コラボで虫歯を悪化させる細菌の存在が判明! 虫歯に関与する新しい細菌の発見

2023.06.16

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、虫歯に関与し、深刻化する新たな細菌を発見したという報告についてだよ!

 

といっても、それは「セレノモナス・スプティゲナ」という細菌で、既に歯周病の原因の1つとして知られてるから、新種と言うわけではないよ。

 

セレノモナス・スプティゲナは直接歯を壊す存在じゃないものの、虫歯の直接原因であるミュータンス菌と思わぬコラボレーションをして、虫歯を悪化させることが判明したよ!

 

セレノモナス・スプティゲナ サムネ

(画像引用元: 原著論文Fig7)

極めて身近で深刻な病気「虫歯」

齲蝕うしょく」、より一般的には「虫歯」と呼ばれる病気、遡ること5440万年前から霊長類を悩ませてきた口腔疾病 (口にまつわる病気) の1つで、それをなるべく防ぐための研究は日夜続いているよ。

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そもそも、虫歯はなぜ起こるのか?俗に "虫歯菌" と呼ばれる「ミュータンス菌 (Streptococcus mutans)」という細菌が主な原因であることはよく知られているね。

 

歯磨きの不足で歯に食べかす、特に糖類が残っていると、ミュータンス菌はそれを栄養源として増殖し、一方で糖類の代謝の結果として乳酸と呼ばれる酸を生み出すよ。

 

この酸が、歯の表面を構成するエナメル質を傷めるので、やがて脆くなって欠けやすくなり、穴となってしまうよ。これが虫歯と呼ばれる症状だよ。

 

虫歯の概要

虫歯菌と呼ばれるミュータンス菌は、食べかすに含まれる糖類を代謝し、グルカンと呼ばれる物質を生成するよ。これはミュータンス菌を外部環境から保護する膜となり、これがプラーク (歯垢) の正体でもあるよ。そしてミュータンス菌は代謝によって酸を出すので、これが歯を痛めつけ、やがて虫歯となるよ。

 

厄介なことに、ミュータンス菌は糖類を消費する際に「グルカン」と呼ばれるポリマーを生成するよ。これはミュータンス菌自身を包み込むプラークとなり、外部からの影響を保護するバイオフィルム[注1]として機能するよ。

 

数千年の歯磨きの歴史が、どれもプラークの物理的な除去を目的としているのは、プラークが化学的に強固なので、歯ブラシの性能を上回ることができない、というところにも関連しているんだよ。

 

虫歯に関与する別の細菌がいた!

さて、虫歯の研究は長いことされてきたものの、虫歯に直接関与する細菌は、これまではミュータンス菌と、長いこと同じ種だと誤解されたくらい近縁な「ソブリヌス菌 (Streptococcus sobrinus)」しか知られてなかったよ。

 

もちろん、口の中には様々な種類の細菌がいて、何種類かは "歯周病" に関連していることはわかっていたよ。ただしそれでも "虫歯" に直接関わる細菌、というのは長らく上記の2種しか知られていなかったよ。

 

ノースカロライナ大学チャペルヒル校のHunyong Cho氏らの研究チームは、長いこと認識が変化していなかった虫歯の認識を変える大きな発見をしたよ!

 

今回の研究では、まず3歳から5歳の男女208人ずつ、合計416人からプラークを採集し、虫歯の有無とプラークに含まれる細菌の種類や構造について検討を行ったよ。

 

また、上記で得られた知見を元に、実験用マウスや人工的に作った歯において虫歯の再現実験を行い、どのような条件が虫歯を深刻化させるのか、というのをチェックしてみたよ。

 

この研究は、遺伝子解析技術の進歩に加え、虫歯のプラークという "生もの" に対して、細菌を殺さず生かしたまま構造や配置を細かく観察することができるイメージング技術の進歩によって実現した研究だよ!

 

結果としては、「セレノモナス・スプティゲナ (Selenomonas sputigena)」という細菌が、酸を作るような直接的な関与はないものの、虫歯が重症化する重大な役割を果たしていることが判明したよ!

 

セレノモナス・スプティゲナの虫歯への関与

プラーク (思考) を採集して観察してみると、ミュータンス菌の周りにセレノモナス・スプティゲナが取り囲むような構造になっていることが分かったよ!この状態だと、ミュータンス菌は多くの酸を出し、より虫歯を深刻化させることが判明したよ! (画像引用元: 原著論文Fig7)

 

従来、セレノモナス・スプティゲナは歯周病に関わることは知られていたものの、虫歯に関与することは知られておらず、今回の研究でも正直ノーマークだったものだよ。

 

カギとなるのはミュータンス菌が作るグルカンにあるよ。セレノモナス・スプティゲナは積極的に運動する細菌だけど、ネバネバしたグルカンに囚われるとそこに閉じ込められ、ほとんど動かなくなるよ。

 

すると、セレノモナス・スプティゲナはグルカンの中で増殖し、まるでハチの巣のような構造のカプセル状構造を形成するよ。ミュータンス菌は、そのネットワークの中に閉じ込められるよ。

 

すると、マウスによる実験では、ミュータンス菌が単独でいるよりもずっと多くの酸を放出し、それだけ虫歯が進行しやすくなることが確認されたんだよ!

 

なぜそうなるのかまではわからないものの、恐らくはセレノモナス・スプティゲナによる追加の保護を受けたせいである、と研究者は考えているよ。この辺は追加の研究が必要な部分の1つだよ。

 

身近でも分からないことは多い

虫歯は非常に身近な病気の1つなので、何となく基本的なところは全て理解されていると思われがちだけど、今回の研究のように、研究してみればそうではないことが分かることはしばしばあるよ。

 

ただ実際のところ、何種類もの細菌が、しかもその複雑な構造によって絡み合う細菌叢さいきんそうは複雑怪奇で未解明なことは少なくないよ。虫歯の原因となるプラークはそのほんの一例と言えるよ。

 

今回の研究は、プラークという複雑な細菌叢について、分析や解析に関わる技術が向上したことによって理解できるようになった一例と言えるよ。

 

もちろん、今回明らかになったのは氷山の一角で、更なる研究が虫歯の実態を深堀するかもしれないけど、とりあえずこれまで分からなかった虫歯の実態が分かったことは大きな成果だよね!

 

すぐには歯磨きの形を変えることはなさそうでも、将来的には歯磨き粉の有効成分を考えたり、歯ブラシの形状を考えたりと、様々な応用を考えるための基礎的なデータとなる可能性は十分にあるよ!

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文献情報

[原著論文]

  • Hunyong Cho, et.al. "Selenomonas sputigena acts as a pathobiont mediating spatial structure and biofilm virulence in early childhood caries". Nature Communications, 2023; 14, 2919. DOI: 10.1038/s41467-023-38346-3

 

[参考文献]

 

脚注

[注1]バイオフィルム ↩︎

細菌が物体の表面に形成する集合体。細菌本体と細菌の分泌物で構成される。歯垢はその典型で、他にも流しや花瓶に形成されるヌルヌルとした水垢も身近だが、自然界には岩石や植物の根の周りなど、様々な場所で見つかる。バイオフィルムは細菌が外部環境からの保護を目的として作る膜であるため、水ですすいだ程度では除去できないなど、頑丈にできている。歯ブラシで磨かないと歯垢が除去できずに虫歯になるのはそのためである。

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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