見るのがもっと楽しくなる! 恐竜博2023をさらに楽しめる情報 Part1 【最初の恐竜・竜脚形類・卵】

2023.04.12

こんにちは!恐竜を研究する学問【古生物学】の普及活動や恐竜好きな方へのサポートを行っている「恐竜のお兄さん」加藤ひろしと申します。

 今年2023年の3月14日(火)から6月18日(日)にかけて東京・上野の国立科学博物館にて「攻・守」という観点から恐竜の進化を紐解いていく【恐竜博2023が開催中です!また東京だけではなく7月7日(金)-9月24日(日)には大阪・大阪市の大阪市立自然史博物館にて開催されますので、西日本にお住まいの方々にも楽しめる特別展となっています。
 前々回は「守」の代表として展示されている鎧竜類のズール・クルリヴァスタトル Zuul crurivastator前回は北半球の「攻」の代表として展示されているティラノサウルス・レックス Tyrannosaurus rex の“スコッティ Scotty”をそれぞれ紹介しました。
そして今回からは『見るのがもっと楽しくなる! 恐竜博2023をさらに楽しめる情報』と題して、私「恐竜のお兄さん」が、恐竜博2023東京会場の展示をさらに楽しめる情報や観察ポイントを紹介していきます!

影を使った演出に注目!

 今回の【恐竜博2023】は〈展示されている実物化石・レプリカ〉、〈展示の構成・演出〉、〈公式図録の濃密な情報量〉、どれを取っても最高クラスのクオリティの恐竜博ですが、このなかでも現地に赴いた際にその素晴らしさをより実感できるのは〈展示の構成・演出〉でしょう。それもその筈で、入口に立った瞬間から来場者を釘付けにする演出が待ち構えているのです。

 まず入口に立った来場者の眼前には、タイトルとズールのシルエットと胴体の画像が貼られたパネルがドドンッと立ちはだかります。このパネルを数秒見つめるとある変化が起き、なんと、ズールのシルエットから影が飛び出して歩き始めるのです!
このズールの影は、順路の途中にあるズールの実物化石のゾーンまで歩いていくという演出がなされています。この時点では「何故実物化石のゾーンまで影が歩く演出なのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょうが、それはこの先の展示を見ていけば徐々に意味が分かってきます。

恐竜の系統図

 ズールの影を目で追いながら視線を右に向けると、今度は〈恐竜の系統図〉が目に入ります。ここは来場者が「恐竜とはどんな動物か」を一目で分かることができる展示となっています。そして、2017年の研究論文での恐竜類 Dinosauriaの系統学的定義は【スズメ(現生鳥類の代表→獣脚類の代表)とトリケラトプス(鳥盤類の代表)とディプロドクス(竜脚形類の代表)を含む、最も包括性の低い分岐群 The least inclusive clade that includes Passer domesticus, Triceratops horridus and Diplodocus carnegii】、言い換えるなら【鳥類とトリケラトプスとディプロドクスの一番新しい共通の祖先から進化したすべての動物=恐竜類】となります。つまり今生きている鳥類もトリケラトプスもディプロドクスもすべて恐竜類に含まれ、この系統図に載っている動物すべてが「恐竜」なのです。

 

 さらに、恐竜たちの化石を調べる際に「どんな基準でその化石が恐竜かどうかを分類しているのか」というと、骨に現れる解剖学的特徴を基に分類していて、恐竜類 Dinosauriaという分岐群の骨に現れる特徴(共有派生形質)をまとめた2011年の研究論文によると【恐竜類は頭骨・足首周りなどに12の確実な共有派生形質を持つ分岐群】とされています。

 

 そんな情報を踏まえてこの恐竜の系統図を見ると、下から上に向かって時代は新しくなり、これから展示に登場する恐竜のそれぞれのシルエットを見ることができますが、ここで注目して頂きたいのはズールとカワセミのシルエットです。

 まずズールは恐竜類のなかでも鳥盤類、装盾類、鎧竜類、アンキロサウルス科に分類されますが、この系統図ではズールたち鎧竜類のアンキロサウルス科が一番左に置かれるデザインとなっていて、ここのズールのシルエットからも次の展示に向かって影が歩き出す演出が用意されています。一方のカワセミは恐竜類のなかでも竜盤類、獣脚類、アヴェロストラ類、コエルロサウルス類、マニラプトル類、鳥類に分類され、この系統図では真ん中に置かれています。このカワセミのシルエットを数秒見つめると、影が出てきてどこかに飛び立つ演出がなされていますが、この影がどこに飛んだのかは最後まで展示を見ると分かる仕掛けになっています。

 

 このように、入場してからすぐの場所でも来場者を飽きさせない演出が用意された素敵な展示を楽しむことができます。影を使った演出は展示の至るところに隠されているので、ぜひ影にも目を向けてみてください!

最初の恐竜

 恐竜の系統図の左には、〈初期の恐竜〉ゾーンということで、最も初期に登場した恐竜の全身骨格レプリカ3体が展示されています。

 このうち、中央のアシリサウルス・コングウェ Asilisaurus kongweが分類されるシレサウルス科については、2020年と2022年の研究論文では恐竜類の鳥盤類に分類されましたが、アシリサウルスの原記載論文などでは恐竜類ではなく恐竜形類 Dinosauriformesに分類されています。つまりアシリサウルスたちシレサウルス科の動物は「研究によって恐竜に分類されるかどうかが変わる動物」ということになり、これからの発見や研究が楽しみになるグループの一つと言えるでしょう。先述の恐竜の系統図でも恐竜類とは少し離れた位置にいるのはそのためです。

 

 そんなアシリサウルスの全身骨格レプリカの両脇には、最初期の獣脚類であるエオドロマエウス・マーフィ Eodromaeus murphiと初期の鳥盤類であるヘテロドントサウルス・タッキ Heterodontosaurus tuckiの全身骨格レプリカが展示されています。

 エオドロマエウスの属名の意味は“夜明けの走るもの”ですが、このドロマエウスは獣脚類のドロマエオサウルス(走るトカゲ)の「ドロマエオ」やデルタドロメウス(三角州を走るもの)の「ドロメウス」と同じ意味です。彼らはどれも近縁な獣脚類同士ではありませんが、学名をまとめて覚えることができる恐竜たちです。

一方のヘテロドントサウルスの属名の意味は“異なる歯を持つトカゲ”で、動物園をさらに楽しむことができる情報をまとめた記事でも書いたように、生えている場所によって歯の形やサイズが大きく異なるのが特徴の異歯性の恐竜です。生える場所が違っていてもほぼ同じ形やサイズの歯を持つ同歯性の恐竜もいますが、恐竜によって歯の形はそれぞれかなり変わってくるので、ヘテロドントサウルスは歯を観察するきっかけにもなれる恐竜と言えます。

ヘテロドントサウルスの歯

最初期の竜脚形類と最大級の竜脚類

 〈初期の恐竜〉ゾーンに背中を向けて左側を見ると、〈竜脚形類〉ゾーンに入ります。この竜脚形類という分岐群には陸上の脊椎動物のなかで史上最大の大きさになった竜脚類も含まれますが、最初期の竜脚形類には小さいものも存在し、このゾーンに全身骨格レプリカが展示されているエオラプトル・ルネンシス Eoraptor lunensisはそんな小さな竜脚形類の代表格と言えます。


 このエオラプトルを一目見ただけでは、ジラファティタンやアパトサウルス、そばに展示されているプエルタサウルスなどの竜脚類とは似ていないと感じるかもしれません。確かにエオラプトルが1993年に命名された際には獣脚類に分類されていましたが、2011年のエオドロマエウスの原記載論文とエオラプトルの骨を詳細に調べた2012年の研究論文で竜脚形類に再分類され、小さな下嘴を持っていた可能性も示唆されました。またエオラプトルの食性は雑食、肉食、もしくは植物食と考えられていますが、エオラプトルも異歯性の恐竜ですので「何を食べていたのか」を頭の片隅に置きながら歯の形に注目してみてください!


 エオラプトルの全身骨格レプリカの後ろにあるのは、竜脚形類のなかの竜脚類、その竜脚類のなかでも最大級の大きさを誇るティタノサウルス類に分類されるプエルタサウルス・レウイリ Puertasaurus reuiliの骨格図です。この骨格図のうち、赤紫で塗られている箇所が横で展示されている部位ですが、作成した方曰くこの骨格図は実際のプエルタサウルスの大きさの約6割とのことですので、実物が如何に大きいかがよく分かります!

 そして骨格図の右横に展示されているプエルタサウルスの第2胴椎(背骨)と第9頸椎(首の骨)のレプリカはともに前側(頭側面)を向いて展示されています。このレプリカは原寸大でなお且つそれぞれがとても大きいので、目の前で見るとその途轍もない大きさに驚くこと間違いなし!

 というわけで、この〈竜脚形類〉ゾーンでは最初期の竜脚形類であるエオラプトルと最大級の竜脚類であるプエルタサウルスについての展示を同時に楽しむことができます!

卵を産んだのは誰?

 〈竜脚形類〉ゾーンの右横には、〈恐竜の卵〉ゾーンがあります。恐竜の卵や巣に関する研究も近年ホットな研究テーマの一つで、恐竜の営巣方法と営巣行動について日本語で書かれた総説論文や卵の色・殻の硬さについての研究論文などが出版されています。

 そんな卵化石の説明パネルを見ると、【○○ウーリサス】と掲載されているのが分かります。実は卵化石の場合、余程珍しい状況下で化石にならない限りその卵を誰が産んだかがわからないので、卵化石には卵化石のための分類や学名が個別にあり、【ウーリサス】は卵の石という意味になります。

 しかしながら、珍しい状況下で化石化したことにより、誰が産んだかある程度は分かる卵化石もあります。例えば2022年に研究論文が出版されたこの獣脚類のオヴィラプトル科の胚(生まれる前の赤ちゃん)と卵の化石のように、孵化する直前の胚が入っている卵化石を調べれば、胚に見られる特徴によって「どの科の恐竜の卵か」までは分かる場合が多いです。

 

 さらに、胚が入った卵化石や巣のすぐ近くでその胚と同じ科に分類される恐竜の化石が産出したり、オヴィラプトル科のネメグトマイアみたいに卵を抱卵したままの状態の恐竜化石が産出したりした場合は、より詳細に「卵を産んだのは誰か」を調べることができます。ただし、卵化石と恐竜化石が同じ場所で産出した場合でも、卵化石と恐竜化石の学名と分類はそれぞれ別々になります。

まとめ

 恐竜博2023の展示はまず「恐竜はどんな動物か」をさまざまな視点から来場者に知っていただく展示から始まりますから、以前恐竜が好きだった方でも情報のアップグレードをしながら楽しめちゃいますよ!

参考文献(本文登場順)

【2017年の研究論文】A new hypothesis of dinosaur relationships and early dinosaur evolution

【恐竜類 Dinosauriaという分岐群の骨に現れる特徴(共有派生形質)をまとめた2011年の研究論文】The early evolution of archosaurs : relationships and the origin of major clades. (Bulletin of the American Museum of Natural History, no. 352)

【シレサウルス科についての2020年の研究論文】A paraphyletic ‘Silesauridae' as an alternative hypothesis for the initial radiation of ornithischian dinosaurs

【シレサウルス科についての2022年の研究論文】Taxonomic, palaeobiological and evolutionary implications of a phylogenetic hypothesis for Ornithischia (Archosauria: Dinosauria)

【アシリサウルスの原記載論文】Ecologically distinct dinosaurian sister group shows early diversification of Ornithodira

エオドロマエウスの属名の意味は“夜明けの走るもの”】A Basal Dinosaur from the Dawn of the Dinosaur Era in Southwestern Pangaea

【ドロマエオサウルス(走るトカゲ)】The family Deinodontidae, with notice of a new genus from the Cretaceous of Alberta. Bulletin of the AMNH ; v. 46, article 6.

【デルタドロメウス(三角州を走るもの)】Predatory Dinosaurs from the Sahara and Late Cretaceous Faunal Differentiation

【ヘテロドントサウルスの属名の意味は“異なる歯を持つトカゲ”】A new Ornithischian from the Upper Triassic of South Africa

【生えている場所によって歯の形やサイズが大きく異なるのが特徴】The Lower Jurassic ornithischian dinosaur Heterodontosaurus tucki Crompton & Charig, 1962: cranial anatomy, functional morphology, taxonomy, and relationships

【エオラプトルが1993年に命名された際】Primitive dinosaur skeleton from Argentina and the early evolution of Dinosauria

【2011年のエオドロマエウスの原記載論文】A Basal Dinosaur from the Dawn of the Dinosaur Era in Southwestern Pangaea

【エオラプトルの骨を詳細に調べた2012年の研究論文】Osteology of Eoraptor lunensis (Dinosauria, Sauropodomorpha)

【プエルタサウルス・レウイリ Puertasaurus reuili】Giant titanosaur (Dinosauria, Sauropoda) from the Late Cretaceous of Patagonia

【恐竜の営巣方法と営巣行動について日本語で書かれた総説論文】非鳥類型恐竜類から鳥類へ,営巣方法と営巣行動の変遷

【卵の色についての研究論文】Dinosaur egg colour had a single evolutionary origin

【殻の硬さについての研究論文】The first dinosaur egg was soft

【卵化石には卵化石のための分類や学名が個別にあり】Parataxonomy of fossil egg remains (Veterovata): principles and applications

【獣脚類のオヴィラプトル科の胚に関する2022年の論文】An exquisitely preserved in-ovo theropod dinosaur embryo sheds light on avian-like prehatching postures

【オヴィラプトル科のネメグトマイア】New Specimens of Nemegtomaia from the Baruungoyot and Nemegt Formations (Late Cretaceous) of Mongolia

 

【著者紹介】恐竜のお兄さん 加藤ひろし

恐竜についての難しい研究論文について、わかりやすく解説しています。
そのほかにも、動物園・博物館・恐竜イベント等をさらに楽しむ為に注目すべきポイントについて紹介します。幅広い知識を子供から大人まで、ご要望に応じた層に分かりやすく対応いたします!
出身地:東京都
誕生日:1993年10月28日
身長:167cm
資格:学芸員資格(博物館資料の収集・整理・保管・展示・調査など)
   大型特殊自動車免許(ブルドーザー・ショベルカー・クレーン・除雪車など)
   車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削)運転技能講習修了

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