFβが誘導され、内膜症型線維芽細胞が誘導されるという仮説に至っている。


事実、死菌であってもFusobacteriumはマクロファージをTGFβ分泌のM2型へ変化させることが出来る。


最後に、Fusobacteriumを感染させた子宮から内膜を分離、これを腹腔内に散布して内膜症様組織変化が生まれるか調べ、Fusobacteriumで感染した子宮内膜だけが、腹腔内で内膜症様変化を示し、TGFβやTAGLN発現も再現できることを示している。


では子宮内膜症発生後にFusobacteriumを抗生物質で駆除することで、内膜症様変化を抑えることが出来るのか調べると、感染子宮内膜の迷入後でも抗生物質で病理的変化を抑えることが出来ることを示している。


以上が結果で、説得力のある重要な結果なので、あとは人間でも本当にこのシナリオが成立しているのかを抗生物質投与治験により示す必要があると思う。


そこまで示せて一区切りなので、大至急治験を進めて欲しい。

 

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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