α2アドレナリン受容体刺激によるガン免疫活性化(6月15日号Nature掲載論文)

2023.06.29

アドレナリンによるシグナルを伝える受容体はG タンパク質共役型受容体だが、極めて複雑で、それぞれ全く拮抗する作用を持つ。例えばα1やβ受容体は刺激によりサイクリックAMPの合成が誘導されるが、α2受容体は逆でサイクリックAMPの合成を抑える。


サイクリックAMPは免疫細胞でも重要なメディエータなので、これらの受容体が発現しておれば当然免疫細胞も影響を受ける。幸い、それぞれの受容体のシグナルを抑えたり高めたりする薬剤が開発されており、特異的作用を調べる事ができる。


今日紹介するベルギーのルーヴァン大学からの論文は、アドレナリンα2受容体(α2AR)刺激が、ガン免疫を高め、それだけでもガンの増殖を抑制することを調べた研究で、6月15日号の Nature に掲載された。


タイトルは「Tumour immune rejection triggered by activation of α2-adrenergic receptors(α2アドレナリン受容体刺激により誘導されるガンの免疫拒絶)」だ。


この研究のハイライトは、ガンを移植したマウスにα2AR刺激剤を、しかも通常利用される容量の何十倍もの量をマウスに投与したことにある。ここで使われたα2ARアゴニストは血圧を下げたり、精神疾患に使われているので、余計に何十倍という量は乱暴に感じる。


しかし案ずるより産むが易しで、連日この量のα2ARアゴニストを投与し続けると、驚くなかれ様々なガンの増殖を強く抑える事ができる。免疫不全マウスではこの効果は見られないし、さらに、PD-1やCTLA4に対するチェックポイント治療と組み合わせると効果は倍加する。


様々な作動薬で同じ効果が見られるが、特異性の問題があるのでα2AR遺伝子ノックアウトマウスで同じ実験をすると、α2ARアゴニストの効果は全く見られなくなるので、間違いなくα2ARを解する作用であることも確認できる。


この作用はCD8T細胞、あるいはCD4T細胞を除去しても同じように低下するので、両方のt細胞が関わることはわかるが、α2ARアゴニストによりCD4、CD8T細胞の主要組織への浸潤が高まることも観察される。


腫瘍組織での遺伝子発現をα2ARアゴニスト注射群で調べると、獲得免疫だけでなく自然免疫系の遺伝子発現が上昇しているので、リンパ球以外の細胞への影響が考えられる。


そこで single cell RNA sequencing を用いて調べると、好中球の数が著しく減少し、マクロファージのタイプ ClassII MHC抗原を強く発現したM1マクロファージへとシフトしている事がわかる。


さらに、マクロファージの機能をブロックすると、α2ARアゴニストの効果がなくなることから、おそらくマクロファージを中心に様々な血液細胞の機能を変化させて、ガンに対する免疫が上がっていると結論している。


結局、なにか特定の免疫細胞がα2ARの標的であるという結論ではなく、全体的作用という話になっているが、例えば6月16日に紹介したClass II MHC発現マクロファージとCD4T細胞の相互作用により、白血球からNOSが強く分泌されるメカニズムの当然標的になるだろう。


他にも、好中球の減少により、リンパ球の腫瘍局所への浸潤も容易になる。したがって、免疫系全体で旨い具合にガン拒絶を高める方向に働いたとしても問題はない。


とはいえ、実際これほどの量のα2ARアゴニストを人間に連続的に投与可能なのかの検討から始めないとこの治療は実現しないだろう。


しかしなんでもやってみるものだという典型的例だ。

 

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

このライターの記事一覧