【シリーズ バイオミメティクス】「形状」だけではないバイオミメティクス!生物の行動やシステムもヒントになる!?

2023.04.24

バイオミメティクスというと、皆さんは何を思い浮かべるだろう?

ハスの葉やヤモリの足、サメの鱗など、おそらく生物の「形」や「構造」をヒントにしたものがすぐに思いつくだろう。

しかし、「形」や「構造」はバイオミメティクスの一つの視点でしかない。今回は、それら以外の視点、「行動」や「システム」について紹介したい。

バイオミメティクスの対象はなにか

バイオミメティクスは、生物の「何か」を参考にしたモノづくり技術であるが、その「何か」に当てはまるものとして「形」や「構造」の印象が強いだろう。例えば、サメの鱗の形や、ハスの葉の表面構造、などである。

しかし、実は形だけではなく、「システム」や「行動」なども参考にされる対象として挙げられる。

バイオミメティクスを、「生物の仕組みを参考にした技術」と考えると、耐熱性の細菌を基に開発された遺伝子増幅手法であるPCRや、遺伝のメカニズムを参考にした遺伝的アルゴリズムなども当てはまるだろう。


アリの行動

具体的に、行動やシステムをヒントにしたバイオミメティクスを見ていこう。

まず最初はアリである。

ご存知のように、一般的に見られるアリは複雑な巣をもち、巣の外で食べ物を見つけて巣に運ぶ。効率的な運搬をしていると予想されるが、これは「形」ではなく「システム(行動)」である。

【Festo社「BionicANTs」】

例えば、Festo社の「BionicANTs」

形がとても忠実に再現されているオシャレなアリ型ロボットだが、実は「形」だけでなく「協調行動」まで本物のアリを参考に設計されている。例えば、運搬作業を分担したり、1匹では運べないものを協力して運んだりする。
この技術は、運搬の応用だけでなく、より大きな工場システムや生産システムへの応用が期待されている。

他に、蟻コロニー最適化(Ant Colony Optimization, ACO)というのもある。道に残るアリのフェロモンの濃淡によって、運搬経路が最適化されていく仕組みを参考に開発された、数理最適化手法である。

フェロモンは時間が経つと蒸発するというのがポイントで、外の餌と巣が遠ければ道のフェロモンは薄くなり、反対に短ければ濃くなる。より濃い道を他のアリが感知して選択し、フェロモンを更新していくことでより近い経路が決定されていく、という仕組みである。

この考え方は経路探索に活用できることから、配達方法への応用が期待されている。

害虫防除システム

農業分野では、害虫防除に生物の反応を応用したバイオミメティクスが面白い。

天敵となる生物が出す振動を避ける習性を利用したり、振動による雌雄間の交信を阻害して繁殖を抑制したりといった仕組みで、薬剤の使用を減らす技術である。

これまで、ヤガ、マツノマダラカミキリ、ミカンキジラミ、タバココナジラミなどが防除対象として研究されている。

例えば、ヤガの幼虫はイチゴやキャベツなど多くの農産物に被害をもたらす。しかし、ヤガの成虫はコウモリの超音波を避ける習性を持つ。その仕組みを活かしたのが、人工的な超音波による防除である。

農研機構らの研究によると、天敵であるコウモリの超音波を人工的に発生させることで、ヤガ類の産卵数が減少し、農作物への食害が抑制されている

振動の他にも、幼虫の足跡を避ける習性をもつ生物もいるようで、防除へのさらなる応用が期待される。【京大プレスリリース:害虫の王者が芋虫の足跡を嫌うことを発見―はらぺこあおむしが自然界の秩序を保つ?―

バイオミメティクスといえば「工業製品」をイメージしやすいが、一般的には工業に含まれないような農業分野でも活用されているのが個人的にとても面白く感じている。

 

さいごに

バイオミメティクスを紹介するとき、私はイメージしやすいように「生物の形や構造をモノづくりに生かすこと」と書くことが多い。しかしながら「形」ではないバイオミメティクスもたくさんある。

今回紹介したように、形ではない「行動」や「システム」にもバイオミメティクスのヒントがあるからこそ、とても幅広い分野で期待されているのではないだろうか。

「私のは工業じゃないから…」と諦めず、ぜひいろいろな課題について、バイオミメティクスが活用できないか、生物の仕組みが参考にならないか、を考えてみてほしい。

 

p.s.『呪術廻戦』の漫画でバイオミメティクスっぽい話がでたそうで、早く読みたい!

参考文献

・篠原現人、野村周平(2016)生物の形や能力を利用する学問 バイオミメティクス、東海大学出版部

・Festo社「Bionic Learning Network」

・瀧見知久(2020)アリの道選びを参考にした宅配ルートの計算方法、バイオミメティクス研究会講演要旨集(2020年4月24日)、pp.15-16

・(琉球大学 研究成果)振動による害虫防除と栽培へのダブル効果! -化学農薬に依存しない新たな技術の実用化へ-

・(農研機構 研究成果)超音波でヤガ類の飛来を防ぐ手法を確率

・Ryo Nakano, Akio Ito, Susumu Tokumaru (2022) Sustainable pest control inspired by prey-predator ultrasound interactions. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 119(43), e2211007119. doi: 10.1073/pnas.2211007119

・Kinto, S., Akino, T. & Yano, S. Spider mites avoid caterpillar traces to prevent intraguild predation. Sci Rep 13, 1841 (2023).

【著者紹介】橘 悟(たちばな さとる)

京都大学大学院 地球環境学堂 研究員
バイオミメティクスワーククリエイト 代表   

X(Twitter)では記事公開や研究成果の報告などバイオミメティクス関連情報を呟きます。
パナソニック株式会社にて社会人経験を積んだのち、バイオミメティクスの研究を行うために退社し再びアカデミアの道に進む。企業への技術指導など、バイオミメティクスのアウトリーチ活動も積極的に実施。
※参考「学びコーディネーターによる出前授業」
研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。バイオミメティクスの紹介や生物提案など相談可能。

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