見るのがもっと楽しくなる! 恐竜博2023をさらに楽しめる情報 Part2 【装盾類の進化・皮骨を持つ今の動物】

2023.06.01

こんにちは!恐竜を研究する学問【古生物学】の普及活動や恐竜好きな方へのサポートをおこなっている「恐竜のお兄さん」加藤ひろしです。

 今年2023年の3月14日(火)から6月18日(日)にかけて東京・上野の国立科学博物館にて「攻・守」という観点から恐竜の進化を紐解いていく【恐竜博2023】が開催されていました!また東京だけではなく7月7日(金)から9月24日(日)には大阪・大阪市の大阪市立自然史博物館にて開催されますので、西日本にお住まいの方々にも楽しめる特別展となっています。

 そして前回に引き続き、今回も私「恐竜のお兄さん」が、恐竜博2023の展示をさらに楽しめる情報や観察ポイントを紹介していきます!(紹介文は東京会場のものです)

前回記事:見るのがもっと楽しくなる! 恐竜博2023をさらに楽しめる情報 Part1 【最初の恐竜・竜脚形類・卵】

装盾類の進化

 【恐竜博2023】の「守」の代表でもあるズール・クルリヴァスタトル Zuul crurivastatorは恐竜類 Dinosauriaの鳥盤類 Ornithischia、装盾類そうじゅんるい Thyreophoraに分類されています(Arbour and Evans, 2017)。この装盾類は剣竜類 Stegosauriaとズールたち鎧竜類 Ankylosauriaを含む分岐群であり(e.g., Madzia et al., 2021)、皮膚の下に生える骨(皮骨 Osteoderms)でできた鎧や板・スパイク・クラブを持っているのが大きな特徴です(e.g., Norman et al., 2004)。
 このゾーンは、そんな装盾類の進化の過程を、歩いているズールの影を追いながら辿ることができるゾーンとなっており、まず現れるのが初期の装盾類スクテロサウルス・ローレリ Scutellosaurus lawleriの全身骨格レプリカです。

 このスクテロサウルスはアメリカ・アリゾナ州に分布するジュラ紀前期の地層カエインタ層 Kayenta Formationから70体を超える化石標本が産出しており、二足歩行をする装盾類です(Breeden et al., 2021)。スクテロサウルスの移動運動についてコンピューターモデルを作成して解析した2023年の研究論文でも「本研究のシミュレーションはスクテロサウルスが四足歩行もできたことを示唆する暫定的な証拠を提供するものの、四足歩行をするのは非常にまれで、おそらく採食などの特定の活動に限定されるものと予想される」と考察しています(Anderson et al., 2023)。
 ですから、スクテロサウルスの展示を見れば、装盾類が進化の過程でどのように二足歩行から四足歩行になっていったのかを垣間見ることができます!

 その隣には、イギリスに分布するジュラ紀前期の地層チャーマス泥岩層 Charmouth Mudstone Formationから化石が産出する装盾類スケリドサウルス・ハリソニ Scelidosaurus harrisoniiの全身骨格レプリカが展示されています。

 

 このスケリドサウルスの全身骨格レプリカは2000年12月に発見された個体(標本番号: BRSMG LEGL 0004)のレプリカで、成体になる前のサブアダルトとされています(Norman, 2020a, 2020b, 2020c)。この個体の推定全長は約3.9mで左上腕骨を除いた前肢・後足の指の骨(趾骨)・第13から先の尾の骨(尾椎)は発見されませんでしたが(Norman, 2020b)、ご覧のとおりその部位以外の保存状態は凄まじく、鎖骨も発見されている上に、皮骨がほぼバラバラにならずに保存されていました(Norman, 2020b, 2020c)。
またスケリドサウルスは最も初期の四足歩行をする鳥盤類であると考えられているため(Norman, 2021)、スクテロサウルスの全身骨格レプリカと見比べれば二足歩行の恐竜と四足歩行の恐竜の体型の違いを観察することもできます!

 

 初期の装盾類の展示の先には、装盾類のなかの剣竜類の代表として、アメリカに分布するジュラ紀後期の地層モリソン層 Morrison Formationから化石が産出するヘスペロサウルス・ムジョシ Hesperosaurus mjosiの全身骨格レプリカが展示されています。

 ヘスペロサウルスは2001年に命名されたステゴサウルス科の剣竜で(Carpenter et al., 2001)、同じくモリソン層から化石が産出する剣竜類のステゴサウルスと同属のステゴサウルス・ムジョシと分類された研究もありましたが(e.g., Saitta, 2015)、現在ではステゴサウルスとは別属の恐竜として再分類されています(Maidment et al., 2018; Woodruff et al., 2019)。

 この全身骨格レプリカはヘスペロサウルス・ムジョシの種の基準・代表となるホロタイプ標本のレプリカであり、現在は福井県立恐竜博物館に所蔵されています(Sonoda and Noda, 2016)。今回の【恐竜博2023】では、このヘスペロサウルスの全身骨格レプリカを含む福井県立恐竜博物館が所蔵している実物化石やレプリカが複数展示されていますが、福井県立恐竜博物館は2023年7月14日にリニューアルオープンしますので、新しい展示にも期待しましょう!

 

 ヘスペロサウルスの展示の右隣には、鎧竜類のノドサウルス科(e.g., Carpenter et al., 1999)、もしくはパノプロサウルス科の内の初期の種である可能性が指摘されている(Raven et al., 2023)、アニマンタルクス・ラマルジョーンジ Animantarx ramaljonesiの全身骨格レプリカが展示されています。

 属名であるアニマンタルクス Animantarxの意味はラテン語で「動く要塞」という意味ですが(Carpenter et al., 1999)、「動く」を意味するアニマント Animantはアニメーション Animationと繋げて覚えることができる単語です!

 

 その隣には、鎧竜類のノドサウルス科(e.g., Madzia et al., 2021)、もしくはパノプロサウルス科(Raven et al., 2023)に分類されるエドモントニア 種不明 Edmontonia sp.の実物の頭骨が展示されています。

 このエドモントニアの頭骨も福井県立恐竜博物館に所蔵されている化石の一つですが(Sonoda and Noda, 2016)、下顎以外の大部分が失われているため(仲谷ほか, 2000)、エドモントニアの他の個体の頭骨と見比べてみるのもオススメします。

 その向かいには【モンゴルに分布する白亜紀後期の地層から化石が産出するアンキロサウルス科の恐竜の展示Part1】として、サイカニア・チュルサネンシス Saichania chulsanensisの頭骨レプリカとピナコサウルス・グレンジャーリ Pinacosaurus grangeriの喉周りの骨(喉頭骨: 輪状骨、披裂骨)のレプリカが展示されています。

 このサイカニアの頭骨レプリカは、サイカニア・チュルサネンシスのホロタイプ標本(標本番号: MPC 100/151)のレプリカで(Maryańska, 1977; Arbour and Currie, 2016)、この先のゾーンで見ることができるズールの実物の頭骨化石と見比べても迫力のある大きさです!一方のピナコサウルスの個体に残されていた喉周りの骨については2015年に最初の記載が行われ(Hill et al., 2015)、2023年の研究論文ではさらなる記載とピナコサウルスの発声についての考察も行われました(Yoshida et al., 2023)。

 次は【モンゴルに分布する白亜紀後期の地層から化石が産出するアンキロサウルス科の恐竜の展示Part2】として、タラルルス・ピリカトスピネウス Talarurus plicatospineusの全身骨格レプリカを見ることができます。

 このタラルルスの全身骨格については、あまり保存状態が良くない頭骨を含むホロタイプ標本やホロタイプ標本と同じ場所で発見された少なくとも6個体の化石を合体させて組まれたこともあって問題点が指摘されていますが(Arbour and Currie, 2016)、2020年の研究論文では2007年に発見された3個体の頭骨化石が報告されているため(Park et al., 2020)、今後の研究に期待できるアンキロサウルス科の恐竜と言えるでしょう。

 お気づきになられた方もいらっしゃるでしょうが、この〈装盾類の進化〉ゾーンでは、初期の装盾類(スクテロサウルス、スケリドサウルス)→剣竜類(ヘスペロサウルス)→鎧竜類(アニマンタルクス、エドモントニア)→アンキロサウルス科(ピナコサウルス、サイカニア、タラルルス)と、徐々にズールとより近縁な恐竜についての展示を見ることができます。ズールの影がまるでガイドをしてくれているみたいですね!

皮骨を持つ今の動物

 〈装盾類の進化〉ゾーンと〈ズール〉ゾーンの間には、〈皮骨を持つ今の動物〉ゾーンとして、ミツオビアルマジロとマタコミツオビアルマジロの全身骨格と皮骨が展示されています。


 今生きている動物のなかではアルマジロだけではなく、ワニやコモドオオトカゲなどのトカゲ(e.g., Vickaryous and Sire, 2009; Maisano et al., 2019; Williams et al., 2022)、そして一部のヘビも皮骨を持っていますので(Frýdlová et al., 2023)、彼らの骨格を見るときは「どこに皮骨があるのかな?」と探してみるのもオススメします!

まとめ

 今回紹介したゾーンでは皮骨を持ついろいろな動物を見ることができますが、皮骨の大きさや形のバリエーションの豊富さにも目を向けてみてください!

 

恐竜博2023 ホームページ

【著者紹介】恐竜のお兄さん 加藤ひろし

恐竜についての難しい研究論文について、わかりやすく解説しています。
そのほかにも、動物園・博物館・恐竜イベント等をさらに楽しむ為に注目すべきポイントについて紹介します。幅広い知識を子供から大人まで、ご要望に応じた層に分かりやすく対応いたします!
出身地:東京都
誕生日:1993年10月28日
身長:167cm
資格:学芸員資格(博物館資料の収集・整理・保管・展示・調査など)
   大型特殊自動車免許(ブルドーザー・ショベルカー・クレーン・除雪車など)
   車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削)運転技能講習修了

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参考文献(本文登場順)

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