初夏の夜に輝く宝石! ホタルはなぜ光る??

2023.05.29

 初夏になり、梅雨が差し掛かると、夜を彩るものがある。そう、ホタルだ。暗い夜道に光る小さな明かりは神秘的であり、寝静まった窓の外で不意に光る様は人魂のようでもあり、とても風流だ。いつもより少しだけ早く明かりを消して、初夏の夜を楽しむのも良いかもしれない。

 それにしてもホタルはどのように発光をコントロールしているのだろうか? 体の一部を光らせる事など、私たちにはもちろんできない。そのため、時に強く、時に弱く、呼吸をするように光を操るホタルの様子はとても不思議に思える。

 というわけで今回は、ホタルがどのように発光しているのか、ホタルの生態から分子の挙動に至るまで順を追って解説して行く。

 キーワードは『エネルギー』だ。

 

 

少し詳しく 〜発光と意義〜

 突然だがホタルはなぜ光るのだろう? その理由について多くの人が、一度は聞いたことがあるのではないだろうか。

 

 すなわち求愛のためである。

 

 ホタルが発光する意義がわかったところで、次の項に進もう。と、できるほど事態はそう簡単ではない。

 そもそも、皆さんの中でホタルというとどんなイメージだろうか?

 

  • 幼虫期は綺麗な水の中に棲んでいる。
  • 成虫になると夜に飛んで光る。

 

 実はこの両方に該当するホタルは、国内には3種しかいない[注1][注2]。こう書くと、「そもそも日本にホタルって3種類くらいでしょ?」と思われる方もいるかもしれない。しかしながら、聞いて驚いて欲しい。

 

 北は北海道から南は沖縄まで、日本に生息するホタルはなんと46種にものぼる[注3]

 

 46種だ!!

 

 そのうち、私たちが日頃イメージするホタルはわずか3種である。成虫期に発光するホタルに絞っても、半数以下の21種だ。

 それでは残る25種のホタルは発光せずに生涯を終えるのだろうか? いや、そうではない。そもそもホタルは成虫に羽化した途端に光り始めるわけではない。その前段階の蛹期でも幼虫期でも光っている。なんなら卵すら光る。

 

 成虫期に発光しなくなるホタルは、むしろ発光の必要がなくなったから光らなくなっただけなのだ。では成虫には不要で、それ以前の段階では必要な、発光の理由とはなんなのだろうか?

 実のところ、幼虫期のホタルが発光する決定的な理由は明らかになっていない。だが、有力視されている説はある。ズバリ、捕食者に対する警告だ。

 

 実はホタルの仲間は毒を持つことでも知られている[注4]

 

 例えばカエルやハチがそうであるように、毒を持っている生物は、自身が毒を保有していることをアピールするために派手なカラーリングをしていることがある[注5]。ホタルの幼虫も同様に、体を光らせることによって、捕食者から身を守っていると考えられている。

 それではホタルの細胞はどのようにして発光させているのだろうか? 続いてはホタルの発光に関する器官について詳しく見てみよう。

 

 

さらに掘り下げ 〜発光と発光器〜

 動物の器官は大きく2つに分ける事ができる。

 ひとつは、声帯を震わせて声を発するように、あるいは筋肉を収縮させて肉体を動かすように、エネルギーを使って能動的に体の外部に働きかける器官。もうひとつは、周囲の状況を目で確認するように、あるいは物の匂いを鼻で嗅ぐように、エネルギーを使わず受動的に情報を体の内側で整理する器官。前者を効果器といい、後者を受容器という。

 

 ホタルの発光はどちらだろう?

 

 警告のためであったり、求愛のためであったりするホタルの発光は、私たちが声を出して意思を伝えるのと似ている。当然、しなくても良い時にはしないし、するときにはエネルギーを消費して行う。したがって、ホタルの発光は効果器で行われている。

 ホタルの発光用の効果器を、発光器という。ホタルの発光器は、発光を司る発光細胞の層が体表面近くにあり、発生した光を効率よく外に向かって反射させるための反射層が体内側にあるという構造をしている。

 発光細胞の層には、必要な酸素を送り込むための気管[注6]と、発光をコントロールするための神経が繋がっており、これにより然るべきタイミングでの発光が可能となる。

 

 それでは発光の際、細胞の中ではどのような事が起きているのだろう?分子レベルで何が起きているのかを見てみよう。

 

 

もっと専門的に 〜発光とルシフェリン〜

 ホタルに限らず多くの発光生物の発光は、ルシフェリンという分子がルシフェラーゼという酵素[注7]によって酸化させられる事によって行われている(L-L反応)。

 と書くと、多くの生物種が同じ物質を利用しているように聞こえるが、実際にはルシフェリンもルシフェラーゼも生物種によって様々だ。発光する元の分子がルシフェリン、発光させる酵素がルシフェラーゼだと思ってほしい[注8]

 L-L反応はルシフェリンとルシフェラーゼを混ぜただけでは発生せず、エネルギーを与える必要がある。多くの化学反応の場合、エネルギー源は熱になる。しかしながら、ホタルは生物であるため、発光のたびに熱を受け取っていたのでは身がもたない。


 そのため全ての生物は、生体反応に必要なエネルギーをATPという物質に貯蔵して利用している。
 ATPとルシフェラーゼの働きにより、ルシフェリンは酸化され発光する。

 

 この時、熱はほとんど発生しない。白熱電球や蛍光ランプが受け取ったエネルギーの 10 ~ 25 % しか光に変換できないのに比べ、ホタルの場合なんと 41 % も光に変換している。省エネで知られる白色LEDが 30 ~ 50 % なのでほぼそれに匹敵する。

 そのため、ホタルの光は冷光と呼ばれる事もある。

 ここまで、ホタルの発光の意義や仕組みについて解説してきたが、いかがだっただろうか?短い初夏の夜ではあるが、少しだけ科学に想いを馳せてみるのもまた風流……かもしれない。

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが、生物発光の利用方法について2つ紹介して記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜発光の利用法〜

 体重150 tにもなるシロナガスクジラから、肉眼では確認することのできないバクテリアまで、地球上の全ての生物にとってATPは欠かすことのできない物質だ。一方でわずか数秒という半減期のため、生物のいない場所では存在しない物質といっても過言ではない。

 この特性とL-L反応を利用した衛生検査がATP測定法だ。

 調理器具や調理台、洗った直後の手など、清潔である事が求められる場所からサンプルを採取する。これをルシフェリンとルシフェラーゼを混ぜた試薬につけると、付着している微生物の量によって発光の度合いが変化するという仕組みだ。

 

 生物による発光はL-L反応だけではない。オワンクラゲというクラゲが作るGFPというタンパク質は、紫外線を浴びると緑色に発光するという性質で知られている。

 生物の細胞の中には無数のタンパク質が詰まっているが、「目標のタンパク質がどこにあるか」というのは研究者にとって重要だ。目標タンパク質にGFPを融合させる事で、視覚的にこれを明らかにするのに利用されている。

 GFPのGはグリーンのGであり、現在では黄色く光るYFP、青く光るBFP、赤く光るRFPなど多くの種類が開発されている。

参考文献

  • 牧昌次郎. 『ホタル生物発光型in vivoイメージング標識材料の創製』. ファルマシア 2014年 50 巻 2 号 117-120.

  • 金久保暁ら. 『発光物質が語るバイオサイエンス』. 化学と生物 2003年 41 巻 9 号 605-613.

  • 佐々木 健志. 『陸生ボタル類幼虫の捕食者回避システムについて』. 日本生態学会大会講演要旨集 2005年 ESJ52 巻 P2-135.

  • 嶋田正和ら. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 生物図録』. 数研出版.

  • 板東 完治. 『照明用白色LEDの発光効率と進歩(<特集>LED照明特集~LED照明の現状と将来~)』. 照明学会誌 2010年 94 巻 4 号 228-232.

  • 今村 博臣. 『蛍光バイオセンサーを用いた生細胞ATP濃度イメージング』. 生物工学会誌 2022年 100 巻 7 号 359-362.

脚注

[注1] とはいえ、水棲のホタルがそもそも世界的にも10種程度しかいないようだ。そのうちの3種が国内に生息している。ちょっと不思議。 (本文へ戻る)

[注2] ゲンジボタル、ヘイケボタルとクメジマボタルの3種だ。クメジマボタルは、沖縄県久米島に生息する沖縄県指定天然記念物なので、私たちの生活に近いのは実質2種になる。 (本文へ戻る)

[注3] これを知った時、葉月はとても驚いてぜひとも共有したいと思った。 (本文へ戻る)

[注4] とはいえ、私たちにとっては強い毒ではないので心配ないので安心して欲しい。あくまでトカゲやカエルに対してのお話し。 (本文へ戻る)

[注5] このような、体色によるアピールを警告色というのだが、今回は割愛させていただく。 (本文へ戻る)

[注6]節足動物(虫の仲間)が持つ、酸素を全身に供給するための器官。私たちの口や肺など呼吸に関連する器官も気管というが、同じ字の別物だと思って欲しい。私たちの気管が空気を一時的にためる風船だとしたら、節足動物の器官は空気を通すための通風口のイメージだ。 (本文へ戻る)

[注7] ある特定の化学反応を進めるのに特化したタンパク質を、酵素という。生体触媒などと言ったりもする。 (本文へ戻る)

[注8] ホタル由来のルシフェリンをホタルルシフェリン、ウミホタル由来のルシフェリンをウミホタルルシフェリンなどと言うことで区別している。 (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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