先史時代のペンダントの持ち主を特定する(5月3日 Nature オンライン掲載論文)

2023.05.21

古代DNAの解析には人骨の発見がまず必要という時代は終わり、今や土壌に吸着したDNAから洞窟の住人のDNAを抽出して解析する時代が来ていることはすでに紹介した(https://aasj.jp/news/watch/16022)。


これらの技術は、昨年ノーベル賞に輝いたペーボさんが設立したドイツ・ライプチヒにあるマックスプランク進化人類学研究所の業績で、ペーボさんが開いたDNAから歴史を紐解く研究(これについては是非日本構想フォーラムでの講演まとめを読んでください:https://nihonkosoforum.org/report/20221121/)を着実に発展させている。


今日紹介するのは、マックスプランク進化人類学研究所とオランダライデン大学からの論文で、今度は身につけていた動物の骨で作ったペンダントから、それを身につけていた人のDNAを抽出し解析できることを示した研究で、5月3日 Nature にオンライン掲載された。


タイトルは「Ancient human DNA recovered from a Palaeolithic pendant(旧石器時代のペンダントから回収した古代人のDNA)」だ。


博物館に行くと石器時代には多くの骨で作った道具や装飾品が展示されているが、骨や歯の成分になっているハイドロオキシアパタイトはDNAを吸着する性質を持ち、分子生物学でも使われてきた。


従って、この骨が由来する動物のDNAだけでなく、これを身につけていた人の汗に浸み出したDNAなどが吸着されている事が期待できる。とはいえ、発掘時から現在まで、実際には様々な人とのコンタクトがあることから、当然本来の持ち主とは全く別のDNAのコンタミも予想される。


この研究では、持ち主のDNAは長く触れていたため、骨の奥まで染み込んでいるため、おそらくコンタミと区別して抽出する方法があるはずだと考え、抽出を骨を壊さず、表面から内部まで段階的に行うことで、持ち主のDNAにたどり着けるとかんがえ、様々な抽出法を試している。


最初、すでに発掘されて長く経過したペンダントについて検討を加え、EDTAなどが加えられていない、ただのリン酸ナトリウム緩衝液を用いて、温度を順番にあげていく方法で、DNAの変性が起こった古代DNAを濃縮できることを見出す。


実際には単純な方法だが、これは遺物を保存して、DNAだけを抽出できるという点では理想的な方法と言える。とはいえ、最終の抽出物の中にも、コンタミが存在していることはいかに古代DNA解析が難しいかがわかる。


そこで、現在出土が進行中の遺物に焦点を当て、土の中から遺物が顔を見せると、フェースガードと手袋でコンタミを極力防ぐ方策をとってブルガリアの発掘現場から発掘されたペンダントからミトコンドリアDNAを抽出している。


これほど注意しても、まだ新しいDNAがコンタミしていることは恐ろしい話だが、高い割合で古代人のゲノムを回収することに成功している。


このゲノムを解析すると、シベリアから北米に渡った人類と類似性が高い。また、DNAによる時代測定から1万9千年前(実際には5千年から3万年前のいつか)と計算される。人間のDNAとともに、この骨が由来する大型の鹿ワピチのDNAも回収されこの時代測定で2万5千年前のDNAとわかった。


結果は以上で、骨を用いた遺物、特に装飾品は多いこと、さらに動物と人間のDNAの両方で年代測定が可能な点などから、また新しい手法が考古学にもたらされたのではと期待する。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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