ミミズを研究するダーウィンが可愛い話

2023.04.28

ミミズと聞くと、何を思い起こすでしょうか?

ヌルヌルしてウネウネしている?
確かに、ミミズは常に粘液で体表を覆っていますし、環形動物なのでウネウネしています。

釣り餌になる?
確かにミミズは様々な生き物の食べ物として重要な役割を果たしていますし、その捕食者として魚も例外ではありません。

ミミズコンポストが小学校にあった?
その小学校の校長先生は、もしかしたらあのチャールズ・ダーウィンが生前最期に残した著書を読んでいたのかもしれません。

 

 

ダーウィンの生前最後の著書、ご存じですか?

ダーウィンの著書といえば、『種の起源』ですよね。

では、ダーウィンの生前最後の著書はご存じでしょうか?

実はミミズについて書かれた本なのです。
日本語訳としては『ミミズと土』とか『ミミズによる腐植土の形成』といったタイトルで出版されています。以下、ミミズ本と書きます。

日本語訳のタイトルからも分かるように、ミミズ本はミミズの特徴や生態について、そしてミミズが土壌の形成においていかに寄与しているかについてを著した本です。

ダーウィンが亡くなったのは73歳なのですが、ミミズ本が出版されたのは72歳の時。本当に彼が最後の最後に書き表した渾身の1冊なのです。

しかも、実はダーウィンは28歳の時点で既にミミズが土壌形成における役割を示した論文を発表しており、自伝の中でもミミズ本について「この本は40年以上前に地質学会で発表した論文の完成版にあたる」と述べています。

つまり、たまたま晩年になって思いついた研究テーマがミミズだった、というわけではなく、彼が生涯を通じて興味を持ち続け研究したのがミミズだったのです。

 

ミミズ本は読みやすい!

そんなダーウィンの人生の集大成ともいえるミミズ本なので、さぞ分厚くて専門用語が満載でとっつきにくい本だろうと思われるかもしれませんが、決してそんなことありません。

むしろ、ミミズ本こそダーウィンの著書1冊目として手に取るべき1冊だと私は思うのです。

なぜかというと、種の起源など他のダーウィンの著書と比べてもページ数が少なく、内容も平易であるため読みやすいからです。

この本の主眼はミミズがいかに土壌の形成に役立っているのかという点であるため、例えば自然淘汰を基にした理屈や概念の話が殆ど出てきません。

ミミズがどういった形質を持っている生き物で、どのような生態をしていて、それが土壌形成にどのように作用しているのかを淡々と実験し考察したことが書かれています。

実験内容も地道でシンプルな手法を取られていることが多いため、最後まで読み通すのに要求される背景知識なども多くありません。

そして何より、「ダーウィンの生前最後の著書を読んだことがある」っていう響き、格好よくないですか?

薄っぺらい発想で恐縮ですが、私のような俗物にとっては、それも本を1冊読み切るための大きなモチベーションにつながるのです。

 

ダーウィンはかわいい!

さて、私がこのミミズ本を読むにあたって皆様におすすめしたい読み方は、ダーウィンの可愛いところを探しながら読むことです。

この本の見どころは、実験結果の精度がどうだとか主張の正誤がこうだとかそういうところではありません。

本文に書かれている細やかな実験の描写や関係者への言及を通じ、ダーウィンの人柄や周囲の人々との関係性を想像しニヤニヤするのがこの本の正しい(?)読み方なのです。

例えば。

基本的にダーウィンは自分の部屋に土を入れたポットを置き、そこにミミズを入れて育てています。そのポットのミミズで何か実験する場合、できるだけポット内であること以外の影響をできるだけ受けないようにしたいですよね。

でも、安心してください。ダーウィンは文中で、ポットで実験するときは歩く振動が伝わらないように忍び足でそーっとそーっとそっと近づくから大丈夫ですという旨をしっかり書いています。

髭を蓄えたおじいちゃんがそろりそろりと部屋を歩く姿、想像したらとってもかわいい。

他にも。

ミミズに耳はあるのでしょうか。
確かめるために、ダーウィンはまず金属製の笛口に加えそっとミミズに近づき、ピィーーーーー!と鳴らします。ミミズは反応しません。
次に、楽器のファゴットを持ってきて吹いてみます。ミミズは反応しません。
続いて大声で叫んでみたり、ピアノを大音量で演奏してみたりしますが、ミミズは反応しません。

あ、大丈夫です安心してください。大声で叫んだ際にはちゃんと息がかからないように細心の注意を払って叫んでいます。叫ぶおじいちゃんかわいい。

さらに。

ミミズに嗅覚はあるのでしょうか。
ダーウィンは嗅覚があるかを確認するために、自分の息を吹きかけてみます。無反応。
続けてタバコを噛みながら息を吹きかけてみます。無反応。
香水や酢酸液を染み込ませた綿を咥えて息を吹きかけたりしました。無反応。

叫んだ時に息がかからないようにしていたのはこの実験のためだったのですね。おじいちゃんかわいい。

 

ダーウィンの親族もいっぱい出てくる!

こんな風に、ダーウィンの実験自体もかわいいのですが、それだけでなく文章の端々から伝わってくる家族や親族との関係もまた微笑ましいのです。

例えば、ミミズ本ではダーウィンの息子たちも何度も出てきます。
長男・次男・三男・五男が一緒に研究に参加していたみたいです。

他にも文中に「とあるミミズに興味があるご婦人によると〜」と言った記述があります。
ミミズに興味があるご婦人ってどんなご婦人かと思いきや、これはダーウィンの姪のルーシー・キャロライン・ウェッジウッドのことなのだそうです。

そもそもダーウィンがミミズに興味を持ったきっかけを与えたのは、叔父で義理の父でもあるジョサイア・ウェッジウッド二世というお方。

ちなみにウェッジウッドさんがたくさん出てきますが、この方々はイギリスの有名な陶器メーカーであるウェッジウッドの創業者の一族です。

ダーウィンのお母さんがウェッジウッドの創業者の娘で、しかもダーウィンは母方の従姉妹と結婚したので奥さんもウェッジウッドです。みんなウェッジウッドです。

 

出版当時の反応

こんな可愛い内容のミミズ本ですが、とはいえミミズはミミズ。出版当時はどう言った反応があったのでしょうか。

当のダーウィン自身も実はちょっと自信が無かったみたいです。
自伝の中で

「さっきミミズの本の原稿を印刷所に送ったけど、読者が関心持つか分かんないなぁ…俺は40年前からずっと興味あるテーマなんだけど」

といった旨を記しています。

とはいえこれは杞憂に終わりました。
ミミズの本は出版直後からめちゃめちゃ売れたのだそうです。

ですので、この初版の発売後の半年後にダーウィンは亡くなるのですが、少なくとも「読者が関心持つかなぁ」という心配は無事晴れた状態で死を迎えることができたのだと思います。

 

ぜひミミズ本を読んでみてね!

さて、ここまでネタバレ(?)をできるだけ伏せた上でミミズ本のかわいいポイントをご紹介しました。
とはいえダーウィンが著した古典であるミミズ本、もちろんかわいいだけの本ではありません。

各地の小中学校などにミミズコンポストが置いてあったり、人々がなんとなく「ミミズは土を作っているらしい」というような常識を持っていたりするようなきっかけを与えたのが本書であると言われています。

ダーウィンより前にミミズを研究していた人はもちろんいたでしょうが、世間の人々がミミズにここまで注目するようになったのは、生前か死後かに関わらずダーウィンの名声が役立ったのは想像に難くありません。

本書を読み進めていくと、現在から見ると「これ本当か?」と思うようなダーウィンの主張や記述がみられることもあります。
しかし、その疑問が後の科学者たちの新たな研究の種となり、現在にまで続くミミズ研究の礎となったのです。

ちなみにダーウィンがミミズの研究をしたのは主に自宅の部屋や庭なので、本書を読んでからイギリスにあるダウンハウス(ダーウィンが暮らしていた邸宅で、現在は観光地)を訪れるとより楽しむことができると思います。

ミミズに吹いて見せたファゴットも保管されているのだとか。

古典も読めるし、ダーウィンのかわいさもわかるし、旅行のお供にもなる一石三鳥のミミズ本、ぜひ手に取ってはいかがでしょうか?

 

余談

集団のミミズが炎天下の中わざわざ地表へ出てきてうねうねと這い回る様子や、その結果炎天下で干からびている様子をみたことがある方は多いのでは無いでしょうか?

ミミズの集団が大きなリスクを負って地表に出てきて移動する習性ですが、実はまだよく分かっていないことが多い行動なんです。

ダーウィンはミミズ本で「寄生バエに寄生された個体が這い出てくる」という旨を書いていますが、現在ではそんな寄生バエはいないとされています。

最近だと、ミミズが二酸化炭素濃度の上昇に対し忌避行動を示すことから、土壌中の二酸化炭素増加が地表へ這い出る至近要因の一つとされていますが、この行動の全てを説明できるものとされていないのが現状です。

ちなみに、食品のカラシをとかした溶液を土の中に注入すると、ミミズが大慌てで地表に這い出てきます。
この特徴を活かして、土壌中のミミズの個体数を把握するのに応用したり、はたまた釣り餌を簡単に取るための方法として活用されています。

二酸化炭素が増えるからなのか、カラシが注入されているからなのか、はたまた別の理由が何かあるのか。

普段目にする行動を一つとっても、未知の世界が広がっているミミズワールドなのでした。

 

 

参考文献

平凡社「ミミズと土」

 

「ゆる生態学ラジオの生き物あっぱれ!」シリーズ

【著者紹介】よしのぶ

生き物が好きな人。オーディション企画「ゆる学徒ハウス」から誕生したYouTube及びPodcast番組「ゆる生態学ラジオ」に出演中。生き物の凄さ・可愛さ・面白さをゆるく楽しく紹介します。

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