「ニードルパッチ」形式のmRNAワクチンを開発! 常温保存可能で注射針不要!

2023.04.28

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、常温保存が可能で注射針も不要なmRNAワクチンを開発したというお話だよ!

 

mRNAワクチンを含め、従来のワクチンはインフラの整っていない場所で接種を広めるのが難しいという課題があったよ。未接種集団を残しておくのは、防疫の観点からは良くない状態だから、これは問題だね。

 

今回は、これまでのワクチンの中でも有効ながら、保存に課題のあったmRNAワクチンを、常温でも性能を落とさずに保管可能とするニードルパッチの方式で製造に成功したよ!

 

有効性を落とさず、かつ注射針も不要という点で、注目される成果だよ!

(画像引用元: Massachusetts Institute of Technology (背景) / いらすとや )

 

ワクチンを全ての人々に接種させるのは難しい

ワクチン」は様々な感染症の対策に必須なものだけど、様々な課題もあるよ。その1つとして、発展途上国、遠隔地、紛争地、難民キャンプといった、設備・人員・インフラが整っていない場所での集団接種だよ。

 

ウイルスは感染を繰り返すほど変異し、ワクチンが効きにくくなったり強毒性になる恐れがあることから、ワクチン接種をしていない人々が残されることは感染症対策の上では大きなリスクになるよ。

 

従来のワクチンの課題

従来のワクチンのほとんどは、冷凍庫や冷蔵庫による低温保存と、接種の為の注射針が必要だよ。これはインフラが整っていない発展途上国、遠隔地、紛争地、難民キャンプなどでの接種を難しくするよ。生ワクチンの一部についてはこれらが不要なものの、副作用のリスクが高いという欠点があるよ。 (画像引用元: Massachusetts Institute of Technology )

 

しかし、ワクチンというのは非常に繊細な物質だよ。例えばCOVID-19 (新型コロナウイルス感染症) で実用化されたmRNAワクチン[注1]は、-70℃前後という極低温の冷凍保存が必須なことが大きな課題だよ。

 

mRNAワクチンは製造スピードが速く、新種のウイルスや株にも速やかに対応できる上に、有効性も極めて高いという利点があるけれども、この難点が猛烈にデメリットとなるよ。

 

また、不活化ワクチンなど従来のワクチンも、ここまで極端じゃないものの、それでも保管には冷蔵庫が必要という点が課題として指摘されてきた中では、冷凍保存必須のmRNAワクチンは更に課題となっていたよ。

 

また、ほとんどのワクチンは注射器で接種するのも課題だよ。注射器を刺す訓練を受けた人員と、人数分の注射針が必要というのは、これらを輸送する手段と共に難しい課題となるよ。

 

一応、注射針も冷蔵も不要な生ワクチン[注2]というのが一部の感染症に存在するけど、これは他と比べて副作用のリスクはとても高いので、注射針や冷蔵などのメリットが期待できない現場での使用が想定されるよ。

 

遠隔地にワクチンを輸送できないのは、既に広がっている感染症だけでなく、これから広がるかもしれない感染症を初期段階で封じ込めするのにも問題となってくるよ。

 

例えば、熱帯雨林の動物が保菌者な感染症の場合、発生源も人里離れた場所になりやすいことから、ワクチンを届ける頃には感染が広がりすぎて封じ込めに失敗する、というケースはしばしばあるよ。

 

mRNAワクチンは、ワクチンが今まで存在しなかったエボラ出血熱などに対しても開発されているけど、輸送面の課題から初期段階の封じ込めには使いづらいというのもなんとも悩ましいよ。

 

様々な課題を一気に解決するニードルパッチを開発!

mRNAニードルパッチ

今回開発されたニードルパッチは、注射針を使わずにmRNAワクチンを皮膚に浸透させることができるよ。痛みがほとんどない上に、安全性の高い素材でできているよ。これは金型と3Dプリンターで製造可能だよ。 (画像引用元: Massachusetts Institute of Technology / 原著論文 EX Fig2 / EX Fig5)

 

マサチューセッツ工科大学のAurélien vander Straeten氏などの研究チームは、これらの山積する課題を一気に解決するかもしれない、新しいタイプのワクチンを開発したよ!

 

この研究は元々、有効なワクチンが存在しなかったエボラ出血熱に対するワクチンを製造する目的で始まった研究だけど、COVID-19の流行で対象をシフトした形だよ。

 

開発したのは、マイクロニードルを使った「ニードルパッチ」と呼ばれるものだよ。まるで剣山かハンコ注射のようにも思えるけど、これよりずっと小さな針であり、痛みはほとんど感じないよ。

 

ニードルパッチを皮膚に刺すと、針自体が溶けて中身が吸収される、という性質を持っているよ。だから針の中にワクチンの成分を入れると、体内に成分が溶け出して入り込む、という仕組みなわけ。

 

単にニードルパッチを皮膚に貼り付けるだけなので、使い捨ての注射針や、それを正しく刺す技術を持つ人員の訓練が不要となり、より簡単にワクチンの接種が可能となるよ。

 

また、マイクロニードルの素材はポリビニルピロリドンとポリビニルアルコールという、外科手術などによって長年に渡って安全性が確認されている物質だよ。

 

今回の研究では、このニードルパッチを金型と3Dプリンターを使って製造可能にする装置も開発したよ。簡単に製造可能であることから、小規模な生産拠点をどこにでも設置可能という大きな利点があるよ。

 

従来のワクチンは、どこかの大規模な生産拠点から世界中に出荷するという体制なことを考えると、小規模な生産拠点が設置できるというのは、感染症の広がりに対し柔軟に対応できるということになるよ。

 

現時点では印刷後の固化に時間がかかるので、48時間で100個のニードルパッチを製造可能だけど、これは研究のためのプロトタイプであることを考えれば、生産量の底上げは容易であると考えられるよ。

室温 (25℃) で最大6ヶ月間保管すると、従来の注射は有効性が低下したのに対し、ニードルパッチはほとんど低下しなかったよ。また、注射とニードルパッチで、2回接種後の有効性を示す抗体の増大量に差はなかったよ! (画像引用元: 原著論文 Fig3 )

 

そして、肝心のワクチンの成分はmRNAだから、有効性は折り紙付きだよ!マウスに対する実験でも、ニードルパッチと従来の注射とで、2回接種による有効性に差がないことが証明されているよ。

 

有効性の利点を保持しつつ、ニードルパッチは25℃で3ヶ月、37℃で1ヶ月保管した後でも、ほとんど有効性が下がらなかったことが確認されたよ。極低温の保存が不要というのは大きなメリットだよ!

 

また、有効性までは確認できていないものの、ワクチンの要であるmRNAは、25℃の温度で最大6ヶ月まで安定して存在することも確認したから、実際にはもっと有効性が長く保持される可能性もあるよ。

 

ニードルパッチによってワクチンを接種しよう、という研究自体はこれまでも存在したけど、不安定なmRNAワクチンを封入し、長期に渡って保管可能であることを示したのは今回が初めてだよ!

 

実用化はもう少し先だけど期待も高い!

マウスの実験からすると、現時点では2cm四方の正方形のニードルパッチを皮膚に貼り付けることでヒトにも十分有効だと考えられるけど、今のところこれはプロトタイプであることを踏まえないといけないよ。

 

マイクロニードルの大きさや密度を改善することで、ワクチンを皮膚に刺した後の広がり方や製造スピードなどを改善できる可能性があることから、これは今後の研究課題といったところだね。

 

もちろん、これが実際に使われるかどうかは今後の研究次第で、臨床試験に進むのかどうかも分からないけど、もし実用化すれば、有効性は高いけど保管に課題のあるmRNAワクチンにとっては革命的とも言えるね!

 

単純に注射ではなく、痛みの少ないマイクロニードルであるという点だけでも、接種を受ける側にもメリットになりえるから、ここはぜひ実用化してほしいところだよね!

文献情報

[原著論文]

  • Aurélien vander Straeten, et.al. "A microneedle vaccine printer for thermostable COVID-19 mRNA vaccines".  Nature Biotechnology, 2023. DOI: 10.1038/s41587-023-01774-z

[参考文献]

    脚注

    [注1] mRNAワクチン ↩︎
    感染症に対してワクチンが有効となるのは、ウイルスを退治するための抗体を体内に作るように促すためである。mRNAワクチンは、抗体を作る設計図となるmRNAを接種させる仕組みであり、有効性が高く、製造スピードも速い特徴がある。mRNAは非常に不安定な物質であるため、長期保管では冷凍が必須となる欠点がある。

    [注2] 生ワクチン ↩︎
    世界で初めて開発されたワクチンのタイプでもある。ウイルスの病原性を低下させているものの、それでも症状が出てしまう可能性は高いという大きな欠点がある。一方で一部の生ワクチンは口を通して接種が可能なため注射針が不要であり、常温でも保存が可能という利点もある。このため、生ワクチンによる集団接種は利点と欠点とを天秤にかけて使用が決定される。

    彩恵 りり(さいえ りり)

    「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
    本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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