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みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説は、常温常圧で空気と水からアンモニアを合成する方法の確立だよ!
産業的に重要なアンモニアだけど、これまでは不純物のない窒素と水素を、高温高圧で合成する方法でしか得られなかったことと比べたらものすごいことだよね!
もしかしたら大規模生産には向かないかもしれないけど、中々にスゴい研究結果だよ!
CONTENTS
「アンモニア」は、私たちに欠かせない物質の1つだよ。アンモニアは火薬や肥料の原料となり、最近は火力発電所の燃料としても注目されている物質の1つだよ。
このアンモニアは「ハーバー・ボッシュ法」と呼ばれるプロセスで製造されるよ。1910年にフリッツ・ハーバーとカール・ボッシュによって開発されたこの反応は、間違いなく現代社会を支える重要な技術の1つだよ。
実際、ハーバー・ボッシュ法で製造されたアンモニアを原料に作られる肥料は、世界中の食糧生産を支え、20世紀から100年で世界人口が5倍に増加するきっかけとなったとも言われているよ。
ハーバー・ボッシュ法を開発したハーバーとボッシュはノーベル化学賞の対象となり、 "水と石炭と空気からパンを作る方法" とすら称えられたのは、それだけのインパクトがあるということだよ!
実際、ハーバー・ボッシュ法の発明前は、肥料の原料となる窒素化合物を得るために、産出場所も産出量も限られる珍しい鉱物を世界中が奪い合っていた状況だったことを考えれば、これはものすごい発明なんだよ!
これは、窒素分子がとても頑丈で化学反応に乏しいことから、アンモニアのように利用可能な化合物へと変換のが大変だから、という問題と密接に関係しているよ。
もしハーバー・ボッシュ法が無かったとしたら、現在の食糧生産を支えるために4倍の耕作地が必要と見られているよ。これは氷に覆われていない大陸の半分を使わないといけないことになるよ!
これだけスゴいものなので、現在に生きる私たちの身体に含まれる窒素の半分は、ハーバー・ボッシュ法で得られたアンモニア由来とすら言われているよ!
ハーバー・ボッシュ法は100年以上使われているアンモニア合成法だよ。利用の難しい窒素分子を効率的に変換する方法として、私たちの生活に欠かせないよ。一方で全世界のエネルギー消費量の2%以上を占めるなど、環境負荷については問題が指摘されているよ。
ただし、これだけスゴいハーバー・ボッシュ法だけど、欠点もあるよ。それは、エネルギーを大量消費するという点だよ。多用される関係から、世界中の全エネルギー消費の2%以上を占めるとすら言われるくらいだよ!
ハーバー・ボッシュ法の原料は水素と窒素であり、窒素は大気中から簡単に得られるけど、水素は水からの電気分解などで得るしかないから、反応を始める前からエネルギー消費が必要になってくるよ。
そしてハーバー・ボッシュ法自体も、高温高圧を維持しないと反応が進まないということから、環境の維持にエネルギーを使うよ。これらの関係から、ハーバー・ボッシュ法はエネルギーコストが高くなりがちだよ。
大きな欠点のあるハーバー・ボッシュ法だけど、それでも使われるのは、窒素と言う物質が極めて化学的に扱いづらい物質だからだよ。
窒素は大気の8割を占めるほど豊富な物質だけど、窒素分子は化学的に極めて安定な分子であり、ちょっとやそっとの化学反応では全く分解してくれないくらい頑丈な物質だよ。
ハーバー・ボッシュ法は化学反応に高温高圧が必要だけど、それでも窒素分子を分解し、アンモニアという扱いやすい物質に変換するには、未だに最も効率の良い反応の1つなんだよ。
ハーバー・ボッシュ法に代わるものとして、例えば反応に必要な触媒を変えたり、窒素固定菌と呼ばれる生物に倣うなど、色んな方法が模索されているものの、未だに置き換えるプロセスは登場していないよ。
単に効率が良いというだけならハーバー・ボッシュ法を上回る化学反応は見つかっているけど、これはエネルギー効率が悪かったり、触媒の原料や製造費用が極めて高額だったりするなどの問題があるよ。
こういった研究は実験室の小さなスケールで調べているので、ちょっとした欠点でも工業化という大きなスケールに拡大する場合に足を引っ張る要素となるよ。
ハーバー・ボッシュ法の発明から100年以上経った現在においても、未だにこれを置き換える工業プロセスがないのは、こういったいくつもの難しい課題をクリアできるものが見つからなかったからという理由があるよ。
今回の研究では、圧縮した窒素と細かい水滴を黒鉛触媒に通したところ、アンモニアが合成されたことが明らかにされたよ! (画像引用元: 原著論文Fig1)
スタンフォード大学のRichard N. Zare氏などの研究チームは、常温常圧と触媒がある環境で、細かい水滴と窒素からアンモニアを合成するという、消費エネルギーが極めて低いアンモニア合成法を開発したよ!
この研究は、Zare氏らが2019年に報告した、水を1µmから20µmの極めて細かい粒にして固体表面に接触させると、表面に「過酸化水素」が生成するという発見を応用した研究だよ。
化学的に安定な水と違い、過酸化水素はとても反応性が強い分子だよ。身近な用途だと酸素系漂白剤や消毒液にも過酸化水素が使われていて、有機物を分解するほどの強い反応性を応用した用途だよ。
細かい水滴に過酸化水素が生じることを発見した研究では、固体表面との接触が重要なこと、その後に水滴同士が融合しても過酸化水素が失われないことが明らかにされていたよ。
と言うことは、水から過酸化水素を作る段階を効率化することによって、大気中の窒素との反応でアンモニアを作れる可能性もあるわけだけど、そのためには適切な触媒を見つけないといけないことになるよ。
Zare氏らは研究の末に、四酸化三鉄という酸化鉄、およびナフィオンという有機化合物で表面をコーティングした黒鉛 (グラファイト) のメッシュという形に行きついたよ!
四酸化三鉄は磁鉄鉱として天然に大量に存在し、合成も容易だよ。ナフィオンは電池などの電気化学関連で大量に使われている物質であり、工業的に豊富に存在するよ。そして黒鉛メッシュとは、要するに活性炭に近いよ。
ということで、これらの触媒の原材料や合成コストは低く抑えられており、工業化へのスケールアップを阻む阻害要因を排除している点で、とても重要だね!
研究では、超音波で細かい水滴を噴霧する安価な装置で水滴を作り出し、圧縮した窒素 (約5.5気圧) の気流に乗せて触媒に通したよ。そして、触媒を通った後にどういう物質が生じているのかを調べてみたよ。
今回の研究で推定された化学反応の詳細。水滴の表面には過酸化水素が生成されており、触媒の存在下で窒素からヒドラジンを経由してアンモニアが生成されると考えられるよ! (画像引用元: 原著論文Fig2)
その結果、微量ながらアンモニアと、恐らく反応の途中経過として生じたであろうヒドラジンが見つかったよ!アンモニアは触媒なしには生成しなかったので、化学反応が起きていた証拠になるね。
一方で、純粋な窒素から、不純物が混ざっている空気に置き換えても、アンモニアの生成率はほとんど下がらなかったよ。これは追加のメリットをもたらすよ!
従来のハーバー・ボッシュ法では、空気中に含まれる不純物が触媒を一時的、あるいは永続的に痛めてしまい、反応効率を下げてしまうので、こういった不純物は除去しなければならないよ。
一方で今回の反応は、空気をそのまま使えるので、分留や不純物の除去を行う追加のプロセスが不要ということになるから、コストダウンという大きな利点となるよ!
この反応は常温常圧、つまり普通の室内環境で進行するし、電磁場や放射線などの追加のエネルギー投入も不要だから、エネルギーコストは極めて低いという特徴もあるよ!
今回の実験で利用された装置は工業的によく利用されている機器と安価な原料を起点としていることから、工業的なスケールアップが期待できるという点でも極めて有望だと言えるよ!
今回の研究で示されたアンモニア合成法は極めて興味深いものだけど、今回の発見がハーバー・ボッシュ法を置き換えるようなスゴいものになるかどうかは未知数だよ。
今回の化学反応は常温常圧で進むのが利点だけど、裏を返せば、その分だけ反応速度はどうしても遅くなってしまうという欠点があるよ。
また、圧縮空気と共に水滴をメッシュ状の触媒に送り込むという方法は、工業化に向けてスケールアップした時に反応効率に影響を与える可能性があるけれども、これもやってみなければわからないところだよ。
最後に、反応で生成されたアンモニアは水に溶けている形なので、これを取り出さなければならないから、この辺の装置周りの追加コストがどうなってくるのか、というのも注視するポイントだよ。
ただし、仮に大規模な工業化が難しいとしても、より小型なアンモニア合成機としての使い道があり得るよ。これは、大規模化でコストを抑えているハーバー・ボッシュ法では届きにくい領域と言えるよ。
例えば、農業などの現場単位で肥料を合成するためのオンデマンド装置として応用できれば、従来の化学工場から遠く離れた土地での需要を満たすことができるかもしれないよ。
輸送にもエネルギーと温室効果ガス排出を必要とする現状では、肥料を現地生産できるメリットはとても大きいので、ハーバー・ボッシュ法を置き換えるとはいかずとも、苦手な部分をカバーできる可能性があるよ。
今回の研究結果はあくまで実験室ベースのごく小規模なアンモニア合成なので、よりスケールアップをした時の結果が楽しみだね!注目すべき結果だよ!
[原著論文]
Xiaowei Song, Chanbasha Basheer & Richard N. Zare. "Making ammonia from nitrogen and water microdroplets". Proceedings of the National Academy of Sciences, 2023; 120 (16) e2301206120. DOI: 10.1073/pnas.2301206120
[関連研究]
[参考文献]