マンボウの仲間は何種いるの? 見分け方も詳しく解説!

2023.06.07

 マンボウは今や多くの人が知る魚である。水族館で飼育しているところは少ないが、世界的に考えれば日本はマンボウをよく飼育している国である。マンボウと言えば、まん丸な体に二等辺三角形のひれを付けたあの形を思い浮かべる人が多いことと思う。

マンボウといえば?で描かれた図。大人が描いた絵である。

 

 しかし、マンボウの仲間は1種ではない。マンボウの仲間は現在少なくとも5種が確認されている。それぞれどのような形態で、どのようにして見分けることができるのか、今回改めてそのポイントについてお伝えしよう。

 

分類学としてのマンボウ

 分類学的には、マンボウはフグ目マンボウ科マンボウ属マンボウと表記される。つまり、マンボウは大きな視点で見ると、フグの仲間に入るのだ。マンボウの属する最大のグループはマンボウ科である。マンボウ科には、マンボウ属、ヤリマンボウ属、クサビフグ属の3つの小さなグループが含まれ、属の名前があるということは、それぞれの属の中に少なくとも1種は存在するということが窺える。しかし、各属内に一体何種が存在するのかについては、厳密にはわかっていない。

 

 マンボウ属にはマンボウ Mola mola 、ウシマンボウ Mola alexandrini 、カクレマンボウ Mola tecta の3種が含まれる。この3種は様々な研究で遺伝的・形態的に異なるので、今後学名が変わることがあっても3つの種がいること自体は変わらないと考えている。もしかしたらもう少し増えることはあるかもしれない。

 ヤリマンボウ属の中にはヤリマンボウ Masturus lanceolatus 1種のみが含まれるが、世界的な分類学的調査は行われていないので、もしかしたら今後種が増える可能性はある。

 クサビフグ属の中にはクサビフグ Ranzania laevis 1種のみが含まれるが、ヤリマンボウ同様世界的な分類学的調査は行われていないので、もしかしたら今後種が増える可能性はある。

マンボウ科の仲間たち

 

 といった感じが現状で言えるところで、マンボウ科全体としては少なくとも5種が認められている。どの属ももしかしたら少し種が増える可能性は残されているが、減ることは無いと私は考えている。ちなみに、アカマンボウはマンボウと名が付くものの、全く異なる魚のグループなのでマンボウの仲間では無い。

 マンボウ科魚類が他の魚類と大きく異なる点は、尾鰭おびれが無く、その代わりに背鰭せびれ臀鰭しりびれで構成された「舵鰭かじびれ」を有することだ。マンボウ科魚類の基本的な体の名称は前回詳しく解説しているため、そちらの記事を参照して欲しい。

 続いて、それぞれ種の外観的特徴(ある程度成長した個体)をより詳しく見ていこう。

 

クサビフグの外観的特徴

 まずはクサビフグから。クサビフグ属は全長が全高よりも長いのが特徴で細長く、胸鰭むなびれの先端が尖っており、縦長の口を持っていることが大きな特徴だ。

 クサビフグは舵鰭かじびれが他のマンボウ科魚類と異なり、斜めでスラッシュ状を呈している。よく観察すると、背鰭せびれ舵鰭かじびれ舵鰭かじびれ臀鰭しりびれの間に切れ込みがある。成長と共に体の高さが高くなっていくが、一般的に見られるサイズは写真のように細長い。胸鰭むなびれは他のマンボウ科魚類と異なり、細長く先端が尖っている。口は正面から見ると縦長で、唇(口膜)が歯よりも前方に伸びている。群れで大量に漁獲されることがあるが、神出鬼没で日本で一番珍しいマンボウ科の種である。

関連記事:縦長の口を持つ珍魚クサビフグ

 

ヤリマンボウの外観的特徴

 ヤリマンボウ属は、マンボウ属によく似ているが、マンボウ属より楕円形で、舵鰭かじびれ中央部が後方に突出しているのが大きな特徴である。

 ヤリマンボウは、マンボウ属より体全体がニワトリの卵のようなフォルムで、舵鰭かじびれ中央部が後方に突出する。この舵鰭かじびれ突出部はかなり個体差があり、突出部が非常に長い個体もいれば、非常に短くほぼ突出していないマンボウ属によく似た紛らわしい個体までいる。しかし、舵鰭かじびれ中央部が突出する種はマンボウ属にはいないので、ここが突出していればヤリマンボウでほぼ間違いないだろう。写真の個体では分かりづらいが、ヤリマンボウの下顎は成長と共に少し前方に突出する。ヤリマンボウは結構、体(特に舵鰭かじびれに)に虫食い模様(まだら模様)が出やすい。

 

マンボウ属3種の外観的特徴

 ここからはマンボウ属だ。クサビフグ属とヤリマンボウ属の形態に当てはまらないマンボウ型の魚類が、残るマンボウ属ということになる。

 

ウシマンボウ

 ウシマンボウは成長と共に眼の上らへんの頭部が高く隆起する。マンボウの中にも稀に頭部が隆起する個体はいるが、同じ体サイズで比較すると、ウシマンボウの方が頭部の隆起は高い。また、ウシマンボウは成長と共に下顎下がバルバスバウのように丸く隆起する。マンボウの中にも稀に下顎下が隆起する個体はいるが、同じ体サイズで比較すると、ウシマンボウとは形状が異なり、マンボウの下顎下の隆起はあまり丸くない。ウシマンボウの舵鰭かじびれは凸凹しないきれいな半円形だ。ウシマンボウの胸鰭むなびれ後ろ周辺の表皮に盛り上がったシワは見られない。マンボウとウシマンボウの小型個体は非常に良く似ているため、外部形態での識別は難しいが、大型個体では明確な形態的な違いが出てくるので、これらの点を覚えておくと基本的には種判別できる。

 

マンボウ

 多くの日本人が水族館で見ることができるマンボウは、ウシマンボウのように頭部が隆起せず、下顎下も隆起しない。舵鰭かじびれ縁辺部は成長と共に全体的に波打つが、これも個体差があり、あまり波型が発達しない個体もいる。マンボウ(生鮮時)はある程度成長すると胸鰭むなびれ後ろ周辺の表皮に頭尾方向の盛り上がったシワが見られるのだが、これが有効な分類形質であることが最近の研究で明らかになった。マンボウは大西洋と太平洋で遺伝的に少し離れており、大西洋のマンボウは太平洋のマンボウより頭部が隆起することが分かっている。将来的にはこの地域集団が別種になる可能性がある。

 

カクレマンボウ

 最後はカクレマンボウだ。カクレマンボウは日本では未確認だが、北半球にも出現することが明らかになったので、今後日本近海でも発見される可能性はある。カクレマンボウは頭部が隆起せず、下顎下も隆起しない。カクレマンボウの胸鰭むなびれ後ろ周辺の表皮には盛り上がったシワは無い。カクレマンボウの舵鰭かじびれ中央には鰭基部の帯状部から舵鰭かじびれ縁辺まで続く後延帯があり、その後延帯の部分だけ舵鰭かじびれ縁辺部が1ヵ所凹むという特徴がある。後延帯はマンボウとウシマンボウでもごく稀に有する個体は見られるが、その他の形態的特徴でカクレマンボウとは識別できる。

 

 

 このように、典型的な種の特徴を示す個体は外観的に同定しやすいが、発達すべき箇所が発達していなかったりすると別種に見えるようなややこしい個体変異も存在するので、ここに示したような複数の分類形質を全部確認して、総合的にどの種に当てはまるかを考えた方が間違いは少ないと思われる。

 

~今日の一首~

 マンボウや
  カクレマンボウ
   クサビフグ
    ウシマンボウや
     ヤリマンボウかな

参考文献

Sawai, E., M. Nyegaard and Y. Yamanoue. 2020. Phylogeny, taxonomy and size records of ocean sunfishes, pp. 18-36. In Thys, T. M., G. C. Hays and J. D. R. Houghton (eds.) The ocean sunfishes: evolution, biology and conservation. CRC Press, Boca Raton.

澤井悦郎.2021.写真に基づく徳島県からのヤリマンボウ,ウシマンボウ, およびマンボウ(マンボウ科)の記録.Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 10: 1-6.

澤井悦郎.2023.国立科学博物館上野本館に展示されているマンボウ属大型剥製の再同定.Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 28: 6-11.

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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