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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説は、ゴムに弱い物質を入れたらなぜか切断に対する耐性が9~10倍になった、というお話だよ!
いやなにそれ!?って感じだけど、実際に強度が増しちゃったんだからしょうがない!調べてみればちゃんとした理由も分かったからね!
ただ、簡単な方法で耐性が増しているという点で、ゴムが大量に使われているタイヤにまつわる環境問題を改善してくれるかもしれない、結構スゴい発見だよ!
CONTENTS
「ゴム」[注1]は産業に欠かせないポリマー分子 (高分子) 材料だよね。車のタイヤや輪ゴムだけでなく、手袋、靴底、シールや封印、絶縁体、免震装置に至るまで、ゴムは幅広い分野で使われているよ!
ところでゴムはなぜ伸びるんだろう?これはゴムがポリマー分子というとても細長いヒモ状の分子でできており、それらが複雑にこんがらがっているような構造をしていることと関連しているよ。
ゴムの分子は細長いヒモと言ったけど、これは基本的にまっすぐではなく、クネクネと折れ曲がっているよ。ゴムを伸ばすと、この折れ曲がりの分だけ、まるでバネのように伸びるよ。
ゴムを構成するポリマー分子にとっては、折れ曲がっている状態が安定で、引き延ばした状態というのは基本的に不安定だよ。バネを伸ばせが元に戻るように、ゴムの分子も折れ曲がっている状態に戻ろうとするよ。
だから、ゴムはかなりの長さまで伸びたうえで、元に戻る時には一瞬で戻るんだよね。ただし、ポリマー分子同士の結合はそのままだと弱すぎるので、伸ばしすぎると配置がずれて壊れてしまうよ。
これを改善するために、ポリマー分子をくっつける別の物質を入れ、分子同士が結合する場所を作ることで、より伸びる上に頑丈になるように工夫するよ。最も有名なのは硫黄を入れる「加硫」という工程だね。
ゴムの分子はクネクネと曲がっており、まっすぐになるまでの余地があるから、伸びるよ。ただ分子同士の結合が弱いので、通常は何か他の物質を含めることで強度を高めるよ。一般的には硫黄を入れる方法が使われるので、これを加硫と呼ぶよ。
さて、輪ゴムを伸ばし過ぎれば切れてしまうように、ゴムが伸びるのには限度があるよ。この時、ポリマー分子そのものは切れづらく、それよりも分子同士が結合している部分が切れやすい状態となっているよ。
よって、ゴムを頑丈にするには、これまでは結合する点を増やす、つまり結合物質の配合量を増やすことで対応してきたよ。加硫で言えば、硫黄の含有量を増やすことで対応しているよ。
これにより、ゴムは輪ゴムのようにとても伸びやすいものから、タイヤのように少しだけ伸びるけど頑丈さが増したもの、そして靴底のようにほとんど伸びず、頑丈さに特化したものまでさまざまなものになるよ。
また、ゴムのようなポリマー分子は、天然ゴムの原料であるラテックス以外にも存在し、これらの物質の種類を変えたり、一部の元素を別の元素に置き換えることで、ポリマー分子同士が強く結合するようにしたよ。
切れにくいゴムというのは長持ちするゴムということになるから、材料工学の分野ではそのような頑丈なゴムの開発を目指し、どうすれば頑丈な接合ができるのかを調べていたよ。
ところが、ドゥーク大学のShu Wang氏らの研究チームは、ゴムのようなポリマー物質を研究中に、全く予想外の、そして有用な成果を得たことを発表したよ!
Wang氏らは、ゴムのような物質が力を受けて切断される時、正確にはどのような現象が起きているのかを解明するため、結合する力が様々なポリマー分子を配合し、切断するのに必要な力を調査していたよ。
比較研究なので、結合する力が弱いポリマー分子を配合すれば、それだけ切断に必要な力は小さくなる、というのが予想されるし、実際にほとんどのポリマーにおいては予想通りの結果が得られたよ。
ところが、シクロブタンと呼ばれる環状構造が含まれるポリマーを配合した時、全く予想外な現象が起きたよ!このポリマー分子は、他のポリマー分子と比べて分子同士の結合する力が1ヶ所あたり数十万倍も弱いよ。
左側が弱いポリマーを含ませたゴム、右側は普通のゴム。比べると、切断されるまでに伸ばされる長さが長いので、より多くの力が加えられたことが分かるね。 (画像引用元: Massachusetts Institute of Technology)
そんなに弱い結合力なポリマーを2%だけ配合したゴム状物質は、切断するのに必要な力が配合前の9倍から10倍になるという結果となったよ!ここまで劇的な改善は、材料工学の基礎研究ではまず見ない数値だよ!
何が起きているのか。研究チームは、このシクロブタンを含んだポリマー分子が、他の分子と比べて長さが長いことに加えて、弱い結合力にこそ頑丈さのカギがあると考えているよ!
シクロブタンを含んだポリマー分子は、長さが長いために材料のあちこちにランダムな形で入り込み、他の分子と弱い力で結合するよ。そこに切断する力が加わると、弱い結合力ゆえにそこから切れてしまうよ。
弱いポリマーを入れると、切断する力を受けた時にこの部分から分子の結合が切れるよ。その数が多い上に配置がランダムであることから、切断に必要な力が増えると考えられているよ。 (画像引用元: Massachusetts Institute of Technology)
ただ、シクロブタンを含んだポリマー分子は、結合部の数が多い上に配置がランダムなため、弱い部分を優先して切断しようとすると、亀裂はあちこちランダムな方向に向かってしまうから、切断力が分散してしまうよ。
つまり、1つの大きな亀裂になるまでに、ランダムに配置された数多くの弱い接合部を切断する必要があるため、それだけ切断力が余計に必要になってしまう。これが最大10倍の力に耐える秘密と考えられるよ。
まるで「柔よく剛を制す」とでもいうべきこの研究、実用化への道筋が付けばかなり大きい影響があるよ!もちろん、各種ゴム製品の強度が増すというのもそうだけど、環境にも良い影響を与えるよ。
ゴム製品で最も主要な使い道はタイヤのゴム。少しずつすり減ることからも分かる通り、ゴムの細かい粒子を環境に放出するよ。しかもゴムタイヤは、ガソリンエンジンと異なり当分置き換えることができないよ。
世界中で1年間に600万トンものゴム粒子がタイヤから剥がれると見られていて、これは海に流れ込むマイクロプラスチックの10%、空気中の粒子状物質の5%から7%を占めているよ!
切断に対する耐性が10倍となることでどの程度タイヤがすり減るのを防げるのかは分からないけど、例え10%であったとしても60万トンものゴム粒子を削減できるのは非常に大きいよ!
材料工学の基礎研究でこれほどのブレイクスルーが現れるのは中々ないことから、これからの研究で改良が行われれば、実用性と耐久性を兼ね備えた新しいゴムが生まれる日も案外近いかもしれないよ!
[原著論文]
[参考文献]
[注1] ゴム ↩︎
この記事で「ゴム」や「ゴムのような物質」と言った場合、それはラテックスを原料とした天然ゴムに限らず、広くエラストマーを指すものとする。基本的にゴムとエラストマーは区別されずに呼ばれることが多いため。