不倫脳とは?なぜ人は不倫を悪いとわかりつつ止められないのか、なぜ苦しいのか

2023.04.19

幸せとはなんだろうか。最大公約数を取れば、「笑って暮らせること」なのかもしれない。笑って暮らせる人生は幸せである。それにもかかわらずヒトはなぜ不倫をするのだろうか?道ならぬ恋をするのは苦しい。苦しいのは自分だけではない。不倫は時としてパートナーを鬼に変え、関係者全てを苦しみの縁に追い込むこともある。今回の記事では、不倫について脳科学的な観点から考える。

日本における不倫の実態

その前にまず、日本国内における不倫の実態を検証しよう。不倫をしている人は少なくないという。ではどれくらいの人が不倫をしているのだろうか。大阪大学大学院准教授の五十嵐彰と同志社大学大学院准教授の迫田さやかは、その著書、『不倫-実証分析が示す全貌』(中公新書2023年)の中で具体的なデータを示している。

それによると2020年に日本全国の6651名を対象に行なった調査から、既婚男性の46.7%、既婚女性の15.1%が婚外性交渉経験があることが示されている。男性の場合は風俗利用を除いてもおよそ40%ということで、5人に2人は不倫経験者ということになる。

日本国内の不倫経験者割合、五十嵐彰と迫田さやか、『不倫-実証分析が示す全貌』(中公新書2023年)、p51、表2-1より引用

 

ではどのような人が不倫をしやすいのだろうか。相対リスクが高い順に記すと男性では、「結婚前の浮気(配偶者の時)(10.59)」、「結婚前の浮気(配偶者以外の時)(6.909)」、「配偶者との収入差(配偶者が高い)(3.510)」、という項目が並ぶ。

ちなみに相対リスクというのは、どれくらいリスクが跳ね上がるかの指標である。つまり婚前交際中に浮気していた男性は、今現在不倫している可能性が、そうでない男性と比べて10.59倍高いということになる。これが女性については、「結婚前の浮気(配偶者の時)(24.56)」、「結婚前の浮気(配偶者以外の時)(12.75)」という数字が並ぶ。不倫相手と結婚できたとしても、結婚後、自分が不倫されたという話もよく聞く。不倫者はそもそも不倫リスクが10倍以上であることを考えれば、ある意味これは当然の結果かもしれない。

ちなみにアメリカで行われた大規模調査では、男性で不倫を経験した63%が、女性では67%が、別居、離婚、再婚を経験していることが報告されている(AllenとAtkins, 2012)。このように不倫というのは結婚生活を破綻させるリスクが非常に高い。それにもかかわらず多くの人が不倫をするのはなぜなのだろうか。

恋のドーパミン仮説

不倫は恋である。恋の病という言葉のように、ヒトは恋によって盲目になり、ときに理性を失う。恋は脳科学的にはどのようなものなのだろうか。恋愛研究の世界的第一人者、ヘレン・フィッシャーは恋は依存症の一種であるという。薬物依存症やアルコール依存症と同じ仕組みで恋が引き起こされるというのだ。

私達の脳内には報酬系とよばれる仕組みがある。これは、なにかに向かって突っ走らせるための仕組みであり、その舞台で主役を張るのは、興奮ホルモン、ドーパミンである。

では、恋は何に向かって私達を駆り立てるのだろうか。ヘレン・フィッシャーはそれは生殖だという。恋の本質は生殖衝動であり、生殖を成功させるために恋心が燃え上がるのだという。

それを示すかのように、恋愛中の男女では、報酬系の活動が高くなっており、さらにその恋愛が情熱的であるほど、その傾向が高いことが報告されている(Acevedoら、2016年)。

また恋ではドーパミンが増えるだけではない。セロトニンが少なくなることを示した研究もある。

イタリアのピサ大学の精神科医であるマラッツィティ博士の研究では、恋愛が始まったばかりの若者男女のセロトニンレベルについて調査している。すると、恋愛真っ盛りの若者のセロトニンレベルは強迫神経症患者と同様のレベルまで低下していることがわかったのだ(Marazzitiら、1999年)。

強迫神経症では、確認作業をやめられない、手洗い行為をやめられないという症状を示す。恋に落ちた男女も、相手のことを考えずにはいられない、連絡を取らずにはいられないという状態になる。この強迫神経症的な行為の背景にはセロトニンレベルの低下が関わっているのではないかと論じられている。

このように人の心を狂わせる恋の病だが、これにも治す方法がある。生殖に成功することである。生殖衝動もその目的を達成すれば大人しくなる。寂しいといえば寂しい。しかし、生殖を達成することで、ドーパミンを主役とした狂おしい恋心は、オキシトシンやセロトニンによる穏やかな愛着心に変化していくという。しかし、これは生殖を達成した場合の話である。不倫ではしばしば生殖が避けられることを考えれば、不倫の恋というのは案外冷めにくいのかもしれない。

オキシトシンと暴力行動

オキシトシンは絆を育むホルモンである。女性では出産前後に子供への愛情が深まるが、これはオキシトシンによるものである。それだけではない。オキシトシンには配偶者や仲間とのつながりを強くする働きもある。ヒトを優しく愛情深くするホルモン、それがオキシトシンである。

しかしこのオキシトシンには闇深い一面もある。オキシトシンは味方に優しく、敵に厳しくする働きがあるからだ。子猫を生んだばかりの母猫の事を考えてほしい。オキシトシンあふれる母猫は、子猫を可愛がるのと同時に非常に攻撃的にもなっている。

またプレーリーハタネズミとよばれる地球で一番真面目な動物がいる。このネズミは一夫一妻を固く守り、滅多なことでは浮気はしない。このメスネズミは結婚してツガイになると、オキシトシンが増えてテリトリー意識が高まり、他のメスネズミに対して攻撃的になることが報告されている(Berryら、2015年)。

では、なぜそのようなことが起こるのだろうか?オキシトシンには、社会的シグナルへの反応を強める効果があるためだと考えられている。社会には様々なシグナルがある。笑顔は友好のシグナルであるが、引きつった笑顔は怒りのシグナルでもある。母国語は身内のシグナルになるが、見知らぬ言語はよそ者のシグナルになる。私達の脳は、それぞれのシグナルに反応して、近づいたり、逃げたり、攻撃したりして適切な関係を築こうとする。オキシトシンが増えることで、その反応が良くも悪くも大きくなるというのだ。

これを示したものとして、テキサス大学の心理学者、パーク博士らの研究グループらの研究がある。この研究では黒人被験者にオキシトシンを投与し白人への反応がどのように変化するかを調べている。結果として、オキシトシンを投与されると、友好的なシナリオでは、より協力的に、敵対的なシナリオでは、より非協力的に反応することが示されている(Park, Woolley, Mendes, 2022年)。

Park, Woolley, Mendes, 2022年、FIGURE 3を参考に筆者作成

 

またオキシトシンが身内への暴力につながることを示唆した研究もある。ケンタッキー大学の心理学者、デュウォール博士は、オキシトシン投与で、パートナーの挑発的な態度への反応がどう変化するかを調べている。結果として、もともと攻撃性が高い人は、オキシトシンが投与されると、パートナーに対する攻撃傾向が増加することが示されている(DeWall ら、2014年)。 

さらに孤独感もオキシトシンの分泌を高めることが分かっている(Tsaiら、2019年)。というのも、人間、孤独になるとその状況を抜け出すためにオキシトシンが増やし、誰かとの絆を深めようとするからだ。プレーリーハタネズミもパートナーから引き離されて一人ぼっちになるとオキシトシンが増えることが報告されている(Grippoら、2010年)。

Grippoら、2010年、Figure 3.Aを参考に筆者作成


オキシトシンは絆を築くためのホルモンであり、愛情と攻撃性を高める。また、孤独になると絆を回復するためにオキシトシンが増える。そういったことを考えると以下のシナリオが考えられないだろうか。

パートナーの不倫が発覚すると、絆を回復するために配偶者のオキシトシンが増加する。その結果、攻撃性が高い配偶者はさらに攻撃性が増加し、いわゆる修羅場を迎えるーーーこれはあくまで傍証に基づいた私の仮説ではあるが、修羅場における攻撃行動にはオキシトシンが絡んでいるのではないだろうか。

まとめ

ではここまでの内容をまとめてみよう。

・ヘレン・フィッシャーの考えでは、恋愛感情の本質は生殖衝動である。
・恋愛中はドーパミン・セロトニンレベルが変化し、依存症や強迫神経症と類似した精神状態になる。
・不倫発覚時の攻撃行動にはオキシトシンが関与している可能性がある。

こういった生理学的背景を踏まえて私たちは不倫にどう向き合えばよいのだろうか。私にはわからない。

恋自体には善悪がない。盲目だからこそ、たどり着ける場所もあるかもしれない。もし自分の子供に不倫の悩みを相談されたらどうするだろうか。「笑って暮らせる方を取れ」とでも答えるかもしれない。生きることは善悪の彼岸にある。子どもたちが彼岸にたどり着いたとき、これで良かったと思えるよう、祈らずにはいられない。

【参考文献】

Acevedo, B. P., Aron, A., Fisher, H. E., & Brown, L. L. (2012). Neural correlates of long-term intense romantic love. Social cognitive and affective neuroscience, 7(2), 145-159.

Allen, E. S., & Atkins, D. C. (2012). The association of divorce and extramarital sex in a representative US sample. Journal of Family Issues, 33(11), 1477-1493.

Beery, A. K. (2015). Antisocial oxytocin: complex effects on social behavior. Current Opinion in Behavioral Sciences, 6, 174-182.

DeWall, C. N., Gillath, O., Pressman, S. D., Black, L. L., Bartz, J. A., Moskovitz, J., & Stetler, D. A. (2014). When the love hormone leads to violence: oxytocin increases intimate partner violence inclinations among high trait aggressive people. Social Psychological and Personality Science, 5(6), 691-697.

Grippo, A. J., Cushing, B. S., & Carter, C. S. (2007). Depression-like behavior and stressor-induced neuroendocrine activation in female prairie voles exposed to chronic social isolation. Psychosomatic medicine, 69(2), 149.

Marazziti, D., Akiskal, H. S., Rossi, A., & Cassano, G. B. (1999). Alteration of the platelet serotonin transporter in romantic love. Psychological medicine, 29(3), 741–745.

Park, J., Woolley, J., & Mendes, W. B. (2022). The effects of intranasal oxytocin on black participants' responses to outgroup acceptance and rejection.

Tsai, T. Y., Tseng, H. H., Chi, M. H., Chang, H. H., Wu, C. K., Yang, Y. K., & Chen, P. S. (2019). The interaction of oxytocin and social support, loneliness, and cortisol level in major depression. Clinical Psychopharmacology and Neuroscience, 17(4), 487.

五十嵐彰、迫田さやか(2023).不倫-実証分析が示す全貌 中公新書

片田珠美(2021).「不倫」という病

亀山早苗(2002).不倫の恋で苦しむ女たち WAVE出版

亀山早苗(2014).婚外恋愛 メディアファクトリー新書

亀山早苗(2013).渇望 女達の終わらない旅 中公文庫

亀山早苗(2013).恋が終わって家庭に帰るとき WAVE出版

亀山早苗(2016).人はなぜ不倫をするのか SB新書

亀山早苗(2017).不倫の恋で苦しむ男たち 新潮文庫

中野信子(2017).不倫 文春新書

中野信子、三浦 瑠麗(2022).不倫と正義 新潮新書

パメラ・ドラッカーマン、佐竹史子訳(2008).不倫の惑星 早川書房

ヘレン・フィッシャー、大野晶子訳(2005).人はなぜ恋に落ちるのか?恋と愛情と性欲の脳科学 ソニー・マガジンズ

ポーポープロダクション(2009).マンガでわかる恋愛心理学 人はなぜ恋をするのか?ひとめぼれは本当の恋愛感情か? サイエンス・アイ新書

ラリー・ヤング、ブライアン・アレグザンダー、坪子理美訳(2015).性と愛の脳科学 新たな愛の物語 中央公論新社

著者紹介:シュガー先生(佐藤 洋平・さとう ようへい)

富山大学大学院 生命融合科学教育部 認知情動脳科学専攻 後期博士課程 修士(健康科学)
筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、畿央大学大学院へ進学、脳波を用いた研究に携わる。現在富山大学大学院博士課程で
コミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。
2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から一部上場企業を対象に学術支援業務を行う。
研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。
日本最大級の脳科学ブログ「人間とはなにか? 脳科学 心理学 たまに哲学」では、脳科学に関する情報を広く提供している。

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