お前たちの挙動は全部まるっとお見通しだ! 見る技術に迫る

2023.04.17

 4月18日は発明の日。というわけで4月18日を含む月曜日〜日曜日の一週間は科学技術週間である。

 期間中、全国の科学館・博物館・大学などで様々な催しが開催される。期間が長めに設けられているものや予約不要なものもあるので、近所で何か開催されていないか調べてみるのもいいかもしれない。

 せっかくの大きなイベントなので、葉月もこの機に便乗し何かできないかと考えた。そこで今回は、『見る』をテーマに科学実験の現場で採用されている技術を紹介する。

 

対象を見る 〜そもそも見ることで何がわかるのか?〜

 ところでなぜ、『見る』ということが重要なのだろう?

 科学技術の発展に伴って、どのように分けているのか少し難しい分離装置や、どんな特性を分析しているのか一言で説明しづらい装置が、今日の自然科学を牽引している。そういった技術に比べれば、『見る』という行為はあまりにも単純だ。

 しかしながら、自然科学の実験において『見る』という行為なしに、対象の全体像を把握することは難しい。

 例えばこんな実験はどうだろう? 架空の生物について【】内に記した。記述の情報だけでどんな生物になるか、全体像を頭の中に思い描いてほしい。

 

【わたしは架空と思われていた生物を捕獲した。その生物の器官を分離・分析すると、細長い器官が5本あり、胴体のある側には甲羅が見つかった。3枚の膜が張った器官が4つあり、クチバシのような器官も存在した】

 

 一体どんな姿が想像されるだろうか。

 記述内には肢や眼といった一般的な器官や色や大きさなどの情報は記載されていない。分離条件によっては対応器官が分離できるとは限らず、分析の手法によっては色や大きさが分からないこともあるためだ[注1]
 そのため、上記の記述だけではどのようにでも想像できてしまう。

 

 

 一般的に、未知の存在に対しては複数の分離・分析手法を組み合わせて、最も合理的に考えるのが普通だ。

 それでは【】内に以下の記述を追加してみよう。

 

以下に、生体のスケッチを添付する。

 

 誰が見てもおなじみのカッパである。

 視覚的な条件の有無だけで、解釈の難度が劇的に変化するのを実感してもらえたと思う。また、見ることで新たな発見や疑問に繋がることもある。

 より遠く、より細かく見える目の重要性がわかってもらえただろうか?

 それでは次からは実際に運用されている見る技術について解説していく。まずは遠くを見る技術だ。

 

遠くまで見る 〜超長基線電波干渉法〜

 遠くまで見る技術といえばそう、天体望遠鏡だ。

 天体望遠鏡は大きく2種類に分けられる。鏡やレンズで対象の光を捉える光学赤外望遠鏡と、パラボラアンテナなどで対象の電波を捉える電波望遠鏡だ[注2]。どちらの場合も、口径が大きいほど高精度に、すなわち遠くまで見通せるようになる。

 しかしながら、単純に大きくしていくには技術的、物理的、あるいは立地的な限界がある。それではさらなる高精度を実現するには、どうすれば良いか。

 同じ対象に向けた複数の望遠鏡を繋げて一つの望遠鏡のようにしてしまえばいい。

 

 チリのアルマ望遠鏡は直径 16 km もの広大な敷地に建設された世界最大の電波望遠鏡施設だ。敷地内に建設された 66 台の電波望遠鏡をつなぐことで、直径 16 km の口径を持つのと同精度を誇る。

 片目で物を見ていると閉じた側の視野がわずかに狭くなるが、両目で見ると視野が広がりはっきり見えるのと同じだ。

 このように複数の電波望遠鏡が観測したデータを1箇所に集約し、1つのデータとして解析する手法を超長基線電波干渉法(Very Long Baseline Interferometry = VLBI)という。

 

 しかし直径 16 km という破格のサイズを誇るアルマ望遠鏡でさえ、宇宙の全てを見通せるわけではない。アルマ望遠鏡が 10 倍の視力を得るには直径 160 km、100 倍の視力を得るには直径 1600 km もの敷地が必要になる。荒唐無稽な事を言っているのは誰が聞いても明らかだろう。それでは、電波望遠鏡の性能をより高精度にするにはどうすればいいだろう?

 

 答えは簡単だ。すでにある電波望遠鏡と繋げてしまえばいい。それも国の枠組みを超えて。


 アルマ望遠鏡を中心に、北米、ヨーロッパ、果ては南極まで、地球の西半分に位置する多数の電波望遠鏡をVLBIの技術で繋げ、地球規模の電波望遠鏡が作られている[注3][[注4]

 宇宙という超巨大なスケールに対して、国境などないという事だ。

 次は細かく見る技術、すなわち顕微鏡だ。

 

細かく見る 〜原子間力顕微鏡〜

 顕微鏡と聞いて想像されるものといえば何だろう? 理科室でレンズを覗き込んだ光学顕微鏡だろうか。あるいはTVや本に登場する電子顕微鏡像だろうか。今回紹介するのはそのどちらでもない。

 

 その名を原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy = AFM)という[注5]

 

 とても難しそうな名前に聞こえるかもしれないが、AFMの原理はとても単純だ。

 AFMの原理について説明する前に、フロッタージュという絵画の表現技法をご存知だろうか? 名前を初めて聞いた方でも、方法を説明すれば理解してもらえるかもしれない。

 落ち葉や硬貨などを薄い紙の下に敷き、鉛筆や色鉛筆で紙をこすると、敷いたものの凹凸が紙面に浮かび上がるという、あの方法だ。幼い頃、誰もが一度はやったであろうお絵かきの方法が、AFMの原理にも利用されている。

 試料台の上を、極限まで細くした針(カンチレバー)でなぞっていくと、針は試料の高い所では高く、低い所では低くなる。この針の上下動を記録することで試料の高さデータが得られる[注6]
 まさしく超絶微細なフロッタージュである。

 

 

 原子間力、すなわち原子と原子の間に働く力は万物に働いているため、AFM は理論上あらゆる試料を観察することができる。実際、AFMは様々な試料の観察に利用されている。生きた細胞の表面や半導体基板、タンパク質が合成される過程、そして1分子。

 

 

 日常の何気ない動作に、新たな発見を導く手がかりが隠されているのかもしれない。

 

 ここまで、『見る』をテーマに意義や技術について解説してきたが、いかがだっただろうか? 身の回りの、存在するのに見えないものを見る方法を色々想像して見るのも面白いかもしれない。

 最後に顕微鏡にまつわるちょっと面白いものについて紹介し、今回の記事を締めくくらせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜◯◯の顕微鏡!?〜

 こちらの画像、一体なんだかわかるだろうか? 素材はプラスチックの練り込まれた紙製で、大きさはスマホよりやや大きい程度。

 

 

 実はこれ、『FOLD SCOPE』というペーパークラフトの顕微鏡なのだ[注7]。中心部のレンズ以外は全て紙で作られており、使い方次第ではなんとヒトの赤血球を見ることもできるらしい。

 来たるGWや夏休みの自由研究に、見ることを考えるのも良いかもしれない[注8]

参考文献

  • 国立天文台HP(https://www.nao.ac.jp/
  • アルマ望遠鏡HP(https://alma-telescope.jp/
  • 数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 地学図録』. 数研出版.
  • Enno Middelberg, et al. “High resolution radio astronomy using very long baseline interferometry ”. Reports on Progress in Physics, 2008 71 066901.
  • T an, et al. “Capabilities and prospects of the East Asia very long baseline interferometry network”. Nature Astronomy volume 2, 118–125 (2018).
  • J Carracedo-Cosme, et al. “QUAM-AFM: a free database for molecular identification by atomic force microscopy”. J. Chem. Inf. Model. 2022, 62, 5, 1214–1223.
  • Franz J, et al. “Advances in atomic force microscopy”. Reviews of modern physics, 2003, 75, 3, 949-983.

 

脚注

[注1] とはいえ今回記述を省いたのは、単純に読者諸兄を困らせるためである。すまないとは思っている。 (本文へ戻る)

[注2] 光学望遠鏡の最大はハワイのすばる望遠鏡で8.2 mの鏡を持つ。電波望遠鏡の最大は中国のFASTで直径500 mのパラボラからなる。 (本文へ戻る)

[注3] 西半分が夜の時、日本は昼間なのでこの計画には参加していない。しかしながら日本全域で構成されるものや、東アジアを中心としたものには参加している。 (本文へ戻る)

[注4] 2019年にブラックホールの撮像が話題になったのを覚えているだろうか? あの時中心を担ったのがVLBIの技術だ。 (本文へ戻る)

[注5] 葉月が卒論、修論にあたり最も使い倒した装置が原子間力顕微鏡である。学内で数年間眠っていた装置を起動し、ひたすら試料を観察していた。 (本文へ戻る)

[注6] 実際には、ひっかくように一気に針を動かすのではなく、少しずつ叩くように針を動かす。その方が試料へのダメージが小さくなるからだ。さらに言えば、動かすのは針ではなく試料台の方。 (本文へ戻る)

[注7] 説明書にはorigamiと書いてあったが、日本人的な感覚だとペーパークラフトだと思う。 (本文へ戻る)

[注8] 葉月が持っているものは、人から譲っていただいたものなので正規の入手ルートを知らない。調べたところ日本での販売はなく、輸入の必要があるとのことだ。 (本文へ戻る)

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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