花粉で探る!?世紀を超える難事件!

2023.05.22

 長かった花粉のシーズンがほぼほぼ終わりましたね。花粉と聞くと、それだけでくしゃみが出そうになる筆者なので、テレビコマーシャルでもよく目にする、抗アレルギー薬が欠かせません。いっそ花粉の時期は在宅勤務かクリーンルームで生活したいくらいですね。個人的に効果が高い花粉対策は、抗アレルギー薬・マスク・メガネです。まぁなんと言っても抗アレルギー薬とマスクは欠かせませんし、花粉対策メガネを使うようになってからは目の周りをこすることが減りました。とにかく粘膜から花粉を遠ざけつつ、辛い花粉症をなんとかできないかと、花粉について何度調べたことか。。。

花粉を食べる生き物

 さて、本日は表題の通り、花粉が役立ったニュースを紹介しますが、その前に身近な花粉の話に少しお付き合いください。日本人の半数近くにとっては、悩みの種の花粉ですが、山田養蜂場によると、ミツバチにとっては花粉は貴重なタンパク質・ビタミン・ミネラル源になっているそうです。おいしいはちみつを作ってくれるミツバチのエサになっているなら、花粉も許せなくはないですが、残念ながらスギ花粉は対象外だそうです。

 そこで、スギを食べる虫はいないのかと思って調べてみたところ、北海道立総合研究機構の森林研究本部のページにスギの害虫のリストがまとまっていました。また、防虫剤や殺虫剤で有名なフマキラーによると、カメムシはスギやヒノキが花粉によって受粉した後につける実を好んでエサとして食べるそうです。ただ、こちらの記事によると、ある植物を防除するために天敵の蛾を導入したところ、枯れて地面を転がる際に、逆に種子を落としやすくなってしまい、かえって拡散してしまう可能性もあるそうです。実を好んで食べるのは惜しかったですが、生き物の力を借りて花粉をなんとかするのは難しそうですね。

花粉を破裂させる影の悪者

 そもそも花粉がアレルギーを誘発する仕組みはどうなっているのだろう?と、疑問に思って調べてみたところ、最新の研究では花粉は悪者ではないかもしれないようです。実はスギの花粉(下図のPollen)自体は大きさが10~30ミクロンなので、呼吸器系深部に直接入り込めません。埼玉大学の王 青躍先生の解説によると、人体内に侵入して花粉症を発症させているのは、花粉が割れる(破裂する)際に放出される1.0ミクロン以下の大きさ(PM1.0)のアレルゲン物質(抗原)なのだそうです。さらには、それら抗原の花粉からの分離を助け、放散を増長しているのは、黄砂やPM2.5などの大気中の汚染物質で、これが理由で都市部での花粉症の発症率の高さの原因になっているそうです。花粉症対策で減らすべき真の悪者は、実はスギでも花粉でもなく、大気中の汚染物質なのかもしれません。小さなものを見る顕微鏡の技術が発達すると、同じように思える小さな粒子でも、その僅かな差から真の原因が分かるという、技術の進歩が謎の解明につながるいい例ですね。

花粉で探る大量絶滅時の地球の天気

「身近な花粉の話」の説明を前段とし、本日紹介する花粉のニュース(論文)はこちらです。

花粉の化石から探る地球の過去(リンク)

Yong Wang, Hayden M. Carder & Alison E. Wendlandt, "Dying in the Sun: Direct evidence for elevated UV-B radiation at the end-Permian mass extinction." Sci. Adv.9,eabo6102(2023)(リンク)

今回のニュースを一言でまとめると、「花粉の丈夫な外皮に保存されるフェノール化合物が地球の過去を探る化学的手がかりになった」です。

陸上植物には、花粉を有害な太陽光線から保護するために、紫外線B波(UV-B)に応答して、花粉などの外壁に含まれるUV-Bを吸収するフェノール化合物の濃度を調整する機能が備わっています。そこで、絶滅を免れた植物であるシダや針葉樹の古代の親戚の花粉の化石に注目し、その調査を行うことで、ペルム紀から三畳紀の境界にまたがる地球最大の大量絶滅時(※1)は、晴天に恵まれたものであったことを明らかにしたというわけです。

 今回、研究チームは、フーリエ変換赤外顕微分光法(FT-IR)を用いた花粉に基づく年代測定によって、UV-B吸収化合物の量が、水銀や他の激しい火山活動の兆候と同じ時期に急増することを発見しました。すなわち、大量絶滅という世紀の難事件について、現在解明されつつある状況を時系列にまとめると以下のようになります。

1.激しい火山活動により成層圏にあるオゾン層破壊が発生
2.地球に降り注ぐ太陽のUV-Bが増加
3.陸上植物の奇形胞子体や森林不妊が広く発生
4.陸上炭素吸収源である陸上植物の減少により、陸上の炭素貯蔵量が減少
5.代わりに大気中の二酸化炭素(CO2)が増加し、地球温暖化に寄与

以下は著者らによる仮説
6.植物組織内のUV-B吸収化合物の量の増加は、葉を草食動物に食べられなくすることでの防御としても機能
7.CO2濃度の上昇によって葉の栄養価も低下すると予想され、昆虫の多様性の減少
8.地球上の多くの生命に死をもたらした

 

ペルム紀から三畳紀っていつ頃?

 約2億5,100万年前の古生代と中生代の境目に相当し、古生代の最後がペルム紀(Permian)、中生代の最初が三畳紀(Triassic)です。この時期について前後も含めて概説すると、約3億年前の石炭紀(Carboniferous)にシダ植物とシダ種子類が繁茂し、植物の活動(光合成)により、二酸化炭素(CO2)濃度は低下した一方で、酸素濃度は地球史上最高の35%に達していました。

 この当時、樹木を分解できる白色腐朽菌のような菌類はまだ存在していなかったので、リグニンを含む樹木は腐敗分解されず、石炭化していくのみでした。白色腐朽菌の登場以降は、白色腐朽菌が酸素を大量に消費して、大量の倒木を分解していき、CO2を増大させていきました。これにより石炭紀が終焉します。

 続くペルム紀にも酸素濃度は徐々に減少し、一方でCO2濃度は増加していき、地球の低酸素環境が決定的になり、高酸素濃度下に繁栄した単弓類(哺乳類型爬虫類)は多くが絶滅します。上の時系列の「4.陸上植物の減少」と「5.大気中のCO2の増加」をつなぐのが、この辺りになります。

 この地球の低酸素環境時代の絶滅を免れたのは、単弓類の中でも横隔膜を獲得して、腹式呼吸を身につけた種と言われています。後の三畳紀には主竜類が繁栄しますが、主竜類の中でも気嚢を獲得した種は、より低酸素環境への適応度が高く、後の時代に恐竜が繁栄していく基礎となったとされています。ちなみに、腹式呼吸を身につけた種は、低酸素時代の危機や恐竜が繁栄した時代を細々と乗り越え、哺乳類の先祖となります。

FT-IRによってUV-B吸収化合物の量がどうしてわかるの?

 今回検出の標的になったUV-B吸収化合物は、フェノール化合物のパラクマル酸およびフェルラ酸であり、いずれもケイ皮酸の誘導体です。これらの化合物の増加は、植物においては大気汚染やその他の環境ストレスによって引き起こされることはないため、UV-Bの変動に対する特異的な応答とみなすことができます。一方で、花粉の丈夫な外皮を構成するバイオポリマーは地質学的記録において保存性が高い点も重要です。

 FT-IRについては専門的な話になりますが、フェノールの芳香族のC=C結合に関連するバンドが1510 cm-1付近に現れ、フェノールの水酸基のO–H結合に関連する幅広いバンドが3300 cm-1に現れるため、容易に区別して検出できます。これらをバンドの高さで割って規格化することで、値の変動の一致や相関があることを確認できたことで、UV-B吸収化合物の量として推定できたそうです。

FT-IR

最後に

 今回は、案外悪者ではない花粉についての話でした。日本人の大半を苦しめる花粉症も、大気中の汚染物質が原因であれば、今後、再生可能エネルギーや電気自動車の普及が進むことで解決するのかもしれません。あるいは、電化製品を使う時間の短縮や、徒歩や自転車の利用であったり、日々のごみの分別の徹底であったり、そもそもゴミの量を減らすことであったりといったecoを意識した行動が案外、花粉症対策になっているのかもしれませんね。

脚注

(※1) 地球最大の大量絶滅時 ↩︎
約2億5000万年前のペルム紀から三畳紀に移行する際の大量絶滅時代の状況は、すでにわかっているだけでも、現在のシベリアで大規模な火山噴火が起こり、温室効果ガスの排出、広範な水銀汚染、その他多くの大気の乱れが重なって、大災害が発生したとされています。

参考文献・サイト

花粉とミツバチ ー山田養蜂場HP 養蜂場だより

スギの害虫ー地方独立行政法人北海道立総合研究機構|林業試験場HP

カメムシが大量発生する原因とは?カメムシの退治方法と予防対策ーFor your LIFE Powered by フマキラー 

花粉症の元になるブタクサを、“天敵”の虫を放って食べさせる? 研究で示された「生物的防除」の現実味ーWIRED

花粉症と大気汚染の原因物質との関連性を化学的に解明|埼玉大学 工学部・環境共生学科 物質循環制御研究室 王 青躍 ー国立大学55工学系学部ホームページ

Fossilized pollen provides a glimpse of Earth’s broiling pastーChemical&Engeneering NEWS

Yong Wang, Hayden M. Carder & Alison E. Wendlandt, "Dying in the Sun: Direct evidence for elevated UV-B radiation at the end-Permian mass extinction." Sci. Adv.9,eabo6102(2023)

 

【著者紹介】化充(ばけじゅう)

さすらいの有機合成化学者。好きな元素はリン。趣味が多い。論文誌ではOPR&Dを、週刊誌では週刊少年ジャンプを愛読している。愛車は2014年モデルのBianchi Vertigo。ネット碁サイトKGSで1級〜初段を行ったり来たりしている碁打ち。
現実生活(リアル)が充実しているということを「リア充」と呼ぶように、化学の趣味活動が充実しているので化充と自称しています。
<魅力的な略歴>
この人物は興味が発散しているため、光化学やエレクトロニクス、金属-有機構造体(MOF)、反応開発、計算科学、X線構造解析などの分野の研究をちょっとずつかじっています。実験機器の簡単な修理から、あったらいいな道具を自作したり3Dプリンタで産み出したり、面倒な作業のPythonを使った自動処理コード作成(リンク)まで、興味を持ったらとりあえずなんでもやってみたい人。