磁石と鉄粉でグリオブラストーマを除去する(3月29日号 Science Advances 掲載論文)

2023.04.21

グリオブラストーマ(Glioblastoma)はおそらく最悪のガンの一つで、現在もなお確実な治療法がない。ガン細胞は周りに浸潤しやすいため、完全な切除が難しく、ガンの量を減らした上で放射線や化学療法を組み合わせる治療が行われるが、すぐに耐性が生まれるため進行を止めることが難しい。


現在免疫治療を始めさまざまな新しい方法が試みられているが、今日紹介するカナダ・トロント大学からの論文はカーボンナノチューブに取り込ませた鉄粉を磁石で引っ張って細胞にストレスを与えることでガン細胞を繰り返し除去しようという試みで、3月29日号の Science Advances に掲載された。


タイトルは「Mechanical nanosurgery of chemoresistant glioblastoma using magnetically controlled carbon nanotubes(磁石でコントロールできるカーボンナノチューブを用いた薬剤耐性のグリオブラストーマのナノ手術)」だ。


このグループはグリオブラストーマにメカノセンサー分子PIEZOが腫瘍増殖に関わることを見出していた。


そこで、細胞を機械的に刺激する方法を検討する中で、カーボンナノチューブに鉄微粒子を詰め込んで細胞表面や細胞内に取り込ませた後、磁場を使ってナノチューブを引っ張ってメカニカルストレスを与える方法を思いつく。


あとは鉄が50%重量のカーボンナノチューブ(CNT)を作成し、まず試験管内の細胞に加えて方向が変化する磁場を与えると、30%の細胞がアポトーシスに陥ること、この時CNTの多くは細胞表面と共に、細胞内にも取り込まれていることを電子顕微鏡で確認している。


さらに、時間が経過すると3割近いCNTはミトコンドリアに到達することも発見する。事実、細胞死に陥った多くの細胞では、方向が変化する磁場に晒すことで、ミトコンドリア膜が強く障害されることを示している。


以上の結果は、最初はPIEZOメカノセンサー機能とほとんど関係ないように思えるが、最終的には結果オーライで、CNTを取り込ませて磁場で操作すると、主にミトコンドリアを中心にストレスを与えて細胞を殺せることがわかった。


次は脳に移植した腫瘍にCNTを注入、CNTが腫瘍膜および細胞内に取り込まれるかを調べている。注入した半分のCNTは細胞外液に存在するが、残りは細胞膜および細胞内に取り込まれる。


この状態で、磁場を主要部分にフォーカスし、磁場の方向性を変えてCNTを腫瘍上、あるいは腫瘍内で動かして細胞にストレスを与えると、完全ではないが腫瘍増殖を遅らせることができる。


そこで、腫瘍への取り込みをさらに上げるためにCNTにCD44抗体を結合させ投与すると、さらに高い抑制効果を達成できている。また、この方法は、化学療法耐性になって手の施しようのないグリオーマにも同じように効果を示した。


以上が結果で、細胞を殺すメカニズムについてはさらに検討が必要だと思うが、腫瘍内注射と磁場という副作用が少ないと期待できる方法で、腫瘍細胞数を、極端に言えば何度でも減らすことが可能であるなら、免疫療法などと組み合わせてかなり期待できる方法になるのではと思った。


しかし、こんな方法もあるのかと感心した。

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著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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