「タリーモンスター」は脊椎動物ではなかった? 化石を3Dスキャンで研究

2023.04.21

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、謎多き3億年前の古代生物「タリーモンスター」は脊椎動物ではなさそうだ、という分析結果についてだよ!

 

まず古生物に "モンスター" という名前が付いているのも驚きだけど、実際その見た目は不思議で、その正体は謎に包まれていたよ。

 

今回、タリーモンスターの化石の形状をたくさんデータ化し、他の生物化石と比較することで、この結論を導いたよ!

 

タリーモンスターの復元図

(画像引用元: 東京大学 / 絵: 迫野貴大)

見た目も分類上も “モンスター” なタリーモンスター

1955年に発見され、1966年に記載された体長約10cmの「タリーモンスター (Tullimonstrum gregarium)」は、他に類似している生物が見当たらない奇妙な姿から、発見以来正体が論争の的だったよ。

 

例えば、頭の頂点に乗っかるように生えている突起と、その先端に存在する目、身体の先端から伸びる吻の先にはカニのハサミのような構造など、似ている生物がほとんどいないよ。

 

アメリカ合衆国のイリノイ州にあるメゾン・クリーク[注1]は、約3億年前の石炭紀の豊富な化石を含む地層があって、タリーモンスターを始め様々な生物が見つかっているよ。

 

メゾン・クリークの化石は保存状態が良好である一方で、タリーモンスターは他の地域で見つかっていないことから、タリーモンスターは例外的な状況でないと化石が残りにくい生物であると見られるよ。

 

タリーモンスターは、1966年の記載時から、その正体について様々な説が唱えられてきたよ。2016年になって、ヤツメウナギのような原始的な特徴を持つ脊椎動物であるという説も現れたよ!

 

ということで、タリーモンスターは発見当初は軟体動物[注2]であると言われ、他にも環形動物[注3]や紐形動物[注4]、果ては更に2億年前の生物であるオパビニア[注5]に近いのではないかという説もあったよ!

 

これは、ヒトの骨を観て「これはイカかな?ミミズかな?ヒモムシかな?いや三葉虫かもしれない?」って議論しているくらい、様々な分類群を跨いで議論しているんだよ!

 

そして2016年、更に衝撃的な説を唱える論文が発表されたよ。なんと、タリーモンスターは脊椎動物の仲間かもしれないという衝撃的な内容だよ!

 

その研究では、脊椎動物の中でも特に原始的な形態を留めているとされる円口類[注6]、それもヤツメウナギに近いかもしれないってことで、脊椎動物の進化を考える上では重要な位置づけになるよ!

 

とはいえ、タリーモンスターは形態がめっちゃ変なことから、脊椎動物の進化を大幅に見直さないといけなくなるよ。確かにそれなら大発見だけど、一方で本当にそうなのかな?という疑問が挙がるのも確かだね。

 

ということで、タリーモンスターは脊椎動物だという説が出てなおも、その正体や分類的位置づけには論争が続いてきたよ。

 

あちこちのタリーモンスターを3Dスキャン!

タリーモンスターの3Dスキャン結果

タリーモンスターの化石と、その3Dスキャンデータの一例。化石の保存状態が良くて、身体の部位の特徴が微細な凹凸として現れているよ。これにより、化石を見ただけでは分かりにくい、目を支える突起や頭に存在する硬い組織などが見え良化されたよ! (画像引用元: University of Tokyo)

 

国立科学博物館の三上智之氏などの研究チームは、この謎多きタリーモンスターの分類上の位置づけ、特に脊椎動物であるという説について検討を行ったよ。

 

そのために、日本各地にあるタリーモンスターの化石153点と、同じメゾン・クリークで産出した様々な動物化石75点を3Dレーザースキャナーで記録し、形態を比較したよ。

 

メゾン・クリークの特徴である化石の保存状態の良さは、身体の微妙なデコボコなどと言った非常に繊細な情報を留めているよ。これをスキャンすることで、姿かたちの比較を行う手掛かりとしたんだよ。

 

更に、いくつかのタリーモンスターの化石の吻の先端部分、つまりハサミの部分についてX線µCTにかけることで、更に細かい分析を行うことにしたよ。

 

よく見ると分かる、タリーモンスターが脊椎動物ではない理由

数々の化石の3Dデータをとった結果、タリーモンスターの復元図は全く異なるものに更新されたよ! (新復元図の画像引用元: 東京大学 / 絵: 迫野貴大)

 

結論から言うと、以前の研究で脊椎動物や円口類と似ている根拠として提示されたいくつかの特徴について、解釈が違うんじゃないか?なのでタリーモンスターは脊椎動物ではないんじゃないか?という結果が出てきたよ!

 

例えば、タリーモンスターは身体に分節構造、つまり節っぽい構造があることが知られているよ。これは2016年の研究では筋節[注7]とされ、脊椎動物である根拠の1つとされたよ。

 

しかし、今回の分析では、タリーモンスターの節々は、ほぼ同じ間隔で目より手前の頭にも続いていることが判明したよ。頭に節があるのは脊椎動物には観られない構造であり、むしろ節足動物や環形動物に近い特徴だよ。

 

一方で、この節々の痕跡は、今回比較で調べられた節足動物の化石と比べるとはっきりしていないことから、身体全体は柔らかいと見られるよ。これは明確な硬い殻を持つ節足動物とは一致しない特徴だよ。

 

また、この節に関連するものとして、円口類のヤツメウナギに典型的な、身体の側面にあるようなえら穴のような構造も、今回は見つからなかったよ。たぶん、節をえら穴だと見間違えたんじゃないかなと考えられるね。

 

更に、尾に存在するひれには、それを支える線状の構造である鰭条が見えるとされていたけど、分析の結果、これは単にひだ上のひれが押しつぶされたことによって生じた構造だと分かったよ。

 

立体的にひらひらしたひれを押しつぶせば何となく線状構造が現れ、これがひれを支える鰭条だと勘違いしたというわけ。タリーモンスターのひれの線は鰭条ほどはっきりせず、構造も化石によって違うことがカギとなったよ。

 

更に、脊椎動物の大きな特徴である複数の部分に分かれた脳についても、今回は否定しているよ。脳とされる部分はかなり盛り上がっていて、これはかなり硬いものがそこにあることを示しているよ。

 

脳は柔らかいのでここまで盛り上がらず潰れてしまうこと、そして今回の分析では複数の部分に分かれているという主張に合致する特徴を再発見できなかったことからも、脊椎動物の根拠が薄れてしまう結果となったよ。

 

おまけとして、タリーモンスターはヤツメウナギに近いという説の大きな根拠の1つとされたtectal cartilages[注8]という軟骨の形状が、ヤツメウナギとは全然違う形をしていることが分かったよ。

 

形態的に全く異なる構造をしているということは、タリーモンスターのtectal cartilagesとされるものは名前からして全然違う硬組織であり、何か別の役目を果たしている可能性があるけれども、詳細は不明だよ。

 

脊椎動物であるという根拠の1つであるハサミの "歯" は、上と下で形が違うことが分かったよ。 (画像引用元: 東京大学 / 絵: 迫野貴大)

 

そして、吻の先端に存在するハサミをX線µCTに書けた結果も、やはりタリーモンスターとヤツメウナギの類似性を否定する結果となったよ。

 

タリーモンスターは約10cmしかないので、吻の先端はとても小さいけれども、ハサミっぽい構造にはまるで歯のようなトゲトゲしたものがあるよ。

 

2016年の研究では、この "歯" のような構造が円口類の歯と同じ中空の傘型であることを根拠の1つとしていたけれども、今回の分析ではそれについてYesかつNoという回答を出してるよ。

 

というのは、ハサミっぽい構造の下側に傘型の "歯" は存在したけれども、上側にある "歯" は基部隆起型という、根元部分にふくらみを持つ構造をしていたよ。

 

中空ではないことは最も重要で、上下で形状が一致しないのは無論、この形は円口類とは似ていないという問題があるよ。ということで、歯の類似性で円口類だというのはかなり苦しいよ。

 

全体として、脊椎動物や円口類であるという主張の根拠は、今回分析されたタリーモンスターの身体構造によって多くが否定されるから、タリーモンスターは脊椎動物だ、と主張するのはかなり厳しいということになるよ。

 

結局のところタリーモンスターは “モンスター” のまま

タリーモンスターの分類上の謎

今回の研究により、タリーモンスターの正体は脊椎動物ではないと考えられるけど、では何か?という点は不明になってしまったよ。恐らく汎節足動物ではなさそう、という以外には候補が広すぎるからね! (新復元図の画像引用元: 東京大学 / 絵: 迫野貴大)

 

では、タリーモンスターの真の分類はどうなのかというと、今回の研究からは絞り切れないよ。というわけで、タリーモンスターの正体は再び謎になってしまったよ。

 

1つ考えられるのは、脊椎動物以外の脊索動物[注9]であるかもしれない可能性だよ。2020年の化学分析による研究では、タリーモンスターは少なくとも脊索動物である、という主張があるよ。

 

この場合、脊椎動物から脊索動物と、私たちから見るとより遠くには行ってしまうものの、それでもタリーモンスターは多少なりとも縁がありそうな生物ということになるね。

 

ただ、脊索動物かつ脊椎動物ではないタリーモンスターの場合、恐らくナメクジウオに代表される頭索動物に近いということになるから、やはり相当な形態変化を伴う進化があったことをうかがわせるよ。

 

もう1つ考えられるものとして、タリーモンスターは旧口動物 (前口動物) [注10]であるかもしれないよ。つまり、初期頃に推定されてきた軟体動物や紐形動物などに含まれる分類だよ。

 

こちらはもっと手がかりが少ないよ。少なくとも、身体は硬い殻で覆われてなさそうという意味で、汎節足動物[注11]ではなさそうだ、とは言えるよ。

 

とはいえ、節があれば環形動物や紐形動物だと言えそうだし、形態からすれば軟体動物もあり得る、ただしどっちにしてもかなり形態が特殊化する進化が前提にある、と、どうしても広い分類群でグルグルしてしまうよ。

 

こんな感じで、今回の研究ではタリーモンスターの正体に迫ったというより、むしろ私たちにかなり近いという可能性はなさそうということを示した研究、と言うことになるね。

 

博物館が大量の標本を保存したからこそできた研究

いずれにしても、タリーモンスターの正体解明がここまで難航するのは、タリーモンスターの祖先や子孫にあたる化石が未発見であり、比較による正体解明が今のところできないという点にあるよ。

 

これは、タリーモンスターが身体の硬い部分を持ってないことから、メゾン・クリークのようなとてもラッキーな場所でもない限り、化石が残らないという難題があるからだよ。

 

あるいは、ちょっと保存状態が悪いせいで気づいてないだけで、もしかしたらタリーモンスターの祖先や子孫の化石が博物館の収蔵庫に眠っている可能性も否定できないよ。

 

実際、タリーモンスターにちょっと似ているオパビニアは、2022年に110年ぶりに仲間が見つかったけど、2008年の発掘時はラディオドンタ類 (アノマロカリスの仲間) だと誤解されていた、という事例があるよ。

 

と言うことで、タリーモンスターの正体探しは、案外博物館の標本の中に答えが眠っていて、発見待ちだということもありうるよ!

 

そして博物館といえば、そんな風に展示をしていない化石標本が大量に眠っているよ。今回の研究でも228点の化石が分析されたけど、それは全国の博物館が大切に保存してきたからだよ。

 

今回のように形態を調べる研究は、同じ生物の化石を大量にデータ化する必要があり、まして他の生物とも比較することを考えれば更に大量の化石が必要となるよ。

 

そして、 3DレーザースキャナーやX線µCTが最近登場し、化石を破壊せずに調べることができたように、未来では更に別の技術によって、化石の情報をより細かく読み取れるようになるはずだよ。

 

今回の研究は、博物館が大量の標本や収蔵品を長期間保存する意味がなぜあるのか、という素朴な疑問に、1つの答えを与えている、と私は考えているよ!

文献情報

[原著論文]

  • Tomoyuki Mikami, et.al. "Three-dimensional anatomy of the Tully monster casts doubt on its presumed vertebrate affinities". Palaeontology, 2023; 66 (2) e12646. DOI: 10.1111/pala.12646

[参考文献]


[関連研究]

  • Eugene S. Richardson, Jr. "Wormlike Fossil from the Pennsylvanian of Illinois". Science, 1966; 151 (3706) 75-76. DOI: 10.1126/science.151.3706.75.b
  • Victoria E. McCoy, et.al. "The ‘Tully monster’ is a vertebrate". Nature, 2016; 532 (7600) 496-499. DOI: 10.1038/nature16992
  • Thomas Clements, et.al. "The eyes of Tullimonstrum reveal a vertebrate affinity". Nature, 2016; 532 (7600) 500-503. DOI: 10.1038/nature17647
  • Victoria E. McCoy, et.al. "Chemical signatures of soft tissues distinguish between vertebrates and invertebrates from the Carboniferous Mazon Creek Lagerstätte of Illinois". Geobiology, 2020; 18 (5) 560-565. DOI: 10.1111/gbi.12397

脚注

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[注1] メゾン・クリーク ↩︎
アメリカ合衆国、イリノイ州を流れるメゾン川 (マゾン川) 流域地域。ここに産出する3億年前のフランシスクリーク頁岩という泥岩には、石炭紀の古生物化石が豊富に産出し、軟体部の細かい構造が保存されるほど状態がよいことが特徴である。今回の主役であるタリーモンスターも豊富に見つかる。

[注2] 軟体動物 ↩︎
旧口動物 (注10参照) の軟体動物門に属する動物。サザエ、アコヤガイ、ツノガイなど、いわゆる貝類が属する。貝殻を失ったウミウシ、イカ、ナメクジなども含まれる。身体は柔らかいが節を持たない。

[注3] 環形動物 ↩︎
旧口動物 (注10参照) の環形動物門に属する動物。柔らかく細長い身体は節で分かれており、一部は細長く伸びた吻を持つ。最も身近なのはミミズとヒル。他にゴカイ、ユムシ、ハオリムシなども含まれる。

[注4] 紐形動物 ↩︎
旧口動物 (注10参照) の紐形動物門に属する動物。いわゆるヒモムシ。文字通り滑らかで平たいヒモ状の身体を持つが、これといった特徴に乏しい。近年の分子生物学による研究では、環形動物や軟体動物と近縁であることが分かっている。

[注5] オパビニア ↩︎
約5億年前のカンブリア紀に生息した絶滅生物。5つの目と多数の節を持ち、長い吻の先端はハサミのように分かれているなど、タリーモンスターと一部の特徴が一致している。1912年に記載された後、長らくオパビニア・レガリス (Opabinia regalis) 1種しか知られていなかったが、2022年に近縁種となるウタウロラ・コモサ (Utaurora comosa) が見つかった。しかしそれを含めても、タリーモンスターと同じように似たような形態の生物が見つかっていない古生物である。

[注6] 円口類 ↩︎
脊椎動物のうち、ヤツメウナギ類とヌタウナギ類を含む系統。顎骨がない脊椎動物で現生種は、ヤツメウナギとヌタウナギの2種類しか存在しない。脊椎動物の化石を調べると、初めは顎骨がないものから進化したと見られているため、円口類は脊椎動物の非常に原始的な形態を留めていると推定されている。

[注7] 筋節 ↩︎
骨格筋に存在する節。刺身の断面に存在する線と言えば分かりやすいか。筋節は頸椎の数に対応しているという特徴があるため、脊椎動物の重要な特徴であるとも言える。

[注8] tectal cartilages ↩︎
単純に和訳すれば「蓋軟骨」。ヤツメウナギの頭部前方に存在するが、その構造はタリーモンスターのそれよりずっと複雑である。

[注9] 脊索動物 ↩︎
新口動物の脊索動物門に属する動物。脊索とは、簡単に言えば脊髄のような太い神経と、その周りを覆う軟骨である。脊椎動物は脊索動物門のさらに下である脊椎動物亜門の扱いであり、柔らかい脊索の代わりに硬い骨である脊椎骨 (いわゆる背骨) に置き換わることを特徴とする。

[注10] 旧口動物 ↩︎
前口動物とも。左右対称を特徴とする左右相称動物の二大分類の1つである。対となるのは新口動物 (後口動物) であり、ヒトを始めとした脊索動物は新口動物である。この分類は、受精卵の細胞分裂できる胚の、更に一部が凹んでできる「原口」という構造で区別している。原口が口になるのが旧口動物であり、肛門となるのが新口動物である。これは単に口が先か肛門が先かという以上に、生物の大分類と一致する特徴という点で重視される。

[注11] 汎節足動物 ↩︎
旧口動物 (注10参照) の脱皮動物上門のうち、現存している3つの門の総称。有爪動物門 (カギムシの仲間) 、緩歩動物門 (クマムシの仲間) 、節足動物門 (昆虫、ムカデやダニ、エビやカニ、その他いわゆる "虫っぽい生物) を含む。いずれも硬い外骨格を持っている。

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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