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ゲノム解析技術が進んだ結果、腸内細菌叢研究はあっという間に医学の重要分野に躍り出たが、実験動物は別として、人間の細菌叢研究のほぼ100%は便をサンプリングして行われている。
ただ、動物実験からは、大便ではなく、もっと上部消化管の細菌叢がホストに大きな影響を持っていることが示唆されており、大便に代わるサンプリング法の検討が待たれていた。
今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、腸の異なる部位で溶けるように設計されたカプセルを服用させ、計画された場所の消化管腔内の細胞や分子を吸収して、腸各部の細菌叢やメタボロームを可能にする技術の開発研究で、5月10日 Nature にオンライン掲載された。
タイトルは「Profiling the human intestinal environment under physiological conditions(人間の生理学的条件での腸内環境プロファイルを行う)」だ。
今回使われた4類のカプセルには時間とともにpHなどに反応して、十二指腸、空腸、回腸、そして上行大腸と、それぞれ別のところで剥がれるコーティングが施されており、またコーティングが溶けると、外界からカプセルへ1方向に400µlの液体が流入した後、弁の働きでそれ以上外界から物質が入らないよう設計されている。
(オープンアクセスなので、https://www.nature.com/articles/s41586-023-05989-7/figures/1 をクリックして実際のカプセルの写真を見てください。)
実際、内容物のpHを測ると、予想通りの数値を示すことから、カプセルは期待通りの場所でサンプリングを行っていることが確認される。排出・回収までにどうしても時間がかかるが、それでもpHは保たれ、多くのバクテリアは生存していることも確認している。
このように、消化管の異なる部位の非侵襲的サンプリングが可能になったことがこの研究のハイライトで、あとは細菌叢やメタボロームを、便のそれと比べている。
まず、大便と比較すると、各部位の細菌叢は多様性が少なく、また個人差や検出日での変化が大きい。また、存在するバクテリア種もそれぞれの場所ではっきり違っている。逆に言うと、コンディションによる細菌叢の違いをよりはっきりわかる可能性がある。
面白いのは、抗生物質服用の影響を、腸内から直接得られたサンプルでは強く受けている。
他にも様々な実験を行っているが、胆汁の代謝を調べると、カプセルごとに変化が認められ、それぞれの場所の腸内細菌叢により胆汁が代謝され、異なる構造へと変化する時間経過がきれいに示される。
また、近い過去に服用した抗生物質の細菌叢や代謝への影響が、腸内サンプリングの方ではっきり見られることから、大便だけで細菌叢研究を行うことの問題が明確に示された。
この研究は腸内のサンプリングが可能であること、腸内でサンプリングした細菌叢や代謝物は、大便内のそれと比べると、多様性が大きいことを示し、腸内でサンプリングを行うことの重要性を示した。
今後、様々な病理的条件での腸内各部位の変化についての研究が待たれるが、ひょっとしたらこれまでとは全く異なる結果が生まれるのではと期待している。